時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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抱擁リレー

「ほむらちゃんって優しいね」

「私が?」

 

まどかの言葉にほむらが驚く。

 

「…私はそんな人間じゃないわ」

「ううん、優しいよ」

 

そう言って、まどかが優しく微笑むものだから、黒髪の女性は堪えられなくなったのだろう、白い腕を伸ばし抱き寄せた。

 

「わあ?ほ、ほむらちゃん?」

「優しいのはあなたよまどか」

 

そうして、まどかの頭を胸に寄せて、愛おしげに撫でる。最初驚いていたが、ほむらに他意が無いことに気付き安心したのか、まどかは気持良さそうに目を瞑った。

 

ここは公園のベンチ。緑豊かな木々の下、大人の女性二人が仲睦まじく寄り添っている。

 

――もう、あれから10年も経ったのだ

 

ほむらは自分の腕の中に収まっているまどかを愛おしげに見つめながら、過去へと思いを馳せる。この不安定な世界がよくここまで持ったものだ。まどかが人としてその生をまっとうできれば自分は思い残すことはない。ほむらのアーモンド型の目が細められ、アメジストの瞳がゆらゆらと揺れる。

 

――本当にそうだろうか?

 

悪魔という人外ではあるが、ほむらも成長するにつれて、自身の心を冷静に分析できるようになっていた。まどかを誰よりも愛し、その幸せのためなら自身は忘れられても構わない。そう思っていたのだが、今では――

 

――耐えられるだろうか?生をまっとうしたまどかがこの世界からいなくなって?

 

悪魔と化しながらも自身の弱さに気づいてしまった彼女は、もう何度もこの問いを己の中で繰り返している。

 

「さやかちゃんはね」

「え?」

 

いきなりまどかが悪魔の相方の名を呟いた。さきほどの自問の解答に繋がりかねない名を。

 

「ほむらちゃんみたいにこんな風に優しくしてくれないよ」

「どういうこと?」

 

えへへと笑い、まどかはゆっくりと身体を離す。悪戯っ子のようにまどかは目を輝かせて、ほむらを見つめると囁いた。

 

「こないだね、会った途端にいきなり抱きしめられちゃって、『まどかは私の嫁になるのだー』って、ほんと大人になってもセクハラ魔王なんだから…」

「な…」

 

ほむらが口を開けて呆然とする。そうして、しばらくすると頬を少しだけ紅潮させ、眉を潜めた。怒りの表情だ。黒髪の絶世の美女は、普段このような表情を決して浮かべない。まどかは自分の軽い気持ちで出した話題のせいで、深刻な状況になったことに気付き、あせった。

 

「あ、ほむらちゃん、でもそれは軽い感じで言っただけだから…」

「こないだって、いつなの?」

「え…3日前だけど」

「あの人…なんてことを許せないわ」

 

――ヤバイことになっちゃった…

 

まどかは心で呟いた。ほむらがまどかを大切にしてくれているのは十分わかっている。だがたまにそれが行き過ぎるのだ。おそらく、まどかにいきなり触れたさやかに対し怒りを覚えているのだろうが。

 

「ほ、ほむらちゃん、でもそんなに長くギュッてされた訳でもないし、ね?さやかちゃん女の子だし…」

「関係ないわ…まどかに勝手に、いきなり触れるなんて失礼極まりないわ」

「大げさだよ…」

「ごめんなさいね、まどか、ちゃんと躾ておくから」

「え、いや、別に…ほむらちゃん?」

 

ほむらはベンチから立ち上がると、まどかに微笑んだ。

 

「私、そろそろ行くわね…まどかも仕事がんばってね」

 

相方には決して言わない優しい言葉をかけ、ほむらは優雅に公園から立ち去っていく。黒髪の美女の華奢な後ろ姿を呆然と見送るまどか。「大丈夫かなあ…さやかちゃん」と呟きながら。

 

*       *        *  

 

さやかの勤務しているK署は、ほむらの家から徒歩30分ほどの場所にある。

 

「何か御用ですか?」

 

