終盤に現れるやたら強い助っ人 作:不逞浪士
冬木の聖杯戦争において『聖杯』の名を冠するものは二つ存在する。
まず、聖杯戦争を実現させる基幹システムにしてメインエンジンの大聖杯。
儀式のほとんどの機能は大聖杯に依存していて、これ欠いてはお話にならない魔術炉心である。
そして、敗北したサーヴァントを蒐集し、それを大聖杯へと焚べる小聖杯だ。
こちらは外様の参加者向けの願望機であると同時に、大聖杯が拓く根源への孔を固定させる役割を持っている。
小とはいえ聖杯は聖杯。少なくともサーヴァント4騎分ほどの潤沢な魔力があれば並大抵の願いは叶えられる。
それだけあればキャスターは第二宝具を安定的に稼働させ、特異点から脱出できるという。
サーヴァントが扱うリソースとしてこれ以上ない小聖杯はアインツベルンの城と深山町の二つに存在している。
ゼノンは城へと侵入して小聖杯を発見。後は深山町跡へ駆け抜け、もう一つの小聖杯を確保するのみとなったのだが──
「後どれくらいだ!?」
現在位置はアインツベルンの城から数km離れた森の中。樹木の群れをキャスターのアシストで何とか搔い潜りながら、次なる目的地へと死に物狂いでひた走る。
『冬木市内到達まで残り30km。現行速度では到達前に死亡する可能性あり』
無情な──機械に情などあるはずもないのだが──電子音に小舌打しつつ後ろを見やる。
あの巌のようなサーヴァントとの追走劇はまだ始まったばかりだった。
「■■■■■■■■■■■───!」
「やはりというか、原因は……」
『肯定。小聖杯の奪取が原因と推測』
小聖杯は必ずしも杯を象る必要はない。
黄金の杯でも、ステンレスの鍋でも、そして人体でも。
機能さえ果たせるのであれば、それを正しく小聖杯だ。
冠を頂き、穢れ無き衣を纏う、虚ろな目をした白き少女。
その彼女を城の地下から回収した直後、アインツベルンの森を徘徊していた英霊擬きは姫攫いの不届き者の追跡を開始したのだ。
それは森林を駆け抜けているにも関わらずスピードは緩まない。
全てをなぎ倒して真っ直ぐに進撃する偉丈夫に恐怖を感じながら、ゼノンは小聖杯を背負い、遮二無二脚を走らせた。
『現在小聖杯に接続し魔力を徴収中。防衛機構起動までおよそ1分』
全身に全力で強化を施しているにも関わらず、追手との距離は広がるどころか詰められている。
接敵まで肌感ではキャスターが提示した期限の半分だ。到底生き残れそうもない。
「キャスター!今までのアシスト、回避に使えるか!?」
『受諾。防衛機構起動までの時間が延長します』
「……上等。頼むぞ」
ゼノンはあろうことか立ち止まることを選択し、キャスターはそれを了解する。
動きを止め、背中を見せることを止めた闖入者に対し、暴威もその正面で動きを止めた。
引き潰すこともできたのにそれをしなかったのは
「■■、■■■■■───!」
『右30度に上体反らし、左に蹴り』
逸れたゼノンの身体の真横を薄皮一枚の隙間で岩の大剣が通り過ぎる。
大地を抉ったそれへと蹴りを入れれば、怒声と共にサーヴァントはゼノンを弾く。
キャスターの流体が両足の保護と射出角度のコントロールを行い、マスターは野球ボールのように上空へと打ち上げられた。
『着地後、ジャンプ1回』
身動きが取れない空中の獲物を逃すはずもない。
土に亀裂と足跡を刻みながら、敵も一直線に空へと躍り出た。
大上段に構えられた大剣の風圧さえ伴った振り下ろしは一気に放出した灰色の流体で受け止めた。
しかしダメージは殺せたものの押し出す勢いまでは減衰できない。彼らは流星となった。
山に伸びる道路めがけての落下に対しては再び流体を放出してクッションの代わりとした。
ワンテンポ遅れて着地したゼノンが大きくジャンプすると、それと同時にサーヴァントも墜落。アスファルトを砕きつつ、地面に振動させた。
