焔の軌跡   作:神宮藍

1 / 6
 この小説は日本ファルコムさんが出しているゲームソフト、「英雄伝説 閃の軌跡」を原作としたものです。閃の軌跡あの衝撃的なクライマックスからの続きと言う事になります。オリジナル設定もありまして、またこれが初作品なこともあり、色々と拙い所もあると思います。それでも宜しければ皆様、宜しくお付き合い下さい。


序章-惜別の約束-

――ヒュウゥゥゥン……――

 

ヴァリマールは飛び続けていた。争いの地からとにかく遠くへと。

 

「う……」

「あら、気が付いた?」

「セリーヌ! い、今はどういう状況なんだ!?」

 

 疲労からか、リィンは眠ってしまっていたらしい。その間もヴァリマールは飛び続けていたのだ。そして、セリーヌの口から自身が置かれている状況を告げられる。

 

「今は帝国北西部に向かって飛び続けているところよ。あれから大体三時間位が経ってるわ。飛び続けていたわ。出来るだけ目立たないように飛んでいたから時間が掛かっているわ。そろそろ身を隠せるところに降りないとね……」

 

「そうじゃなくて! アリサや! ユーシスや! エリオット、ガイウス、ミリアム、フィー、エマ、ラウラ、マキアス、他にもサラ教官、ナイトハルト教官、シャロンさん、トワ会長、ジョルジュ先輩、トールズの皆は!それに……何より、クロウ……なんで、あそこで勝手に! 動かしたんだ! 俺が……残っていれば! オレはともかく、皆は!」

 

 リィンの主張は彼の立場に立っていれば、最もなものだろう。『彼の立場』ならば。それまで黙ってリィンの発言を聞いていたセリーヌが口を開いた。

 

「……甘ったれた事を言うんじゃない!思い上がるのも甚だしいわ!あの状況で残ると言うのはありとあらゆる選択肢の中で最悪のものだわ。あの場で捕まれば本当に八方ふさがり、再起なんて望むべくもないと思うわ。本当にジ・エンドね。

 ……勝手にヴァリマールに命令を下してあの戦域から離脱、逃走させたのは悪かったわ。謝るわ。(セリーヌ、頭を垂れる)ただ……これだけは分かって欲しい。私だって好き好んで逃げたわけじゃない。見捨てたくなかった。でも……あのエマが、はっきり自分の意志を露わにして、他のメンバーがあそこまで言ったら、こうするしかないと思ったの。ごめんなさい……」

 

(そうか……セリーヌは士官学校に入学する前からエマと一緒だったはずだ。そのエマと離れる事はセリーヌにとっても苦渋の決断だっただろうな……)

 

「……ごめん、セリーヌ。俺、周りが見えなくなっていたな。こんなんじゃ、また師匠に小突かれちまうな」

「あら……あの『S』の操る機甲兵との戦いでも言ってたけど……貴方に凄く影響を与えたみたいね、その先生」

「はは……分かっちゃうか……まぁ、その話はまたいつかするよ。それより、これからどうするかが問題だな」

「そうね……ヴァリマール! 周辺の地図を表示できる!?」

 

 ヴァリマールがセリーヌの呼びかけに応える。

 

「了解……周辺地域ノ地理情報ヲ表示スル……」

 

 『ヴォン……』リィンとセリーヌの目の前に地図が表示される。それを見てセリーヌが発する。

 

「この近くに帝国でも有数の森林帯があるわね……そこならこのヴァリマールの巨体も隠せて好都合だと思うわ。」

「カイダル森林か……そこに降りるとするか」

 

 セリーヌがヴァリマールにそこに降りるように命じる。

 

「了解……コレヨリカイダル森林に着陸スル……」

 森林の中心から南寄りの少し開けた場所に着陸する。

 

――ヒュゥゥ……ズシャン……――

 

 上手く着陸した。リィンとセリーヌはヴァリマールに搭乗した時と同じように光となって機体外へと出る。「わっ……と……」慣れない着地でよろけるリィン。セリーヌは綺麗なポーズで着地する。そして辺りを見回し、一言。

 

「……随分と遠くへ来たもんだな……」

 

「そうね……。でも、感傷に浸ってる時間はないわよ。勝手に動かした私が言うのもなんだけど……貴方達がオリヴァルト皇子が言った第三の道、それを選んだ時点で苦難の道が待ち受けているわよ。いいえ、苦難じゃ甘いかもしれなわね、地獄、煉獄を行くが如くの道かもね」

「分かってはいたけど、実際その道を選んだらどうなるかなんて予想できなかったよ。まさかそのスタートが仲間と離れ離れになり、親友の裏切りだなんてな……」

 

 大きなため息をつき、木にもたれかかる。

 

「心中お察しする、とも言えないわね……とにかく、まだ迂闊には動けないわ。少し大人しくして、明日辺りになったらさっきの地図で見えたカイダル森林から近くにあるロダイ村に行ってみましょう。そこで情報を収集して、今後どうするかを決めましょう」

 

 リィン、弱弱しく頷く。そして何かを思い出したような表情になり、口を開く。

 

「なぁ、セリーヌ、前から気になっていたんだが、エマとはどういった関係なんだ?」

 

 セリーヌ、悪戯っぽく微笑み返す。

 