聞きこみを終え、署に戻ってきた刑事が、署の入り口で腕を組み何か考え事をしている女性に声をかける。長い黒髪の女性だ。声に反応して女性が振り向く。刑事の目が見開かれた。

 

――とてつもない美人だ。見惚れる刑事。

 

「呼び出してくれないかしら?」

「へ、あ、あ、あのどなたを?」

 

見惚れたため、ワンテンポ遅れる刑事。

 

「美樹さやかよ。確か刑事課にいるわ」

 

聞きなれた名前を聞いて刑事は更に驚いた。

 

*       *      *

 

「おい美樹!」

 

バタンとドアが派手に開き、若い男が同僚の名前を呼ぶ。

 

「へ?何?」

 

呑気な返事をする蒼い髪の女性。どうやら帰り支度をしているところだろう、パソコンを閉じた所だ。若い男は苛ただしげにさやかに近寄る。

 

「何?じゃねえよ、お前を訪ねてすっげー美人が玄関で待ってるぞ!誰だよおい?」

 

ざわ、と室内がざわめく、硬派な課だが「美人」には弱いらしい。数人の若い男がさやかに近寄り、紹介しろなどと言い始めた。だが、周囲の声がまったく聞えないのかさやかの顔は血の気がひいた状態だ。

 

――い、いったい何があったのよ!

 

さやかが心で叫ぶ。相方が職場を訪ねてくるなんて、まずあり得ない。何故なら、緊急時には携帯もあるし、状況によっては念話も可能だからだ。なのにあえてここまでやってくるということは、何か「怒らせてしまった」のである。

 

――や、やばい、やばいわ!

 

周囲の声はまったく聞かずに、さやかは執務室から飛び出した。慌てて階段も二段越しで降りて行く。玄関まで駆けていくと、ちょうど入り口の外で黒髪の美女が腕を組んで待ち構えてた。一度立ち止まり、さやかは今度はおそるおそる距離を測るようにほむらに近寄った。二人の間はおよそ1m。ほむらは眉をひそめ、さやかを睨んでいる。美貌の女性が怒りの表情を浮かべると美しいが故に、更に迫力があるのだろう。美樹さやかは震えた。

 

――こ、怖い…!

 

「ど、どうしたのさ?職場まで来て?」

「……貴方、あんなにひどいことしてどうして黙ってたの?」

「へ?」

 

きょとんと目を見開くさやか。そんな様子を見て、ため息をつくほむら。

 

「…ほんと、愚かだわ。貴方、まどかにセクハラしたくせに覚えてないの?」

「ええ?セクハラって、そんなことしないわ」

「嘘おっしゃい、3日前に抱きつかれたって、まどか言ってたわ」

「ああ…え、でもあれは別に…痛い!」

 

ばちん、とほむらがさやかの額を叩く。今回は強めだったらしい。さやかが涙目になる。

 

「別にって…貴方、まどかに抱きついておいて「別に」なの?それに…」

「わあ?」

 

ぐい、とほむらに襟元を掴まれ、さやかが声をあげる。すごい力だ。

 

「3日前にまどかと会ったなんて、私聞いてないわよ…」

「わ、だって、たまたま会ったから…く、苦し、ほむら、苦しいわ!」

「たまたまだったらいいわけ?」

「ご、ごめん!ごめんって、もうあんたの許可無しに勝手に抱きつかないし、まどかと会ったらちゃんとあんたに申告するわ!」

 

 

ぱ、と手が離され、解放されたさやかは咳き込む。

 

「はあ、苦しかった…これで許してくれるでしょ?」

「だめよ」

 

そう呟くと、ほむらはさやかの身体にぴったりと身を寄せて。

 

「ほむら?」

「許さないわ」

 

さやかの腰に絡みつく、細い白い腕。

 

「じゃあどうすんのよ…」

 

困惑した蒼い髪の相方に、悪魔は囁く。頬をやや紅潮させて。

 

「私にも…抱きついて…」

 

そうして、彼女は絡めた腕に更に力を込めたのだ。

 

 

END

 

 

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