時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集) 作:さんかく@
「こういうのはね、きちんとしないと」
美樹さやかはそう言いながら、よくわからない掛け声をあげてツリ―の飾り付けをしている。仕事帰りなのだろうか、白いブラウス姿のまま、必死でクリスマスツリーと格闘している様をこの家の主である悪魔は面白そうに見ていた。
「ねえ、毎年聞くようだけど…」
「『何がそんなに楽しいの』でしょ?」
そう言ってさやかはへらへらと悪魔に向かって笑う。
悪魔はそんなしたり顔の蒼い髪の友人を憎たらしいとでも思ったのか、フン、とそっぽを向いてワインを飲みほした。無造作にその手を傍の空間へ向けると、ボトルを持った小さい影が現われ空になったグラスにワインが注がれていく。
長い黒髪に白い肌の悪魔――暁美ほむらは、赤い液体が満たされるのを目を細めて満足気に見つめる。
妖艶な笑みで小さな影である使い魔に礼を言うと、再びさやかに顔を向け。
「答えを聞いてないわ…」
と囁いた。
テーブルで頬杖をつき、気だるげに友人を見つめる様はそれだけでも色香溢れ何故この魅力を有効活用しないのかと、しみじみ悪魔を見つめさやかは思った。
実はさやかもその美しさに見惚れているのだが、本人は自覚していない。
「まあね…なんというか回数ってあるのかなあって」
「回数?」
訝しがるほむらに、さやかは照れたように笑う。
「うん、人ってさ、実はどんなことでも釣り合いが取れてるんだと思う…」
「…」
美樹さやかとの会話はいつも突拍子もない切り口から始まる。これが彼女の持ち味なのかわからないが、ほむらはこの10年で辛抱強く彼女の話を聞く習慣が身についていた。
「私は、小さい頃からずっとクリスマスを家でやっててさ、ツリ―も飾って、プレゼントももらって…」
「私はそういうことしてないから、してあげるとでも?」
ほむらがワインを飲みながら切り返す。さやかは困ったように笑う、落ち着いているのは、悪魔の質問が想定内だったのだろう。
ほむらは彼女の困った顔が気にいっている、眉を下げ、たれ気味な目が細められるところが意外と可愛いと、だが口が裂けてもそういうことを本人に伝える気はなかった。永遠に。
「うん、そう、これは私のエゴ。でもね、あとひとつあるんだよ」
そう言って、さやかは悪魔にウインクする。訝しげに、しかし口元を歪め微笑む悪魔。明らかにこのやり取りを面白がっている。
「なあに?それは…教えてくれる?美樹さやか」
「好きだから」
ぐふ、と変な声をあげて悪魔がむせた。美貌がかたなしの仕草に思わず吹き出すさやか。
「あはは、ごめんごめん、そんなに嬉しかったかな?」
「そんな訳ないでしょ、何言ってるの、貴方正気?」
え、ときょとんとしている蒼い髪の友人を、ほむらは憎々しげに睨んだ。
またいつかみたいに使い魔でこいつをいじめてやろうかと、頭の中で算段を始める。
「え、正気も正気よ?だって好きな人と喜びは分かち合いたいものじゃない」
無邪気な笑顔、中性的な美貌とあいまっての天然な台詞。ほむらは彼女がなぜ異性同性問わずに人気があるのかしみじみ納得した。
「…よくわかったわ」
「ほんと、わかってくれた?うわ、珍しい…」
「貴方が天然ってことよ」
「?」
そこからまたほむらはワインを口にする。この話題は終わりとでもいうように。
「でも…まあ、こんなに毎年懲りずにしてくれてるのだから、ある程度は感謝するわ」
「うわ、可愛くないわねえ、もっと素直に『さやか、クリスマスプレゼント頂戴』ってねだってもいいのに」
「ちょっと…ふざけるのもいいかげんにしなさい、殺されたいの」
さすがに悪魔が不機嫌になった瞬間、さやかがどこから出したのかおもむろに縦長の箱をほむらに差し出す。にこやかなさやかとそしてぽかんとしている悪魔。
「ほむらにあげる」
「……こんな時はやはりお礼が必要?」
いらないよ、とさやかは囁いて、ほむらの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。面倒見のいい彼女の前では、恐ろしいほどの美貌の持ち主である悪魔もこうやってたまに子供扱いされる。そしてさすがにこの時ばかりは悪魔も、「暁美ほむら」としての顔を一瞬会間見せる。それはとても照れたような、嬉しいような可愛らしい表情であった。
…だがそれも一瞬だ、すぐに悪魔は不敵な笑みを浮かべ、友人の襟首を掴むと囁いた。
「それじゃあ、私もお返しするわ」
そうして、訝しがる友人の顔を引き寄せ、聖なる夜の定例挨拶を囁きながら唇を塞いだ。
…それから後は悪魔のお相手で、天使はツリーの飾り付けどころでは無かったという。
END