時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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日常謎のほのぼの回…
タツヤくんとさやかは何故かすごい気が合います、まるで兄弟…(何が違う…)


さやか大慌てする

「まどかに悩み事?」

 

夜の帳が降りた頃、少し寂れた街の界隈で、美樹さやかは携帯の向こうの相手に話しかけた。

 

『うん、最近様子がおかしくってさあ』

 

少年の心細そうな声に、さやかは困った様に眉根を下げた。無意識に黒の野暮ったいスーツの襟を正す。つい先ほどまで捜査で「荒っぽい仕事」をしていたところだった。ふと、顔をあげ、半分の月を見つめながらさやかは口元を緩めた。肩まで伸びた蒼い髪が夜風でさらさらと揺れて。

 

「なあに、また何かタツヤ君がまどかを困らせるようなことでもしたんじゃないの?」

『ち、ちげーよ!』

 

少年の声にさやかはクスクスと笑った。この幼馴染の弟とは10歳年が離れているが、波長が合うとでもいうのだろうか、話をしていると蒼い髪の女性も元気になれるのだ。そして向こうもそうなのだろう、悩み事だったり相談(主に進路が多いが)だったりと事あるごとにこの蒼い髪の女性に連絡してくる。

 

「じゃあ、何よ?何か心当たりでもあるの?」

『それがさあ…なんか俺のことを避けている様な感じでさ、そうかと思えば、昨日なんていきなり「隠しごとしてないよね」って聞いてくるし…』

「へえ…隠しごと…それにしても珍しいわねえ、まどかってああ見えて言いたいことははっきりいうはずなのに…」

 

そうなのだ、鹿目まどかは穏やかで優しく、時にはおどおどとしている様に見えるが、自分の意志を絶対に曲げたりはしない人間だ。相手に気を使って言うべきことを言わない人間ではないし、このように弟に対して歯切れの悪い言い方をするような人間ではない。

 

『だろ?姉ちゃんがあんな風に言うなんて、今まで無かったんだ、絶対何かあるよ!さやか何か知らない?』

 

少年の言い切りが何故か可笑しくて、笑いそうになるのをさやかは堪えた。腰に手をあて、考え込む。

 

「そうねえ…まどか自身に何かあったのか…でもタツヤ君に「隠しごとしてないよね」って聞くくらいだからなあ…う~んわからないわ…」

『ちぇっ、役に立たないなあ』

「こら!大人になんてこと!いいわ、この美樹さやかが謎を解いてみせるから…待ってなさい」

 

そう言って、う~んと唸りながらさやかは蒼い髪を右手で乱暴に掻く。少し寂れた街の界隈とはいえ、スーツ姿の女性がそのような仕草をしているのを数人の通行人は怪訝そうに見つめていた。だが当の本人は気にする様子もなく、しばらく犬の様に唸って、そうして、何か思いついたと言う様に笑顔を浮かべた。

 

「わかったわ!」

『え、マジで?』

「タツヤ君が隠してたエロ本を見つけたとか?」

『ち、ちげーよ!何言ってんだよ馬鹿!』

「馬鹿とは何よ!馬鹿とは!…ったく失礼な。例えばさあ、それをまどかが見つけて、ものすごく言いにくいとかじゃないの?弟がこんな本を読んでる、でも私に隠してるってショック受けてるとか?」

『んなっ…、お、俺そんな本もってねえし!なんで勝手に決め付けんのさ?』

「またまた~隠してんじゃないの?刑事さんはお見通しですよ?」

 

普段の様にへらへらとさやかが笑った。妙齢の女性にしては、さやかはその手の話にかなり許容的である。それは刑事という職業柄でもあり、普段男性陣に囲まれて仕事をしているということもあり、本人の性質でもあるのだが。そのためか、タツヤもさやかを「同類」であるかのように捉えてしまって。

 

