時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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トランプから始まる二人の物語。
R18で連載中の拙作「THE LOVERS」と関連している話です。


スペードのJ

美樹さやかは意外に策士である。

暁美ほむらが改めてそれを実感したのは、昨年のOGとして参加したゼミ旅行だ。

 

「……」

 

ふう、と息を吐いて、ほむらは手に持ったカードを見つめる。

トランプのスペードのジャック。

そのカードの端を唇にあてて、軽く目を瞑る。美しい横顔。

午後の昼下がり窓辺の白いテーブルに座り、彼女は一人トランプに興じているようだ。

 

「どうしたのさ、ほむら?」

 

コーヒーの良い香りがし、続いて相方の声が聞えた。ほむらはアーモンド型の切れ長の目を開くとポットを持って傍に立っている蒼い髪の女性を見つめた。ふ、と唇を緩ませ艶のある声で囁いた。

 

「そうね、どうしてると思う?」

「へ?どうって…」

 

そう言いながら、蒼い髪の相方は不思議そうに彼女が手にしているカードを見つめる。思慮深い光を宿した蒼い瞳。10年前には感じられなかった光。

それを宿した瞳をほむらは大層気に入っていた。もちろん本人には言ってないが。

 

「それスペードのジャックよね」

「ええそうよ」

 

なんだか大事そうに持っているので相方に不思議に思われたのだろう、ほむらは肩をすくめて囁いた。

 

「貴方に似ているわ」

 

そう言って、カードの表面に唇を軽くあてると、ちらりと目だけで相方を見る。案の定、蒼い髪の女性は頬を紅潮させていた。

 

「……どこが似ているのさ?」

 

顔を紅潮させながらも、どうにか言葉を紡ぐ蒼い髪の女性。あら、と目を細めるほむら。

 

「そうね、単純に貴方の保有武器と属性からよ」

「ああ、剣と騎士ね…」

 

呟いて、口元に手をあてる相方。小首を捻っているのは何か異論でもあるのだろうか。

 

「なあに、何か異論?」

「違うわ、ただそのカードのモデルは古い時代の大帝の騎士だったなあって…」

 

相方によると、その騎士の仕える大帝はハートのキングのモデルになっているという。

 

「変な話しよね、って、あんま関係ないけど」

「そうね、でも、私は貴方がそんな事を知っているのが不思議だわ」

「まあ…哲学を専攻しちゃうとそうなるのよ」

 

困ったように笑いながら、相方はカップにコーヒーを注ぐ。確かに大学時代哲学を専攻していた彼女は、「表象」や「記号・シンボル」を研究していたため、美術史や中世文学などの本を読み漁っていたように思う。そう、とほむらは呟いてカップに口をあてた。

 

「――美味しいわ」

「ありがと」

 

そうして自分の分にもコーヒーを注ぎ、相方はほむらの左側に椅子を寄せ座った。

 

「それで、あんたはトランプで一人遊び?」

 

相方の質問に、ほむらは、ええ、と頷いた。白い細い腕を伸ばし、テーブルに散乱したトランプをかき集める。

 

「ねえひと勝負しない?」

「私と?」

「他に誰がいるっていうの?」

 

揃えたトランプをとん、とん、と整えて、ほむらはニヤリと笑った。つられてか、蒼い髪の女性もニィ、と笑う。

 

「負けないわよ」

「あら、強気ね?」

 

ほむらは手を伸ばし、さやかにトランプを差し出す、混ぜてと囁きながら。蒼い髪の女性はそれを受け取ると、カードを二分割し、端と端を噛み合わせ軽快にシャッフルした。リフルシャッフルだ。相方の手際の良さに満足気に目を細める黒髪の女性。

 

「貴方って意外と策士よね」

「まさか…ねえ、何する?」

「ドローポーカー……まさかじゃないわ」

 

カードが配られていく。

 

「あの船での勝負忘れた訳じゃないでしょう?」

 

*        *       *

 

『フルハウスよ』

 

へらへらと笑う相方と、心底悔しがる中年の男性。

 

記憶とは不思議なもので、何か関連したものを芋づる式に思い出すことがあるが、今のほむらがそうだった。トランプに興じるうち、あのOGで参加したゼミ旅行を思い出したのだ。またどこの馬の骨とも知れぬ男に色目を使われたが、それはほむらは特に気にしていなかった。それよりも相方がその「馬の骨」にポーカーで華麗に勝利を収めたのが痛快だった。「馬の骨」はあろうことかほむらを賭けの対象にしていたのだ。美樹さやかはやる時にはやるものだ。

 

「あの時の貴方は素敵だったわ」

「ごほ!」

 

カードを配り終え、行儀悪くコーヒーを口にした相方はほむらの言葉でむせてしまった。

 

「…ちょっとぉ、心理戦?」

「さあ?」

 

頬杖をつき、目を細め、黒髪の女性ははぐらかす。そうして視線をカードに向けながら呟いた。

 

「翌日貴方は何かしたのよね?」

 

勝負の翌日、ほむら(とさやか)を見て怯える男――

 

「…何も」

 

フフ、と小さく笑うほむら。やはり美樹さやかは策士なのだ。

 

「昔、似たような事があったのを思い出したわ」

「え…?」

 

動揺する蒼い髪の女性。上目使いでそれを見つめる黒髪の女性。

 

「大学の2年の秋と冬、そして3年の夏――」

「……」

「だいぶしつこい集団がいたわ…でも数日後にはおとなしくなっていた…貴方がやったのね?」

「……」

 

相方が喋らないのを肯定と受け取ったほむらは核心を突く。

 

「あんなに「男と付き合ってみなさいよ」とか言っておきながら、どうして?」

 

しばらく見つめ合う二人。観念したのか蒼い髪の女性は、はあ、とため息をついた。一度目を瞑り、また開いてほむらを見つめる。空のような蒼い瞳。

 

「取られたくなかったのよ」

 

ほむらの目が見開かれる。

 

「あんたを」

 

しばし沈黙が訪れる。ほむらの艶のある唇は微かに震えて。

 

「……それも心理戦かしら?」

「違うわ、本気よ」

「いらいらするわ…」

 

この犬はほんとに策士だ、とほむらは憎らしく思う。どうしてくれようか。ほむらは挑むように相方を見つめ、口を開く。

 

「私が勝ったら…」

「え?」

「貴方を一日好きにするわよ」

 

動揺している相方を余所に、ほむらは配られたカードを手にした。そうして、さも嬉しそうに微笑む。

 

――ああ、もう手に入れているわ。

 

その手にはスペードのJ

 

 

その後の勝負がどうなったかは…それはまた別の話。

 

どちらにせよ二人はその後、長い間ベッドの中で互いを「確認」し合ったのだから。

 

 

END

 

 

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