「そうね……教えてあげてもいいのだけれど、どうせならエマの口から聴いた方が良いんじゃない? ただ……そうね、ヒント位はあげようかしら。リィン、貴方は『帝国に伝わる伝承』を読んだことはあるかしら?」

「あ、あぁ……読んだことはある。吸血鬼や魔女とかについて書かれた古い伝承をまとめた本だろ?」

「ふふ、ヒントはその中にあるわ。最も……もう気付いていただろうけど」

「まぁ、大体は……」

 

 リィンは少し考え込む。

 

(……ローエングリン城での事、薬草、他のマニアックな事柄、そして、昨日、ミスティもといクロチルダさんに対しての「私の身内」発言……魔女か、それに連なる存在であるのは間違いない。ただ、本当に気になるのは、『何故試し、そして起動者や騎神についての事を知っていたのか』と言う事だ。クロウの騎神についてもセリーヌ自身が「あの女が導き手を務めたのか」と言っていた。魔女にも何か役目があるようだな……。

 もう一つ、何故『旧校舎最深層にヴァリマールがあった』のか。今まで疑問に思わなかったけど、よくよく考えれば可笑しいことだよな……少なくとも士官学校が創設されたドライケルス大帝の時代からあるのは確実だ。……伝承を調べ直す必要があるな……)

 

 そこまで行ったところで頭がついて行かなくなったようで、叫んだ。

 

「あーっっ!! もう駄目だ! 頭がパンクする!」

 

 その様子を見たセリーヌが珍しく声を上げて笑った。

 

「ふふ……まぁ、精々頑張りなさいな。思う所は色々あるだろうけど……まずは腹拵えね。腹が減っては何とやらね。」

 

 そう言うとセリーヌは森の方へと歩いて行った。

 

(セリーヌが喋っている事の方が一番の疑問かもしれない……)

 

 口元まで出かかったその言葉を呑み込み、リィンもその後をついて森の中へ入って行く。

 その夜。セリーヌとリィンは森で拾ってきた薪を使って火を起こして暖を取っていた。

 

「ふぅ……それにしてもリィン、食べられるものと食べられないものの区別が付くなんて凄いわね。それに罠まで。お蔭で兎とか茸とかが手に入ったけど。」

「はは……ここで役に立つなんてな。これも全て父さんのお蔭だな。狩りが趣味で、野山で叩き込まれた事が生きたよ」

「芸は人を助ける、ね。父さんと言うと……テオ・シュバルツァー男爵の事ね?以前、ユミルの温泉郷に行った時に見たけど、厳しくも温かい人柄ね。」

「ああ……覚えていないけど、孤児だった俺を拾ってくれて、ここまで育ててくれた。士官学校の皆も尊敬する人物だけど……俺にとっては一生、頭が上がらなくて、最も尊敬する人であり、親さ。母さんもだ。血の繋がりの無い子供なのにな。一生をかけて恩を返していくつもりさ。」

「……家は、継がないつもり?」

「あぁ。血の繋がりが無い俺より、エリゼとエリゼの夫となる人が継ぐのが良いと思っている。以前、それで事件になったけどな……」

「旧校舎の第一の試しの事ね。今でもその考えは変わらないのね。最も、お兄さんが簡単に結婚させ無さそうだけど」

「そんな事は無いぞ! 相応しい奴が現れたら当然、認めるさ!」

「ふぅ……あの娘も大変ね」

「?どういう事だ?」

「何でも無いわ」

 

〈ガサッ……〉

 

「!!」「!!」

 

 リィン・セリーヌ共に気配を感じ、迎撃態勢に入る。鯉口を切り、全身を逆立てる。気を張り詰める。

 

「……」「……」

 

 何分経っただろうか。そんなに永くは無かっただろう。だが、二人にとっては永く感じただろう。

 

「行った、か……?」

 

 気配が遠ざかり、少々余裕が出たリィンは気を少し緩める。セリーヌも警戒を解く。

 

「こんな夜中に村人が来るとも思えないし……おおかた森の動物か何かじゃないかしら」

「かもな……やっぱり逃げていると言う立場上、敏感になっちまうな」

「まぁ、仕方のないことかもしれないわね。……そうね、明日村に入る時には、制服は脱いで行った方が良いのかもしれないけど、そうもいかないものね。せめて袖のエンブレムは外した方が良いかもしれないわね」

「それもそうだな……仕方がないな」

 

 少し顔を歪めつつ袖から学院のワッペンを取り外す。そして大事そうにスラックスのポケットに収めた。

 

「また堂々と着けたいよな」

「その為には修羅の道を行くしかないわね。さぁ、そろそろ火を消して、寝ましょうか。ヴァリマールの中で、だけど」

「俺は少し素振りをしてから寝るよ。先に休んでてくれ」

「そう? くれぐれも気を付けてね。それじゃお先」

 

 光に包まれ、セリーヌがヴァリマールの中に戻って行った。それを見届けたリィンは、空き地から少し離れた木々の中に入って行き、そこで何回か素振りをした後、素手で近くの木を殴り始めた。しかも泣きながら、だ。

 

「(ガンッ、ガンッ)……俺に……力が……あれば皆を失う事だって……ザクゼン鉱山の時だって! アンゼリカ先輩が退学にさせられる事も無かったかもしれない! 俺に……力が無いからこうなったんじゃないか! うわあぁぁぁぁぁぁ!!(泣き、嗚咽を漏らしながら殴り続ける)」

 

 リィンは気づいていなかったが、セリーヌがその様子をヴァリマールから見ていた。

 

――これ以上見るのは野暮ってもんね……生きてさえいれば、まだチャンスもある。這い上がれる。かつての、ドライケルス大帝の様に……リィン、強くなりなさい……そして、この未曾有の混沌の時代を駆け抜けなさい!

