終盤に現れるやたら強い助っ人   作:不逞浪士

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幕間
艦に揺られる(わたし)たち ①


“私”としての意識が芽生え始めたのはちょうどお城を出てからだった。

強くて、張り裂けそうな感情。脱出といっしょに叩きつけられた真っ直ぐな祈り。

奇跡を成すための機構(システム)となった私に唯一残った知覚はそれを聞き届けて、躊躇い一つなく結果を現した。

 

そうして得た意識は「実にバカだな君は」と思った。

せっかく見つけた願望機にかける願いが『君が元に戻りますように』だなんて!

 

本当に真っ直ぐアインツベルンの存在意義に泥をぶちまけてきたこいつをどうにかしてやる、まずはその姿を拝んでやる。

そう意気込んで機能を取り戻した視覚に映ったのは──どこか見覚えのある巨人と、今にも死にそうな青い顔をして紙一重で避け続ける人の姿。

 

平衡感覚が目を覚ましたら私はどうなってしまうのかと思った矢先、頭の中に声が響いた。

 

──もう、止めてあげて。

 

それきり聞こえなくなってしまったけど、それがなんなのかはよく分かった。

“私”の器の叫びだ。じゃなきゃこんなに苦しいはずがないし、こんなに愛おしいはずもない。

こちらを襲ってくるバーサーカーに「ごめんなさい」と言いたいなんて、そんな思いが浮かぶわけないから。

 

次第に明瞭になっていく意識は流れるようにキャスターへと魔力を送った。無理やりパスをこじ開けていたみたいだけど、ここは寛大な心で水に流そう。

次いで、私は背中から身を乗り出してバーサーカーを魔力の糸で縛り上げる。

 

ごめんなさい。

ずっと、ずっと、ずっと、貴方をここに縛り付けてしまった。

 

貴方にとってはなんでもないことかもしれない。けど、(イリヤ)(イリヤ)じゃないから。

満たされただけの抜け殻だから、もういいの。

 

──ごめんなさい、ありがとう。ずっと(イリヤ)を守ってくれて。

 

喉はしっかり動いてくれなかった。

けど、消える前に確かに、バーサーカーは微笑んでいた気がした。

 

 

私に願望を託したマスターはゼノン・スペリオルと名乗った。

この特異点に偶発的にレイシフトしてしまったが、数奇な運命か令呪もなしにキャスターと巡り会い、今はここを脱出するために私たち(小聖杯)を探していたという。

 

その旅路に加わることはまあ、やぶさかでない。

この乱れた世界にいたとて、願望機としてもアインツベルンとしても何一つできることなく、文字通りに歴史の闇に消えてしまうのだから。

 

しかしその前に聞いておきたいことがある。

ゼノン・スペリオル。なぜ君は『君が元に戻りますように』などと願った?

しかもちょっと願ったことを後悔してないか?

そう問い詰めればあっさりと彼は白状した。

 

「俺は一応、一応魔術師だ。だから積み上げてきたものがどれだけ大切かってことはよく知っている」

 

「アインツベルンは君で大きなコトを成そうとしたんだろう。それを、俺の願いが台無しにした」

 

ああなるほど。

自分一人の独善(エゴ)でアインツベルンの小聖杯の機能を損なってしまったと。

 

「それは君が負うべきモノじゃなかったなんて、勝手に思ってしまったから」

 

俺は家から逃げた情けないやつだから殊更そう感じたのかも等と付け足して、ゼノンは身を縮めた。

 

確かに、余計なお世話だ。

製造経緯こそ少々特殊だが、私はれっきとしたホムンクルス。

見た目や境遇で憐憫を抱かれても困る。そうあれかしと造られたのだから。

 

だが、その祈りがあったから“(イリヤ)”が産まれて、(イリヤ)の未練も精算することができた。

なのでアインツベルン家としてはともかく、“私”個人はゼノンに悪い印象を抱くことはできそうもない。いや、むしろ──

 

「イリヤスフィール?」

「魔術師にしては優しすぎるね。いっそ致命的なくらい」

「弁解の余地もないな……」

「けど、その余分は好ましいものだなって、私は思うよ」

 

褒められるとは思わなかったのだろう。

ゼノンは目を点にしてから、照れくさそうに笑った。

 

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