時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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大人ほむらと大人さやかのどこかシュールな日常話


二人の食卓

「あれ?」

 

美樹さやかは素っ頓狂な声をあげる。

 

「何よ」

 

むすっと睨む黒髪の美少女。

 

「いや、あんたなんでちっちゃくなってんの?」

 

さやかの目の前には、黒いゴスロリなドレスを着た美少女。相方の暁美ほむらだ。

だがしかし、ちっちゃい。さやかは手を伸ばし少女の頭上を撫でるような仕草をする。

 

「確か、今のあんたは24歳で、身長も少しは伸びてひゃく…あいたっ!」

 

いきなり少女がジャンピングして器用にさやかの額を叩いた。艶のある黒髪が一瞬ふわりと舞い上がる。額をおさえ、顔をしかめるさやか。

 

「痛い!何するのよ!」

「レディの年齢や身長をいきなり明かすのは失礼よ」

「レディって…!」

 

ふん、と腰に手をあてそっぽを向く黒髪の少女。不覚にもさやかは可愛いと思ってしまった。

 

――大人になってみると、あの頃のほむらの態度も可愛いものだわ

 

そう、当時は時間を何度も渡り歩いた上に、人外となってしまったほむらに対し、贖罪とほんの数ミリグラム程度ではあるが畏怖の念も抱いていたのだ。一緒に住み始めた頃はなかなか会話も弾まず、些細なことでギクシャクして、家の中は冷え切り、クーラーいらずな雰囲気に陥ったことも何度かあった。

 

――今の私なら、たくさん甘えさせることもできるのに

 

少女が何か嫌なものでも見たような表情を浮かべる。その視線の先にはへらへらと笑みを浮かべる蒼い髪の女性の顔。

 

「…………気持ち悪い笑い方ね」

「ひど!」

「本当のことでしょ?」

 

そう言って、少女はさやかに背中を向け台所へ向かおうとする。そこでようやくさやかは部屋の中が異様に白いことに気付いた。軽い既視感。

 

「あ、ちょ、どこ行くの?」

「見てわからない?台所よ」

 

そう言うと、少女はどこから取り出したのか、エプロンを器用に付け始めた。可愛らしい犬のキャラクターがこれでもかというばかりにちりばめられている。ほむらこういうの趣味だったっけ?とさやかはふと思った。

 

「今日は私が食事当番だから…」

 

そう言うと、ほむら(少女)は台所に向かい、何やら作り始めた。ふと、一緒に住み始めの頃は、彼女は料理を作るのが初めてで、よくさやかが傍についていてあげたことを思い出した。

 

『うまく皮が剥けないわ』

『かして、こうするんだよ』

 

器用にじゃがいもの皮を剥くさやかを見て、少女は初めて彼女を見たとでもいうような驚きの表情を浮かべた。

 

『美樹さやか…貴方でもできることはあるのね』

『ひど!』

 

そうして数日後、ほむらは一人で皮を剥けるようになっていた。手を絆創膏だらけにして。

 

あの時のことを思い出してせつない気持ちになったのだろう、さやかは悲しそうな表情を浮かべた。そうして、華奢な少女の背中を後ろから抱きしめた。

 

「ほむら」

「…っ」

 

いきなり抱きついてきたさやかに驚きながらも、少女は悲鳴を押し殺した。

 

「………何しているの美樹さやか?」

「……ううん、なんとなく」

 

なんとなくという訳はないだろうが、照れ隠しにさやかはそう答え、己よりも10歳下の相方の肩に顔を埋め目を瞑る。

 

「そう…」

 

少女は身体を強張らせながらも、そのままさやかに身体を預けている。目を細め、ほんの少しだけ口元を緩ませて。しばらく二人はそのままでいた。

 

「今日はさ、私が作るよ、何がいい?」

 

さやかの提案に、少女は顔をあげた。

 

「…いいの?」

「うん」

「それじゃあ豆腐のお味噌汁がいいわ」

「豆腐?」

 

うん、と再び頷いて少女はさやかを見上げる。

 

「だって、貴方が最初に作ってくれたものだもの」

 

ああ、そうだったとさやかは思いだした。

 

「美味しかったわ、あのお味噌汁」

 

不覚にもさやかは泣きそうになる。

 

「ま、まかせて!たくさん作るわよ!あんたのためなら」

 

美樹さやかは一度熱くなると止まらないらしい。おたまを握った腕に力を込め、叫んだ。

 

*      *     *

 

「ほむら」

 

明け方近く、いきなり名前を呼ばれて、家の主は目を覚ました。

 

