時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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映画好きな悪魔

「ねえ、あんたどれ観たいの」

「ちょっと、待ちなさい気が散るから」

 

暁美ほむらは腕を組んで目の前の映画上映の掲示板を必死に見つめていた。

ため息が出るほどの美貌の持ち主なのに、上映時刻の重なりと作品の品薄さを口汚く罵っている様はまるで子供のようで、美樹さやかはついつい吹き出してしまった。

それを見咎めるように黒髪の美女は横目で睨みつける。

 

「何よ・・あなたちゃんと選んでいるの?美樹さやか」

「って、え、待ちなさいって言ってたじゃん」

「選ぶなとは言ってないわ」

 

フンとそっぽを向く友人に「悪魔」と囁いて悔しそうにするさやか。しかし、思いなおして暁美ほむらと同じ方向へ向き掲示板を見直した。

 

暁美ほむらは映画好きである。

これは美樹さやかが暁美ほむらと共闘し、交流を深めてから気付いたことだ。

世界が再度改変されてから10年、二人は関係の軋轢を解消しつつ、今も共闘を続けている。その間、様々な事・・・本当に様々な事が起こり、美樹さやかは身も心もずたずたになったこともあったが、何度かこの敵とも言えず、友人と呼ぶにも小難しい感情が働く黒髪の女性に何度も助けられていた。その年月の中で時折発生する囁かな日常において、ほむらは彼女をよく映画に誘った。多感な少女期に軋轢を発生させたこの二人の交流は、学び舎で昼食を共にするところからようやくここまで辿り着いていたのだ。

 

「う~ん、あんたが面白いって思う映画がどれかわかんないわ」

「私の気持ちが読めないなんて、ほんと、愚鈍で馬鹿ね」

「言ってろ」

 

漫才のように掛け合いながら美女二人が映画館で必死に物色している姿は物珍しいというか、なんとなく微笑ましいもので。通りすがりの客もちらちらと興味深く二人を見る。特に目を惹くのはほむらの方なのだろう、時折ほむらに見惚れている客同士が衝突するという冗談のような事態も発生していた。

 

「わかったわ」

 

と言って、嬉しそうにパンと手を叩くほむら。さやかは思わず慌てて周囲を見渡すが、何も異常は起きていない。

 

「今日はあなたが決めたのを見るわ、さやか」

「ええっ、なんか解決したような感じしないけど」

 

さあ、早く、と黒髪の友人に急かされてさやかが指差したのは、古代に存在したと言われる生物・・恐竜映画だった。きょとんと無邪気に見開かれるほむらの目。

 

「・・・・・・・・・」

「どお?普段あんたこういうの見ないから、たまには新鮮で」

「却下、子供なのあなた、なんなの」

「ひっど、じゃあこれは?」

 

今度は隣のホラー映画を指差す。悪魔を題材にしたものらしい。

 

「なんで私が悪魔ものを見なきゃならないのよ、くだらなすぎてしょうがないわ」

「ええ、じゃあもうわかんないわよ」

 

頭を抱えあきらめる友人を見てはあ、とため息をつくほむら。

 

「ほんっとに頼りにならないわね」

「ひど!」

 

だがしかし、どうやら暁美ほむらははしゃいでいるようだ。さやかを横目にじゃあ・・と消去法で選んだのか、ある作品を指差した。

 

「え・・・あんたこれ観る気?」

「いけない?」

 

呆然とするさやかに不敵に微笑むほむら。彼女が選んだのは年齢制限がついているバイオレンス映画だった。R-15とはいえ結構激しい性的描写で有名な映画だ。

 

「まあ、年齢は余裕でクリアしているしね、てか意外、あんたがこういうの観るって」

「悪魔だもの、こういうのは興味あるわ」

 

口元を愉快そうに歪ませながらとんでもないことを言い出す悪魔をさやかは「天然め」と睨む。

 

「全く、こういうのに興味あるんだったらさっさと実践しなさいよ、私にだけじゃなくてほかに・・あいたっ!」

 

最後まで言い終わることができずにさやかは頭を抱えた。ほむらが右手で勢いよくさやかの頭を叩いたからだ。抗議の声をあげようにも、ほむらはすでに館内の奥まで早足で進んでいた。

 

「ちょっとお、痛いじゃない!」

 

涙目でほむらの後ろ姿を追いかける。再び抗議をしようとさやかが口を開きかけた時、紙コップが渡された。

 

「・・・一応、私が誘ったからおごりよ」

 

ほむらの顔は紅潮していた。思わず吹き出すさやか。

 

「なんだ、そんな照れなくてもいいじゃ・・あん、もうごめんなさいってば!」

 

再び手を振りあげて殴りかかろうとするほむらを避けるように、さやかが逃げまどう。

ほむらは怒りをどうにか堪えて、はあとため息をつくと、今度は腰に手をあて女王様とでもいわんばかりの命令口調で言いきった。

 

「それから・・・いい?今日こそは絶対に映画館で寝ないで頂戴・・・!」

「・・・・わかったわよ」

 

さやかは、つい眠りこけてしまい、ほむらに置いてけぼりにされた日のことを思い出しながら、しょんぼりと返事した。

 

*       *       *        *        *

 

「いや~面白かったね、さすがに激しいシーンは恥ずかしかったけど」

「・・・・・」

「何、どうしたの?私が起きてたのが意外?」

 

おとなしい黒髪の友人を不審げに見つめ、さやかは問う。

 

「ええ、まさかほんとに起きてたなんて」

「うわ、心外!これでもあんたの言いつけどおりに頑張ったんだからね」

 

頑張ったも何も、映画を見るには当然のことというのにさやかは得意げに自慢する。そんなさやかを見咎めることなく、ただ見つめ返すほむら。

 

「?あんたどうしちゃったのよ、ぼうっとして変よ」

「・・・・・・」

 

何も言わずに、いきなりほむらはさやかの腕に自分の腕を絡めた。

 

「ちょっと・・・」

「・・・・・」

 

紅潮した頬に、伏しがちな目、黒髪の美女を見つめながら、さやかはもしかして興奮したの?と聞いた。コク、と頷くほむら。

 

「あいたた・・・だから、ちゃんと相手を見つけなさいって」

「あなたでいいわ」

 

ええ?と困惑した表情でほむらを見下ろすさやか。伏し目がちだったほむらが上目づかいでさやかに囁く。

 

「この際仕方ないから手を打つわ、妥協よ・・感謝しなさい」

「何よそれ・・ひっど・・まあ仕方ないかなあ」

 

ほむらの物言いが憎めなくて、さやかは笑う。そしてほむらに「いいよ」と言って、手を握り返した。嬉しそうに口元を緩めるほむら。

 

「あ、それと」

「・・何?」

「あんた「羽根」は気をつけてよね」

「・・・・・?」

「興奮するとあんた背中の羽根が出てくるから、今日は少しは気を使っ・・・」

 

激しい乾いた音が映画館内に響き渡る。

涙目で頬を押さえるさやかと、顔をものすごく紅潮させて右手を押さえるほむら。痛いというさやかの抗議に対して、悪魔はただ「馬鹿」と囁く。

どうやら悪魔はかなり純情であるようだった。

 

 

 

END

 

 

 

 




つぶやき
ほむらさんはさやかさんと一緒に眠っている時、寝ぼけてたり、興奮すると背中から羽根が生えてくるという設定妄想。時折、猫の尻尾のように、さやかさんをからかってバサバサ撫でつけるとよいなと。
あと、最後の乾いた音は「バッチーーーン」くらいの大きな平手打ち音でしょう。
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