時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集) 作:さんかく@
これは二人が大学生として表面上人間らしく生活していた頃のお話。
「美樹、頼むから俺達に奢ってくれ」
「なんですかそれ!」
メガネの男と小太りの男二人にいきなり拝まれて、ラフなパーカー姿の蒼い髪の女性は声をあげた。
「俺達今日金欠なんだよ、な、頼む後輩だろ?」
確かにこの二人はゼミの先輩ではあるが…蒼い髪の女性美樹さやかは口をへの字に曲げさも嫌そうな顔をした。小太りの男がそれを見て、「わかりやすっ」と叫ぶのと、メガネの男が蒼い髪の後輩に申し開きをするには同時だった。
「待て美樹、お前が嫌そうな顔をする気持ちはわかる、だが、考えてもみろ」
そう言った後、メガネの男は大げさに天井を仰ぐ。
「無償の愛は誰にも注がれるべき…おい、ちょっと、ちょっと待て」
学食の出口に歩き出した美樹の手をメガネの男が掴み、必死に止める。
「なんでいきなり先輩に奢らないといけないんですか、私も今月は苦しいんですよ!」
彼らに事情は話していないが、美樹さやかは学業以外に特殊な「生業」とバイトで結構忙しいのだ。
「借りるより奢りの方が後腐れないだろ、俺達の中ではそんな事言葉に出さなくても通じ合えると思ってたんだが!違うのかっ!美樹!」
「うわ、熱いし、気持ち悪っ!」
悪寒が走ったのか、さやかが片方の腕で己を抱くジェスチャーをした。そうして我に返る、どこからか笑い声が聞えたからだ、気付くと学食にいる学生の視線が全てさやか達三人に注がれていた。三人は思わずバツが悪そうに互いの顔を見つめ合った。
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K大学の学食は、他の大学と同じく、安価でボリュームが多いため、学生には人気があった。在学している美樹さやかももちろんお昼はよく利用しており、今日も哲学科の同じゼミの先輩と昼食込みで「哲学論議」に花を咲かせる予定だったのだが、食券を買う直前になって先輩二人に食事をねだられ、このように、学食内の学生の失笑を買うことになったのだ。はあ、とため息をついてさやかがバツが悪そうに周囲を見渡す。K大学の学食のテーブルには派閥というか、縄張りの様なものがあり、窓際は法学部や経済学部などの社会学系の学生が占めており、壁際は理系の学生、そして食券売り場や厨房の近くは哲学科や国文学などの文学部が占めていた。今日もいつも通り、食券売り場の近くのテーブルが一つだけ空いていた。それを見てさやかが観念した様に目を瞑る。
「…わかりました、奢ります」
さも嫌そうにさやかが呟いた、それと同時に歓声をあげる男二人。
「でも、私と同じ日替わり定食ですよ、いいですね!」
きっ、と男二人を睨む、蒼い髪の女性の垂れ気味な目はなんだか迫力に欠けており、先輩二人はにこやかに頷いた。数年後、刑事になってもこのように職場の先輩にたかられるはめになるのを美樹さやかはさすがに知らない。ぶつぶつ言いながら、さやかは食券の日替わり定食のボタンを押した。
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『あんた、お昼食べないの?』
『私はあまり食べないからいいわ…』
大学生になってから、学科の違いで美樹さやかと暁美ほむらはなかなかお昼を共にすることができなくなっていた。もちろん魔獣が現れた場合は二人とも講義どころではないのだが。普段は化学を専攻しているほむらの方がハードなスケジュールであり、朝も早くから夜は遅くまで勉強づくしという事になり、さやかが心配してとうとう弁当を作ることもあった。時には二人、校庭のベンチで昼食をともにすることもあったが、三回生になってからは月1~2回のペースに落ちてしまっていた。
――あいつ、ちゃんと食べているかしら?
