時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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まどか生誕祭2020にUPした作品


光差して(番外編)

どうも最近記憶が途切れることが多くなってきた――

 

鹿目まどかはひとり鏡台の前で表情を曇らせる。背中まで伸びた淡い桜色の髪、20歳を越えてからだいぶ顔つきもほっそりしてきたと思う。

 

「はあ…」

 

溜息をつく。鏡に映るのは困り顔の自分。

 

――大丈夫、まどかは記憶障害なんかじゃない、私が保障する

 

蒼い髪の女性が微笑みかける。ずっと前から大好きな幼馴染の女性。

 

――まどか……

 

長い黒髪のとても美しい女性が悲しそうな表情でこちらを見つめてくる。いつも見守ってくれる不思議な女性。

 

大切な友人二人を脳裏に思い浮かべ、まどかは自分に発破をかける。

 

――そうだ、落ち込んでなんかいられない、私がしっかりしなきゃ

 

ぷるぷると頭を振って、両頬を掌で軽く叩く。そうして、「よし」と胸の前で手を握ると柔らかい笑顔を浮かべてリビングへと向かった。

 

「おはよう姉ちゃん」

「おはようタツヤ、あれ、お父さんとお母さんは?」

「ああ、父さんは庭でトマト取ってる、母さんは…んーわかんないまだ寝てるかも」

「そっか」

 

ふんわりと笑って、まどかは台所に立っている弟の傍に行く。弟はだいぶ背が高くなっていた。中2だというのに、もうまどかと同じくらいだ。

 

「手伝おっか?」

「ううん、いいよトーストと卵焼くだけだし、姉ちゃんもそれでいい?」

「うん、ありがと」

 

父親が小さいころから二人に料理を教えていたからか、鹿目家はここ最近姉弟が朝食を作っていて。タツヤもごく自然に朝は台所に立つ。いい香りが漂ってきて、まどかは嬉しそうに目を細めた。それを横目で見つめるタツヤ。

 

「なあ、姉ちゃん」

「ん?なあに?」

「……今日はもちろん早く帰ってくるよな?」

「うん、仕事が終わったら…どうしたの?」

「だってほら、今日お祝いするだろう?姉ちゃんの」

「ああ」

 

そっか、とまどかは思い出す。今日は10月3日まどかの誕生日だ。

 

「ああって、忘れてたのかよ姉ちゃん」

「うん、なんだかすっかり…えへへ」

 

まどかは無邪気に笑う、子供の様な可愛らしさで。それはどうやら弟にも有効だったらしく。

 

「…?タツヤ、どうしたの?」

「ああ、な、なんでもない!とにかく、今日は早く帰って来いよな、姉ちゃんの誕生日祝いするんだから」

「うん、ありがと」

「……おめでとう姉ちゃん」

 

とても小さい声で弟がそう囁いたので、まどかはとても嬉しそうに微笑むと、照れ隠しに弟にもたれるように軽く体当たりした。

 

*       *      *

 

今からちょうど10年前、中学2年生の時まどかはアメリカから日本に帰って来た。馴染めるか不安だった学校生活もすぐに馴れ、友人にも恵まれた。その後高校は地元の普通高校を出て、そして短大に入学し、幼稚園の先生になった。子供が好きで傍で成長を見守りたいと思ったのが理由だが天職だとまどかは思っている。

 

――幸せだなあ

 

まどかはいつもそう思う。朝起きてカーテンを開いて朝日が部屋に差し込んだ時、リビングで家族とたわいな会話をしている時、そしてこんな風に職場に向かう途中青い空や緑の木々を見ながら風を感じた時――まどかは大きく深呼吸した。

 

携帯の着信音が鳴った。

 

「?誰だろう…」

 

一通のメールが届いていて、差出人は佐倉杏子とあった。

 

「あ、杏子ちゃん」

 

まどかが口元を緩める。杏子は中学の頃からの友人だ。面倒見がとてもよく、まどかはよく杏子に悩みを打ち明けたりしていた。一時期、大切な友人二人との関係に距離が生まれたからだ。だが、大学に進学した頃にそれは誤解だと知り悩みは解消された。

 

「フフフ…」

 

まどかは嬉しそうに笑う。携帯のメール画面には『まどか 誕生日おめでとうな』とだけあって、その素朴だが心のこもったお祝いの言葉に嬉しくなる。『ありがとう 杏子ちゃん』と返してから、まどかは足早に職場である幼稚園へ向かった。

 

