時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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その言葉が聞きたくて

「おかしいわ」

「へ?」

 

さやかは不思議そうに顔をあげた。そこには腕を組みながら窓を眺める美しい長い黒髪の女性がいて。ゆっくりとソファから立ち上がって傍に寄りそうようにして立つとさやかは囁いた。

 

「どうしたのよいきなり、何がおかしいの?」

「貴方と私の関係よ」

 

腕を組んだままさやかを見上げるほむら。上目遣いでこちらを見ている顔は美し過ぎてどうにもさやかは慣れることができない。思わず照れくさそうな表情を浮かべながら視線を逸らす。それを見てくすりと笑う黒髪の女性。

 

「ほらね、貴方私のこと好きでしょう?」

「え、そんなあからさまに…まあそうだけど」

「それがおかしいのよ、だって貴方が私を好きになるはずがないもの」

「え、あんたなに言ってんの」

 

突拍子もない言葉に驚くさやか。そもそもこの黒髪の女性が「好き」だのとあからさまな感情についての話題を口にしたのは初めてだ。

 

「私はあんたのこと好きよ」

「本当に?」

 

形のいい眉をひそめ聞き返す黒髪の女性。これはどうしたものか、とさやかは真剣に考える。

 

「本当よ、どうすれば信じてくれる?」

「……」

 

口を閉ざし黒髪の女性はさやかから視線を逸らすと窓へと顔を向けた。

 

「ほむら」

 

さやかがじれったそうに女性の名前を呼ぶ。その華奢な肩に触れると払いのけられて。さやかは目を見開きながら払いのけられた己の手を見つめる。こんな風に手をはじかれたのは彼女と敵対していた頃以来だ。途方に暮れた表情を浮かべるさやか、これではあの頃と変わらない、むしろ――

 

「ほむら…」

 

だが気を取り直し、さやかは再び腕を伸ばすと今度はその華奢な身体を後ろから抱きしめた。意外にも抵抗らしい抵抗はなく、ほむらはすんなりとさやかの腕に収まってなすがままに身を預けてきた

 

「お願いよ信じて」

 

だがほむらは何も言わない。さやかの視点からは形のいい後頭部しか見えないので表情は全くわからない。

 

拒絶されるだけでこんなに胸が苦しくなるなんて思わなかった――

 

さやかの視界が滲みその声は掠れて。

 

「お願い信じて、私はあんたのこと…」

 

 

―――――――

 

 

悪魔は夢を見ない。その代わりといってはなんだが、朝覚醒した後、しばしまどろんでいる時などにときおり見知らぬビジョンを見ることがある(それを相方は夢ではないかと疑っているが)だから今朝の妙なうめき声もそんな類いだろうとほむらは気にも止めていなかったのだが。

 

「ん……」

 

美しい切れ長の目を少しだけ開いてけだるげな声を漏らすと、ほむらは白い細い腕をもぞもぞと動かしてくるまっていたシーツをのけた。長い黒髪とキャミソール一枚を纏った妖艶な肢体が現れる。上体を起こそうとして何かに阻まれ動きが止まる。

 

「何…」

 

陰鬱な双眸を己の下腹部に向けると背後にいる相方の手ががっちりとそこを抱きしめていて。はあ、とため息をつきながらも優しくその手をほどこうとするとまたうめき声が聞こえてきた。そうしてようやくあの声がこの後ろの相方の声だとほむらは気づく。

 

「さやか?」

 

首を動かしてほむらは背後の女性を覗き込む。お間抜けなかばん持ちは目を瞑り何事か呻いてた、しかもどうやら泣いているようで。目を少しだけ丸くしてほむらはさやかを見つめた。

 

「お願い…信じて…」

 

どうやら夢を見てうなされているらしい。ほむらは顔だけさやかの方に向けたまま猫の様にじい、とその顔を見つめる。

 

「好きだから…とっても…好き‥‥ううん違う」

「違う?」

 

思わずぽつりと呟くほむら、これは珍しいことで。

 

「私、あんたのこと―――」

 

だが次の瞬間更に珍しいことが起こった。

 

「―――てる」

 

聞き取りにくい声でさやかがそう囁いた途端ほむらの顔が面白いように真っ赤に染まった。そうして反射的だろうか素早く左手を挙げると器用にさやかの額をぱちん、と叩いた。

 

 

―――――――

 

 

「もういいわ」

「え?」

 

さやかの腕の中のほむらがゆっくりと振り向いた。切れ長の目を細め口元を緩めてこちらを見つめているほむらの表情はいつもより優しくて、さやかは思わず相方を凝視した。

 

「なんかあんたいつもと…」

「同じよ、ほら…」

 

そう囁いて悪魔はさやかの顔へ手を伸ばす。

 

「夢から醒めなさい」

 

そうしてパチン、とこれまた優しくさやかの額を叩いた。

 

――――――

 

「痛…」

 

さやかはゆっくりと目を開く。すぐ目の前にほむらの横顔があって、流し目でこちらを見つめていた。寝ぼけながらも顔を赤くするさやか。

 

「ようやくお目ざめかしら?」

「…夢だったの」

 

潤んだ目をこすりながらさやかが呟く。そうしてはあ、と息を吐きながらさやかはほむらの肩に顔をうずめた。

 

「ちょ…」

「よかった~‥‥あんたに嫌われたら私どうしようかと‥‥」

 

そう言いながらぐずりはじめるさやか、形のいい眉を上げてほむらが何か言いたそうな表情を浮かべるが開きかけた口を一旦閉じて、そうしてしばらく間を置いてから囁いた。

 

「貴方。そんなに私に嫌われるのが怖い?」

「当たり前でしょ」

「そう…」

「え、も、もしかして私…なんか言ってた?」

「いいえ」

 

そう言ってほむらは身じろぎするとさやかと向き合い身体をぴったりと寄せ合った。さやかの背中に細い白い腕が回される。

 

「何も聞いてないわ…」

 

そう囁いて上目遣いでさやかを見つめるほむらの顔は少しだけ赤みが差していて。さやかもまた何か悟ったのか顔を赤くした。

 

「何も」

 

そう囁きながらほむらは目を瞑りその唇をさやかの唇へと押し当てた。2人がベッドから出たのはそれからもう少し時間が経ってのことだった――

 

******

 

「干渉し過ぎたかしら?」

 

白い空間の中にひとり佇む黒づくめの女性はそう呟いた。艶のある長い黒髪に恐ろしいほど美しい容貌の悪魔――暁美ほむら――は、左手をあげるとその薬指にはめている指輪に唇を軽くあてた。その指輪には蒼い宝石がほどこされていて、応じるように宝石がチカチカと数回光を放つ。

 

「…妬いてるの?」

 

ニイ、と悪魔は妖艶に笑った。

 

「貴方が復活するのを待っている間、もういちどあの時の言葉を聞きたかったのよ」

 

そうして再び濡れた唇をキスをするように宝石にあてると光を放つのをやめておとなしくなる。それを見て悪魔は苦笑したその表情はあの頃のようにとても――

 

「ほんといつになってもお間抜けね」

 

そう囁いて悪魔は目を瞑る。あの時のお間抜けなかばん持ちの言葉を心の中で反芻しながら。

 

好きだから――とっても好き――ううん違う――

 

私あんたのこと――

 

 

 

END

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