時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集) 作:さんかく@
少女は待っていた。素足をぶらぶらさせながら。
真っ白な何も無い空間の中で、黒いドレスの少女は何かに腰かけている。まるでそこに透明な椅子があるかのように。艶のある長い黒髪を時折気にかけてか、右手で梳いて、そうしてふう、とため息をついた。あどけない、けれどとても美しい少女の横顔。
――少女はここが「夢」の中だと知っていた。そして、己もこの「夢」の住人だと。
この「夢」の持ち主は全くそれを知らなかったのに――と、少女はくすくすとひとり笑う。
何故自分が己自身を夢の住人と自覚しているのか、そして「意思」があるのか、少女にはわからない。しかし、そう困っているわけでもなかった。とにかくこの世界ではお腹もすかないし、喉も乾かない、なにより「時間」の概念が無いのだ。永劫の時も、一瞬も全て同じもの。少女はただ、たゆたうようにこの空間でまどろんでいた。ただひとつの「楽しみ」のためだけに。
「うわ、またここ?」
いきなり素っ頓狂な声がして、少女は振り向いた。そうして、年相応の子供のような無邪気な笑みを浮かべた。少女のただひとつの「楽しみ」がやって来たのだ。ひょい、と軽く透明な椅子から降りて、少女は歩き出す。素足の蒼い髪の女性の元に。
「夢だわ…これはぜったい夢…」
ぶつぶつ言いながら、頭を掻いて歩いてくる女性を見て、少女は今度は苦笑する、大人めいた表情で。そうして、目を細めながら囁いた。
「あいかわらずお間抜けね、美樹さやか」
びっくりする蒼い髪の女性を見つめ、そうして少女はまたくすくすと笑った。もちろん先ほどの子供のような「笑み」は全く見せない。
「うわ、出た」
「失礼ね」
白いワイシャツでデニム姿の女性は、困ったように垂れ気味な目を少女に向けて言った。手をひょい、と少女の頭の上に載せながら。今回は空間にかざすのではなく、じかに触れて。
「だって…これ、私の願望なんでしょう?」
「そうよ」
頭を撫でられたからか、少女の頬はほんの少しだけ赤くなった。
「……やっぱり私変態なんだわ、見た目幼女で中味が24歳のあんたなんて…」
手を離し、己の頭を抱えて唸る女性。どうやらやっと自覚したようだ。ふう、と少女はため息をついた。
「そうよ、やっと自覚した?」
「ひど!」
人に言われると傷つくらしい、なんだかやっかいな性格だ、と少女は女性を見上げながら思う。どうにもこの蒼い髪の女性は「手がかかる」。現実において「私」は彼女に対してどのような対応をしているのだろうか?と少女はほんの少しだけ気になった。
「ところで用件はなあに?」
「へ、用件って?」
「貴方は何か理由があってこの夢を見ているはずよ」
「そうなの?……あ、それじゃきっとあれだわ」
「?」
蒼い髪の女性は、白い空間に両手をかざし、えい、と気合いを入れた。が、何も変化は無い。こりずに女性は「気合い」と時折「出てこい」と叫びながら両手をぶん、ぶん、と振り続けた。あきれたように見つめる少女。
「何してるの?」
「これが私の夢なら…出てくるはず…よっと!」
ぽん、と可愛らしい音と共に女性の両手の間に何か現われた。茶色の物体。少女は思わず目を見開く。それは大きなクマのぬいぐるみだった。とても柔らかそうだ。
「えへへ、やっと出てきたわ」
「それ…」
「うん、あんたにもあげたいなあって思ってたのよ」
――だから、夢を見ているかも、と囁いて、女性はぬいぐるみを少女の前に差し出した。
「……いいの?」
「もちろんよ」
にっこりとお間抜けに笑う女性を見て、少女は一瞬泣きそうな顔になる。そしておそるおそる手を伸ばした。小さな手に溢れるような大きな茶色の物体。
「柔らかい…」
「えへへ、でしょ?」
少女は顔をぬいぐるみに押し付け、目を瞑る。
「あ、そろそろ私行くわ…」
女性の囁きに少女は顔をあげた。女性の身体の半分が透明になっていた、夢から醒める頃合いだ。少女のアメジストの瞳がはじめて――揺らめいて。
「……もう行くの?」
初めて感情を込めて喋ったのかもしれない――。だが、それでも少女の胸の奥は何かでつかえていて。
「うん、また来るわ」
「ほんと?」
「ほんとよ」
女性は少女を抱きしめた。思わず身を竦める少女だが、すぐに力を抜いて、そして目を瞑る。
「……また来てね」
精いっぱいの本音を少女はとても小さく囁いて。二人はただ静かに抱き合った。まるで親子のように。
「また来るわ…」
女性が最後に囁いた。
そうして少女はまた一人白い空間に残される。時間の概念の無いこの世界に。ふう、とため息をついて少女が上を見上げた時、声が聞えた、あの女性の声だ。なにやら言い忘れた様子で慌てている。
『あと、メリークリスマス!』
必死な叫びに少女は吹き出した。
「しょうのない人…」
少女は苦笑して、クマのぬいぐるみを抱きしめて目を瞑る。
その表情はまるで――
END
作中に登場するクマのぬいぐるみは「ほむらプレゼントを渡す」https://syosetu.org/novel/302421/40.htmlでさやかがほむらにプレゼントしたクマのぬいぐるみです。(あちらではほむらに「イヌ?」と言われてましたが、こちらでは言われなかったようです笑)
そしてミニほむらが自分の願望だと気づいたさやか…だいぶ悩んでいましたが(何)その後だんだん吹っ切れていく予定です…(なんと)