時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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大人ほむらさんとさやかさんがまどかとカラオケに行く話です。「ほむら酩酊する」https://syosetu.org/novel/302421/24.html でのまどかの演歌好きぶりがここでも発揮されてます。


ほむらカラオケに行く

これは二人が表面上大学生として人間らしく生活していた頃の話。

 

見滝原市の中央にあるショッピングモールは地下にカラオケ店が一軒ある。だいたい休日や平日の夕方は学生客でごった返すのだが、その日もご多分に漏れずだいぶ混雑していた。ほんの少しだけ違うとすれば、フロント前の待合い席に人目を引く二人の女性客がいることだ。年の頃は20代前半、カジュアルな服装から大学生だと想像はつくが、黒髪の女性の方は恐ろしいほどの美貌の持ち主であり、もう一人の蒼い髪の女性はとてつもなく美しいという訳ではないが整った顔つきで、どこか人目を引いていた。アイドルだろうか、と訝しがる学生客達が時折好奇の目で二人を見つめていた。

 

「まどか遅いわねえ」

 

蒼い髪の女性が入り口を見ながら呟いた。その横で黒髪の女性は涼しげな表情で目を瞑っている。

 

「あ、来た来た、おーいまどか」

 

立ち上がり蒼い髪の女性が入り口に向かって手を振った。

入り口には、二人と同じカジュアルな服装に身を包んだ女性が現れて。桃色の髪に年齢よりも幼くあどけない容貌。可愛らしいという形容詞がぴったりな女性は二人を見て嬉しそうに手を振り返した。

 

「さやかちゃん、ほむらちゃん!」

 

 

******************

 

一日前――

 

 

「カラオケ?」

 

美樹さやかはきょとんと目を大きくあけて、珍しく悩んだ様子の黒髪の美女を見つめた。ベッドの端にちょこんと腰掛けて、足を組んで頬杖をついているキャミソール姿の悪魔は艶めかしげで。

 

「・・・そうなのよ」

「あんたがカラオケに行くなんて成長したわねえ・・・」

「成長?」

 

ほむらのアメジストの瞳で睨まれて、タンクトップのラフな格好の蒼い髪の女性は慌てて胸の前で手のひらを振る。

 

「あ、いやいや、別に変な意味で言った訳じゃないわよ、昔のあんたからは想像つかなくてびっくりしたのよ、でもなんだか嬉しいわ」

「嬉しい?」

「そ、あんたいつも口を開けばまどか、まどかで、頭の中もまどかばかりだったじゃない?表面上でもこんな風に他人とカラオケに行くようになるなんて、なんだか感慨深いわ」

「何よそれ、貴方私の保護者か何か?」

 

ふ、とほむらは口元を緩めた。この蒼い髪の女性は元々おせっかいな性質の持ち主だが、成長してからはことさらそれが増長されてきている。

 

「自分のことは棚にあげて、言いたい放題ねさやか?」

「ひど!・・・まあ私も成長しているとは言い難いけどさ」

 

さやかがテーブルのポットを取りカップにコーヒーを注いだ。コーヒーの香りにほむらが目を細める。さやかがほむらに歩み寄りカップを手渡した。

 

「ところでカラオケって誰と行くの?」

「佐藤教授とゼミの先輩よ」

「ああそれで断れないわけね」

 

さやかが合点がいったように呟いた。佐藤教授はほむらのゼミの担当教授だ。珍しいことだがほむらはこの初老の女性をいたく敬愛していた。どうやら最愛の人である鹿目まどかとの共通点を彼女に見いだしているらしい。

 

「でもあんたカラオケとか行ったことないでしょう?」

「・・・そうなのよ、そこが問題よ」

 

ほむらが苦々しげにささやき、カップを口に運んだ。さやかはなんとはなしにそのカップを見つめて。あ、と何か思いついた様に呟いた。

 

「ねえ、それじゃ予行演習しかないじゃない、ね、そうしよ?」

「予行演習?」

「そ、私とまどかとあんたの三人でカラオケに行くのよ」

 

そうしてさも得意げにさやかは微笑んだ。

 

「まどかも?」

 

まどかという言葉はこの悪魔にかなり、というか絶対的に有効だ。先ほどまで憂いの表情を浮かべていたほむらが、あっという間に恋する乙女の様に頬を赤らめている。わかりやすいなあとさやかは心で呟いて。

 

「そ、私も最近カラオケ行かないからさ、歌のレパートリー少ないし、まどかがいればそこらへんいろいろ教えてくれるっしょ?」

「え、ええまあそうね」

 

まんざらでもないという表情でほむらが頷く。

 

「ところでさ、あんたって何か歌えたっけ?」

「歌?それくらい余裕よ」

「へえ、どんな歌?」

「校歌」

 

さやかの表情が一瞬固まる。それを見て不思議そうに首をかしげるほむら。

 

「どうしたの?」

「いや、なんでもないわ、てか校歌ってマジ?」

「本気よ見滝原中学の校歌なら余裕よ」

「いや、だめよ校歌ってカラオケに入ってないから」

「そうなの?」

「ほら、それ以外でさ、中学や高校生の頃はやった歌とかあったじゃない」

 

