時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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魔女談義

「ねえ、魔女って本当にいなくなったの?」

 

いきなり、ベッドの中で美樹さやかがそう尋ねてきたので、ほむらは怪訝そうな表情を浮かべ、振り向いた。世界を改変してからもう10年経った。あれから魔女も円環の理もたまに話題にでれば「あれ」や「あっち」で済ませていたというのに、この相方は何を今更改まって「魔女」と言うのか、と。

 

「いきなりどうしたの?」

 

頬にかかってきた髪を指で払いながら、背後にいるさやかと対面するためにほむらは身体を向けた。キャミソール一枚を纏うその肌は月の光に照らされて青白く輝いている。さやかのたれ気味の目がまん丸に見開かれるのを見てほむらは目を細めた。もう何年もこうして一緒に暮らし、ベッドも共にしているというのに、元かばん持ちは悪魔の扇情的な姿を見慣れることはできないらしい。

 

「…いや、昨日…ちょっとさ…」

 

さやかの言葉が途切れ途切れなのがおかしくて、ほむらは口元を緩めくすりと笑った。

 

「え?な、何よ、あんたいきなり」

「あら、そっちこそ顔が赤いわよ、かばん持ちさん」

 

月明りの下だ、それは嘘だというのにさやかは「え」と変な声をあげて黙り込んでしまう。それが引き金になって、とうとうほむらは肩を震わせて笑い始めた。この10年でだいぶ彼女達の関係は変わったようで。

 

「も、もう…あんまり笑わないでよ」

「だって貴方が未だに私に発情しているのが可笑しくて」

「なんで?そこ可笑しい?てか発情って…」

 

だがさやかの胸元にぽすん、とほむらが頭を預けてきたので、もう何も言えなくなって。むう、とうめき声のようなものをひとつあげて、腕を伸ばしほむらの白く細い腕に触れた。さやかもタンクトップ姿なので、互いの肌が触れあって心地よい。ついつい会話もほどほどに目を瞑りたくなってしまう。ほむらにいたってはさやかの胸に顔を寄せて気持ちよさそうに目を瞑っている。

 

「それで…昨日どうしたの?」

 

目を瞑ったままほむらが囁いた。子守歌替わりにさやかの話を聞こうと思っているらしい。さやかは、ふう、と息を吐いてから語り始めた。

 

「昨日、聞き込みで美術館に行ったのよ」

 

さやかの職業は警察官である。事情聴取で美術館の職員を訪ねたらしい。ほむらは聞いているのかいないのか、温かい居場所を見つけた猫のように気持ちよさそうに目を瞑っている。

 

「そこでたまたま目に入った絵があって、その絵が魔女の結界にそっくりだったのよ」

「どういう絵かしら」

 

ほむらがゆっくりと目を開いた。そうして手を伸ばすとさやかの額に触れる。

 

「浮かべてみて」

「うん」

 

さやかは目を瞑り昨日の絵を思い浮かべる。ほむらがなるほどね、と呟いて手を引っ込めた。

 

「マチスの様な力強いタッチね、そして魔女結界を知っている者にしか描けない色彩」

「でしょう?私もだいぶ驚いたわ」

「作者の名前は?」

「えっとね、外人だったかな…グレイ…アリナ・グレイだわ確か」

「アリナ・グレイ…」

「あんた知ってる?」

 

ほむらは再び目を瞑り、さやかの胸に顔をうずめた。

 

「新進気鋭の画家、エキセントリックな言動で有名よ、そして彼女は魔法少女だった」

「そうなの?」

「正確には別の世界でね、ここではどうかしら、わからないわ」

「私、全然覚えがないわ」

「貴方の記憶はまだ完全に戻ったとはいえないから仕方ないわ」

 

円環の理の一部として機能していたさやかは本来ならばすべてを見ているはずだ。だが、悪魔と化したほむらに一度記憶を消されてしまって以来、その記憶は未だに完全に戻ったとはいえない。

 

「それじゃあ、その時の別の世界の記憶が彼女の作品に影響しているってこと?」

「その可能性があるわね、その作品だけではなんとも言えないわ」

「そう…」

「心配?」

 

ほむらの手がさやかの腕をさする。

 

「そうね、私達今は魔獣と戦っているけど、もしかしたら魔女もどこかで暗躍しているかと思うと…怖いわ」

「大丈夫よ」

「え?」

 

さやかがほむらの方を見ると、ほむらもさやかを見つめていて。その瞳は夜の蒼白い闇の中アメジスト色に輝いていた。その妖しい美しさにさやかはぞっとする。

 

「この世界は私が作り変えたもの。まどかの改変した世界を礎として、だから…」

 

つう、とさやかの頬を撫でながら、ほむらが顔を近づけた。

 

「魔女なんていないわ、どこにも」

 

ゆっくりと唇が重なる。しばらくしてそれが離れた頃には二人の目もだいぶ熱を帯びてきて。

 

「…する?」

 

ほむらの囁きが合図となって、さやかはほむらを強く抱きしめた。失笑しながら手をさやかの首に回すほむら。

 

「信じた?」

 

そう囁いたが、もうさやかは魔女よりも悪魔といわんばかりにほむらに没頭して。さも嬉しそうにほむらは口元を緩めた。

 

魔女はどこにもいない――でも――

 

アメジストの瞳に半分欠けた月が映る。だがさやかがひとしきりほむらを強く抱きしめた瞬間、瞳の中の月が揺らぎ、ほむらは息を漏らす。

 

でもねさやか――

 

重なり合う二人を月だけが見ていた。

 

 

 

 

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