 

 数十分後、リィンがヴァリマール内に戻って来た。座ったと思うと、直ぐにも寝息を立て始めた。よほど疲れていたようだ。セリーヌ、リィンの頬を少し舐めてから体を丸めて、寝始めた。

 

 どれだけ疲れていても、どれだけ落ち込んでいても、明けない夜は来ない。ここ、カイダル森林にも晩秋特有の冷気を含んだ空気が張り詰め、少しの靄がかかった朝が来た。

 

「ふぅ……美味い空気だなぁ」

 

 ヴァリマールの肩に乗ったリィンは胸一杯に新鮮な空気を吸い込んだ。その空気は体を巡り、頭を覚醒させる。

 

「ふふ……そうね。トールズの町とは違うわね。」

 

 いつの間に来たのか、セリーヌがリィンの傍らにいる。

 

「そうだな……飯も食ったし、少ししたら、ロダイ村に向かうか」

「そうね、ロダイ村は少し距離があるし、今からでも良いかもしれないわね。」

 

 リィンとセリーヌはヴァリマールのあるシステムを起動し、ロダイ村へと向かう。セリーヌの言った通り、距離があった。太陽が中空に近くなる頃にロダイ村に着いた。距離にして12ラジュほどだった。(1ラジュ=1,000メートル)

 

「ここがロダイ村か……」

 

 見た所、牧歌的な雰囲気が漂う村だった。リィンはあのノルドの村に近いものを感じていた。導力機械はあるようだが、完璧には頼っていない……昔ながらの面影を残す村だった。

 

「中々良い感じね……」

「そうだな……それにしても流石に腹が減ったな。と、その前に情報収集だな」

「そうね……導力ラジオとか帝国時報の号外とかあるか調べないとね……」

 

 2人は村の店を探しつつ、村の中心へと入って行った。村の中心には広場があった。そこには広場のシンボルでもあろう石造りの井戸が鎮座していた。誰でも汲めるらしく、滑車と桶があった。リィンとセリーヌは水を汲み、喉を潤した。

 

「ぷはぁっ! 生き返った!」

「全くね。水が美味しいわね」

 

 リィンは頭部から水を被り、髪と顔を濡らした。そして、顔を腕で拭う。セリーヌはその様子を見て、

 

――水も滴るイイ男って、こういう感じなのかしらね……それでいて本人は全くの無自覚なんだから……はぁ、先が思いやられる……ますます妹さんや、他の娘達が哀れだわ……

 

 セリーヌが溜息をついたのに気が付いたのか、リィンは水を差し出しつつ、

 

「どうした? 何か悩んでるのか? 役に立たないかもしれないけど、俺で良かったら、相談に乗るよ」

 

 そんなリィンの反応を見てさらに溜息をつきつつ、「何でも無いわよ」と返し、リィンは更に困惑するのだった。

 

 人心地ついた二人は情報収集を再開する。広場から離れ、歩いていると、店らしき建物が見えてきた。看板には『マクガイア工房』とあった。どうやらオーブメント工房らしく、覗いてみると中には生活に必要な導力機器が並んでいた。だが、オーブメント工房にしては店舗の半分が食料品や雑貨で占められていた。カウンターには初老の男性が座っており、2人が入店すると、ゆっくりと頭を上げた。

 

「おや、いらっしゃい。ここらでは見ない顔じゃな……あまりないが、ゆっくり見て行ってくれ。オーブメントの調整も一通りは出来るし、ここでは食料品や数は少ないが雑誌や新聞も取り扱っておる。村で唯一の店でな。調整の際はそこの工房に担当者がおるでな」

 

 ゆっくりと、だが芯の通った声だった。

 

「分かりました。すみませんが、帝国時報はありますか? 出来れば最新号が良いんですが」

「おぅ、今朝届いたばっかりでな、ほれ、いつもは売れ残るんじゃが、村の者が今日に限って買いに来よってな……全部売り切れてしもうたんじゃ」

 

 その言葉にリィンは希望を打ち砕かれた表情になった。「そうですか」と言葉を残し、去りかけた。

 

「あいや、待ちなさい。まだ話は終わっとらんぞい。売り切れはしたが、儂の分は手元にある。買っていくのは無理じゃが、店内のみで良ければ構わんよ」

「! 本当ですか!」

「うむ。じゃが……その代わりと言っては何じゃが……君の腰にある刀とオーブメントを見せてはもらえんじゃろうか?」

「え? ……分かりました。こちらはお願いしている立場です。どうぞ」

 

 アークスと刀を取り外し、店主に渡す。その時に帝国時報を受け取る。通常の帝国時報と比べ、薄かった。リィンとセリーヌは店内にあった椅子をカウンターの端に寄せ、覗き込む。そこにはこう書いてあった。

 

