時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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大学時代のほむらとさやかの話


ほむらにらめっこする

「にらめっこしましょう?」

 

と、いきなり傍にいた黒髪の女性が囁くものだから、美樹さやかは驚いて、ええ?と聞き返した。

 

「ど、どうしちゃったのよ一体?」

 

 

大学の昼休み、人気の多い場所を避け、ほむらとさやかは構内の隅にある林の中にぽつんと置かれているベンチへ座っていた。その膝の上には互いの髪の色を交換したかのような色合いのお弁当箱。ちょうど食べ終えたところだ。

 

「どうって…ただなんとなくよ」

「なんとなくねえ…」

 

さやかは蒼い髪を数回ぽりぽりと掻く。数年後、目の前の女性にその仕草が「犬みたい」と言われるようになるとは、夢にも思っていない。再びさやかは尋ねた。

 

「なんで?」

「だからなんとなく」

「ふうん…」

 

やや困ったようにさやかは空を見上げた。この黒髪の相方が突拍子もないことを言うのは今に始まったことではない。大学の帰り道、公園で「ブランコに乗りたい」と呟いて、二人でブランコどころか調子に乗ってジャングルジムでも遊び、巡回の警備員に怪しまれたこともある。視線を下げて、さやかは垂れ気味な目を目の前の女性に向けた。細長いすっきりとした顔に透き通るような白い肌、形のいい鼻に切れ長の二重の双眸、アメジストの瞳。ため息が漏れるほど美しい。中学時代から「すっげー美人」だとは思っていたが、まさか成人してここまで美しくなるとは思っていなかった。よく見ると、その美人が、不思議そうにこちらを見上げている。

 

「……気持悪いわね、何私を凝視しているの」

「ひど!てか、あんたこそ私を見てんじゃん!」

 

はあ、とため息をつき、ほむらはやれやれといわんばかりに頭を振る。

 

「にらめっこすらまともにできない大学生なんて…」

「できる!できるわよそれくらい!むかつくわねえ、そんなに言うならやってやろうじゃないの」

 

疑問をすっかり忘れ、簡単に黒髪の美女の挑発に乗った蒼い髪の女性は、いそいそと弁当箱を包むと、横にちょこん、と置き、上体ごとほむらへ向けた。真剣な面持ちだが、やはりどことなくお間抜けな表情で。あわせてほむらの方もこれまた同じく、いそいそと弁当箱を包むと膝に置いたまま、無表情にさやかを見る。

 

「じゃあいい?にらめっこしましょう…」

 

さやかの掛け声で二人は見つめ(睨み)合う。

 

あっぷっぷ、と声をあげながら、さやかは頬をつまみ変な顔を作った。ほむらはただ無表情で。数秒ほどして

 

「ふっ」

 

さやかが大きく息を吹き出して下を向いた。その頭にほむらが手刀を叩きこむ。

 

「あいたっ!なんで叩くのよ!」

「貴方今笑ったでしょ」

「え、あ、あたりまえでしょ、これって笑った方が負けなのよ!」

 

ルールをわかっていないのだろうか、とさやかが早口で説明すると、ああ、とほむらが声を出した。

 

「そういうことなのね」

「あんた知らないでやってたの?」

「でもなんだか、笑われると腹が立つものね」

「いや、だからそれがゲームだって!いい?にらめっこは…」

 

もう1度必死に説明するさやかをじい、としばらく上目で見つめて、ほむらはくすくすと笑った。

 

 

「面白いわ」

「でしょ?じゃあもう一回やって…」

「貴方の顔が」

「ひど!」

 

目を細めて、さも楽しそうに黒髪の美女は笑った。その後、数回にらめっこを試みたが、さやかの全敗で。どうやら「無表情」に勝るものは無いらしい。

 

*      *       *

 

「え、幼稚園で?」

『そうなの、そこでほむらちゃん子供達と遊ぶことになってね…』

 

