時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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甘々日常回…


さやか真っ赤になる

「うわ、出た」

 

白い空間の中、美樹さやかは驚きの声をあげて少女を見下ろしていた。

 

「なによ、いきなり失礼ね」

「失礼って…どうせこれ私の夢なんでしょう?」

「変なこと言う人ね」

 

馬鹿じゃないの、と辛辣な言葉を付け足して黒髪の少女はさやかを見上げた。美しいアメジストの瞳、まだあどけないが見惚れてしまう美貌。美樹さやかの相方、暁美ほむらだ。

だが、いつもより「幼い」。さやかはしばらく少女に見惚れた後、はっ、と我にかえり両手を大きく広げてぼやいた。

 

「だって、こんな真っ白な空間、夢以外のなんだっていうのよ?」

 

だだっぴろい距離感すら失われる白い空間で、さやかとほむらは立っていた。さやかは白のワイシャツとデニム、ほむらは黒のゴスロリのドレス、二人とも裸足だ。

 

「それに…あんただってまたちっちゃいし…いくつ?」

 

少女の頭の上の空間を撫でるような仕草をしながらさやかは尋ねた。

 

「24」

「嘘!」

 

ぱちん

 

「いったあ!」

 

さやかが額を抑える。少女が軽やかにジャンピングして額を叩いたのだ。「またやられたわ」と叫びながら、さやかがしばらく身を捩じらせ呻いた。

 

「まったく…「ちっちゃくて」悪かったわね、貴方の願望でしょ?」

「へ?ま、まさか」

 

外見はゴスロリのあどけない少女で、中味は24歳の大人のほむらだなんて――

 

「まさかいくらなんでも、私はそこまで――」

 

変態じゃないわ、と言おうとしたと同時にほむら(少女)が囁いた。

 

「変態ね」

「ひどいわ!」

 

少女は吹き出した、しばらくお腹を抱えて苦しそうに笑う。苦々しげにそんな少女を見つめるさやか。ようやく笑いが収まった頃には少女の目じりに涙が浮かんでいた。笑いすぎだ。

 

「…フフ、違わないわ、これが貴方の「夢」だっていうのなら、今登場している私は貴方の願望よ、外見も何もかもね」

「それじゃあ、この空間も?」

「そうよ、何もないこの空間も貴方の願望」

 

少女の言葉を受けて、さやかが周囲を改めて見渡す。

真っ白な何もない空間、そこに「在る」のは目の前の暁美ほむらだけ。

 

「それじゃあ、私ってさ」

「なあに?」

「あんた以外は何もいらないとか思ってるのかな…?」

 

沈黙が起きた。無表情な美少女と、次第に顔が真っ赤になっていく蒼い髪の大人の女性。しばらくしておそるおそる口を開いたのは大人の女性――さやかだった。

 

「え…へへ、なんか、私今すごいこと言ったような……」

「知らない」

「え?ちょっと、あんたどこ行くの?」

 

ほむらはぷい、とそっぽを向くと、いきなり駆けだした。思わず追いかけるさやか。小学生の運動会に一緒に出場している親子のような、スローペースともハイペースともいえない不思議な速度で二人は空間の中を走り始めた。

 

「ねえ、ちょっとってば!」

 

少女の横に並んださやかが叫ぶ。少女はさやかの方を見向きもしない。その頬はほんのり微かに紅潮していて。

 

「帰るわ」

「帰るってどこへ?」

「知らない、さよなら」

「ええ、や、やめて、お、置いていかないでよ!」

 

さやかは少女を抱きしめた、思わず少女は悲鳴をあげるが気にせず抱き上げる。

 

「ちょっと、離しなさい、この変態!けだもの!」

「けだものって…!私そんなんじゃないわ!あんたの同居人よ!」

 

さやかは少女を抱きかかえたまま、まるで借り物競走のように走り続ける。

大人の女性と、抱きかかえられているあどけない少女はまるで親子のようで。(少女の方はかなり暴れているが)

 

「いい?あんたがどんなに暴れて、私から逃げようとしても」

 

真っ白な空間が次第に色を帯びてゆく。七色の虹色に。

 

「私はあんたを」

 

地平線が生まれた。

 

「あきらめない」

 

まばゆい光が二人を包む。

 

「絶対に」

 

さやかと少女の目があった。少女は微かに、ほんの微かに口元を緩めて囁いた。

 

「さやか――」

 

*      *      *

 

「――さやか」

 

艶のある声がさやかの耳元で聞えた。

 

「…………」

 

ゆっくりと目を開き、さやかは呻いた。その視界に広がるのは真っ白な細い首筋に、幾筋かの黒い髪。

 

「あ…」

 

さやかは黒髪の友人に密着して眠りについていたらしい。いや、密着というレベルではなく、「抱き枕」代わりにして眠っていたようだ。顔を友人の肩にのせ、横から友人の肢体に手足を絡めていた。友人の柔らかい感触と、いい香りで思わずさやかは顔を赤くした。

 

「え、えへへ、ごめん寝ぼけてたみたい」

「でしょうね」

 

くっつきすぎて、さやかの視界からは友人の首と幾筋かの黒髪しか見えない。友人が気分を悪くしているのか、そうでないかも表情は見えないから確認できない。思わずさやかは顔をあげて友人の名を呼んだ。

 

「ほむら?」

 

ようやく、恐ろしいほど美しい友人の横顔が見えた。何を考えているのか天井を見上げている。こちらを見ようともしない。なんだか、さきほどの奇妙な夢が続いているような不思議な感覚に陥ったさやかは、つい子供のように尋ねてしまった。

 

「……怒ってるの?」

 

ふ、と息が漏れる音。黒髪の美女は口元を緩め微笑んだ。

 

「馬鹿ね、何を怒るの?」

「何をって」

「そうね…例えば貴方ならどうする?」

「へ?」

 

きょとんとほむらの横顔をみつめるさやか。彼女は未だ天井を見上げたままで、歌うように囁いた。

 

「『あきらめない』『絶対に』…って言われながら触れられたら」

「へ?」

 

ゆっくりとほむらがこちらを向いた。美しい切れ長の目はどことなく潤んでいて。

 

「困るでしょ?」

 

そうしてようやくさやかは気付いた、己の左手が何か柔らかいものを掴んでいることに。

 

「ん…?あれ、あ…」

 

さやかの身体が固まった。しばらく手を動かし、何を掴んでいるかようやく悟ったからだ。

 

――ほむらの胸にさやかは手をあてていた。

 

みるみる顔を赤くするさやかを面白そうに見つめながら、ほむらはゆっくりと体ごと向けてきた。そうして妖艶に微笑みながら囁いた。

 

「貴方、もしかしてたまってるの?」

 

言葉を失ったさやかは、ただ顔を赤くし、ぶんぶんと首を振るだけ。

 

「しょうのない人ね…」

 

ほむらはそう囁くと、「狼」になれなかった飼い犬の左手に自分の手を重ね、そうして唇をゆっくりと重ねた――。

 

 

END

 

 

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