時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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悪魔は抱き枕がお好き

これは美樹さやかと暁美ほむらが一緒に暮らすようになり、数年時を経たある日のこと。

 

「私、謝らないからね」

「別に、気にしないわ」

 

黒髪の友人がしれっと髪を掻きあげ、蒼い髪の女性を見上げる。アメジストの瞳が挑発的に輝いている。思わずさやかは腹が立ったのか、べえと舌を黒髪の友人に向ける。「あら」と友人は優雅に手を口にあて、それからさも面白そうにクスクスと笑い始めた。

 

「貴方ってほんと…子供ね美樹さやか」

「うるさい、ほむらのアホ!」

 

やけに子供じみた罵声を受けて、さも面白そうに暁美ほむらは笑った。珍しく歯を見せて。

 

事の起こりはこうだった。紆余曲折を経て、二人は一緒に暮らすことになったのだが、実質的には、暁美ほむらのマンションに美樹さやかが転がり込むというだけで、共同で事を起こすというわけではなかった。

つまりは家の主はほむらなので、彼女の生活ペースに美樹さやかが合わせて暮らしているのだが、どうも就寝のスタイルでさやかはまだ慣れないのか、こうして朝、軽く相方とよくいざこざを起こしていた。

 

「あ、あんたが夜ひっついてくるのが悪いのよ」

「あら、傍にあるものを抱き枕代わりにするのが悪いことなの?」

 

唇に指をあて挑発するように笑う。あまりに煽情的なものだから、さやかはとうとう顔を紅潮させた。

無理もない、これから数年先のさやかは毎晩相方と寄りそうように眠ることになるが、当時の一緒に暮らし始めの頃の彼女はまだそういうことに慣れていなかったのだ。

何か言いたそうに右手をあげて、そして金魚のように口をぱくぱくさせて黙り込む。

その様子に大笑いするほむら。あーもう、と言ってさやかは窓の外を見るふりをしてほむらに背を向けた。

 

恥ずかしい…さやかは先ほどのことを思い出していた。

 

明け方、身体を締め付ける圧迫感で、さやかが目を覚ますと、自分をまるで抱き枕のようにして眠っているほむらに気づいた。それもただ抱きしめているだけでなく、行儀悪く足まで絡めてだ。こんな綺麗な悪魔が無防備で身体を預けてくること自体びっくりしたが、それよりもさやか自身が恥ずかしさでどうにかなりそうだった。つい、彼女は慌てて黒髪の友人の身体をほどこうと暴れてしまい、振り向いた途端彼女と顔を接触させてしまった…つまりはキスしてしまったのだ。

それからの騒ぎはもう想像通りで、寝ぼけたほむらはただ、その事実にニヤニヤと笑い、さやかは顔を真っ赤にさせ、今に至っている。

 

「…まだ怒ってるの?」

「わ!あんたいつの間に?」

 

いつの間にかさやかの背後にほむらが立っている。

そしてぴったりとまた背中にくっつくと、小声で囁いた。

 

「くっつかれるの嫌い?」

 

その声がとても寂しそうだったので、さやかは戸惑う。

そして思い出す。彼女が誰よりも孤独で苦しんでいることを。

 

「ううん…嫌いじゃないわ」

 

そう言うと、ほむらの手に自分の手を添えた。

 

「ごめん…ほむら、あんたん家なのに文句ばっか言ってさ…」

「そう、じゃあ振り向いてもらえるかしら」

「?」

 

不思議そうにさやかが振り向くと、今度はほむらが顔を寄せ、唇を押しつけてきた。

チュッ、と可愛らしい音を立てて、二人の唇が重なる。

 

「ちょ!」

 

クスクスと笑い、悪魔は素早く身体を離した、そうして横になりながら頬づえをついてさやかを見つめる。

三日月型に細められた目。

 

「私はもうひと眠りするわ、貴方はどうするの?お散歩?」

「何よ、犬じゃないんだから!…私もひと眠りするわ」

 

そういいながら、おとなしくベッドに潜り込むさやかを悪魔はさも嬉しそうに見ていた。

 

「あら、それじゃあさっきの続きでもする?」

「し…知らない、勝手にすれば?」

「じゃあ、勝手にするわ…」

 

フフフと笑いながら、悪魔はぴったりと「抱き枕」に寄り添った。

 

END

 

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