終盤に現れるやたら強い助っ人   作:不逞浪士

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特異点F ③

「《悪魔》のキャスター?」

 

こと聖杯戦争において、サーヴァントの真名は秘匿するべきである。

 

例えばギリシャ神話の大英雄、アキレウスを召喚したとする。

彼は類まれなる瞬足が持ち味の英雄だが、その弱点は魔術師のみならず現代を生きる誰もが理解していよう。

そも、その弱点を穿てる猛者は古今東西を見回しても一人握りではあるのだが。

 

しかし、今回は聖杯戦争ではない。

2017年を境に焼失した人類の未来を取り戻すための、聖杯探索(グランドオーダー)だ。

命を預けるサーヴァントの真名を知らないことはリスクでしかないのだが、キャスターを律する令呪もないゼノンは頷く他に選択肢がなかった。

 

「明かせない理由があるんだな」

『肯定』

「……分かった」

 

真名が露見した際の弱点が致命的か、また別の理由があるのか。

根掘り葉掘り聞き込みしたい欲をぐっと堪え、マスターとしての役割に自分を切り替える。

 

「それで、どうする。射線から逃れたはいいが」

 

生きる希望を失っていた自分を襲った飛翔体──アーチャーの()は、目標を見失った今も周囲を虱潰しに爆撃している。

幸運なことに現在地周辺は被害を受けていないが、脅威に晒されるのも時間の問題だった。

 

「さっきのやつでもっと遠くまで俺を運べるか?」

 

キャスターが見せた能力は二つ。アーチャーの攻撃に耐えうる障壁の展開と、その構成物質を用いた高速移動だ。

後者はマスターを巻き込みながら移動ができるようだったので、それでこの区域から脱出してはどうだろうと、そのようにゼノンは頭をひねる。

 

『目標【安全地帯へ移動】を受諾。振動注意』

「えっ」

 

キャスターはマスターからのオーダーを受諾した。

先ほどと同じように、しかし時間を要しながら、キャスターの躯体となった知識の匣から染み出すように灰色の波が増殖していく。

 

こうして落ち着いてみれば、キャスターのそれは一代前の鉱石科(キシュア)君主(ロード)の礼装と酷似している。

確か今はその姪が継承していたのだったかとゼノンが追想するもつかの間、規定量に達したキャスターの手足はマスターをすっぽりと包み込みんだ。

直後、三半規管をお釈迦にする勢いでキャスター(鈍色の流体)が加速を開始する。

 

「うぉぉぉぁぉおおお!!!?」

 

地中をくり抜くように削り、落下するように移動するキャスター。内部に格納された哀れなマスターの記憶は遠心分離されてしまう。

剥がれ落ちそうになる意識、穴という穴から溢れそうになる尊厳の数々。

それらを限界一歩手前で押しとどめたまま体感数十分、目標地点到達によりようやくゼノンの刑期は満了した。

 

「キャス、ター。次からは、説明してくれると」

『了承』

 

あまりの淡白さに渦巻いていた気持ち悪さも引っ込んでしまった。

怪訝な表情のまま口から少し漏れた胃液を拭う。地面に注がれていた視線を上げて初めてキャスターの言う安全地帯が森の中だったことに気がついた。

 

「ここは確か……キャスター、アクセスできるなら特異点Fの資料にあった地図を出してくれ」

 

インジケーターが回転する隙も与えず画面に地図が表示される。

地図上の南西に存在する広大な森林地帯と、その中にそびえる城のような建築物にゼノンは目を走らせた。

 

「俺が聞くのも変な話だが……ここはAチームがレイシフトする予定だった特異点F──冬木市でいいんだよな?」

 

レイシフト直前に目にした光景、そして通信が未だ繋がらないことからしてカルデアで何かしらの異常が発生したのは間違いない。

ともすれば所以も知らぬ特異点か並行世界に放り出されてもおかしくなかったが、キャスターはマスターの言葉を否定しなかった。

 

『肯定。ここは特異点F 冬木市。現在位置は市南西、アインツベルンの森』

「へえ、アインツベルン。聖杯を作ったっていう一族だったか……いや待てキャスター。なんでここに連れてきた?」

『回答。【安全地帯へ移動】及び魔力リソース獲得のため』

「……すまん、頭からすっぽ抜けてたな」

 

現時点でカルデアからのバックアップがない以上、これより先を生きるには、手持ちの少量の物資をやり繰りしつつ現地調達をするしかない。

冬木の聖杯を作った一族であるアインツベルンの本拠であれば、今足りないものを補填できる望みがあるだろう。

 

「キャスター、望み薄だがカルデアに通信を試して──」

『バックグラウンドで通信を継続中。現在まで応答なし』

「……ダ・ヴィンチに目利きを頼みたかったんだが。ま、そうも上手くはいかないか。引きこもり一族だったから匣にデータもないだろうし、地道に見ていくしかないかねぇ」

『マスター、【マスター生存】のためのプランの開示許可を』

 

寄りかかっていた木から腰を上げ、霧に包まれた森からその中心にそびえる城へ向かおうとしてゼノンは足を止めた。

 

「一々許可は要らないぞ。むしろ実行前に一言くれた方がこっちも身構えできるし、意見も言えるだろうし」

『受諾。以後、そのように』

 

匣の画面に再び冬木の地図が表示され、現在地であるアインツベルンの森に赤いピンが突き刺さる。

そしてアインツベルンの城に一つ、【深山町】に一つ、杯を模したマークが表示された。

 

『当機第二宝具を用いて特異点から脱出することが可能』

「えっ!?」

 

知らなかったそんなの、と狼狽しかけるマスターを無視してキャスターの音声は流れ続ける。

 

『現在はリソース不足のため稼働不可。よって、動力確保のため────』

 

 

 

『────()()()()()の奪取。当機はこれを提案する』

 

 

 

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