時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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ほむらプレゼントを探す

「姉ちゃん、本当にいいの?」

「え、いいに決まってるじゃない、たくさん呼びなよ」

 

周囲がクリスマス一色の雰囲気になった頃、鹿目まどかとその弟のタツヤは街を散策していた。例年の「家族パーティ」で必要な飾り付けを購入するためだ。

 

「だって、俺のクラスメートってみんな行儀悪いしさあ」

「え?そんなことなかったよ、すごい礼儀正しかったじゃない」

「――そりゃ姉ちゃんが…」

 

タツヤは困ったように姉を見つめる。タツヤの背が伸びたためか、目線はあまり変わらない。タツヤは美しい姉の顔を見ながら「それは言うまい」と決心した。

 

「なあに?タツヤ」

「なんでもないよ」

 

ほんの少しだけ頬を赤らめてそっぽを向く弟に、まどかは身体ごと軽くぶつかった。

 

「わ、姉ちゃん!」

「ほら、ちゃんと言いなさい」

「い、言わないって」

 

姉弟の無邪気なじゃれあいに、街行く人々は何を思うのか。私服姿の二人はどこか年の離れた幼馴染のようでもあり…。

 

と、まどかが動きを止めて肩から下げているバッグを見つめた。着信音だ。中から携帯を取り出して画面を見ると彼女の大切な友人の名前が表示されていた。

 

――暁美ほむら――

 

「あ、ほむらちゃんからだ」

 

携帯を耳にあて、もしもし、と声をかけると艶のある声が聞えた。

 

『まどか?今大丈夫?』

「うん、大丈夫だよ、どうしたの?」

『今買い物をしているのだけど…何を買っていいかわからなくて』

「わからない?…何か迷っているの?」

『ええ』

 

不思議そうな表情をしながら、まどかは弟と目を合わせて、そうしてゆっくりと視線を緑と赤に飾り付けられた街路樹に向けて、あ、と声をあげた。

 

「もしかして、クリスマスプレゼント?」

 

 

*     *      *     *

 

 

『ほむらちゃん、プレゼントどうするの?』

『え?』

『クリスマスだよ、さやかちゃんに何かあげないの?』

『考えてなかったわ』

『もう…』

 

数日前、まどかとほむらとさやか(とモカ)で公園で遊んだ時に、二人の間でクリスマスが話題になった。黒髪の美しい女性は、視線を犬とじゃれている蒼い髪の女性へ向けながら呟いた。

 

『いつもあの人が勝手に盛り上がってツリーを飾ったり、勝手に私に何かくれたりしてたから…』

『もう、だめだよ、ほむらちゃん、ちゃんとお返ししないと』

『そうね、まどかがそう言うならそうするわ』

『ほむらちゃんてば…』

 

苦笑するまどか。

 

 

*     *     *

 

 

『――実はそうなの』

「よかった、さやかちゃん喜ぶよ」

 

いひひ、と嬉しそうにまどかは笑った。

 

『――あの人はついでよ、まどかのは買ったから楽しみにしてて』

「フフ、ありがとう、ねえ、ほむらちゃん、もし困っているなら一緒に探してもいいよ?」

『大丈夫、まどかの手を煩わせるほどの事でもないわ、適当に買うわ』

 

適当に――と言いながら、本当はとても悩んでいるだろうに、とまどかは考えた。だって、人に縋るような事をしない彼女がまどかに電話を掛けるくらいなのだから。

 

「ねえ、ほむらちゃん、さやかちゃんは贈り物ならなんでも喜ぶよ。特に好きな人のくれたものなら…ね?」

『…………』

 

驚いているのか、それとも答えに窮しているのか、携帯の向こうの美貌の友人は沈黙した。苦笑しながらまどかは続ける。

 

「だから、なんでもいいんだよ?…心がこもっていれば」

『こころ…』

「うん」

『………ありがとう、まどか』

 

嬉しそうな友人の声に、まどかも口元が緩む。そうして、何か思い出したのか、また、あ、と呟いて友人の名前を呼んだ。

 

「ねえ、ほむらちゃん、やっぱりイブの日は家に来れない…?」

『ごめんなさい、その日、あの人が仕事なのよ、遅くなるかもしれないから』

「そっか、残念だね、でも別にイブじゃなくても休みの日に一緒に家に遊びにおいでよ?」

『ありがとう』

 

美樹さやかは警察官である。そうしてイブの日は当然のごとく仕事であった。だが、運のいいことに翌日のクリスマスは公休なので、夜通しワインを飲んで、翌日は二人でどこかへ出かけるというやや大雑把な案を黒髪の女性は立てていた。

 

