時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

66 / 127
ほむら内緒にする

「愛ってなんだと思う?」

「へ?どうしたのさ、急に…まあそうねえ」

 

いきなりの悪魔の問いに驚きながら、まんざらでもないのだろう、さやかは目を閉じしばし考える、だが浮かばないのだろう、困ったようにほむらを見つめて。

 

「わかんないわ、あんたわかる?」

 

そんな情けない蒼い髪の女性を見て、枕の上で頬杖をつきながら、ほむらは口元を緩めた。

 

「わかるけど内緒よ」

「なによそれ」

 

部屋の天井へ視線を向けながら、さやかは肩をすくめた。この黒髪の女性は大抵大事なことはこうやってうまいことはぐらかす。もう何年も一緒にいるのにどうにも問い詰めることができない。原因は悪魔のその急に浮かべる微笑みだったり、面白そうにこちらを見上げる眼差しだったり、とにかくこいつの突出した美貌のせいなのだ、とさやかは思っていた。

 

「…ったく、あんたっていっつもそう」

 

ベッドのヘッドボードにもたれたまま、さやかは白いシーツから手を出して己の蒼い髪に触れた。そしてほだされる自分が一番情けないのだという結論にいたり、ため息をつく。

 

「あら、また独りよがり?」

 

貴方それ好きよね、とさやかの横でうつ伏せになりながらほむらが囁いた。シーツの下から華奢な肢体が少しずつ現れる。どうやら二人ともシーツ以外身に纏ってないようだ。と、ほむらはゆっくりと上体を起こし、さやかの指に己の指を絡ませてきた。白く細い指。

 

「機嫌直しなさいな」

「……」

 

彼女は変わった、とさやかはこういう時いつも思う。まどか以外の人間にこんな風に気に掛けることもそしてこんな風に見つめることもなかったはずだ。目の前の美しい女性を見つめながら、10年前の面影を探す。あの頃と同じくらい、いやそれ以上に美しく成長した女性。悪魔と化してから陰鬱な影を宿した双眸も今は艶めかしく輝いていて。

 

―どうにも慣れないわ

 

頬を染めて、さやかが視線を宙に彷徨わせる。ほむらはそんなさやかを見ながらさも愉快そうに笑った。

 

「貴方ってほんと変わらないわね」

「…悪かったわね」

 

そうなのだ、この10年、どうあってもこの悪魔の美貌に慣れることはついぞなかった。この新たに改変された世界で初めて対峙した時から、今まで。

 

「だってあんたが…」

「私が?何?」

 

憎たらしい、けれど――

 

「知ってるくせに…」

 

とうとう、蒼い髪の女性の方が本音を漏らす。どうにも美樹さやかという人物は根比べに弱いようだ。対して美しい悪魔の方は強いようで。くっ、くっ、と肩を震わせながら嬉しそうに笑うと、勝ち誇ったような顔でさやかに顔を近づけた。悪魔の柔らかい唇を感じながら蒼い髪の女性は目を瞑った。

 

*************************

 

この10年で変わったことは結構あるが、ここ最近の変化と言えば、悪魔のこういうところだろう、と蒼い髪の女性はほむらの背中を見つめながら思った。長い黒髪の隙間から見える白い肌を眩しそうに見つめながら、さやかはその髪に触れる。以前は――初めて身体を重ねた頃は、ほむらは行為の後拒絶するように数時間顔も合わせず、口も聞かなかった。だが今は。

 

「…何?」

 

ゆっくりとほむらはさやかの方へ振り向くと、気だるげに囁いた。それが嬉しかったのだろう、さやかの方は少し垂れ気味な目を細めて微笑んでいて。

 

「…気持ち悪いわ」

「ひど!」

 

さも嫌そうな表情のほむらを見て、さやかは口を尖らせて。だがそれも冗談だと心得ているのだろう、二人は同時に口元を緩めた。そうして、さやかは飼い主に伺いを立てる犬の様にほむらを見つめ、首をかしげながら聞いた。

 

「ねえほむら、さっきあんたが言ってたことってさ…」

「何?」

「ほら愛がなんなのかって」

「ええ言ったわ、何、答えでも見つかったの?」

 

さやかは頷いて力強く言った。

 

「愛は永遠なのよ」

 

ほむらの美しい容貌が一瞬固まって。

 

「…貴方よく恥ずかしいことが言えるわね、本当に哲学科卒?いいえ、哲学科卒だからかしら」

「うわ、なんだか二重にひど!なによ、そんな風に言うなら、あんたの答えを聞かせてよ」

「まどかよ」

 

今度はさやかの表情が固まって。

 

「…ベタ過ぎでしょそれ、てかだったら、私に今更聞く必要無いじゃない」

「そうね、でも聞きたかったのよ、貴方の意見が」

「どうして?」

「そうねえ…」

 

かなり珍しいことだが、美しい容貌に満面の笑みを浮かべて、ほむらは囁いた。

 

「内緒」

 

なによそれ、と言おうとしたが、またさやかは唇を悪魔の唇で塞がれて。

 

悪魔にどんな心境の変化が起きたのか、元円環の鞄持ちにはわかる術も無く、ただなすがまま。その後、再びシーツに潜った二人がどうなったかはまた別の話。

 

 

END

 

 

 




余談の余談

いまさらですが、元鞄持ちの愛の定義を知りたがった悪魔は、実は定義よりも己が「何故」「この人から」聞きたかったのかを理解しそれが心地よいものであったから微笑んでます。そんな二人の甘甘なお話が書きたかったという(何)

また、「愛の定義」(同じく10年後の大人ほむさやの話ですが、さやかが記憶無しという設定)でもほむらの「愛の定義とは?」という問いにさやかは答えられないのですが、きっとさやかは思春期時代の上条君へのほのかな恋の経験から恋は理解していても、愛については、まださほど答えられるほど成長しているとも言えないということでしょうか。ほむらについては、叛逆の物語で自らの変化を「愛よ」という言葉で語っているとおり身をもって愛を知っているのです。その違いがまた二人の関係に面白い影響を与えているのかなと妄想しています。

ではでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。