時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集) 作:さんかく@
7月7日七夕ネタでだいぶ甘々(当社比)です。
どの様な職場にも大抵対部外者のセクションがあり、美樹さやかが勤務している警察署でも、それは例外ではなかった。
「ほんと、総務課は大変よねえ」
そう呟きながら、笹を肩に載せながら帰宅したさやかを黒髪の女性は怪訝そうに見つめた。
「何それ?夕食にでも使うの?」
「まさか」
さやかは笑いながら、笹をテーブルに置いた。それは1.5m程度の長さのもので。黒髪の女性――暁美ほむらは読みかけの本を置いてソファから立ち上がるとテーブルに近づいた。美しい顔を近づけ、さも怪訝そうな表情を浮かべる。
「……貴方また変なことしようとしてるんじゃ」
「へ、これでどうやってよ?」
ほむらは吹き出した、この蒼い髪の女性はからかいがいがある。からかわれたことに気付いたのか、さやかはやや不機嫌そうな表情を浮かべながらスーツを脱いだ。そうして足早にクローゼットへ向かう。その背中を追うようにしてほむらが軽い足取りでついてくる。素早くさやかの手からスーツを奪うと、ほむらが慣れた手つきでハンガーに掛けクローゼットへしまった。
「冗談よ」
「…もう、いいわよ」
猫の様に目を細め、そうやって微笑まれると、さやかは何も言えなくなって。
「仲直り?」
「何それ」
とうとうさやかは笑った。この美しい悪魔は時折猫みたいに気まぐれに人懐っこくなるのだ。小首をかしげ嬉しそうに笑うほむらはただの美しい女性に見えて、さやかは見惚れてしまった。
「あんたってさあ…」
「何?」
「なんでもないわ」
――今さら綺麗って言っても…ねえ?
さやかは心で呟いた。
「あら、素直に言ってもいいのに?綺麗って」
「うわ、あんた心を読んだわね!」
「だだ漏れよ」
ほむらが赤い舌をちろりと出した。赤くなるさやか。
「てか自分で言う?…って、ちょっと、ちょっと!なにすんの」
「素直に言わないからお仕置きよ」
「なんで?」
いつの間にかほむらがさやかを軽々と抱き上げていて。華奢な女性が自分より上背のある女性を抱き上げてベッドまで運ぶ光景は異様でもあり、どこか微笑ましくもあり。
「わあ、待って!私仕事から帰ったばっかりで疲れて…」
「あら、大丈夫よ疲れさせないから私にまかせて」
「絶対、嘘!」
自分の肩の上で暴れる蒼い髪の女性を見上げ、ほむらはさも嬉しそうに笑った。そうして無造作にさやかをベッドの上へ放り投げた。きゃん、と犬の様な変な悲鳴をあげながらさやかがベッドの上でバウンドした。その上にふわりと軽やかにほむらが乗った。
「ちょっと、ちょっと!」
「あら、いつもはいきなりでも応じてくれるのに?」
「……それは、まあ」
もごもごと口を動かすさやか、それを見て笑う悪魔。
どうやら今回は悪魔の方にスイッチが入ったらしく。観念したのかおとなしくなったさやかの腕をほむらは撫でながら、ゆっくりと唇を重ねた。
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カラン、と氷がグラスの中で音をたてた。そのグラスを口に運び液体を喉に流し込むと、さやかは息を吐いた。時間はもう午前零時近く、ソファにもたれ込んだ様に座っているタンクトップ姿のさやかはどこか疲れ果てた表情で。その傍でやけに生き生きとしているキャミソール姿の悪魔はさやかに囁いた。
「おかわりいる?」
「いるわ」
さやかの返事でほむらはテーブルにあるウイスキーのボトルを手に取った。己のグラスに液体を注いだ後、さやかのグラスになみなみと注ぐ。二人とも酒はかなりイケるクチだ。二人はグラスを手に取ると申し合わせた様に乾杯した。チンと涼しい音が鳴る。