携帯の向こうの幼馴染の言葉でさやかはようやく、午後の「にらめっこ」が発生した理由がわかった。どうやら、先日まどかの働いている幼稚園に遊びに行ったらしい。鹿目まどかは短大を出て、今年の4月から幼稚園で働いている。時折仕事の様子を見に、二人で訪れたりもするが、最近はほむら一人でも訪れるようになっていた。悪魔いわく、「まどかがいじめられていないか」「最近の子供は大人よりも残酷で」心配だそうだ。

 

まどかの語るところによると、結構ほむらは子供の面倒見がいいらしい――。

 

『あ、まどか先生のお友達だー』

『ほむら、ほむらー!』

『さんよ、あなた達よりも年上だから「さん」をつけなさい』

『はーい!』

 

子供達に真面目に応えながら、ほむらは一生懸命子供の遊びに付き合う。「実直さ」というものを子供は敏感に感じ取ることができるのか、全く裏表の無い黒髪の女性に子供達は好意を持っていた。

 

『ねえねえ、にらめっこしよー!』

『にらめっこ?』

 

幼少時代から中学にあがるまで子供らしく振る舞えなかったほむらは、子供の遊びというものをよく知らない。首をかしげ困った様子の黒髪の女性を見て、まどかが慌てて助け舟を出した。

 

『じゃあ、みんな隣にいる友達とにらめっこしよー!さ、ほむらちゃんは私としよう?』

『え、まどかと?』

 

何故か頬を赤く染めた黒髪の女性を見て、まどかは不思議そうに首をかしげ、そうして微笑む。

 

『さ、ほら、いい?笑った方が負けだよ?』

 

にらめっこしましょう…とまどかが声をかけ、一斉ににらめっこが始まった。

 

*      *        *

 

「それで、あいつはどうしたの?」

『それがね、ほむらちゃん赤くなっちゃって…「恥ずかしい」って俯いちゃって』

 

――あの、乙女め!

 

さやかが心で叫ぶ。そうなのだ、あいつはそんな奴だった。さやかの幼馴染で元「円環の理」である鹿目まどかに対してほむらは滅法弱い。悪魔と化して、更に成人してクールビューティと評される今でも変わらずに。恐ろしいほど美しいその顔を紅潮させ、照れた様子でまどかを見上げる様子がさやかの脳裏に克明に浮かんだ。思わず額に手をあて、ため息をつく。

 

「まあ、あいつがやりそうだわ、まどかが相手だと永遠に勝てないわ、にらめっこ…」

『?そうなの?ほむらちゃん強そうだけどなあ』

「いやいや、まどかには敵わないわよ、私はあいつに全敗だけどさ」

『ふふふ、変なさやかちゃん、あ、それじゃあ来週のことほむらちゃんにも伝えてね?』

「わかったわ、それじゃ」

 

それから二言三言話して、さやかは携帯を切った。部屋の窓から外を眺めると、もうすでに日は落ちていて。

 

「誰から?」

 

「うわ!」

 

窓に長い黒髪の女性の姿がぼお、と浮かび、さやかがぎょっ、と驚いて振り返る。そこにはお風呂上がりの相方がいて。

 

「もう、びっくりしたわ!」

 

胸を手でおさえて息を吐くさやかを、ほむらは不思議そうに見上げる。風呂上がりでまだ少し濡れた黒髪と、上気した顔は何処となく艶やかで、いつにも増して美しかった。蒼い髪の女性が絶句し、身を固めたのも、どうやらその美しさに見惚れているかららしい。それに気付いたからか、ほむらは首をかしげ、フフ、と少し挑発的に微笑んだ。

 

「なに?見惚れた?」

「ば、馬鹿いわないでよ」

 

そう言って、勢いよく顔を背けた途端、器用に横にあったテーブルに腰をぶつけ、さやかは「あいた」と声をあげた。吹き出すほむら。

 

「貴方ってお笑いに向いているわよ絶対、就職それにしたら?」

「い、いやよ、私やりたい仕事は決まってるんだから」

「へえ、そうなんだ?」

 

