時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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「二人の食卓」https://syosetu.org/novel/302421/30.htmlniに登場したミニほむらが再び登場します。



少女とクマ

少女は待っていた。素足をぶらぶらさせながら。

真っ白な何も無い空間の中で、黒いドレスの少女は何かに腰かけている。まるでそこに透明な椅子があるかのように。艶のある長い黒髪を時折気にかけてか、右手で梳いて、そうしてふう、とため息をついた。あどけない、けれどとても美しい少女の横顔。

 

――少女はここが「夢」の中だと知っていた。そして、己もこの「夢」の住人だと。

 

この「夢」の持ち主は全くそれを知らなかったのに――と、少女はくすくすとひとり笑う。

 

何故自分が己自身を夢の住人と自覚しているのか、そして「意思」があるのか、少女にはわからない。しかし、そう困っているわけでもなかった。とにかくこの世界ではお腹もすかないし、喉も乾かない、なにより「時間」の概念が無いのだ。永劫の時も、一瞬も全て同じもの。少女はただ、たゆたうようにこの空間でまどろんでいた。ただひとつの「楽しみ」のためだけに。

 

「うわ、またここ?」

 

いきなり素っ頓狂な声がして、少女は振り向いた。そうして、年相応の子供のような無邪気な笑みを浮かべた。少女のただひとつの「楽しみ」がやって来たのだ。ひょい、と軽く透明な椅子から降りて、少女は歩き出す。素足の蒼い髪の女性の元に。

 

「夢だわ…これはぜったい夢…」

 

ぶつぶつ言いながら、頭を掻いて歩いてくる女性を見て、少女は今度は苦笑する、大人めいた表情で。そうして、目を細めながら囁いた。

 

「あいかわらずお間抜けね、美樹さやか」

 

びっくりする蒼い髪の女性を見つめ、そうして少女はまたくすくすと笑った。もちろん先ほどの子供のような「笑み」は全く見せない。

 

「うわ、出た」

「失礼ね」

 

白いワイシャツでデニム姿の女性は、困ったように垂れ気味な目を少女に向けて言った。手をひょい、と少女の頭の上に載せながら。今回は空間にかざすのではなく、じかに触れて。

 

「だって…これ、私の願望なんでしょう?」

「そうよ」

 

頭を撫でられたからか、少女の頬はほんの少しだけ赤くなった。

 

「……やっぱり私変態なんだわ、見た目幼女で中味が24歳のあんたなんて…」

 

手を離し、己の頭を抱えて唸る女性。どうやらやっと自覚したようだ。ふう、と少女はため息をついた。

 

「そうよ、やっと自覚した?」

「ひど!」

 

人に言われると傷つくらしい、なんだかやっかいな性格だ、と少女は女性を見上げながら思う。どうにもこの蒼い髪の女性は「手がかかる」。現実において「私」は彼女に対してどのような対応をしているのだろうか?と少女はほんの少しだけ気になった。

 

「ところで用件はなあに?」

「へ、用件って?」

「貴方は何か理由があってこの夢を見ているはずよ」

「そうなの?……あ、それじゃきっとあれだわ」

「?」

 

蒼い髪の女性は、白い空間に両手をかざし、えい、と気合いを入れた。が、何も変化は無い。こりずに女性は「気合い」と時折「出てこい」と叫びながら両手をぶん、ぶん、と振り続けた。あきれたように見つめる少女。

 

「何してるの?」

「これが私の夢なら…出てくるはず…よっと!」

 

ぽん、と可愛らしい音と共に女性の両手の間に何か現われた。茶色の物体。少女は思わず目を見開く。それは大きなクマのぬいぐるみだった。とても柔らかそうだ。

 

「えへへ、やっと出てきたわ」

「それ…」

「うん、あんたにもあげたいなあって思ってたのよ」

 

――だから、夢を見ているかも、と囁いて、女性はぬいぐるみを少女の前に差し出した。

 

「……いいの?」

「もちろんよ」

 

にっこりとお間抜けに笑う女性を見て、少女は一瞬泣きそうな顔になる。そしておそるおそる手を伸ばした。小さな手に溢れるような大きな茶色の物体。

 

「柔らかい…」

「えへへ、でしょ?」

 

少女は顔をぬいぐるみに押し付け、目を瞑る。

 

「あ、そろそろ私行くわ…」

 

女性の囁きに少女は顔をあげた。女性の身体の半分が透明になっていた、夢から醒める頃合いだ。少女のアメジストの瞳がはじめて――揺らめいて。

 

「……もう行くの?」

 

初めて感情を込めて喋ったのかもしれない――。だが、それでも少女の胸の奥は何かでつかえていて。

 

「うん、また来るわ」

「ほんと?」

「ほんとよ」

 

女性は少女を抱きしめた。思わず身を竦める少女だが、すぐに力を抜いて、そして目を瞑る。

 

「……また来てね」

 

精いっぱいの本音を少女はとても小さく囁いて。二人はただ静かに抱き合った。まるで親子のように。

 

「また来るわ…」

 

女性が最後に囁いた。

 

そうして少女はまた一人白い空間に残される。時間の概念の無いこの世界に。ふう、とため息をついて少女が上を見上げた時、声が聞えた、あの女性の声だ。なにやら言い忘れた様子で慌てている。

 

『あと、メリークリスマス!』

 

必死な叫びに少女は吹き出した。

 

「しょうのない人…」

 

少女は苦笑して、クマのぬいぐるみを抱きしめて目を瞑る。

その表情はまるで――

 

 

END

 

 




作中に登場するクマのぬいぐるみは「ほむらプレゼントを渡す」https://syosetu.org/novel/302421/40.htmlでさやかがほむらにプレゼントしたクマのぬいぐるみです。(あちらではほむらに「イヌ?」と言われてましたが、こちらでは言われなかったようです笑)

そしてミニほむらが自分の願望だと気づいたさやか…だいぶ悩んでいましたが(何)その後だんだん吹っ切れていく予定です…(なんと)
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