『10月30日、帝国政府代表ギリアス・オズボーン宰相が声明発表の途中、凶弾に倒れられ、帝国内は今や未曾有の混乱にある。倒れられた後に謎の巨大艦が帝都上空に出現、そして機動力のある人型兵器が降下し帝都を襲撃、帝都守備隊と交戦し、これを殲滅せしめた。

 本誌独自の情報筋によると、人型兵器は「機甲兵(パンツァー・ゾルダ)」と呼ばれるものであり、貴族派が持つ兵器であると目される。帝国軍機甲部隊の機動力を凌駕し、容易く屠る攻撃力を有している。帝国上空に現れた巨大艦は「パンタグリュエル」と呼ばれる貴族派が有するものとされる。全長250アージュはあろうかと言う巨大戦艦だ。これはまだ推測の域を出ないが、宰相を撃ったのも貴族派の刺客ではないかと噂される。

 また、帝都が襲撃されたのとほぼ時を同じくして帝都にほど近いトールズ士官学院がある郊外都市トリスタも襲撃されたとの情報が入っている。幸い士官学院の尽力により人的被害は奇跡と言ってもいいほど出ていない。現在この町は「保護」の名目で占領されている。しかも驚いたことに占領しているのは数か月前まで帝国を騒がせた「帝国解放戦線」だと言うのだ。消滅したはずの組織が何故今出て来たのか。疑問は尽きない。リーダーと目される《C》と言う人物からの声明が出されているが、それについては別紙をご覧頂きたい。

 現在、帝国は貴族派と革新派の二大勢力による内戦中と言っても良い。帝都、トリスタ以外では大きな争いは起こってはいないが、各地で主に領邦軍と正規軍による小競り合いは起きている。これはまるでかのドライケルス大帝が治めたと言われる獅子戦役の再現ではないか。いつ、争いが起こるか分からない状況にある今は読者諸氏、帝国に住まわれるすべての国民の皆さんには十分に注意して巻き込まれることの無いよう、切に願う所存である。

 クロスベルの問題もある中、これからエレボニアは何処へ向かって行こうとしているのか。出来る限り続報をお届けしたいと思う。』

 

 読み終わったリィンとセリーヌは何も言えなかった。1日置いて帝国内で動いた事が余りにも大きすぎたのだ。

 

「そうか……クロチルダさんの術で帝国でのことは垣間見れて、守備隊があの兵器に敵わなかったのは知っていたけど、戦艦については分からなかったな。それより、トリスタの保護を名目にした占拠……別紙の《C》の声明……」

「そうね……とりあえず、学院の皆はひとまず無事であると判断して良さそうね。正規軍も全滅したと言うわけでは無く、主力部隊はまだ健在でしょう。逃げる時、フィーちゃんが言ってたけど……正規軍は精鋭揃い。恐らく機甲兵に対する対策も立てるでしょう。そして、今までの戦争の流れからして、そう遠くない未来、必ず大きな戦いがあるでしょうね……正規軍の今後の主力になるのは第四機甲師団あたりでしょう」

「グレイグ中将が指揮する部隊か……ナイトハルト教官もいたな。俺、今まで特別実習で各地を回って、改革派や貴族派の対立とか問題を見て来たけど、どこも危うくて、少し触れたら爆発する……そんな感じだったんだ……でも……まさか今……」

 

 それ以上は言葉を紡げないらしく、口を閉じる。

 

「ふぅ……そうね。ただこれからはその実習で得たものが必要になる筈よ。心しなさい。さて、別紙の方を読みますか」

 

 そう言うと別紙をリィンの方に追いやった。

 

「どうせ気になって気になって仕方がないんでしょう? 先に読ませてあげるわ」

 無言で頷き、別紙を取り、広げる。読み始めて、5分は経っただろうか。眼球が忙しなく動く。2回は読み返しているのだろう。そして、読み始める前と比べ、顔色が蒼白になっているのは目の錯覚ではないだろう。カウンター上に置く。セリーヌが読み始める。紙面にはこうあった。

 

『帝国各地の皆様、御機嫌よう。こちらは帝国解放戦線である。この文はリーダーである《C》が書いている。

 まず、始めに言っておこう。今我々は近郊都市トリスタを保護している。理由は皆様もご存じの通り、ギリアス・オズボーン宰相が凶弾に倒れた。よって、我々の悲願である宰相に鉄槌を下すことは達せられた。しかし、それによってご存知の様に帝都が謎の勢力によって占領せしめられた。この分では謎の勢力が帝都にほど近く、トールズ士官学院を擁する都市であるトリスタを襲撃するとも限らない。我々はその認識に立ち、身勝手ではあるが、保護させて頂いた。学院の生徒は勿論、トリスタの住民の方々は傷一つ付けてはいない。その点はご安心頂きたい。

 帝国がこのような状況では保護者の方々もさぞ心を痛めている事だろう。我々が責任を持って無事に帰らせることをここに約束しよう。他意は無い。目的が達せられた今、未来ある若者を守る、その一心だけだ。拙い文章ではあるが、ご容赦願いたい。帝国を取り巻く状況が少しでも改善されることを願ってこの声明の結びとしたい。

 

 追伸

 

 我々の懸命な保護活動にも限界があり、残念ながら何人かの行方が分からない状況となっている。分からないのは、何名かの特科クラスⅦ組の生徒と学院の講師である。それ以外のクラスは無事だ。ここにその行方が分からない者の名前を載せる事とする。次の通りである。括弧内は年齢である。