『それじゃあ、探してみるわ、じゃあ…』

「うん、いいのがみつかるといいね」

 

それから二言、三言話して、まどかは携帯を切った。にこやかな表情のまどかに弟は尋ねる。

 

「ねえ、ほむらさん達も家に来るの?」

「ううん、今回は、来れないって…タツヤもしかしてほむらちゃんがこれなくて残念?」

「ち、違うよ!」

 

タツヤは慌てる、確かに姉の友人である黒髪の女性は恐ろしいほど「美人」だが、なんだか得体の知れない怖さがある。

 

――あいつは喧嘩最強よ

 

年の離れた友人、美樹さやかのこの言葉がタツヤの脳裏で反復される。警察官のさやかが最強というくらいなのだから、あの黒髪の女性は相当喧嘩が強いのではないか?パンチがすごく強くて、一撃をくらったら、気を失うとか、じゃなければ空手の黒帯とか…

 

「タツヤ?」

「え、あ、ち、違うよ、安心してる!」

 

思わず本音を漏らしてしまい、あ、と声をあげ慌てるが、そんな弟をただ姉は不思議そうに見るだけで。

 

「…変なタツヤ」

 

そうしてふわりと優しく笑うのであった。

 

 

*       *      *

 

 

携帯を切ると、ふう、と暁美ほむらは息を漏らした。

そのままバッグへ携帯を戻し、再び街を歩きはじめる。めっきり冷え込んできた、昼下がりの街は装飾、色、音、全てがクリスマス一色に彩られていて。街路樹は夜になれば絢爛豪華に輝くであろうイルミネーションが施されていた。行き交う人々は、夜だったら…と思いつつこの通りを歩くのだが、今回ばかりは少し違っていた。

 

「わあ…」

「見て…」

 

羨望と好奇、あらゆる感情の込められた視線がほむらに注がれる。長い艶のある黒髪、黒のタートルネックに、スカートと黒づくめの格好、白磁のような肌、そして恐ろしいほどの美貌。颯爽と軽やかに歩く彼女を、人々は見つめる。だが、当の本人は全く気づいてないようで。

 

「こころ…」

 

誰ともなしに呟いて、ほむらは空を見上げる。蒼い空。

 

『あの夜』を越えてから、不思議と――

 

「そうだわ…」

 

口元を緩めながら、ほむらは小さな文房具店へと入っていった。

 

*     *   *      

 

「おかえりなさい」

 

ほむらが家に着くと、部屋の奥から彼女の相方の声がした。蒼い髪を掻きながらツリ―の前にあぐらをかいて飾り付けをしている。フフ、とほむらは笑った。

 

「ただいま…お仕事終わったの?」

「うん、事件も何にもなかったから…」

「そう…」

 

非番明けの彼女は、家に着くなりすぐにツリ―の飾り付けに取りかかったのだろう。ワイシャツ姿のままだった。

 

「ところで…どこ行ってたのさ?」

「あら、気になるの?」

「…うん」

 

白い歯を見せて、ほむらは笑う。あの夜以来、相方は甘えん坊になっているようだ。自然と手が伸びて、その頭を撫でた。

 

「ちょっとお買い物よ…」

「買い物…何を?」

「内緒よ、楽しみにしてて…」

 

内緒?と不思議そうに首をかしげる相方の髪を指でいじりながら、ほむらは囁いた。

 

「そっちは早速ツリ―の飾り付け?」

「うん…もうちょっと早くしたかったんだけど」

「私もするわ」

「え」

 

そう言いながら、ほむらは蒼い髪の女性が持っていた「星」を、ひょい、と奪った。

 

「珍しい…」

「あら、そうだったかしら?」

 

確かに去年まで、ほむらはクリスマスにあまり興味を示していなかった。だが今は――

 

ゆっくりと手を伸ばして、蒼い髪のてっぺんに「星」を置いた。

 

「ちょっと!」

「ぴったりね、お間抜けだけど」

 

くすくすと悪魔は嬉しそうに笑う。顔を赤くした相方の表情を楽しそうに覗きこみながら、手を伸ばし、首に絡めると、まるで空気を吸う様にキスをした。ゆっくりと息を吐いて、相方を見上げ、ほむらは囁いた。

 

「ねえ、そっちからは?」

 

 

『あの夜』を越えてから、不思議と二人の間の距離は無くなって――。

 

 

今度はほむらの細い背中に手を回し、相方からキスをする。一回目は空気を吸う様に、そして、二回目は――長く、長く。

 

「飾り付け…後回しにしましょう?」

 

ほむらの言葉に相方は答えず、代わりにその手に力を込めた。

 

 

END

 

 

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