時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集) 作:さんかく@
魔獣が何を考え、そして何のために存在するのか、ほむらは以前地球外生命体から聞いたことがあった。
「……まあ、昔の事だしね…」
「え?何、なんだって?」
耳に手をあてながら「相方」がこちらに向かって叫ぶ。デニムのパンツに白のワイシャツを身に纏った細身の蒼い髪の女性。妙齢に成長した彼女はどこかしかめっ面でこちらを睨んでいる。仕方ない、今は戦闘中なのだ。ほむらは肩をすくめて、「なんでもない」と仕草で表現する。と、同時に吹きすさぶ風が二人の髪を乱し巻き上げた。
「おおっ…と!」
蒼い髪の女性が両手を年不相応な仕草でぶんぶんと振り回し、バランスを取る。
「あっぶな!」
靴をバン、とならし踏みとどまる。そうしなければ、何もない空中に身を置くところだったのだ。ふう、と息を吐く蒼い髪の女性の眼下に広がるのは地上25メートルからの景色。
「…貴方だったら死なないんじゃないの?美樹さやか」
くすくすと笑いながら、ほむらがさやかを横目で見つめる。そう言って笑う彼女もまたさやかと同じ場所に立っていて。
「…あんたさあ、いくら回復魔法持ってたってさすがにこれは」
ないじゃん、と言いかけ、さやかは流し目でこちらを見ている黒髪の女性に見惚れる。10年間、敵対や小競り合いを続けてきた末、この様な「関係」になった黒髪の女性をさやかは秘かに「美しい」と思い続けていて。いや、もしかしたらそれよりずっと前、「周回」と称して何度も黒髪の女性が同じ時間を繰り返すより前、一番最初の出会いからそう思っていたかもしれないが。
「…何?」
面白そうに笑う黒髪の女性は恐ろしいほど美しく。黒の喪服の様なドレスに身を包んだその姿は儚げでまるでこの世のものでは無い様だ。そんな華奢な女性が廃墟のビルの屋上の縁に立つ姿にはもう見惚れるしかないのだろう。さやかはしばらくの間呆けた表情を浮かべて。
「……なんでもないわ」
ややぶっきらぼうに視線を逸らした。
「変なひと」
そして悪魔は目を細めて。続ける。
「ねえ、そろそろ「アレ」をどうにかしないと」
「まあ、そうね…」
ほむらが子供の様に下を指さす。その先には巨大なコウモリと見紛う羽根を有する複数の魔獣。さやかが顔をしかめた。
「あいつらって変化するのね…それとも進化かしら?」
「さあ…でも深く考える必要も無いわ…まだましでしょ?」
「え…ああ、そうね」
人間と融合するよりはだいぶ、とさやかが呟くと、それに呼応してほむらが蒼い髪の女性をしばし見つめた。
「それじゃ行くわよ」
「OK」
さやかが右手をかざすと手品の様に剣が現れる。それと同時にほむらの背中から黒い羽根が現れた。ふと、さやかがそれを見て呟く。
「ねえ、あんたってさ…」
「何」
「最近変身しなくなったわね」
「…その言葉、そっくりそのままお返しするわ、貴方こそ最近どころか、ここ数年変身しないわね」
「う…」
正にミイラ取りがミイラになった状態の美樹さやかに、ほむらは冷ややかな笑みを浮かべ。
「なあに、何か特別な理由でもあるの?」
「…無いわよ、ただ…」
「ただ?」
戦闘中だというのに、二人はこれまた独特な二人だけの世界を作り上げてしまい。
「……恥ずかしいのよあの格好」
ほむらがいきなり顔を背け、肩を震わせる。
「ちょっと!あんた今笑ったわね」
どうにも悪魔にも笑いのツボはあったようで、それでもほむらは肩をしばらくの間震わせて、収まる頃には複数の魔獣が二人に襲いかかってきていた。
「こ、こら、ちょっと、間に合わなくなるわよ!」
叫びながら剣を振りかざす相方の傍にいつの間にか悪魔が居て。
「…余裕よ」
そう囁くと片手で頭上を振り払う。ビル全体を覆うシールドが一瞬にして現われ、そこに触れた魔獣が断末魔の叫びをあげる暇もなく消滅した。
「……余裕過ぎでしょ!何よこれ!」
ぽかん、と呆けた表情を瞬時に戻し、さやかが叫ぶ。
「私ってこれじゃ何の要員…ちょっと、ちょっと!」
いつの間にか悪魔の片手はさやかの腰に。そうして当の悪魔はさやかに身をもたれさせて。ゆっくりと上目遣いでさやかを見つめ囁いた。
「お笑い要員」
「ちょ…!」
さも楽しげに笑う悪魔と抗議する元鞄持ち。二人の影は次第にひとつになり、そうして、しばらくすると、月の光りを背景にして夜空の向こうへと飛び立って行った――
END