*      *      *

 

幼稚園では園児や先生からお祝いの言葉や手作りのプレゼントをもらい、まどかは嬉しい悲鳴をあげた。日中ずっと園児たちに「おめでとう」と言われ続け、照れながらも遊んでいるうちに時間はまたたく間に過ぎていった。

 

「まどか先生、今日は早く帰らないと」

「え?でも高柳先生の仕事手伝います」

「いいって、いいって」

 

高柳と呼ばれた30代くらいの女性が快活に手を振って笑った。

 

「家でも誕生日のお祝いするんでしょう?楽しまないと」

「ありがとうございます」

「それにしても、今日はこないのねあの二人」

「え?」

 

まどかが驚いた表情を浮かべる。

 

「ほら、時々まどか先生を訪ねてくるお友達、確か美樹さんと暁美さんっていったかしら、まどか先生と同じで姓名どっちも名前の様な」

「ああ、そうですさやかちゃんとほむらちゃん、ふふ、そういえばそんな話しましたね」

 

――姓名逆にしても違和感がない

 

そういう話をして盛り上がったことを思い出した。この高柳という女性は何回か二人と顔を合わせているし、会話も交わしたこともあった。

 

「まどか先生とあの二人ってとっても仲良しよね、羨ましいわ」

「いえ、そんなこと…」

「あら、本当よ、私くらいの年になると損得勘定ばかりで真の友人なんてなかなか…」

 

とても気さくな人柄なのだろう腕を組んで、うんうん、と己の言葉に頷いている。まどかは苦笑した。

 

まどかの二人の友人――美樹さやか、暁美ほむらはとても大切な存在で、そして不思議な存在でもあった。幼馴染である美樹さやかとは中学で再会し、会った途端に昔の思い出が一気に蘇って驚いたことを覚えている。なんで今まで忘れていたのか不思議なくらい急速に仲は深まった。そしてもう一人の友人暁美ほむらは、これまたまどかにとっては不可解な人物だった。とても大切に思ってくれていることはその視線や言動から伝わったが、そこまで想われる理由が全くわからなかった。尋ねようと思ったことはあったが、何故か聞くことが出来ず今に至る。

 

二人に会いたいなあ――

 

 

なんだか、今無性に二人に会って話したいと思った。

 

「あ、噂をすればなんとやらよ、まどか先生」

 

高柳がまどかに微笑みかけた。驚いて、後ろを振り向くと、玄関先に二人の女性が立っていて。黒づくめのとても美しい長い黒髪の女性と、パンツスーツの蒼い髪の女性がそれぞれの笑顔を浮かべていて。蒼い髪の女性が後ろ手から何か落とす。可愛らしいラッピングされた袋がまどかの目に一瞬映る。慌ててそれを黒い髪の女性が拾い、ついでに反対の手で蒼い髪の女性の頭をパチンと叩いた。まるで漫才の様な二人の動きにまどかと高柳は吹きだした。

 

「さやかちゃん、ほむらちゃん!」

 

駆け寄るまどか。二人――美樹さやかと暁美ほむらは嬉しそうにまどかを見つめる。

 

――ああ、幸せだなあ

 

そう、この二人がこんな風に一緒にいて、こっちを見て微笑んでくれている。なんだかずっと昔から夢見た風景の様で。

 

「えへへ、ねえさやかちゃん、ほむらちゃん…ハグしていい?」

 

あまりにも嬉しくて、まどかはもう自分の気持ちを抑えることができなかった、二人に今無性に触れたい。

 

「ええ、もちろんよ、ほらまどか…って痛っなにすんの?」

 

手を広げるさやかをほむらが肘で強くこづいた。

 

「貴方はダメよ」

「なんでよ?まどかが二人って言ってるでしょ」

「ダメなものはダメ」

「だからなん…わっ」

 

まどかは二人の間に飛び込んだ。それを抱きとめる二人。

 

「えへへ…」

 

まるであの頃の様に笑うまどか。さやかとほむらも微笑んで、そうして三人で強く抱きしめ合う。

 

『誕生日おめでとうまどか』

 

二人が囁いた。

 

どんなことがあっても二人がいてくれるなら大丈夫――

二人に身体に頬を寄せ、そうして幸せそうにまどかは微笑んだ。

 

 

 

その後、三人は一緒に帰路につき、幼稚園でまどかがもらった大量のプレゼントをさやかが文字通りかばん持ちになって運んだのはまた別の話。

 

 

END

 

 

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