時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集) 作:さんかく@
甘々です。
「へ、まどかの好きな人?」
『うん、さやかなら知ってるかなあって』
幼馴染の弟から電話がきて、いきなり姉の好きな人の名前を教えろというものだから、美樹さやかは驚いた。
「どうしたのさ?いきなり…前タツヤ君、まどかに恋人いないっていってたじゃん」
『うん、そうだけど…実はさあ…』
携帯の向こう側からまどかには恋人はいないが、実は今好きな人がいること、そして片想いだということをタツヤから聞かされ、さやかは驚く。
「へえ…そうなの?いや全く知らなかったわ」
『姉ちゃんも内緒っていうから、俺も誰だかわかんなくて、さやかなら知っているかなあって』
「いやあ、私も知らないわよ、だって、前タツヤ君にまどかに恋人いるか調査してってお願いしたくらいだもの」
『まあ、そうだよな、でもほら、お姉ちゃんの好きになりそうな人くらいわかりそうじゃん』
「そりゃあ…」
さやかは空を見上げ考える。まどかの好きになりそうな人…好きになりそうな人…
「無理だわ、思い浮かばない。まどかってさ、博愛主義で困った人見過ごせないじゃん?」
『あ、それある』
「だから、もし好きな人がいても、みんな公平に扱いそうな気がしてさあ、特定できないわ」
中学時代のクラスメイトを思い出しても、なかなか結びつかない。中沢君が確か一度まどかにモーションかけていたような…その時の世にも恐ろしい相方の表情を思い出して、さやかは口元を緩めた。と、背中をドン、と叩かれ後ろを振り返る。
――ナニシテルノ?
うわ、と声をあげ、さやかは背後にいる黒髪の女性にジェスチャーで「ごめん」と合図する。時はクリスマスイブ、さやかと黒髪の女性は買い物で街に繰り出していた。鮮やかなイルミネーションに彩られた街路樹と、店。
「あ、ごめんタツヤ君、私ほむらと買い物していてさあ、うん、また掛け直すわ」
「何?タツヤ君と何の話をしていたの?」
「ああ、まどかに好きな人がいるって、それが誰か教えて欲しいって」
「…そう」
「あれ、あんた驚かないね、いつもならこの世が終わった~みたいな表情するのに」
さやかが不思議そうに黒髪の美女を見下ろした。二人で街を歩くのは久しぶりで、さやかの方は浮足立っていた。黒髪の美女――暁美ほむらの方はいつものとおり無表情で。
「……これくらいで驚かないわ、まどかが誰を好きだろうとも、私の愛情は変わらないもの」
「うひゃあ…ブレないわねあんた…」
「褒めてくれてありがとう」
にっこり、とほむらは微笑んだ。大人の艶のある微笑みに、蒼い髪の女性はほんの少し頬を赤くして。もう10年一緒にいるというのに、黒髪の女性の美しさに慣れるということは無いらしい。それに気付いたほむらの方は不敵な笑みを浮かべ、軽く体を相方にぶつけた。
「貴方もある意味ブレないわね」
「…そりゃどうも」
黒髪の女性はクスクスと肩を揺らして笑った。
時折、この様な穏やかな時間が二人に訪れる時がある。そんな時、悪魔は思うのだ、
ああ幸せだなと。もちろん蒼い髪の相方には言わないが。
「でもまあ、まどかが誰が好きでも、私はびっくりするなぁ」
「……」
「え、なんか言った?」
「いいえ、なんにも」
――鈍感
実はほむらはそう囁いていて。不機嫌そうに目を瞑って、再び開ける、アメジストの瞳がお間抜けにこちらを見ている蒼い髪の女性を捉える。
「……行きましょう?早くしないと部屋でのんびりできないわ」
「そうだね」
歩を早めた二人の周りに一層艶やかなイルミネーションが現れる。
「うわあ、綺麗」
蒼い髪の女性が感嘆の声をあげた。思わず自然に隣にいる黒髪の女性の手を握った。眉を顰め、その行為を咎めるように「ちょっと…」とほむらは囁いた。珍しく、周囲の人だかりを気にしていた。彼女にしては珍しいことだ。それに対し蒼い髪の女性は、にっこりと大人らしからぬほど無邪気に満面の笑みを浮かべ、「いいじゃん」と囁くと、更にその手を引いて、己のコートのポケットに入れた。
「このまま光りの先まで歩こうよ?」
「…………いいけど」
黒髪の女性の返答にやった、と嬉しそうに呟くと、蒼い髪の女性は嬉々としてイルミネーションで彩られた街路樹を歩きだす。そこにやや引き摺られるようにして歩く美貌の悪魔。白い路にコツコツ、と二人のブーツの音がして。光りと、クリスマスソングの優しい音色に二人の心は次第に華やいでいき、美貌の悪魔はほんの少し、ほんの少しだけはしゃいで蒼い髪の女性に体をもたれさせた。
「おお、飼い主が甘えてきましたよ」
「フ…何それ」
クスクスと笑って、ほむらは気持ちよさそうに目を瞑る。さやかは嬉しそうにほんの少しだけステップをトントンと軽やかに踏んだ。まるで喜んでいる忠犬の様だ。
「ほんと、貴方って…」
「わんわん」
ほむらがきょとん、と驚いた様に「忠犬」を見上げる。そこには美しい蒼い髪の女性がいて、優しい蒼い瞳でほむらを見つめていて。しばらく不思議そうにほむらが見あげていると、ふい、と蒼い髪の女性が顔を背けた。ほむらほどではないが白い肌が紅潮していた。そして何やら細々と囁いて。
「……ねえ、なんかリアクションしてよ」
「え?」
「……恥ずかしくて死にそう」
咳き込むようにして、とうとう黒髪の美女が笑いだした。珍しいことは続くものだ。
「ほむら…?」
「歩きましょう、さやか」
ほむらは、「相方」の手をコートの中で強く握り返すと歩を早めた。今度は逆に引き摺られるさやか。
それから、まるで子供の様に二人ははしゃいで、寄り添いあった。
「ねえさやか」
「何?」
「貴方は好きな人…いる?」
「……」
さやかはただ黙って右手を出すと、ほむらの前で何かを催促している様に拳を振る。ほむらはしばらく考え込んだが、ようやく合点がいったのか、左手を開いてさやかの拳の前に差し出した。ちょこん、とそこにさやかが手をおいた。「お手」だ。
「………わかるでしょ」
そうしてすぐに顔を逸らす、蒼い髪の女性は10年経っても顔が赤くなるらしく。
「そう…」
黒髪の女性は困った様に眉を顰め、そうして意を決した様にさやかの身体に再びもたれた。
艶のある唇が動いた。
「リアクションは光りを抜けてから…でいい?」
黒髪の女性の言葉に、蒼い髪の女性はさも嬉しそうに目を細めた。
END