時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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「姉ちゃん彼氏いるの?」という弟の問いに姉は…
同短編集内「悪魔は動揺する」の後日談になります。



幸せの定義

「姉ちゃん、彼氏いるの?」

 

タツヤは意を決して、少しくぐもった声で姉に聞いた。

 

「へ?」

 

桃色の髪の女性は不思議そうに隣に座っている少年を見つめる。天然の茶髪のこの少年は、やや頬を赤らめて上目遣いでこちらを見ているではないか。女性の認識では、10歳年下の少年――弟はこの手の話には興味のない「お子様」だったはずなのだが…。

 

「どうしたのタツヤ?お姉ちゃんと恋話でもしたい?」

「ちっ、違うよ!」

 

シャープペンのキャップを唇にあてて、桃色の髪の女性はクスクスと笑った。彼女は弟をからかっているのだ。顔を更に赤くして睨む弟の額をシャープペンで軽く叩いて「冗談だよ」と囁いた。

 

「ほら、タツヤそんなことより、早くこの宿題終わらせないと、遊びに行けなくなるよ?」

「あ、やば!」

 

タツヤは慌てて小難しい計算を再開する。その様子を目を細めて見守る女性。

 

「もう、タツヤは慌てんぼだなあ…」

「う、うるさいなあ」

 

タツヤは姉の顔を見ないようにしながら宿題に取り掛かる。どうにもこの10歳年上の浮世離れした姉には頭があがらない。

 

――困ったなあ、聞き出せないや

 

タツヤは心で呟く。実は先ほどの姉に投げかけた質問は、少年が敬愛する蒼い髪の女性に頼まれたものだったのだ。

 

*       *      *

 

『姉ちゃんに恋人?』

『うん、あ、まだ不確定だけどね』

『なんでさやかが気にするのさ?』

 

タツヤは姉と同じく10歳離れた蒼い髪の女性のことを呼び捨てにする。これは「無礼」というよりも、少年なりのさやかに対する親愛の情なのだ。以前黒髪の美しい女性に「さん」をつけるよう注意されたが、やはり直す気はなかった。タツヤにとって警官であるさやかは憧れであり、年齢を超えた「友人」でもあったから。

少年は携帯を耳にあてながら怪訝な表情を浮かべる。蒼い髪の女性がこんな話題を持ち出すのははじめてだったからだ。時折こうして電話で少年の憧れの職業について話しあうことはあっても、このような「恋」に関する話はしたことがない。14歳になったタツヤとて恋に興味が無いということはないが、それよりも心奪われる事項はたくさんあった。「色恋」については、この少年の中では一番最下位のものなのだ。

 

『いや~やっぱうちの嫁が浮気しているか気になってねぇ、タツヤ君それとなく聞いてくれない?』

『え、さやかってもしかしてホモ?』

『違うわよ!てかっ、この場合レズでしょ!いやいやそれも違うし!』

 

女性の絶妙な一人突っ込みに少年は吹き出す。しばらく苦しそうにお腹を抱えながら笑う。

 

『さやかって、警官よりお笑いの方が向いているんじゃない?』

『うっさいわねえ…』

『アハハ、じゃあさ、聞いておく代わりに夏休みの宿題手伝ってよ』

『……いいよ、それくらいなら』

『あと牛丼大盛り』

『……いいわよ』

 

相手の短い沈黙に再び吹き出しそうになるのを堪えて、タツヤは白い歯をみせて笑った。

 

 

*     *       *

 

――牛丼奢ってもらえないなあ、これじゃあ

 

タツヤはまた心で呟いた。そうして隣に座っている姉を見つめる。狭い学習机に並んで座り姉は弟の宿題を手伝ってくれている。昔から姉はとても面倒見がよかった。ふと、姉の髪からいい香りがして、雑念を払うようにタツヤは頭を振った。

 

「?どうしたのタツヤ、わからないところでもある?」

「ん、あ、いや大丈夫」

 

白い長そでのシャツにデニムのパンツとラフな格好をしている姉は今日は髪をおろしていた。背中まで伸びている桃色の髪、そして20代半ばとは思えない若々しいあどけない顔。ひいきではなく、姉はとても可愛らしい部類に入るとタツヤは思っている。タツヤの友人にも姉のファンがいるくらいなのだ。

 

「ねえ、タツヤ」

 

しばらくして、まどかは何か考え込むようにしながら弟に囁く

 

「何?」

「さっきの質問って、もしかしてさやかちゃんに聞かれた?」

「え…なんで…」

 

タツヤは驚いた、心を読まれたようだ。

 

「図星?」

「………うん」

 

姉には敵わない。素直にタツヤは頷いた。

 

「まったく、タツヤも…さやかちゃんも、しょうがないなあ」

 

そう言って伏し目がちに、はにかむように笑う姉を見て、タツヤは一瞬見惚れた。その表情がいつもの姉とは違う大人の女性のものだったから。

 

「でもさ、姉ちゃんほんとに彼氏とかいないの?こんなに…」

「こんなに?」

「……い、いやなんでもない」

 

――こんなに可愛いのに

 

「変なタツヤ」

 

くすりと笑って、まどかは目を細めた。

 

「お姉ちゃんはそんな人いないよ」

「ほんと?」

「ほんとだよ」

 

いひひ、と子供っぽく笑って、まどかは身体を弟に軽くぶつけた。

 

「だって、タツヤの面倒見るのに手いっぱいだもの」

「ひっど!俺、自分のことは自分できるよ!」

「またまた、お姉ちゃんがいないと何もできないくせに?」

「違うってば!」

 

