時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集) 作:さんかく@
ほむらが目を覚ました時には、すでに蒼い髪の相方はベッドを抜け出していた。相方の寝ていた所に手を這わせながら、ゆっくりとほむらはシーツから頭を出した。長い黒髪が乱れ、美しい顔にまとわりついた。
「おはよう、ほむら」
「……もう起きてたの?」
眩しそうに目を細めながら、ほむらはテーブルの傍に立っている相方に声をかける。
「うん、なんだか目が覚めちゃって…」
ほむらはまだ眠たそうだ。美しい顔をしかめながら、上体を起こす。キャミソール一枚で覆われた肢体が露わになった。
「コーヒー飲む?」
蒼い髪の相方が、カップにコーヒーを注ぐと同時にいい香りが広がった。思わず、うっとりとほむらは目を瞑る。
「頂くわ…」
そうして、美しい悪魔はベッドを降りた。
* * * *
「おかわりは?」
「もういいわ」
ソファに腰掛けながら、二人はコーヒーを飲んでいた。互いに肩を並べて外の景色を眺めながら。蒼い髪の相方の気配りを不思議に思ったのか、ほむらが景色を眺めながら囁いた。
「ねえ、貴方何か優しすぎない?」
「へ?や、優しいって?別に普通よ?」
「そう?」
視線を景色から、蒼い髪の相方へ移すと、ほむらは口元を緩めた。まるで挑発するような笑顔。ワンテンポ置いて、その艶のある唇が動いた。
「浮気?」
ふご、と変な声をあげながら、蒼い髪の女性が咳き込んだ。手で口をおさえ、コーヒーをこぼすまいと必死なその様子に、ほむらは肩を震わせ笑う。ソファでしばらく咳き込む声と笑い声が続いた。ようやく静まったころ、涙目で蒼い髪の相方――美樹さやかはほむらを睨んだ。白いワイシャツにはコーヒーの染み。
「ちょっとぉ…あんたが変なこと言うから」
「あら、だってテレビで見たんだもの」
「え?」
得意げに人さし指を唇にあてて、ほむらは囁いた。
「浮気の後の夫は優しいって…」
「どんな番組よ!」
どうにも、最近悪魔は変なテレビ番組を見るようになった、これもさやかの出張が増えたからだろうか。さすがに身に覚えの無いさやかでも弁明しようという気になったらしい、こほん、と咳払いして説明をはじめた。
「いや…あんたがこの前膝枕してくれたじゃない?だから今度は…」
「貴方が膝枕してくれるの?」
「う、うん、それでもいいし、お礼をしようと思ってさ…なんでもいいわよ?」
どうやら、この前の「労わり」のお礼なのだとほむらも気付き、肩をすくめた。
「別に気にしなくてもいいのに…」
「い、いや、だって私だけ労わってもらってさ、私もあんたにしたいじゃない?」
「そうなの?」
「そうよ」
相方はそういうものなのだと、珍しく忠犬に言いくるめられて、ついつい悪魔は頷いた。
「仕方ないわねえ、それなら………何がいいかしら?」
うまく浮かばない。ほむらは唇に人さし指をあてながら、珍しく考え込んだ。
「じゃ、じゃあさ、肩でも揉もうか?」
さやかは立ち上がり、ほむらの背後に立った。
「肩?私、肩なんて凝ったことないわよ?」
「う、ま、まああんたが何か思い浮かぶまで、しておくわ」
「そう?」
華奢なほむらの肩にさやかが手を置く。そうしてゆっくりと揉み始めた。
「んっ…」
ほむらの艶のある唇から、呻き声が漏れる。さやかの手が強いのか、少しだけ上体が前のめりになる。
「え、つ、強すぎる?」
「……なんだか、痛いわ、変な感じ…あっ」
「へ、変な声あげないでよ!私も変な気分になるじゃない!」
「あら…なあに朝から?」
妖艶な笑みを浮かべながら、ほむらがさやかの方へ振り向いた。う、と言葉を詰まらせるさやかを見て、くすくすと楽しそうに笑いだす。
「そっちの方がいいかしら?」
「…う、うん…いや、だ、だめよ!」
顔を赤くして、ぶんぶんと頭を振る相方に、とうとうほむらは吹き出した。
「ほんと、しょうがない人……」
そうして背後の相方を見上げながら手を伸ばす。手はさやかの頬をゆっくりと撫でて。顔を赤くしながら見下ろすさやか。
「おいで」
飼い主がそう囁くと、忠犬はすぐさま顔を飼い主と重ねた。その激しい様は、まるで長い間お預けをくらっていた犬のようで。くすくすと、時折主人は嬉しそうに笑いを漏らす。
そうして、蒼い髪の相方が背後から華奢な悪魔を強く抱きしめた。声を漏らしながら、ほむらは目を閉じた。
それからソファの上でしばらくお互いを「労わりあう」のはまた別の話。
END