時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集) 作:さんかく@
「あんたって、ほんと振り幅広いわねえ」
「あら、光栄ね」
暁美ほむらは、ぶつぶつ呟きながらも傍らに寄り添っている蒼い髪の女性を目を細めて見上げた。この世界では彼女――美樹さやかとはもう10年の付き合いになる。
「貴方も興味無いのにわざわざここまでついてこなくてよかったのよ?」
「いやよ、私はあんたについて回るって決めたんだもの」
さやかは肩をすくめてほむらを見つめる。成長して、顔つきも精悍になったが、やや垂れ気味の愛きょうのある目は変わらず、中学生時代の頃の面影が少しだけ残っていて。
「好きにしなさいな」
ほむらは口元を緩めた。その横顔は恐ろしいほど美しく、中学時代から美しかった彼女は成長と共に更に美しさを増していて。
「好きにするわよ」
さやかはそう呟いて、またほむらと同じ方向へ視線を向けてその「絵」を鑑賞した。
***************
ほむらの大学時代の恩師に勧められ、二人は見滝原市内にある美術館に来ていた。恩師の好きな画家は、まだ国内では無名だったが、どうやら市内に愛好家がいるのだろう、珍しく作品展が開かれていたのだ。
「さやか、貴方好きな画家とかいる?」
「私?いやあ、あんまり詳しくないけど…」
赤い絨毯をさくさくと踏み歩きながら、さやかが頭に手をやる。中学時代からの彼女の癖だ。
「マネとかは結構好きかしら」
「あら、意外と知っているじゃない」
「まあ、講義があったしね、でも…」
「でも?」
「深い意味が込められている作品は苦手だわ、なんだか気味が悪くて」
「弱虫ね、絵画ってほぼそういうものでしょう?」
「ひどいわね、てかあんたはどんな絵が好きなのよ」
「トリック・アート」
ぽかん、と呆けた表情のさやかを余所に、ほむらはくすくすと笑いながら足早に進んだ。
*********
その「絵」があったのは、美術館のちょうど中央を過ぎたあたりの壁であった。
「ほむら…」
さやかの囁きにほむらは視線は絵に向けたまま頷く。
異質な作品
二人の見解は一致していた。鮮やかな力強い作品の中、この作品だけは全く違う。写実主義、あるいはもはや写真の様に白い病棟の廊下が描かれたその絵には一人の少女が描かれていて。
「これ、あんたじゃないの?」
さやかはやや震えた声で囁いた。白い寝間着におさげ髪の黒髪の少女。過去幾度となく失敗を繰り返し何度も抗い続けた少女。ほむらのアメジストの瞳が輝く。
「そうね、私だわ」
「なんで…」
そう蒼い髪の女性が呟いた瞬間、美術館が闇に閉ざされた。
「結界?」
さやかが身構える。傍らでほむらがさやかの右腕を抑えた。
『貴女が新しい存在ですか』
低いバリトンの声が響き渡る。そうして闇から溶けて出てきた様にフォーマルスーツを着た男が現れた。その顔は白く能面の様で。ほむらもさやかも返事はしない。男は返事が無いことを気にすることもなく、言葉を続けた。
『私達は古来から地球に在る「魔なる者」』
さやかの右手が剣を出現させようと発光した。
<待って>
ほむらが念話でさやかを止めた。
『私達は新しい存在の貴女に注目しているのですよ「暁美ほむら」』
「目的は何?」
ほむらが口を開いた。男はさも嬉しそうに口をニイとV字形に開いた。
『今日はただの挨拶です、以後お見知りおきを』
「ちょっとそれって…」
さやかが叫ぶと同時に男は消え、あたりは闇から先ほどの通常の世界へ戻る。行きかう人々の会話と足音。二人はしばし呆然とたたずんで。
「ねえ、今のって…魔獣じゃないわよね」
「ええ、あの男が言ったとおり「魔なる者」、元々地球に在った者達よ」
「私初めて見たわ」
「そうね、魔獣より厄介よ」
「……そんな気がしてきたわ」
さやかが忌々しそうに呟きながら、壁へ目を向けた。そこには先ほどの絵とは全く違う美しい風景があって――。
END