さやかが慌てた様子で当時の歌の曲名を何曲か挙げた。だが、どれひとつほむらはわからなくて。

 

「?聞いたこと無いわ」

 

まずいわ、とさやかが頭を抱えて呟く。その様子が可笑しかったのか、口元を緩めてほむらはさやかの背中を指でつつく。ここ数年で二人の関係は緊張をはらんだものから別のものに変化しつつあるらしい。

 

「ねえ、そんな風にすると急に発狂したみたいよ?それに他にも歌える曲あるから心配には及ばないわ」

「え、そうなの?他に何が・・・・まさか」

 

ほむらの得意げな顔を見て、さやかが不安げな表情を浮かべる。

 

「国歌よ」

「やっぱり!てかだめよ!」

「?どうしてよカラオケに無いの?」

「いやあるけど、それ歌っちゃ・・・」

「歌っちゃ・・・何?」

 

さやかはほむらが威風堂々と歌う姿を想像した。確かに美しいが、だがしかし。

 

「私ならともかく、聞いている人が驚くわ」

「どうして?」

「どうしてって・・・国歌なんて世界規模の競技大会でしか・・・いや、違う違う、なんていうのかしら、ほら、大昔風にいうと「意識高い系」な人に勘違いとか・・・」

「何それ?」

 

ほむらがふ、と笑った。話の内容というより、さやかの慌てぶりが可笑しかったのだ。

 

「まあいいわ、それじゃあそれ以外の曲をまどかから教えてもらうわ」

「そう、それがいいわ」

 

ほむらの言葉にさやかがほっとした様に囁いた。実は数年後さやかの方が警察学校で嫌と言うほど国歌を斉唱することになるのだが。

 

***********

 

現在――

 

 

「この店あんまり変わってないわねえ」

「そうだね」

 

まどかの言葉にさやかは頷く。このカラオケ店は中学時代から利用していたが、店内はあの頃とまったく変わっていない。3人なので少人数用のボックスだが、カラフルな幾何学模様が壁一面に描かれており、中央に大きなスクリーンが埋め込まれている。物珍しそうにきょろきょろとあたりを見回している黒髪の女性に気づいて、まどかが目を細める。

 

「ほむらちゃん、カラオケに来るの初めてだっけ?」

「ええ、そうよ」

 

ほむらがまどかの方を恥ずかしそうに見て囁く。その横で、さやかがあきれたようにまどかに言った。

 

「そうなのよ、そのくせ今度ゼミの人たちとカラオケに行くっていうからさあ、まどかいろいろ教えてやっ・・・痛!いたたたた!」

 

ほむらがさやかの手を掴み軽く捻った。だが相当痛いらしく、さやかは一人のたうち回っている。

 

「ほ、ほむらちゃん、さやかちゃん痛がってるよ」

「大丈夫よこれくらいで死なないわ、普段はもっとーー」

「もっと?」

 

もっとなんだろう?とまどかは気になったが、ほむらはさやかの手を離すとまどかに近寄り、さあ、はじめましょうと囁いたので、この話題は終了した。一人さやかだけしばらくのたうち回っていたのだが。

 

「それじゃ、私から歌うね」

 

テーブルに立てかけられている薄型のタッチパネルを取ると、まどかが操作を始めた。その横で興味深げにのぞき込むほむら。普段なら恥ずかしがってそんな風に距離をつめないのだが、今回ばかりは初めてのカラオケに夢中らしい。くすりとまどかが笑って、操作方法をほむらにレクチャーする。

 

ーーまどかって、ほんと天使だわ

 

さやかが二人のやりとりを見ながら心で呟いた。微笑ましい二人の姿に自然と口元が緩む。なんだかこんな姿を見ていると過去の出来事なんて嘘のようだと思ってしまう。なにやらほむらがおそるおそるタッチパネルに触れる様子を見て、さやかは目を細めた。

 

室内になにやら力強い音楽が流れた。

 

「あ、はじまった」

 

まどかがマイクを手に取る。横で何が始まるかと子供のようにわくわくしているほむらと、向かい側で何が流れるんだと不安げなさやか。画面に現れた曲名は一昔前のもので。さやかがあ、と声をあげた。

 

「演歌?」

「えへへ、私この曲大好きなんだ」

 

まどかが左手を胸の前に構えて歌い始めた。

 

「わあ、うまいわ・・・」

「まどか素敵だわ」

 

そういえばまどかは演歌が好きだったな、とさやかは思い出す。以前居酒屋でまどかが嬉しそうにほむらとさやかに演歌について語っていたのだ。その時も拳を効かせるということをほむらに一生懸命語っていた。ほむらはすっかり気に入って、何度も拳を効かせる動きをしたが、どうみてもジャンケンの前動作の様だった。

 

「しかし、ほんとまどか演歌うまいわねえ」

 

まどかはとても可愛らしい声をしているのだが、芯があるというか、さびの部分や拳を効かせる部分はすごく迫力があった。ほんとうまいわ、とさやかが感心し、ふとほむらの方を見るとこれまた両手を組んで、心酔しきった様子でまどかを見ている。

 

ーーデレデレか!

