時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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一足早いクリスマス話


琥珀色のツリー

「――最悪だわ」

 

すぐ傍で黒髪の女性がそう呟いたので、さやかは怪訝そうにその横顔を見つめた。黒髪の女性――暁美ほむらはグラスを額にあて目を瞑っている。頬が少し紅潮していた。ああ、彼女は酒に弱かった、とさやかは思い出す。それにしても、相変わらずの美貌にいつものことながらさやかはしばし見惚れてしまった。初めて出会った頃がもうだいぶ遠い昔の様に思えるが、あの頃から『美少女』だったのに、今では怖いくらいの『美女』になっているのだから世は不公平だとさやかは思う。と、いろいろ考えているうちに、黒髪の女性がこちらに視線を向けてじろり、と睨んできた。

 

「…何見ているの」

 

陰鬱な眼差しがさやかに向けられる。慌ててさやかは右手をひらひらと振った。

 

「ああ、なんでもないわよ」

 

そう言って、さやかはグラスを取って琥珀色の液体を口の中に注ぎ込んだ。正直さやかは困っていた、彼女の美貌と妖艶さはどうにもさやかを「妙な」気分にさせるからだ。ほむらはニイ、と口元を歪めて囁いた。

 

「見惚れてた?」

 

さやかがむせる。くすくすとほむらは身体を揺らしながら笑う。

 

「いきなり変なこと言わないでよ」

 

バーテンがカウンター越しで差し出してくれたペーパーナプキンを受け取りながら、さやかはほむらを睨んだ。まだほむらはくすくすと笑っている。少しだけ機嫌が良くなったらしい。それを見て、さやかも少しだけ嬉しくなる。酒に弱いわけではないがさやかも実はもうほろ酔い状態で。要するに妙齢の女性は二人共酔っていた。

 

「不思議ねえ…」

 

さやかは呟く。こんな風に――大人になって――二人で当たり前の様に酒を飲んでいるなんてあの頃は全く想像できなかった。あの頃の私が今のこの状況を知ったらどんな顔をするだろう?カウンターで並んで座って酒を飲んでいる大人になった私達を?グラスを眼前に持ってくると視界が琥珀色になり、カウンターの隅に置かれていた小さなクリスマスツリーもその色に染まってしまっていた。ああ、そういえば今日はクリスマスイブだ。

 

「ねえ、あんたさっきどうして最悪って…」

 

さやかはほむらへと視線を移し、そうして口元を緩めた。黒髪の女性は器用にカウンターに前のめりになって眠っていた。寝顔が長い黒髪に隠れて見えないのをさやかは秘かに残念に思って。

 

「…まったく」

 

この可愛らしい(と最近思い始めた)悪魔はめっぽう酒に弱いくせに酒が好きなのだ。穏やかに微笑むバーテンと目があって、さやかは苦笑いすると手を伸ばし、ほむらの肩に触れた。

 

「ほむら、そろそろ帰ろ」

 

ゆっくりとその体をゆするがどうにも起きてくれそうでもない。また彼女を背中に担いで帰るはめになるのかと思ったが、それは苦痛ではなくむしろさやかにとっては嬉しいことだった。それがどうしてかはさやか自身深く考えない様にしているが。

 

「ん…」

 

ほむらが身じろぎするのを見てさやかはまた微笑んだ。今帰路に着けば、街路樹のイルミネーションを二人で眺めることができる。そう思いながら。

 

 

END

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