さやかはふと黒髪の相方の事が心配になる。美しい悪魔は、一回生の頃は愛想笑いなど皆無で、さやか以外の人間とは口も聞かない徹底ぶりだったが、今では普通にお洒落もして、ある程度愛想笑いもできるようになっている。よくぞここまで成長してくれた、と己の事は棚にあげて美樹さやかは時々感慨深くなる。
「あれ、美樹、このフライ食わないなら俺が食う…」
「ちょっと!食べるから!」
ほむらの事を考えていて箸がおろそかになっていたさやかの定食を狙って、両脇から先輩二人が箸を繰り出してきた。たまったもんじゃない、とさやかが二人を交互に睨んだ。
このけったいな二人の先輩は、蒼い髪の後輩をいたく気に入っているらしく、いつもこの様に両脇に彼女を挟むように座り食事を共にする。
――とにかく変わっている
とさやかは思う。魔法少女や、魔獣といった特殊な事象を除いて、中学、高校までさやかはこの様な人物に会ったことはなかった。口を開けば、やれアガペーやら、概念やら、飛行機を見ればUFOやらで、通俗的なものには全く興味が無いらしく他学部では盛んなコンパにも参加しないし、異性の浮いた話ひとつも無い。二人とも素材は悪くないはずなのだが、長髪に無精ひげにメガネ、小太り、ラフな格好、そしておそらく数日は洗濯していない服なのがちと問題なのだろうとさやかは思った。そうして二人の影響を受けたのか、そもそもの性質なのか、さやかもあまりお洒落をしない。
――ああ、楽だなあ
とさやかは秘かに思う。そしてこのゼミでよかったと。ほむらほどではないが、美樹さやかも入学当時から異性に声をかけられることがあった。(数名の同性からも。)元々淡白な性質のさやかはそれが非常に面倒くさいものに感じられて、あまり通俗的な事に興味を持たないこの二人の先輩の存在に実は感謝していた。
――あいつは大丈夫かな?
そうしてまた、あの美しい黒髪の悪魔の事を思い出す。元々美少女だと思ってたが、ここまで美しく成長するなんて思ってもみなかった。大学入学時の騒動を今でもさやかは覚えている。ほむらに群がる学生を穏便に退けるのは、魔女や魔獣を駆逐するよりもかなり大変な作業だった。あれから今まで、大小様々な騒動が起こったものだが…
さやかの携帯の着信音が鳴った。ほむらからだ。
「ほむら?」
『呼んだ?』
携帯の向こうから、艶のある声が聞こえ、さやかが笑った。
「私、呼んでないわよ?」
『…もしくは私の事考えてた?』
あ、とさやかは声をあげる。
「ええ、考えていたけど…」
『変態』
「なんでよ!」
『だだ漏れよ、貴方の思考がこっちに流れてきたのよ』
「嘘」
さあ、とさやかの顔が青ざめる。テレパシーというのか、二人は互いに念話を行うことができる。だがそれはお互いが近い距離にいる場合なのだが。
「ごめん、あんたの心配してたのよ、てか…」
携帯の向こう側で笑い声が聞えたので、さやかは悟った。
「あんたはめたわね…」
黒髪の女性がカマをかけたのだ。
『ひっかかる方が悪いのよ、貴方私のストーカーなの?』
「まさか」
『変態』
「ちょっと!」
さも愉快だと言わんばかりのほむらの笑い声を聞きながら、さやかは肩をすくめる。以前では考えられないほど悪魔は鞄持ちに打ち解けていて。
「それで、どうしたのさ?」
『お腹すいたのよ』
さやかは破顔した。素直な悪魔がなんだかとてもうれしかったから。
「ねえ、学食こない?」
『ひとり?』
「いいえ、今先輩達と食事してるんだけど…」
『あの悪魔談義した先輩達と?』
「そうよ」
『別に構わないわ』
そうして携帯を切る。両脇ではほむらが学食に来ることで舞い上がる先輩達。メガネの男の方はまた天井に向かって何か叫んでいた。
「よし、美樹、暁美さんが来るなら、学食で一番いい奴を奢るんだ」
「何言ってるんですか!自分達のこと棚にあげて!」
さやかは思わず叫ぶ。そしてやはりこの二人をほむらに会わせるのは間違いかと一瞬悩むが、まあ、その時は悪魔がなんとかするだろうと楽観的に考えた。
その後、ほむらが学食を訪れて意外と和やかに話が弾んだことと、ほむらの発言でさやかが非常に恥ずかしい思いをするのはまた別の話。
END
ほむらは一体何を食べさせられるのか…笑
妄想の糧になりますので、なんでもコメントよろしくお願いします!