「……なあに?もう起きたの……」

 

大きな白いベッドの中央を陣取るようにして眠っていた家主――暁美ほむらは、寝がえりをうつと、傍で寄り添って眠っている蒼い髪の女性の肩へ頭をのせた。気持ちよさそうに目を瞑り相方の返事を待つ。

 

「……………」

 

返事が無い。

訝しげにほむらは上体を起こすと、キャミソールの肩紐を直しながら、蒼い髪の女性の顔を凝視した。白い細い腕で身体を支えて、恐ろしいほどの美貌を女性の顔に近づける。長い黒髪が彼女の顔に垂れた。

 

「……………」

 

しばらくほむらはそのままの状態で動かなかった。その姿はまるで猫が獲物を狙うようで。

 

「……………」

 

ゆっくりとほむらは左手をあげた。そうして無造作におろす。

 

ぱちん

 

音を立てて、その手は相方の額にヒットした。それでも気持良さそうに眠っている相方。どうやら寝言だったらしい。

 

「…お間抜けね」

 

自分に向けての台詞なのか、それとも相方に向けてなのか。はあ、とため息をついて、ほむらは相方の蒼い髪を優しく撫で始めた。その姿は悪女ならぬ悪魔の深情けのようで。

 

「えへへ…」

 

と、相方が笑みを浮かべた。いつもの「へらへら」した笑みを。ほむらは驚いて手を休め、嫌なものを見たかのような表情を浮かべながら相方の顔を凝視する。そうして何を思ったのか、はあ、と再びため息をつきながら、その白い指で相方の頬を軽くつねった。意外と柔らかくて感触がよいのか、口元を緩めながらほむらは相方の頬でしばらく戯れた。

 

「…が…」

「え?」

 

と、いきなり相方が何事か呟いた。

 

「豆腐はね…ほむら」

「豆腐?」

 

そうしてまた沈黙が訪れる。規則的な相方の寝息。相方を凝視して、微動だにしないほむらがようやく動きだし、そして小首をかしげた。

 

「………………豆腐…?」

 

猫のように軽やかに、ほむらは四つん這いのままベッドの端まで行くと、ふわりと降りた。そしてそのまま台所へ向かう。薄暗い中、冷蔵庫のドアを開く音。

二人とも食の好みは似ていた――というより元々食事にこだわらなかったほむらが、8年間の共同生活でさやかから影響を受けたためなのだが。だからなのか、冷蔵庫の中味は二人の嗜好品で詰まっていて。

 

「……………」

 

ほむらは目を細めながら中を物色し始めた。

飲料水と牛乳、さりげなく合間にビールやワインボトルが置かれている。奥には生ハムとチーズがあって。小首をかしげながら、ほむらは中段の収納スペースをスライドさせて覗き込む。数種類の野菜があるがどうやら目当てのものは無いらしい、ふう、と息を吐くとほむらは冷蔵庫のドアを閉めた。

 

*       *       *

 

豆腐屋の朝は早い。

見滝原の街に朝が再び訪れるその前には仕込みに入っている。三代目の豆腐屋の主人は、いつものように豆腐を作り終え、一息ついた。

 

「ふう」

 

これからが本番だと主人が気を引き締めた瞬間、何やらガシャ、ガシャと音がした。店の前のシャッターを誰かが揺らしているのだ。まだ開店時間ではないが、客商売である以上仕方がない。店の主人は疲れ切った表情のままシャッターをあげた。それから数秒後に起きた出来事を後に彼は一生ものの自慢話として語り継ぐことになるのだが――。

 

「はいはい、いらっしゃ…」

 

豆腐屋の主人は、そのまま口をあんぐりと開け、二の句が継げない。その目は驚愕で見開かれて目の前の女性の顔を凝視していた。

 

美しい女性が豆腐屋の主人を見つめていた。白磁のような白い肌に艶のある長い黒髪。そして切れ長の美しい双眸に吸い込まれるようなアメジストの瞳。黒いワンピースを着た彼女はまるでこの世のものではないようだ。

 

「………え…あ」

 

本当に目の前の女性は生きているのだろうか?まるで幻のようだと主人は思った。だがどうやら目の前の女性は人間らしい、何故ならその手には家から持ってきたのであろうボウルが抱えられていたからだ。

 

「おじさん、お豆腐頂戴」

 

口を開いた彼女はまるで子供のように無邪気にボウルを主人へ差しだした。そのギャップに主人は吹き出しそうになる。

 

「あいよ」

 

主人はにっこりと買い換えたばかりのいれ歯を見せながら笑った。

 

*       *      *

 

