時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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こちらは大人悪魔ほむら×大人さやかの番外編で、主役はいろはになります。そしてやちいろ風味。ですが最終的にはほむさやになりますのでこちらで…。捏造設定あり。


見知らぬ夜(前編)(番外編)

目が覚めると、全く知らない白い天井が目の前に広がったので、環いろはは慌てて起き上がった。

 

「あいた・・・」

 

眉毛を下げて、顔を歪ませながら、後頭部を抑える。

 

――痛い。

 

いろはは心で呟く。

と、いろはの手にいつもの頭の感触ではない、何かざらついたものがある。

 

「え・・・何?」

 

慌てて両手で頭をまさぐると、どうやら布のようで、しばらくしてそれが包帯であることをいろはは理解し、息を吐いて手を下す。そのいつも穏やかなとび色の瞳は不安で揺れていて。

 

――また、ウワサとの戦いで怪我しちゃったのかな?

 

初めてではないのだ、攻撃をした後、仲間を見渡そうと注意散漫になった時や、黒髪の美しい年上の魔法少女を背伸びして援護しようとした時など、さまざまなシチュエーションで、この桃色の髪の少女は怪我を負う。その度に胸が潰れそうになるほど申し訳ない気持ちになるのだが、チームみかづき荘達はそれを許さないし許してくれない。いろはの気持ちが楽になるまで、傍にいて激励してくれる。

 

ふ、といろはの口元が微かに緩んだ。おそらく仲間の事が脳裏に浮かんだのだろう。我に返ったように、再び辺りを見渡す。

 

目覚めた時の印象と変わっていなかった、見知らぬ白い無機質な天井と同じく、冷えた、温かみのかけらも感じられない白い壁。カーテンで閉ざされた窓。薄暗い空間。おそるおそるいろはの視線が下にうつる。己の腕が握っている白いシーツに、白いパイプベッド。

 

「病院・・・・?」

 

カーテンを目を凝らして見るが、光は漏れていない。夜なのだろうか。いろははそっとベッドから降りた。床について冷たい感触で自分が裸足だということを知る。顔をしかめながら、窓の方へ歩み寄る。無地のカーテンをつかむと、彼女らしからぬ乱暴な仕草でカーテンを開いた。シャッと鋭い音と共に、いろはの眼前に美しい夜空が広がった。満天の星。

 

普段ならその美しさにいろは素直に感嘆の声をあげただろうが、こんな状況ではむしろ美しいものは不安や悲しみをあおる。どん底の悲しみの中に見る朝日、家族を失って間もない時に見る幸せそうな家族の風景、いろはにとって、今眼前に映る夜空は不安や悲しみをあおるもの以外のなにものでもなかった。震える口元から声が漏れる。

 

「やちよさん・・・」

 

両親の名前でなく、でできた名前は美しい年上の魔法少女で。そうしてしばらくしてから、いろははきょろきょろと周囲を見渡す。ひたひたと今度はドアの傍にある洗面台に近づく。薄暗い中鏡に顔を近づける。薄ぼんやりと己の顔のシルエットが浮かぶ。だが明確に映り出したいのだろう、不安げに手を伸ばして、鏡の周囲をまさぐりスイッチを探しあてる。

 

カチリ、という音と共に明かりがついて、いろはの顔がくっきりと映し出された。

 

見慣れている己の顔が現れ、いろはがほお、と安堵のため息をついた。桃色の髪に鳶色の目、そして癖なのか、困ったように下げられた眉。そして何故か見知らぬ白い無地のパジャマ。違うのは、頭に巻かれている包帯だけ。鏡を見つめながらいろはが頭に触れる。――痛い。

 

「・・・何が・・・あったんだろ?」

 

状況を把握しようにも、もうこれ以上の情報はこの部屋から得られそうになかった。しばらく逡巡してから、桃色の髪の少女は思いついたように、ドアへと向かう。

 

――ギイ

 

重々しい音を立ててドアが開いた。眼前に広がるのは純然たる闇。何も見えず、いろははただ戸惑うようにドアに前に佇む。だが少女は怯えているわけではなく待っていたのだ、目が慣れて眼前の風景が明らかになることを。まだあどけない顔をこわばらせ、闇を睨み続ける。それから数分ほどして目が慣れてきたのだろう、いろははドアから外へ出た。