 

思わずさやかは心でつっこんだ。これではまどかの歌ばかり聴いて練習にならないかもしれない。

 

と、最後のサビが終わり、歌が終了した。

 

「まどかうまい!」

「素敵だわ」

 

さやかとほむらが拍手する中、まどかはえへへと子供っぽく笑いマイクをさやかに渡した。

 

「よーし、次は私、久々に歌っちゃおう!」

 

さやかは高校生の頃にはやった歌を選曲する。恋愛というよりも、明日に向かって進もうという様な前向きソングで、メロディが覚えやすく魔獣退治する時にも口ずさんだくらい気に入っている曲なのだ。打ち終えるとさやかはほむらにタッチパネルを手渡した。おそるおそる受け取るほむら。

 

「大丈夫だよほむらちゃん、さっき教えたとおりに操作すれば」

「そうね・・・でも歌える曲が無くて」

「そうなの?」

 

珍しく困った様子のほむらを見て、まどかが心配そうな表情を浮かべる。

 

「国歌は歌えるんだけど・・・さやかが歌わない方がいいって」

「国歌?ふふ、なんだかほむらちゃんが歌うとかっこいいかも、でもさやかちゃんの言うとおりだね。それじゃあ・・・」

 

まどかがいいことを思いついたというように、ほむらに微笑みかけた。

 

「私の好きな演歌で、ほむらちゃんもすぐ歌えるような簡単な歌があるの、それを覚えるまで一緒に歌おう?」

「まどか・・・」

 

感激したといわんばかりの感極まった表情でほむらはまどかを見つめる。この表情はさやかに見せたことのない顔で。まどかは無邪気にえへへと笑った。

 

「ちょっと、そこ、私の歌を聞いて!」

 

マイクでさやかが叫ぶと、二人は思い出した様に笑い出した。

 

 

****************

 

 

「いやあ、歌ったわねえ・・」

「ふふふ、そうだね、さやかちゃんもがんばったね」

「まあ、ほとんど同じ曲だったから」

 

さやかが苦笑いしてまどかに囁く、そうなのだ、あれからはずっと同じ曲ーーまどかの勧める演歌を三人で合唱の様に歌い続けていたのだ。

 

「でもあれなら、ほむらちゃんもばっちりだね」

「ありがとう、まどか」

 

ほむらがまどかに囁く。だいぶ歌ったからか、悪魔の顔は少し紅潮していて。

 

「二曲さえ歌えれば、あとはどうにかなるわよ」

「貴方っていつも適当ね」

「ひど!私にもお礼くらい言ってよ」

 

ほむらが白い手をひらひらと振りながら、舌をちろりと出した。

 

「何それ、てへぺろの変形?ひど!」

 

まどかが吹き出した。この黒髪の友人は、さやかに対してだけは辛辣なのだ。

 

「それじゃあ、そろそろ遅いから私帰るね」

「うん、ありがとまどかおかげで助かったわ」

 

さやかの言葉にまどかは少しだけ頬を赤らめて、えへへと笑った。

 

「今日はすごく楽しかった。また、さやかちゃんとほむらちゃんと歌いたいな」

「私もよまどか、また一緒に歌いましょ」

「そうそう、ほむらのカラオケの報告もあるしね」

 

三人は笑いながら店を出た。それから二言三言言葉を交わすと帰路に着いた。

 

 

「いやあ、よかったわね、これであんたもカラオケに安心して行けるわね」

「・・・・・・」

「ん?どうしたのさ」

 

二人きりになり、ほむらはさきほどよりも無口になった。いやというよりいつも通りかとさやかは思い直す。

 

「さやか」

「ん?」

「ありがとう」

「え?」

 

さやかは驚いた。まさか悪魔の口から感謝の言葉を聞こうとは。

 

「・・・何よその顔は」

「いや、えへへ、あんたからお礼なんて久しぶりだわ」

「・・・言わなければよかったわ」

 

デレデレとしたさやかの顔を見て、ほむらは心底後悔したように呟いた。

そうしてスタスタと早歩きを始める。慌てて追いかけるさやか。それを横目で睨んでため息をつきながらほむらが囁いた。

 

「ほら・・」

 

ほむらが左手を少しだけ動かす。催促だ。さやかは当たり前のようにその手を掴んで。ゆっくりと指を絡めて。

 

「えへへ」

「・・・これ以上デレデレしたら指を折るわよ?」

「うん・・」

「・・・もう」

 

あきれたような悪魔と、さも嬉しそうな鞄持ち。二人は手を握ったまま家路についた。

 

佐藤教授とのカラオケで、結局ほむらが国歌も歌い、さやかも乱入して大盛り上がりしたのはまた別の話。

 

 

 

END

 

 

 

 




ゼミのカラオケ会…ほむらが歌ったら、歌そのものよりもその顔に見惚れてしまう学生多数の予感笑


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