 

 リィン・シュバルツァー(17)

 フィー・クラウゼル  (15)

 ミリアム・オライオン (13)

 サラ・バレスタイン  (25)

 

 この4名である。この四名については、今も捜索中である。』

 

 文はそこで終わっていた。セリーヌは読み終えるとリィンの前に移動した。

 

「色々と気に病むところはあるかもしれないけど……皆は一応は無事の様ね。今はそれで良しとするしかないわ」

「そうだな。でも、何故か安心した。あいつが……クロウがちゃんとしてて、さ」

「……ま、いいわ。さて、問題はこれからの事ね」

 

 リィンは読み終わった帝国時報を店の主人に返した。その少し後に主人がリィンに刀とアークスを返した。

 

「いやぁ、良いものを見せてもろうた! 新型のオーブメントがあるというのは噂で聞いとったが……それが例の物じゃな? 今までの物には無い機構が取り付けられているのが良く分かったわい。そして、より戦闘に特化した、ということがな……。それよりも、その刀じゃ! 数える位しか見た事が無かったが……極東の国より伝わった形状じゃな。斬る……その動作に特化した鋭さじゃな。それから良く手入れされておるのが良く伝わってきたわい。その刀は幸せ者じゃな。持ち手に恵まれておるようでな。しかし……いくつかガタが来とる。ここ最近、何か硬いもの相手にした感じじゃな」

 

 リィンはそれを聞いて、嬉しく思ったが、同時にドキリとした。店の主人が思いの外、鋭かったからである。

 

「はは……」

 

 苦笑いをせざるを得なかった。

 

「ふはは……深くは聞かんよ。どうやら事情がありそうだしのぅ。どれ、そのオーブメント共々ここで調整して行くと良い。お代は要らんよ。良いものを見せてもらった礼じゃ。この奥の工房に孫がおる。心配せんでも腕は良い。どれ、儂は用意をしてくるかの……」

 

 そう言うと、主人は近くの階段を昇り、2階に消えて行った。リィンとセリーヌは顔を突き合わせ、相談した。

 

「まぁ、折角だから見て貰ったら? その刀も心配だし。あの機甲兵相手に戦ったんだから」

「それもそうだな……よし、見てもらうとするか」

 

 リィンは刀を左手に、アークスを右手に持って奥の扉の前に立ち、ノックをした。

 

コンコンコンコン――

 

 少し待ったが、返事がない。もう一度ノックをする。

 

コンコンコンコン――

 

だが、またもや返事がない。

 

「何かに夢中なのかな……それとも単に居ないのかな?」

「ご主人の許可はあるわけだし、入ってみたら?」

 

 セリーヌのその言葉を聞き、リィンは「すいませーん、お邪魔しますー」と声を掛けながら扉を開いた。その瞬間、

 

ヒュンッ。

 

 何かが飛んできた。ドライバーだ。自分の顔の数セン横を通過して行き、店の壁に突き刺さった。その攻撃に対し瞬時で戦闘態勢に入り、飛んできた方角を見る。すると、そこに居たのは自分より少し年下であろう女の子であった。髪は紫に近い黒のストレートボブ。瞳の色は焦げ茶色だ。女の子は顔を赤くし、震えている。何故かは分からなかったが、一秒後、把握できた。着替え中だったのだ。まだ着ていない服で自分の体の前面を隠している。その為、肩などの隠し切れない肌が見て取れた。

 

「あ、いやこれは……」

 

 必死に弁解の言葉を紡ぐが、女の子はそれに意をかさず、また近くにあった工具を手当たり次第に掴み、投げてくる。ペンチ、ドライバー、ハンマー、釘。

さすがのリィンも即時にドアを閉める。

 

ドガガカカッ

 

 ドアに工具が突き刺さる音がする。それを聞いてドアに背を預けて座り込む。

 

「ふはぁ~っ……何なんだ、今のは!?」

「まぁ、あたしもびっくりしたけど……今のは私達が全面的に悪いわね……」

「いるんなら返事の一つぐらいしてくれてもいいじゃないか!」

 

 そんな事を言い合っていると、二階から音がする。主人が降りてくるようだ。

 

「何じゃ、今の音は!?」

 

 さっきのドライバーが突き刺さる音を聞いて降りて来たらしい。ドアの前にへたり込むリィンの姿をみて、全てを悟ったように掌を目にやって溜息をついた。

 

「すまん、忘れておったわい。ちょっとそこをどいてくれるかのう?」

 

 そう言われてリィンはドアの前から立ち上がった。そして主人がドアの前に立ち、ドアの右側の縁にある小さなボタンを押す。すると、ドアについていた擦りガラスの向こうが黄色く光った。そしてドアの向こうから気配が近づいて来る。ドアが開く。さっきの女の子が出て来た。まだ怒っているようで、額に皺が寄っている。

 主人は女の子に手を合わせ、謝り、女の子と会話をしているらしい。が、声は聞こえない。どうやって会話をしているのか。リィンはそれが分からなかった。ただ、腕が忙しなく動いていた。

 

「すまんかったの。説明するのを忘れておった。紹介する。こちらが儂の孫のファベルじゃ。ほれ、ファベル、挨拶は?」

 