冗談を真に受けて、顔を真っ赤にして怒る弟が可愛くて仕方ないらしく、まどかは手を伸ばし、柔らかい少年の頭を撫でた。もお、と怒ってタツヤは姉の手を払う。笑いながら手を納めた後、まどかも少しだけ真顔に戻った。

 

「…でもね、お姉ちゃん好きな人はいるよ?」

「え」

 

それはいきなりな姉の告白で、タツヤは驚いた。

 

「マジで?姉ちゃん好きな人いるの?」

「うん」

 

シャーペンを指でぶらぶらさせながら、まどかは照れたように微笑む。嬉しいような寂しいような複雑な気持ちのままタツヤは尋ねた。

 

「誰?俺の知ってる人?」

「内緒」

 

いひひ、とまた子供のように笑って、でもそうだねえと呟く。

 

「…でもその人は、私のお友達が好きで、そのお友達は私のことをすごく大事に思っていてくれているの」

「何それ、変じゃん、三角関係って奴?」

 

思春期の少年の素直な感想に苦笑しながらまどかは続ける。

 

「う~ん、そういうことになるのかな?でもお姉ちゃんは二人とも好き」

「二人とも?」

「うん」

 

姉の言葉に頭を捻るタツヤ。ふと、数学の教科書にある三角形の図形が目に入る。

 

「こんな感じだよ」

 

そう言ってまどかは指で三角形をなぞった。

 

「三人で安定しているの…ずっとこのままでいいと思えるくらい」

「ふうん…」

 

納得がいかない様子のタツヤ。だが少年はこのことについてそれ以上何も言わなかった。なぜなら、姉がとても――とても幸せそうに微笑んでいたから。だからつい、こう聞いてしまった。

 

「お姉ちゃん、それで幸せ?」

 

姉はふわりと微笑んで

 

「うん、もちろんよ」

 

そう、それならそのままでいいやとタツヤはなんとなくそう思った。

 

*  *  *  *  *  *

 

「へ、今が幸せ?」

 

携帯で話し中の蒼い髪の友人がいきなり素っ頓狂な声をあげたので、ほむらは長い黒髪を梳きながら、気だるげにベッドから身体を起こした。ベッドの端に座っている蒼い髪の友人は何やら話しこんでいるらしく、ほむらが起きたことに気付かない。何か思いついたのか、ほむらは口元を緩めいきなり背中から友人に抱きついた。

 

「うわっ…あ、ううん、なんでもない、それで?」

 

驚いた表情でほむらを見つめながら、蒼い髪の女性は話しを続ける。くすくすとほむらはさも楽しげに笑う。いやがらせのごとく、白い手を伸ばし友人の身体に絡めた。友人のワイシャツがしわくちゃになる。顔を赤くし抗議するかのような表情の友人に、何やら囁くほむら。

 

――ダレナノ?

 

「タツヤ君よ」

 

ほむらの耳元に顔を近づけて、蒼い髪の友人は囁いた。ふうん、と呟くと、そのまま友人の背中に顔を押し付けて目を瞑った。

 

「へえ、そうなんだ…うん、ありがとう」

 

友人の背中に顔を押し付けたほむらは、背中から伝わってくる声の振動が心地よいらしく、

目を瞑ったまま、気持良さそうな表情を浮かべている。まるで猫のようだ。それから二言、三言喋ると、友人は携帯を切った。

 

「ねえほむら、まどかはまだ彼氏とかいないってさ」

「そう…」

 

素っ気ない言葉だが、それとは裏腹のほむらの嬉しそうな表情に蒼い髪の友人は微笑んだ。

 

「よかったじゃん、それにさ、タツヤ君が言ってたんだけど、今が幸せなんだってさ」

「幸せ…?…そう、それなら私も嬉しいわ」

 

まどかの幸せは、ほむらが何よりも望んでいたものだ。当の本人がそう言ってくれるのならば、これ以上のものはない。

 

「でも幸せかあ…」

「なあに?」

「いや、幸せってなんなんだろうってね」

 

ふと、らしくない言葉を友人が呟くものだから、ほむらはつい微笑んだ。この美貌の悪魔は友人に顔を見られていない時は、とても幸せそうに笑うのだ。そうして艶のある唇を開いて囁く。

 

「馬鹿ね…幸せの定義も知らないの?」

「定義?」

 

不思議そうに見つめてくる蒼い髪の友人を艶めかしい表情で見つめ返し、悪魔は囁いた。

 

「幸せはね…」

 

携帯の着信が鳴った。二人で携帯の画面に視線を移す。

 

鹿目まどか

 

そこには、ちょうど話題となっていた、二人のとても大切な女性の名前があって。黒髪の女性はせかすように蒼い髪の友人の背中を叩いた。

 

「あ、もしもしまどか?…うん、うん…あっちゃあ、ばれてた?」

 

苦笑する蒼い髪の友人に密着し、一緒に電話を聞く悪魔。ふと、何を思ったのか再び白い手を伸ばし、蒼い髪の友人の身体に絡みつく。

 

「うっひゃ!え?ああ、なんでもない…」

 

睨む友人。だが蒼い髪の女性が怒りの表情を浮かべると、ほむらは愉快になるようで。

 

――イイカラツヅケテ?

 

そう艶めかしく友人の耳元で囁いた。

まどかと会話を再開する蒼い髪の友人、その友人に抱きつき、悪戯を続ける悪魔。

 

白い歯を見せて笑う彼女は正に幸せそのものであった。

 

 

END

 




うちのタツヤくん(14)はめっちゃお姉ちゃん大スキーなのだが、実際大きくなったらそうなりそう…と思っております(何)

そしてほむらの幸せの定義とは…

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