「ね?疲れなかったでしょ?」
悪魔の言葉に鞄持ちがむせる。飲みかけたグラスを離し、慌てて己の鳩尾を叩いた。そうしてさやかは悪魔を睨みつけた。頬が紅潮しているのはむせたからだけではないらしく。
「…あんたねえ」
「冗談よ」
そう囁いて、笑みを浮かべながらほむらがさやかにもたれる。そうなるとまたさやかは何も言えなくなってしまい、黙ってグラスを口に運んだ。ほむらがテーブルに視線を移す。そこにはさやかが帰宅した時に持ってきた笹と短冊があって。
「…警察でもこういう事するのね」
ほむらが呟いた。今日が七夕であることと、「七夕」がどういうことをするのかは、既にベッドの上でレクチャー済みで。
「いや、普通はしないけどね、大変なのよ」
総務課が、とさやかが帰宅時と同じ事を言った。不思議そうにさやかを見上げるほむら。
「?総務課って?」
ほむらは就職していないからか、そのあたりはどうも疎かった。さやかは簡単に総務課の概略を説明して、その後私的意見を付け加えた。
「まあ「どこの課にも属さない業務を所掌する」とあるものだから、お偉方からの急な依頼からその他の些細な事でも対応するようになっているの。数秒ごとで優先順位が変わるし、更にこういう行事があると率先して実施する様になっているしでとんでもないところよ」
「役所の窓口が一元化されて、さらに対応職員が一人だけみたいなものね」
「うわ、それ怖いわね」
他愛も無い話しで盛り上がり、二人酒が進む。しばらくしてさやかが短冊を取りあげ、ほむらの前にかざす。
「それでさ、笹が余ったみたいなんで、短冊と一緒にもらってきたの、書いてみない?」
「……願いごとね」
「…もしかして、嫌だった?」
ほむらが美しい容貌を少し曇らせるものだから、さやかが心配そうに尋ねる。だが悪魔はかぶりを振って。
「いいえ、嫌ではないのだけれど、私の願いはもう叶っているから」
「ああ…」
そういえばそうだ、とさやかは思う。最愛の人――鹿目まどかを人間に戻し、人としての幸せを全うしてもらう。それがほむらの願いだった。
「だから、これ以上の願いなんてもう無いのよ」
「そう…」
一抹の寂しさを覚えながらもさやかは黒髪の女性の言葉に頷いた。しばらくさやかは窓の外の星を見つめて。
「じゃあさ、私があんたの分、別のことを願ってもいい?」
「え?」
不思議そうな悪魔に対し、フフフと悪戯っ子の様な笑みを浮かべさやかが短冊に何か書きこんだ。怪訝そうに覗きこむ悪魔の表情はとても複雑で。
――ずっと一緒にいられますように
短冊にはそう書かれていて。
「馬鹿ね」
悪魔はただそう呟いて、顔を隠すようにしてさやかの肩にもたれた。
「そうね、馬鹿だけど…」
さやかはまた星へ視線を向けて。
「でもあんたとずっと一緒にいたいわ」
そう囁いて。
「さやか…それは願いごとじゃないわ」
「え?」
さやかの肩にもたれたまま、ほむらが星を見上げて囁いた。
「貴方と私がずっと一緒にいるのは、願いからじゃない…」
さやかは黙って悪魔の言葉を待った。
「決定事項…」
さやかがほむらに視線を向ける。ほむらの方もさやかを見つめて。
「運命よ」
しばし見つめ合う二人、ようやく悪魔の気持ちをさやかが理解して。
「ああ、そうね…そうだわ」
そうしてさやかは嬉しそうに微笑んだ。
「しょうがない人ね、やっとわかったの?」
悪魔は短冊へ指を伸ばした。一瞬で短冊が燃え上がり手品の様に消えた。
二人は微笑み合うと、視線を夜空へと向ける。
満天の星の傍、蒼い半月は静かに佇む二人を照らし続けていた――。
END
私と貴方が一緒にいるのは、約束でもなんでもなく決定事項―-そうほむらが言い切れるようになったのもまた、時の流れのおかげかもしれません。
ではでは感想等ありましたら是非!