 主人はファベルと呼ばれた女の子に手を差し出し、指を動かす。だが、ファベルはそっぽを向いたまま何も話さない。

 

「……すまんの。臍を曲げてしまっているようじゃ。そうそう、儂の名前も言うのを忘れて

おったな。わしの名前はシュミットじゃ。ファベルはベルと呼ぶと良い。どれ、もうお昼時じゃ。お前さん達も一緒に食べると良い。見てもらうのは後でもよかろう?」

 

 「ぐぅ~っ」ファベルのお腹から響いてきた。顔を真っ赤にしながら早々と2階に上がって行った。それを見ていた2人と1匹は笑った。

 

「それじゃ、遠慮なく。後で謝らないとな~」

「ほっほ、どれ、上がりなさい。こちらの猫にはミルクで良いかな? それとも焼き魚が良いかな?」

「あぁ、すみません。まず、ミルクをお願いします」

 それを聞くと、シュミット老人は上に上がって行った。なるほど、2階からは焼き魚の匂いがする。

「リィン、私はミルクと焼き魚の身だけ頂戴」

「分かったよ」

 

 そんな会話をしながらリィンとセリーヌは階段を昇って行った。昇って行った先には美味しそうな豆のスープ、焼き魚、ご飯が並んでいた。どれも作りたてらしく、湯気を湛えていた。シュミット老人がテーブルの近くにミルクを入れた皿を置いてくれた。セリーヌはその皿の近くに移動し、食事が始まるのを待った。

 

「どれ、そこに座りなされ」

 

 リィンはシュミット老人に薦められて、老人と対面になる席に座った。老人の隣にはファベルが座っている。まだ顔を合わせてくれない。それを見て、

 

(こんなことが前にもあったような……あぁ、入学したての時のアリサの反応と同じなんだ……)

 

 そんなことを思いつつ、シュミット老人が掌と指を絡め合わせたのにつられて掌を絡め合わせた。ファベルも同様だ。セリーヌは目を閉じた。

 

「我らをお見守り下さるエイドスよ、今日も無事に昼食を食せる事に感謝いたします」

 

 そう言うと、頭を垂れ、感謝を捧げた。リィンもセリーヌもそれに習った。そして、食事が始まった。スープを口にすると、

 

「! う、旨い! このほんのり効いた塩味、癖になりそうだ! それにこの焼き魚、これはカサギンですね! シンプルに焼き上げて、ちょっと分からないですが、少し掛けられている液体が風味と旨さを引き上げている! 米も丁度いい硬さで美味しい!」

 

 そんな風に興奮したリィンをニコニコと子供、孫を見るかのような笑顔でシュミット老人が見ている。それに気づいたリィンは気恥ずかしくなった。

 

「あ……すみません、思いがけなくはしゃいでしまいました」

「ほっほ、良いんじゃよ。そんな風に言ってくれると嬉しいのぅ。いつもは二人での食事じゃからの。賑やかなのは久々じゃ。先ほど君が言った液体は醤油と言ってな、東方で使われる調味料らしい。ちなみにそのスープはファベルが作った物じゃよ」

「東方の……そうでしたか。昔、これと同じものを口にした記憶があります。(ファベルの方を向いて)このスープ、君が作った物なんだって? とっても美味しいよ!」

 

 リィンにそう言われたファベルだが、何故か困惑した様子になり、シュミット老人の方に向き直り、手を動かしている。何かの意志表示なのか。それよりもリィンはまだ嫌われているのか、と肩を落とした。それを見たシュミット老人はこう言った。

 

「すまん、まだ言うて無かったのぅ。配慮が足りておらんかった。このファベルはな……実は耳が聞こえんのじゃよ。声を用いての会話は難しいのじゃ。じゃからさっきも君が見た通り、会話にはハンドサインと言うてな、手や指、腕に決まった動きをさせて、それに意味を持たせて自分の意志を伝える方法を取っておる。これは習得期間が必要じゃから、君には難しいかもしれん。もしも会話をするのであれば、紙に文章を書いてやり取りをすると良い。」

 

 そう言うと、キッチンの一角にある食材の棚に置いていたメモ帳とペンを持ってきた。それをリィンの方に差し出した。それを受け取ったリィンは先ほど自分が言った事を紙に書いて千切り、ファベルに差し出した。それを読んだファベルは俯いてリィンとは目を合わせずに黙々と食べ始めた。リィンはそれにさっきよりも強い危機感を感じたが、

 

「ははは、心配せんでも大丈夫じゃよ。このファベルはとても嬉しくて顔を合わせられんだけじゃよ。後で武器とオーブメントを見てもらうんじゃろう? その時に大いに語らうと良いじゃろ」

 

 その言葉にリィンは少し安堵した。だが、『耳が聞こえない』その今までの人生の中で関わった事もない存在を前に少し混乱していた。紙に書けば通じると言われたとはいえ、相手が書いたところを見てもいないのだ。本当に通じるのだろうか。そんな不安を抱えつつも食を進める。食後の茶を啜っていると、シュミット老人が声をかけて来た。

 

「どれ、今の内に見せてやってはくれんかね?」

 

 アークスと刀をファベルに見せてやってくれ、と言う事だろう。不安を感じつつもファベルの目の前にアークスと刀をメモと一緒に差し出す。そのメモには

 

『さっきは済まなかった。俺が軽率だった。その上で俺の武装を見てもらうのは心苦しいけれども、宜しくお願いします。』

 