『──魔力基準値到達。真名凍結、宝具断片展開』
「えっ!?」
いや体感20秒もないけど!?と困惑する顔の横から腕が伸びた。
ギョッとして背負った小聖杯の少女を見れば、自分から身を乗り出すようにして猛り狂う巨人へと手をかざしている。
そして彼女は短く、それでいて確かな願いを紡いだ。
「"止まって、バーサーカー"」
『
巨人を囲むように現れた光の糸が身体をその場に縛り付ける。
見た目は振りほどけそうにか細いが、概念的な拘束力でもあるのだろうか。そのまま棒立ちになったサーヴァントへと今までの比ではなく爆発的に増殖した灰色の奔流が襲い掛かる。
ゼノンにはその灰色の塊がどことなく
「起きていた……そもそも、生きて──いや違う、まず言うのはそれじゃない。礼を言う。助けてくれて、ありがとう」
少女は無表情に首を縦に動かした。
礼を受け取ってくれたと捉えたゼノンはひとまず少女を降ろし、手元のキャスターへ目をやった。
「何が起こった?」
『回答。小聖杯より当機へ魔力が能動的に供給』
「まぁ、だろうな」
バーサーカーを飲み込んでいた流体は役目を終えて霧散し始める。当然ながら、そこに巨人の姿は影も形もなかった。
あんなものの中にいたのかとゼノンの背中に寒風が吹雪くも、それを振り払うように少女へと話しかけた。
「なんで、協力してくれたんだ?」
「……願いを叶えることが私の
少女は消えた巨人のいた場所を寂しそうに見つめた。
「もう、解放してあげたかったから」
●
アインツベルンの森から脱出し、深山町での小聖杯回収も終えた一行はそのままそこで特異点脱出の準備を開始した。
と言っても、ほとんどはキャスターしかできないことなのでマスターと小聖杯たちはその様子を見守るしかない。
アインツベルンの小聖杯──彼女はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンを名乗った。しかしその名以上のことはまるで記憶にないらしい。
人体から小聖杯へと変性する過程で人間としての余分な機能はそがれてしまうようで、彼女の場合は既に五騎ものサーヴァントをその内に格納しているため、およそ形以外の人らしさは失ってしまったのだとか。
「私たちの失った機能は元に戻ることはないの。その再生を心から願ったりしない限りは、決して」
「……俺は、悪いことしたか?」
「ううん、この器の最期の願いも君なしじゃ叶わなかった。だからむしろ感謝してるし、一族の悲願がどうとかは気にしないで」
ここに死蔵されたままじゃ置物と変わらないし、と彼女は苦笑した。
『──起動準備完了。両名、指定の位置へ』
「整ったみたいだな。イリヤスフィール。頼めるか」
「任せて」
『小聖杯二基の接続を確認──回路接続完了』
鈍色の椅子に着席した二つの杯より魔力がキャスターへと流れ込む。
『魔力流入開始。第二宝具稼働準備』
ここはキャスターの灰色の流体が再現した
『境界面正常値。空間パラメータ更新。実数証明凍結。虚数観測完了』
『システムオールグリーン。第二宝具展開』
『──
宙に浮かぶ艦より緑の光が放たれる。
拓かれた虚数の海へと彼らは果て無き航海を開始した。
【出典】史実、都市伝説、黙示録、■■■■■■
【CLASS】キャスター
【真名】■■■・■■■・■■■/■■■・■ー/■■艦 ■■■■■■
【性別】未確定
【身長・体重】6インチ・160g
【属性】中立・中庸・地・■
【ステータス】筋力E〜A 耐久E〜A敏捷 E〜A 魔力E〜A 幸運E〜A 宝具 EX
『
ランク:C+++ 種別:対界宝具 レンジ:100 最大捕捉:-
かつてある艦が半ば偶発的に行った虚数への挑戦、その再演。