時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集) 作:さんかく@
「…いろいろ変わるものね」
「へ?何が?」
憂いを帯びた表情でほむらが囁くと、その傍で間髪いれず間の抜けた表情でさやかが聞き返した。ぱちん、と乾いた音がする。
「あいた!何すんのよ」
「元凶に言われると腹が立つものよ?」
「何よそれ」
垂れ気味な目を更に大きくしながら、蒼い髪を軽くさやかは掻いた。その仕草はどこか間の抜けたような犬で。おそらく彼女の横でじい、と凝視している美しい悪魔もそう思ったのだろうか、ひときわ大きくため息をつきながらこう呟いた。
「……犬みたい」
「ひど!」
とうとう寝転んでいた蒼い髪の女性は身体を起こして抗議した。
*****************
休日の何もない日、彼女達は暖かい日差しを浴びながらソファやベッドでくつろぐことが日課になっていた。たとえばキャミソールだったり、タンクトップだったりかなりゆったりとした格好で昼近くまでのんびりと過ごすのだ。
「いやあ、でもほんとのんびりできるって幸せだわ」
ベッドのヘッドボードにもたれながら、さやかは両手を伸ばした。気持ち良さそうなその姿を見て、再びほむらの脳内で相方の姿が犬に変換されるが、今度は特に何も言葉を発さなかった。体育座りのまま、ほんのちょっとだけ肩をすくめてほむらは相方を流し目で見つめる。白磁のような肌に長い黒髪がかかった。
「………」
「……、何よ、あんた何か言いたそうね」
だが、美しい黒髪の女性は特にさやかに何かを語りかける訳でもなく、じい、としばらく相方を見つめた後、ふい、と顔をそむけ窓の外へ視線を向ける。猫みたいだ、とさやかは思った。
「変なの」
ふ、とさやかは笑った。年齢の割に彼女は子供っぽいところが多々あるためか、笑顔を浮かべるとちょうど、中学生くらいの頃の面影が浮かぶ。
「不思議だわ」
と、空を漠然と眺めていたほむらが呟いた。
「…何が?」
そう言った後、さやかがはっ、と何かに気付いたかのように己の額を両手でガードした。さきほどと似たような会話の流れから、また額を叩かれると推測したのだろう。だがさやかの予想は外れ、返って来たのは悪魔の思わぬ言葉で。
「なんだか楽しいのよ」
「………」
日射しを浴びたほむらの横顔は悲しいほど綺麗で、さやかは何故かそれを見てせつなくなって、つい彼女の黒髪に触れようと手を伸ばし、そして途中でやめた。
「まあー…それはさ、きっとあんたが、なんだろう…幸せって感じてるからじゃないの?」
「幸せ?」
「そ、さっきの続きじゃないけど、あんたも私もさ、きっと変わったのよ」
この10年で、と呟くと、さやかも窓へ視線を向けた。ほむらが悪魔と化してからもう10年経過した。その間にさやかはほむらからありとあらゆる「可能性」の話を聞いてきた。例えば、未だワルプルギスの夜で挫折している世界軸の存在、ほむらが悪魔と化していない世界、まどかがそもそも魔法少女になっていない世界…あらゆる可能性が広がる多元世界……。
「成人している私達が存在している世界なんて、ここだけじゃないの?」
さやかがほむらへ視線を向ける。気付くとほむらは猫の様にさりげなくさやかの肩に頭をもたれさせていて。
「いいえ、少なくともあと一組は確認できたわ」
「そうなの?」
「ええ、でもそこでは貴方は何も覚えていなかった」
悪魔と化したほむらは次元を超えることができる。ただあまりにも力を消耗するため、なかなか使うことはないが。
「そう、じゃあ何が起きたかを「知っている」のはこの世界の私だけ?」
「そうね、希少種だから不本意だけど一応大事にしないと…」
「ちょっとぉ…」
くすくすとほむらがさやかにもたれたまま笑う。どうやらからかっているようで。
「でも、そうね…私が変わったのは貴方のせいだわ」
「…どんな風に?」
目を細めて微笑む悪魔を眩しそうに見つめながら、さやかが聞いた。悪魔の白い腕がさやかの腕に絡まる。
「細かく教えてあげるわ」
そう囁いて、悪魔は蒼い髪の女性の顔へ自分の顔を近づけた―-。
END
「変わったのは貴方の所為よ」と囁いてさやかにそっともたれたり、キスしたりするほむら…