 こう書いてあった。まず、ファベルはそのメモを読むと、ポケットに入れた。そして、刀を抜く。刀が鞘走る音がする。刀身が完全に引き抜かれた。通常、刀は見た目に反して重い。しかも東方伝来の形状ともなると重心が先端に近くなるので、手首がふらつくものだ。だが、それが無かった。しっかりとした動作だった。そして柄、峰、刃と順に見ていく。何故かは分からないが、迫力があって何も言葉を発せなかった。

 しかし、これだけは言える。少しずつ顔が明るくなってきているのだ。何故だかリィンにはその顔がエリゼと重なった。大好物のスウィーツを目にした時と同じなのだ。

 検分を終えたのか、刀を鞘に仕舞う。そして紙にペンを走らせる。とても速い。書き慣れているのだろう。書き終わるとリィンの方に差し出す。

 

『直接話すのは初めてですね。着替えを覗かれたのはまだ怒ってます。でも、この刀を見たので、少し許します。とてもいい刀ですね。本当に大事に使われてる、そんな想いが分かります。

 申し遅れました。もうご存知とは思いますが、私の名前はファベルと申します。この刀をどうか整備させてもらえませんか?』

 

 紙面にはこう書いてあった。綺麗な字だ。その文章を見たリィンは即座に返事を書く。

 

『それはこちらからお願いしたい事です。存分にやって下さい。』

 それを見たファベルは笑顔になった。嬉々として鞘や柄を見回す。その様子を見ていたシュミット老人が言葉を漏らす。

 

「ベルがこんな顔になるなんてなぁ。久し振りだ」

 

 ファベルが刀を机の上に戻す。アークスの番らしい。アークスを手にしたファベルは恐る恐るアークスの蓋を開ける。そこには、見事な景色があった。クォーツが嵌められ、僅かながらも導力が通っており、時折ラインが煌めいた。ファベルは涙を流した。此処までの完成度を持ったオーブメントが目の前にあるのだ。一流の芸術作品を見て流す涙と等しい。

 そうとは知らないリィンは焦りまくる。「どっ、どうした!? まさか、そこまで悪いのか!?」などと呟いている。流石に助けてやろうと思ったのか、シュミット老人が声を発した。

 

「心配は要らんよ、リィン君。あれは嬉しくて涙を流しておるのじゃ。ベルは、良いものに巡り合うと、涙を流す癖があるのじゃ。まぁ、武器、機械限定なんじゃがな……両親の育て方が間違っとったのかのぅ……」

 

 そう言いつつもベルの傍に行き、頭を撫でる。その顔はとても嬉しそうだ。

 

「そ、そうなんですかー。はぁー、びっくりしました。……ん? えっと、シュミットさん、何で俺の名を……? 一度も名乗った覚えはないですが?」

 

「ほっほ? それを分かっててアークスを儂に見せたと思ったのじゃが? ほれ、アークスに所有者の氏名が刻まれとったわい」

「え!?」

 

 シュミット老人はファベルからアークスを受け取ると、リィンに手渡す。受け取ったリィンはアークスを開き、まじまじと見る。だが、名前らしきものは無い。

「そこじゃなくて、カバーの方じゃ。カバーのエンブレムの上にプレートがあるじゃろ? そこに刻まれとるよ」

 

 そう言われ、開いていたカバーを閉じ、カバーの表面にある獅子のエンブレムの上にあるプレートに目をやる。確かにそこに名前が刻まれていた。

 

――そういえば、気にした事が無かった。これからはちゃんと気を配ろう……

 

自分にそういう自戒を込め、再びファベルにアークスを手渡す。ファベルはアークスのチェック作業に入る。目が凄く輝いている。音楽を前にしたエリオットのようだ。

 

「……今まで名を名乗らず、申し訳ありません。俺は故あって、名を気軽に名乗れない状況にあります。もはや察しはついているでしょうが、俺はあのトールズ士官学院の特科クラスⅦ組に在籍している、リィン・シュバルツァーと申します」

 

 リィンはそう言うと深々と頭を下げる。正体を隠していたことに対する謝罪と、それを分かった上でもてなしてくれたことに対する感謝の念であった。

 

「んんー? 今、何か言ったかの? 儂にはリィン君と言う所しか聞こえんかったのぉ。すまんの、年を取って耳が遠くなってなぁ」

 

 そう言うと、何もなかったかのように椅子に座って茶を飲み始めた。場にはファベルがアークスをチェックする際に立てる小さな金属音しか響いていない。

 

「シュミットさん……」

 

 先ほどの老人の発言の意図を汲み取ったのだろう、その上で出た言葉だった。

 

「いつまで立っとる気かね? 飲みなさい、折角の茶が冷める。」

 

 そう老人に薦められ、席に着き、茶を飲む。

 

「ふふ……それにしても君がのぅ。まぁ、さっき聞こえんかったと言うのは冗談じゃがな、一つだけ聞かせて欲しいことがあるんじゃが」

「……何なりと。答えられるのであれば」

「うむ……トールズ士官学院と言うたな? 事件に巻き込まれた当事者の口から聴きたいのじゃ。今、学院はあの帝国解放戦線に占領されとるようじゃが、生徒、教師の安否はどう考えるね?」