『てか、さやかも隠してんだろ?エロ本!だからそう思うんだろ?身に覚えがあるから疑うんだ!』

「はあ?な、なんで私がそういう本持ってんのよ!何その新展開?」

 

携帯の向こう側で吹き出す声がした。さやかの切りかえしに少年はウケたらしく。

 

『さやかのスケベ!』

「ムカつく!」

 

また携帯の向こう側で吹き出す声が聞えた。すでにからかいモードだ。さやかはやれやれという様な表情を浮かべた。少年の心配はどうやら吹き飛んだらしく。

 

「まあ、どちらにせよ、よっぽどの悩み事があるなら、まどかは私かほむらに相談するわよ、その時はタツヤ君に教えてあげるからさ?それでいい?」

 

携帯の向こう側で少年の喜ぶ声。それから二言、三言話して携帯を切った。ふう、と息を吐いてさやかはまた空を見上げた。蒼い瞳に半分の月が映る。むしろ少年との会話で元気になったのは自分の方だ、とさやかは思う。時折、自分が人であるかどうか分からなくなる時があるが、こうして幼馴染やその弟と触れあうと、人としての己を保つことができる。

さやかの脳裏に黒髪の美しい女性の顔が浮かんだ。そう、そして何よりも「彼女」がいるからこそ――さやかは家にいる相方に思いを馳せた。

 

****************

 

8年前は、特に意識してなかったのに、今は帰る家があることが非常に嬉しくて。そしてその家に待っている人がいることも。マンションの玄関の前でさやかは左手を孤を描く様にして動かした。紫色の幾何学模様の結界に穴が空き、その中にさやかは腕をいれドアノブを掴む。鍵はかかっていない。ほっ、とさやかは安心して息を吐く。ガチャリと勢いよくドアを開けて「ただいま」と声を掛けた。

 

「ほむら?」

 

中に入ると、いつもこの時間はキッチンに付属しているカウンターか、リビングと一対になっている部屋のテーブルでくつろいで(たまに酒を飲んでいる)いる相方がいなかった。不思議そうに首をかしげさやかは奥に入る。相方の気配は察知しているので、家の中にいるはずなのだが…。そうしてベッドの近くに来てさやかは「え?」と素っ頓狂な声をあげた。よく見ると、ベッドの傍で黒髪の美女が四つん這いになって床を覗き込んでいる。まるで猫の様に。

 

「ちょ、ちょっとあんた何してんのよ?」

 

ドタドタと駆けよるさやかを見て、黒髪の女性――暁美ほむらは顔をあげた。美しい容貌にどことなく苛立った表情を浮かべ、長い髪を掻きあげながらさやかに囁いた。

 

「あら、おかえりなさい早かったのね」

 

そうしてまた四つん這いのまま、ベッドの下へ頭を寄せた。まるで高級な猫の様に優雅な仕草で。だが、キャミソール姿のままでその体勢なものだから、さやかとしては目のやり場に困ってしまって。顔をやや紅潮させて視線を夜景の広がる窓の外へ向けた。妙齢の女性同士ではあるが、人外の力で身体の関係を結んでしまった手前こうなることは仕方のないことなのだろう。雑念を払うためか、何かぶつぶつと呟いて、そうして、しばらくして、はっ、と我に返り、さやかは相方の傍にしゃがんだ。

 

「ねえ、ちょっと、あんた何してんの?・・・・何か探してるの?」

 

 

その声に反応して、ほむらが顔をあげさやかを見つめた。そのアメジストの瞳になにやら不穏な輝きを感じて、さやかは嫌な予感がした。

 

「エロ本」

「え」

 

一瞬息が止まるかと思うほどさやかは驚いた。

 

「何…やっぱり身に覚えでもあるの?」

「いや、ち、違うわ!あんたの口からそんな言葉が出てくるのに驚いてるのよ」

「…それくらい知ってるわよ、子供じゃあるまいし」

 

