俺の名は天野星矢。雷門中に通う2年生だ。
夕方4時をまわった頃、俺は河川敷の土手に仰向けになって寝ていた。
今日は天気が良かったためか俺の視線の先で沈む夕日がやけにきれいでずっと見ていられた。
河川敷のグラウンドでは小学生のクラブチームがサッカーの練習を行っている。この時間にここでその光景をただ眺めているのが俺の最近の日課となっていた。
俺にも・・・・あのくらいまっすぐにサッカーをやってた時期があった。
しかし中学に入って自分の力のなさを痛感する。
そもそも入学時にサッカー部はなく3人ほどで立ち上げる所から始まった
1年目は同級生の新規入部もあって順調、2年生になったときは1年生が4人も入部し選手が8名にマネージャーが1人ともう少しで試合ができる所まで来ていた
しかしつい先日行った練習試合で現実を思い知らされる
相手は大会でも勝てたことが無いほどの弱小校だった。俺たちは何とか助っ人で人数を埋め試合に臨んだが結果は0対10で惨敗。そして試合後に相手ベンチから聞こえた陰口が決定打となった
初心者の集まりじゃん。さすがにあれはないだろ。
それが不幸にも俺を含めた皆の耳に入ってしまいやる気をなくしてしまった
雷門中サッカー部は現在活動を行っていない。まあ、俺以外は部室でゲームしたり漫画を読んだりしてるのだろう。弱小であるがゆえにグラウンドは使えないしまともな練習もしていない
しかし中にはあきらめていない奴がいる
「お!天野じゃないか!」
そいつがこの円堂守だ。オレンジ色のバンダナが特徴のサッカーバカで俺をサッカーに誘った人物。俺たちがすっかりやる気をなくしてもこいつはずっと俺たちを練習に誘っていた
「今から鉄塔広場で練習するんだ!一緒にやらないか?」
「いや・・・・俺はいい・・・」
誘ってくれるのはうれしいが正直やる気がない。俺は円堂から目をそらし力なく答えていた
「そうか・・・・じゃあ気が向いたら来てくれよ!待ってるぜ!」
「ああ・・・・」
結局円堂の方を見ることができずに別れてしまった。
「・・・・クソッ」
その後の俺の心には何か引っかかりというか・・・モヤモヤしたものを残していた。
それから毎日のように円堂は学校が終わると俺のいる河川敷までやってきては俺を練習に誘ってくる
どうやら学校で練習ができないから小学生に交じって練習してるらしい
「いくよおお!」
「さあ!来い!!」
円堂は小学生相手でも本気で・・・・それでいて楽しんでいた
それがどうしようもなくうらやましかった
あいつは昔からなんも変わっちゃあいない
何事にも全力でまっすぐでがむしゃらに・・・・出会った時もそうだった・・・
あいつに出会ったのは小学3年の時。
近所の公園で上級生にいじめられていた転校生の女の子を助けたのが最初だったな
それがきっかけでよく話すようになって円堂はある日俺をサッカーに誘った
「サッカーやろうぜ!!」
俺はそれまで特段スポーツとかやってなかったから遊びでならいいと誘いに乗った
でも、円堂とやっていたからなのか今までやってきたものの中で一番楽しいとさえ思えたんだ
・・・そうだったな・・・・あの頃は・・・
物思いにふけっていた俺はふと練習の方に目を向ける
少年が円堂に向かってシュートを打つところだった
「いけええ!俺のシュートおお」
しかしシュートは明後日の方向に飛んでいき歩いてきた高校生くらいの男性に直撃する
「いってえええ!!!誰だ!ボールを蹴ったのは!!」
短ランにボンタン。漫画で見るような不良の怒号に小学生たちはおびえ誰も言葉を発せない
そこで円堂が出ていって
「すみませんでした。お怪我はないですか?」
円堂は不良に近寄り謝罪するすると不良は突然円堂の腹に膝蹴りを入れた
「ガハッ!・・・・ううう」
「え、円堂!!」
「お、お仲間がいたか・・・その制服にジャージ・・・・雷門中だな?聞いたぜ?部員が足りなくてまともに活動できないサッカー部があるって。ガキ相手に玉蹴りかよ!情けないねー・・・・そうだ。俺が手本を見せてやろう!あらよっと!!」
不良は目の前のボールを適当にシュートする。そのボールは休憩していた少女の元へと飛んで行った
「あぶない!!」
俺は叫ぶことしかできなかった。情けない。こんな時に何もできないなんて
その時だった
「はああああ!!」
突然走ってきた少年は飛び上がってボールを蹴り返し不良の顔面に寸分のずれもなく命中させる・・・すげえ
不良は気絶し起き上がると
「てめえ・・・・」
「・・・・・」
少年はその切れ長の鋭い目つきで不良をにらみつける
なんというか・・・迫力あるなあ
そして不良は恐れをなしたのか逃げる様に立ち去った
円堂は起き上がって少年の元に駆け寄る
「お前すごいな!!サッカーやってるのか?」
「・・・・」
少年は何も語らずにその場を立ち去る。何者なんだろうか・・・・・そうだ円堂は?
「おい!円堂。大丈夫か?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
「まったく無茶するよ・・・・昔からなんも変わっちゃあいない」
「そうか?俺からしたら天野も変わってないぜ」
「え?」
「サッカー見てる時の目だよ。まっすぐ見てて、お前のサッカー熱は冷めてないってその時分かった」
「そうか・・・・なあ、円堂」
「なんだ?」
俺はここで心の底で疼いていた魂の叫びを言葉にする。それは難しいようで
「俺、やっぱサッカーやりたいわ」
「ああ!いつでも大歓迎さ!!」
とてつもなく簡単な事だった
翌日の朝のホームルームにて
「木戸川清修から転校してきました。豪炎寺修也です。よろしく」
あのすさまじいシュートを放った少年豪炎寺修也は俺たちのクラスに転校してきた。