 

ちょうど真っ黒な深海に光が差すとそこだけ青白く輝くように、ドアの外も青白く光っていた。正確には薄暗い廊下に等間隔で備え付けてあるドアの傍にあるライトが光っているのである。

 

廊下には誰もいない。おそらく隣のドアを開ければ他にも患者は居るだろうが、そこまで確認するつもりはなかった。後ろ手でドアを閉め、そのまま裸足でいろはは廊下を歩きだした。

 

ピタ――ピターー

 

静かな足音を立てながら、いろはは進む。だが特に何か怪しい気配があるわけでなく、エレベーターの前に着いた。

 

「・・・・・・・」

 

――これからどうしよう?

 

何が起きたのか全く状況がわからない今、外に出るのは得策じゃない。それよりも朝を待とう、といろはは決心し、一人頷く。そうして踵を返し、元の病室へ戻っていった。

 

***************************

 

先ほどと変わらない無機質な病室に入り、いろははベッドの傍で立ち尽くす。ふう、とため息が出た。闇に慣れた目で室内を見ても、私物が一切見当たらないのだ。したがって携帯もない。と、いろはの右手が動き、己の頬をつまんだ。

 

「あいたっ」

 

夢じゃない――私は現実にここにいる。

その事実がいろはを更に困惑させる。

 

――とりあえず眠ろう

そう、朝になるまで待とう、と、いろははベッドに潜り込んだ。白いシーツに包まると、目を瞑る。思ったよりもシーツの中は温かく、疲れていたのか、すぐに眠気がやってきた。

 

 

「おやすみなさい」

 

誰に言ったのか、小さく呟くとそのままいろはは眠りについた。

 

********

 

鳥のさえずりが聞こえて、いろはは目が覚めた。ゆっくりと身体を起こす。寝ぼけた目で周囲を見渡すと、昨夜と同じ病室の中で。だが、白い壁や窓は陽の光の所為か、昨夜とは打って変わって暖かな雰囲気を醸し出していた。

 

「・・・雰囲気が全く違う」

 

いろはは驚いた表情のまま、ベッドから降り窓へと駆け寄る。白いカーテンを開けると、そこに広がっていたのは緑の木々と澄み切った青空で。視線を下に移すと、公園の様な丘にくつろぐ患者や寄り添う看護師の姿が見えた。

 

「おはよう、環さん」

 

いきなり声が聞こえたので、いろはは慌てて振り向いた。そこにはバインダーを持った白い制服の女性の看護師が立っていた。微笑みながらいろはの方に歩みよってくる。背はいろはより少し高いが、腰を屈めて視線を同じ高さにして囁いた。

 

「動いてもう大丈夫なの?」

 

とても優しい声、深緑色の長い髪に大人なのにどこか可愛らしい顔つき。いろははどこか懐かしさを感じながらこくりと頷いた。

 

「はい大丈夫です・・あの・・・ここ・・・どこですか?」

「ああ、覚えてないのね、ここは〇〇市立病院よ、あなたは昨日、怪我をしてこの病院に入院したの」

「え・・・・」

 

〇〇市はいろはの出身地だ、だが昨日は確か神浜でやちよさん達と・・・・

 

「あ、痛い・・・」

 

急に頭に痛みが走る。

 

「大丈夫?」

 

看護師がいろはの肩に手を置き、引き寄せる。いい香りと看護師の豊満な胸元で、さすがに同性のいろはでも変な照れが入り、顔が赤くなる。だが次の瞬間、その顔から色が引く。

 

その視線は看護師の胸元にあるストラップの名札に向けられて。

 

〇〇病院 外科 看護師 二葉さな

 

「さなちゃん?!」

 

気が付けばいろはは叫んでいた。その声の音量に驚いたのか、看護師も一瞬体を強張らせるが、すぐに屈託もなく微笑んで。

 

「なあに?環さん、私の事知っているの?どこかで・・・会った事あるのかな?」

 