やれやれと首を振って、ほむらはまたベッドの下へ頭を寄せる。そう、どうしても彼女はベッドの下を確かめずにはいられなかったのだ。だがさやかはどうしてもそれを止めたいらしく、ほむらの肩を掴んで揺さぶった。

 

「ねえ、そんなところに何にもないってば!てか、どうしたのよあんたいきなり」

 

何故こうもタイムリーに、幼馴染の弟と話した内容のことが起きるのだろう、そう思った矢先、その疑問は黒髪の美女の一言で解決した。

 

「まどかがそう言ったの」

 

 

――まどかから「弟の事で相談がある」と電話がかかってきたのは、ほんの数分前の事だった。

 

『どうしたの、まどか?タツヤ君と何かあったの?』

『うんそれがね…』

 

 

「――ベッドの下に?」

「ええ、掃除をしていたら偶然見つけたんだって」

 

――やっぱりタツヤ君隠してたんじゃない!

 

さやかが心で叫ぶ。やはり刑事の勘は当たっていたのだ。

 

「どうしようかって、まどか悩んでいたわ」

「そりゃあ、弟がそんなもの読んでいたんじゃショックでしょうね…まあ、仕方ないことなんだけどね」

「仕方ない?」

 

美しい眉をややあげて、ほむらがさやかを睨む。

 

「へ、そ、そんな睨まないでよ!だってそうでしょ、男の子なら当然じゃないの?」

「そう…貴方は擁護する側なのね、だとしたらやはり」

 

ほむらは人さし指をさやかの鼻先に向けると、囁いた。

 

「貴方も持っているわね」

「そんな!なんでそうなるのよ?え、だからベッドの下を探してるの?私がそんな本隠…」

 

だが、ほむらが言葉を遮る。

 

「貴方ならやりかねないわ、誰かれ構わず尻尾を振るもの」

「ひど!」

「悪魔の勘よ、ほら、どいて」

「なにそれ、わけわかんない…ひゃあ、やめてやめて!」

 

四つん這いのほむらの上にのしかかり、さやかがほむらを制止しようとする。

 

「何も無いなら、なんで貴方はそんなに慌てるの?」

「いや、慌てて無いわよ、だけど別にベッドの下を覗かなくたって…」

「へえ…逆に怪しいわね」

 

ニヤリと不敵に笑いながら、ベッドの下をほむらが覗き込むと、何やら黒い物体が見える。

 

「……何か奥の方に見えるわ」

「ゴ、ゴキブリよ、ゴキブリ触らない方が、痛!いたたたた!」

 

さやかの右腕をほむらが掴み、人外の力で握りしめる。とうとうさやかがほむらの身体を離した。あきれたといわんばかりにため息をついて、ほむらはベッドの下に手を入れる。

 

「…我が家にそんなものはいないわよ、…これ何かしら?」

 

悪魔の勘は外れていた。

ベッドの下から引き出したほむらの手に握られていたのは、手のひらサイズに収まる可愛らしいラップが施された箱で。

 

「………」

「あちゃあ…バレちゃったわ…」

 

観念したように額をおさえるさやかと、不思議そうに見上げるほむら。それに気付いて、今度はばつが悪いのか、さやかが困った様に微笑んだ。

 

「いや…その、来週でちょうどあんたと一緒に暮らしはじめてから9年目でしょ?驚かそうと思ってて」

「……それでベッドの下に?」

「ええ、まさかこのタイミングでバレるとは思わなかったわ、どう?エロ本じゃないでしょ?」

 

さやかはそう言うと、えへへとばつが悪そうに笑った。それを見て、ああそうだ、この人は少女趣味の持ち主だった、とほむらは思いだす。

 

「ほんと馬鹿ね…」

 

だが嬉しいことには変わりはない。サイドテーブルに小箱をおいて、ベッドの端に腰かけると、誘う様にほむらは蒼い髪の女性の腕を引っ張った――。

 

その後、二人がどうしたか、そうして少年は姉にどう弁明したかはまた別の話――。

 

 

END

 

 

 

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