時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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さやかの魔が差した話…


ほむら肩を揉む

はあ、とさやかは大きなため息をついた。いつもどこか間の抜けたお笑い要員なのに珍しいことだとほむらは眉を顰める。

 

「どうしたの?貴方がため息をつくなんて、何か変なものでも拾い食いした?」

「いや、道に落ちてるものなんて食べないわ…ってひどいわねえ」

 

さやかの間が可笑しかったのだろう、ふ、とほむらが笑った。そうして腕を組みながらさやかに近づく。仏頂面だったさやかの顔が微かに赤くなるのを見てほむらはまた笑う。どうにもこの蒼い髪の同居人はわかりやすい、まあそこが悪魔の気に入っている(操縦しやすい)所なのだが。

 

「なんか最近デスクワークばっかりでさあ、肩凝っちゃって」

「そんなこと?」

 

そういえば、ついいましたが目を覚ましたばかりのほむらがベッドで横になりながらさやかを盗み見した時も肩を揉んでいたような気がする。窓辺に突っ立って珍しく何か考え事でもしているのかと思ったらそんなことか、とほむらはくだらなくて失笑した。もちろんそこには安堵の感情も含まれているが。窓の外に広がるビルの街並みと反射して映るワンピース姿と少し背の高いワイシャツ姿の自分達を一瞥し、ほむらは横からさやかを覗き込むように見上げた。

 

「私が揉んであげましょうか?」

「え、いいの?」

 

珍しい、といわんばかりに目を丸く開いたさやかだがすぐに嬉しそうな笑顔になる。肩こりには勝てないらしい。ほむらの方へ背中を向けて左手でここ、ここ、と指さした。さやかの手にほむらの白い指が触れて、そうして肩に移る。細い指がさやかの肩に絡み、ぐ、と力が入った瞬間。

 

「あたたたたた!」

 

希少種の鳥の様な声をあげてさやかが片膝をついた。タンタン、と左手でフローリングの床をタップした。警察学校の逮捕術で関節を極められる度に使ったので身体が自然に憶えている。が、それが参ったの合図だと悪魔が知るよしもなく、その華奢な身体のどこから、と驚くくらいの力で容赦なくさやかの肩を揉んでくる。たぶん普通の人間なら余裕で内出血を起こしているだろう。

 

「痛い痛い痛い!ちょっと待ってストップ、ほむら!」

 

さやかが叫び、ようやくほむらは手を離した。涙目でさやかが振り返ると不思議そうに小首をかしげている。

 

「あら、痛かった?」

「普通に痛いわよ!ってか、あんた力全然抑えてなかったでしょう、むしろ全力‥‥」

「だって凝っているっていうから精一杯揉んであげなくちゃって思うでしょ?」

 

言っていることは間違いではないような…と思いかけてさやかはブルブルと首を振る。大学入学式の時、ゼミの勧誘で何故か体力測定を行っており、そこでほむらが押しの強い大学生に握力計を握らされたことを思い出した。ほむらの美貌目当てで必死に勧誘していた大学生達はニヤニヤしてそれを見ていたが、ほむらが涼しい顔で針を振り切り測定不能になったのを見た瞬間顎が外れそうな顔になったのを思い出す。

 

――あの時は笑えたが、今は笑えないわ!

 

さやかは心で叫び、そうしてもしかしたらこいつは肩もみを知らないのではないだろうか?と考えた。ずっと入院生活が長かったのと、魔法少女になった時も「まどか」一辺倒であったため、信じられないくらい世俗に疎い。にらめっこも大学時代にさやかが教えた記憶がある。

 

「あんた…もしかして肩もみって知らないの?」

「肩を揉む、でしょう?それくらい知っているわ」

「やったことは?」

 

ふるふると子供の様にほむらが首を振った。

 

「…ああ、なるほどね、ちょっとやり方にはコツがあるのよ」

 

そう言ってさやかは立ち上がる。そうして自分の肩に触れながら説明する。

 

「凝っているところをね、こう優しく…」

「優しく?」

「…表現よ、柔らかくっていうのかしら、力の加減を…ああ、もう説明しづらいわ、ねえあんた後ろ向いてよ、あんたの肩揉んであげる、その方がわかりやすいでしょ?」

 

さやかはほむらを見下ろしながら囁く。ほむらはその美しい眉をひそめて。

 

「また変なことする気?」

「なんでよ!肩もみよ?」

 

切れ長の目でじい、とさやかを睨みながらほむらは背中を向けた。艶のある長い黒髪がさやかの目に映った。手を伸ばし髪を寄せると華奢な肩に触れる。

 

――全然凝ってないわね

 

悪魔は肩こりしないのだろうか?とどうでもいいことを考えながら手に力を入れる。

 

「んっ…」

 

ほむらが前のめりになってくぐもった声をあげた。

 

「あ、ごめん痛い?」

「痛くないけど…変な感じね」

 

ほむらが囁く。揉む度にほむらが反応してくぐもった声をあげるので、さやかもまた別の意味で変な感じになる。

 

「ど、どう?普通は凝っているところをこんな感じで揉むんだけど、あんた全然凝ってないから肩もみする意味ないかも」

「そう…でも結構気持ちいいわ」

「そ、そう?」

 

うなだれたまま、ほむらがこくりと頷く。こちらに後頭部を向けているので顔は見えないがたぶん気持ちよさそうにしているのだろう。だがさやかの顔は何故か次第に赤くなってきて。

 

――まずいわ

 

心の中でさやかは叫ぶ。されるがままのほむらを見ていると、どうしても「昨夜」のことを思い出してしまい頭の中で彼女の……

 

「さやか」

 

くぐもった声でほむらが囁く。その声にはどこか圧があって。

 

「は、はい、なんでしょう…」

 

思わずさやかはかしこまって、ほむらの後頭部を凝視する。表情が見えない分とても怖い。

 

「私念視ができるのよ、知ってた?」

「え、それって…まさか」

 

さやかの声がカラカラになる。

 

「そう、触れることで相手の心の映像を見ることができるのよ…」

 

そう言って、ゆっくりとほむらはこちらを振り向いた。はっとするような美しい顔を紅潮させながらこちらを見つめるほむらは扇情的で。

 

「どうして貴方の心の中の私は服をちゃんと着ていないのかしらね?」

 

ひい、と変な声がさやかの口から出る。ほむらの顔が徐々に笑顔になってきたからだ。かえってものすごく怖い、とさやかは思わず手を離してすごい勢いで後ずさる。

 

「いや、それは…違うの、違ってないけど違うのよ!」

「そう、どっちなのかしら?」

 

にっこりと微笑みながらほむらはさやかの手を掴み、万力の様にしめつけた。

 

「あいたたた!痛い!ごめんなさい!」

「貴方のおかげで肩もみがよくわかったわ…」

 

涙目で見上げると、ほむらはこちらを見つめて鮫の様な笑みを浮かべていて。

 

「私が貴方の肩を思いっきり揉んであげるわ、さやか」

 

その日、「変な叫び声がする」という通報が二人が住んでいるマンション周辺を管轄している警察署に殺到したという。

 

 

悪魔のかばん持ちに対するお仕置き項目に「肩もみ」が加わったのはまた別の話――。

 

 

END

 

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