「ごちそうさま」

 

少女はお椀の前で両手を合わせる。

 

「え、もういいの?」

 

そうさやかが聞くと、黒髪の少女は苦笑して。

 

「おかわりもしたわ、お腹いっぱいよ」

「そっか」

 

そういえば、食の細い彼女にしては珍しくお味噌汁をおかわりしている。自分が作った料理を美味しそうに食べてくれるのはすごくありがたくて、さやかはついつい口元が緩む。

 

「ねえ、美樹さやか」

「何?」

 

伏し目がちで何か考え込んでいるようなほむら(少女)がさやかに囁いた。

 

「……ずっとこんな風に一緒に食事ができたらいいわね」

「もちろんよ、私はずっと一緒にいるわ」

「本当?」

 

そう、あの時確かさやかはこう答えたはずだ。

 

「本当に本当、一人くらいあんたの傍にいないとね」

「そう、それじゃあいつもこうやって私のために食事を作ってくれる?」

 

 

――あれ?この台詞はあの時聞いたことないぞ

 

それにこれではなにやらプロポーズの言葉みたいではないか。

だが、恥ずかしかろうがなかろうが、さやかの答えは決まっていて。

 

「もちろん、あんたのためにずっと作るわよ」

「そう…」

 

そっけない返事。そっけない表情。だがさやかは知っていた。彼女がとても嬉しい時「こうする」ことを。つい、へらへら笑ってしまうさやか。

 

「じゃあ、私も――」

 

少女は心なしか頬を染めながらさやかに囁いた。だが、最後の言葉がうまく聞き取れない。

 

「え、何?ほむら」

「貴方のために―――――わ」

「え?」

 

*      *      *

 

「――なに、なんて、ほむら……あれ?」

 

目を覚ますと、そこはいつもの白いベッドの中で、さやかは思わず目をぱちくりさせる。

 

「うわあ…夢オチか」

 

がしがしと乱暴に頭を掻きながら上体を起こす。傍に寝ていたはずの家主はいない。普段は遅く起きる彼女がどうしたのだろう?と訝しがると、背後から声がした。

 

「お寝坊さんね、やっとお目覚め?」

「ほむら」

 

ほっと安堵の息を吐くさやか。そこには見慣れた大人の女性がいて。

 

「えへへ、なんか面白い夢見てさ…つい」

「そうみたいね」

 

腕を組んであきれたようにさやかを見下ろす黒髪の女性。その表情はどことなく優しげで。

と、彼女が私服だということにさやかはようやく気付く。

 

「…あんたどっか出かけたの?」

「ええ、ちょっとね」

 

そう言って、ほむらはさやかに背を向けてテーブルへ歩いていく。と、歩を止めさやかの方へ顔だけ向けるとにやりと不敵に笑う。

 

「気になる?」

「とっても」

 

さやかの返事に嬉しそうに目を細めると、ほむらは「おいで」と言わんばかりに左手で手招きする。不思議そうにさやかがベッドから降りてテーブルに近づくと「わあ」と感嘆の声をあげた。

 

「…何かいい匂いがすると思ったら…このために?」

 

さやかの問いにほむらはただ頷く。

 

「ありがとう」

 

さやかは礼を言いながら、テーブルを見る。

そこには朝食が用意されていた。しかも豆腐の味噌汁もある。

 

「「私のために」ずっと作ってくれるんでしょ?」

「うわ、全部寝言で喋ってたのね私」

 

さやかは苦笑する。この黒髪の友人には到底かなわない。

おそらくさやかの寝言をきっかけに豆腐の味噌汁まで作ってくれたのだろう。

 

「あんたにはかなわないわ」

 

そう言って、さやかは苦笑しながら椅子に座る。

 

「あら、今更?」

 

ほむらも微笑みながら対面に座り頬杖をついた。互いにしばらく見つめ合い、ほむらはゆっくりと視線を外す。

 

 

「でもね、さやか」

 

ほむらは小さな声で囁いた。

 

「貴方がずっと私のために料理を作ってくれるなら、私も――」

「……うん」

 

あまりに嬉しい時に言葉が出ないのは本当らしい。さやかはただ頬を染め、こくりと頷いた。

 

――貴方のために料理を作るわ

 

そうほむらが囁いた時、さやかには少女時代のほむらの声も聞えたような気がした。

 

 

 

 

END

 




余談

その後、わざわざ遠出(飛んで)してほむらが豆腐を買いにいったことを知り、さやかちゃんは感謝感激して
その後滅茶苦茶○○しております。

何かは想像におまかせですです(何)

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