不思議そうに小首をかしげながら、看護師はいろはを覗き込む。深緑の穏やかな瞳。――会ったなんてどころじゃない、私とさなちゃんは…だが心でそう叫んでもうまく言葉にならない。目の前の可愛らしい大人の女性に見惚れたまま、いろはは動くことができない。いろはの知っていたさなという少女はもともと可愛らしかったが、大人になるとこういう風になるんだ、ととても冷静な部分のいろはが考えている。と、看護師のPHSの着信音が鳴った。

 

「あ、ちょっとごめんね」

 

そう言って、二葉さなという名の看護師はいろはから離れた。なにやら緊急呼び出しらしい。

 

「環さん、また後でこの病室もまわってくるから・・・それと、家の方にも連絡してあるから、もう少しでご両親と妹さんがここに来るわ」

「妹・・・ういも?」

 

一体何がどうなっているのか、もういろはの理解の範疇を超えていた。思考することを放棄したのか、いろははただその場で立ちすくんでいた。

 

********************

 

それからしばらくして、いろはの両親が病室を訪れた。そうして妹のういも。両親は、交互にいろはを抱きしめ、頭を撫でた。そうして妹が姉に近づくと、逆に姉の方が強く妹を抱きしめた。

 

「お、お姉ちゃん?」

「うい・・・・よかった」

 

うっ、うっ、といろはが嗚咽した、それも当然だろう、魔法少女になってまで探し出そうとした妹が唐突に現れたのだ。細い腕で思いっきり強くういを抱きしめる。

 

「もう・・・苦しいよ」

 

いろはと似た――いろはよりもあどけない顔のういが困ったように笑う。姉よりも妹の方が大人びている様で。ようやく姉の腕から解放されたういが姉の顔を覗き込む。

 

「お姉ちゃん?」

「ううん・・嬉しくて」

 

と、何か思い出したようにいろははういに尋ねる。

 

「でもうい、今まで一体どこに行ってたの?お姉ちゃん探したんだよ?」

「?私どこにも行ってないよ」

「え、だってうい退院してから急にいなくなって」

「退院?私ずっと家にいるよ、病院なんて行ったことない」

「嘘・・・」

 

いろはの顔が驚きのそれに変わる。やはりここは、いや、この世界は何かが違う。

 

――夢じゃないとしたら、これは幻覚?

 

そうだ、何かきっと秘密がある。ここに来るまでの記憶も無いし、何より先ほどの大人になったさな・・・

「いろはは何も覚えていないのか?」

 

低い声で男性がいろはに尋ねた、不思議そうに見上げるいろは。

 

――父の顔はこんな風だったっけ?

 

どうにも記憶が曖昧だ。不思議そうにこちらを見ている娘を見て、男は困ったようにうなじに手をあてる。

 

「・・・お前は昨日の夕方、学校の帰り道で倒れてたんだよ」

「え?」

 

父親はそれから娘に簡単な経緯を説明する。昨日なかなか家に帰ってこないいろはを心配して、ういが探しに外へ出たところ、倒れているいろはを発見したらしい。その時いろははうつ伏せに倒れ、頭から血を流していた。

 

「誰かに頭を殴られたのか、何があったのかは俺にもわからない」

「そう・・・」

「もうすぐ警察の人が話を聞きに来るから、その時は父さんも一緒にいるよ」

「うん」

 

全ての話がまるで嘘のようで。だが不思議と今の状況が現実だと思えてきて、いろはは混乱した。と、ドアが開き、黒いパンツスーツ姿の細身で背が高い女性が現れた。

 

「すみません、環さんのお父さん?」

 

いろはの父親の方へ顔を向けて、女性が涼やかな声で話しかけた。

 

「そうです」

 

返事を聞くと、軽く会釈して軽やかな身のこなしで室内に入ってくる。ふと、いろは何故かまるで風のようだと思った。肩まで伸びた蒼い髪にどこか中性的な顔立ち、そして垂れ気味な目・・・・

 

「あ・・・」

 

思わず声をあげて、いろはは慌てて口を抑える。この人も見た事がある――

 

女性は内ポケットからバッジを出した。

 

「〇〇県警捜査一課の美樹です、お嬢さんにお話しがあるのですが」

 

その女性の面影は、確かにいろはの知っている魔法少女美樹さやかであった。

 

 

つづく

 

 

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