挑発するような視線を向けて、ほむらはくすくす笑いながら、ベッドの横へ歩きだす。鏡台に座ると、ドライヤーで髪を乾かしはじめた。温風でキャミソールがゆらゆら揺れて。さやかも鏡台に近づき、ベッド端へ腰かける。

 

「まどかからよ」

「まどか?」

 

鏡越しで見つめ合い会話が始まる。鋭い視線がさやかに向けられた。まどかの事になると反応が早い、と相方のアメジストの瞳を見つめながら、さやかは思った。

 

「来週、まどかが給料日なんだって、その時飲みに行こうってさ」

「いいわね…でもまどかに奢らせる訳にはいかないわ」

「そりゃそうよ、もちろん割り勘…」

「貴方の奢りで」

「なんでよ!」

 

鏡の向こうで叫ぶ相方の姿が滑稽だったからか、ほむらは肩を震わせた。なんでも真剣に反応するから、この蒼い髪の相方はからかいがいがある――。

 

「だって、貴方最近バイト代出たって言ってたじゃない」

「そりゃ、言ったけど――」

「私がまどかの分は奢るから、私の分は貴方が奢って?」

「うん、それならまあ…」

「だから、貴方が全員分払うのと同じでしょう?」

「何よその論法!」

 

おかしいわと叫ぶさやかと、大笑いするほむら、どうやらからかわれているらしいと、さやかがようやく気付き不毛な会話が終結した。代わりにさやかの気になっていた話題に切り替わる。

 

「あ、それよりさあ、あんたまどかとにらめっこしたんだって?」

「……そうよ」

「だから私ともにらめっこしたの?」

「確かめたくてね」

「え?何を?」

 

ドライヤーの音が止まり、ほむらが立ち上がった。そうして、さやかの横にすとん、と腰を落とす。ほむらが人さし指をさやかの眼前に立てる。天井を見ろということではないようで。

 

「もう1回」

「へ?」

「にらめっこしましょう?」

 

そう言って、二人見つめ合う。二人とも真顔で。数秒後、「ふ」と顔を横に向けて、さやかが盛大に息を吐いた。

 

ぱちん

 

「あいた!何すんのよ!」

 

額を抑えながらさやかが抗議する。平手でも叩かれると痛いものだ。あきれたように囁くほむら。

 

「ねえ、貴方ってもしかして笑い上戸なの?」

「ち、違うわよ、でもなんか無表情で見つめられるとつい…」

「まったく、これじゃあ確かめられないわ」

「だから何を…」

「もう1回」

 

そうほむらが囁いて、やや強引に「にらめっこ」が再びはじまる。今度はさやかも笑わずに、二人の顔が引き寄せられるように1㎝、1㎝と近づいていって、そうして、軽く互いの唇が触れた。

 

「ほ…」

 

言葉を吐こうとしたさやかの口に、またほむらの唇があてられて、塞がれる。さやかの頬が赤くなった頃、ようやく唇と唇が離れた。真っ赤なさやかと無表情なほむら。最初に口を開いたのはほむらだった。

 

「やっぱりね」

「……や、やっぱりって…何よ」

「まどかとは見つめ合うだけでも恥ずかしいのに…」

 

そう囁きながら、ほむらはさやかの肩に手を置いて首をかしげた。

 

「貴方とはこうしても恥ずかしくないわ、どうしてかしら?」

「どうしてって、そんなの…」

 

顔を真っ赤にしながら、さやかは絶句して。そうして、しばらくして何か思いついたのか、ほむらの腰に手を回し抱き寄せた。面白そうに笑いながら、さやかにもたれるほむら。

 

「なに?答えがわかったの?」

「そんなの…決まってるわよ」

 

そう言って、顔を赤くしたまま、さやかはほむらの唇に自分の唇を押しあてた。

 

「……何回もこれができるためよ」

「お利口さんね」

 

その答えを知っていたのか、待っていたのか、とにかくほむらはさも満足気に目を細めて、そうしてその腕をさやかの首に絡めた。

 

その夜「にらめっこ」は何度も続いたという。

 

 

END

 

 

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