「はい、実はクロ……いえ、Cとは憚りながら面識があり、敵ながら信用はおけると自分は考えております。恐らく、無事ではないかと」

「そうか……」

「あの、すみませんが、何故、俺がここに来た時から正体が分かっていたなら領邦軍に通報するなりなんなり出来たと思うのですが、何故しなかったのですか?」

「ふふ……『トールズ士官学院特科クラスⅦ組』、その噂はこの遠く離れた地までも伝わっておるよ。特に……先のザクセン鉱山の事件は見事な活躍だったそうじゃないか。面識はなくとも、信用は出来るのでは、と以前から思ってはおったのじゃ。とはいえ、まさかいきなり現れるとは思いもせんがったがの。それから……儂はな、領邦軍は好かんのじゃ。」

「そうですか……すみません。助かりました。それから、表の看板に書いてあったマクガイアと言う名……何か聞き覚えがあるのですが、過去に軍などに所属されていたことは?」

「んん……気のせいではないかの? マクガイアと言う名自体、良くある名じゃからの……」

 

 老人がそこまで言い終わったとほぼ同時にそれまでアークスに集中していたファベルが顔を上げ、老人にハンドサインを示し、アークスと刀を持って、下に降りて行った。

 

「ふむ、今から本格的な調整をやるそうじゃ。恐らく、あの入れ込みようでは5時間はかかるのではないかの……」

「えぇ!? 5時間!?」

 

 柱に掛けてあった時計を見る。この時代には珍しく導力式ではなく、手巻き式の時計らしい。年代を感じさせる雰囲気を醸し出している。見ると2時を指しかけているところだ。

 

「今1時だから、少なく見積もっても6時! だ、大丈夫かな……」

「ははは……少なくとも今は時間に縛られる身分ではなかろう? 2~3日位なら問題は無い。ゆっくりして行きなさい。どれ、ベルの様子でも見てくるかの……ふむ、リィン君、君はグエンの言う通りの人柄じゃな……」

 

 そう言い終わると、飲み終わった器を持って台所に置き、下に降りて行った。

 

「…え?」

 

 予想外の人物の名が出て、声をかける以前に思考回路がスパークした。

 

――グ、グエンさん? そ、それってアリサの……いやいや、まさか……でもなんで?

 

 そこまで考えたところで、それまで口を閉じていたセリーヌが声を発した。

 

「ふぅ……どうなるか肝を冷やしたわよ……色々と驚愕の事実が飛び出て来たけど、何はともあれ、良かったじゃない?」

「いやいや! これが落ち着いていられるか!」

「全く……余裕がないわねぇ。それも当然か。まぁ、良いわ。それにしてもマクガイア……私も耳にしたことがあるんだけど、思い出せないわね。とりあえず、私たちも下に降りましょう。」

 

 セリーヌが階段を降りていく。トントンとリズミカルな音だ。

 

――……なんか滅茶苦茶な事になってないか? 助けてくれ……アリサ……Ⅶ組の皆……

 

 心の中で突っ込みを入れつつ、残っていたお茶を飲み干す。そして台所に持っていく。セリーヌが舐めていたミルクの皿も一緒に。置いた時、台所の窓から村の通りが見えた。少し先にさっき水を飲んだ井戸が見える。人通りは少ない。帝都での混乱が影響しているのだろうか。そんな事を考えつつ、心を落ち着かせた。そして、階段を降りて1階に向かった。1階に降りると、シュミット老人がカウンターに座って店番をしていた。その背にある作業室では、ファベルが腕を振るっている筈だ。

 

「そう言えば、ファベルさんってどこであんな腕を身に付けたんですか? やはりシュミットさんがご指導を?」

「む……儂はほんの少し、武器に関する知識と技術を伝えただけじゃ。導力機器に関しても少しは伝えたが、大部分はラインフォルト社で修行していた。と言ってもルーレ工科大学での研修が大半じゃったがな。」

「!? ラインフォルト社……!? そ、それって、ルーレにある……?」

「そうじゃ。あそこでは儂の息子夫婦が働いとるでな……そういえば、少し前に話題になっとったアルセイユ型2番艦、カレイジャスの合同建造の基礎もやっとったな」

 

 開いた口がふさがらないとこの事を言うのだろう。まさかあの娘がそんな凄い所で修行していたなんて。

 

「元々息子はラインフォルト社で働いとったのじゃが、その時にルーレ工科大学におった女学生に一目ぼれしてな……」

「なるほど、そういう訳でしたか……何ともすごいですね」

「まだまだひょっこじゃ。じゃが、人並みには腕はあると思っとる」

 

 ひょっこと言いながら、その顔は何処と無く嬉しそうであった。恐らく、贔屓も入ってるのかもしれないが、自慢の孫なのだろう。

 

「分かりました。終わるまで時間が掛かりそうですね。何もせず御厄介になるのは肩身が狭いです。何かお役にたてることはありませんか?」

「ほ、遠慮せんでもいいに……そうじゃな、そろそろ薪が残り少なくなってたところじゃ、もし良かったら蒔割りでもお願い出来るかね」

「どうぞ、喜んで」

 

 老人に家の裏に木と斧と作業場があると言われ、家の裏手に移動し、蒔割りを始める。

 

――カン、コン、カン、コン、カン……

 

 リズムよく、薪を割って行く。その手つきは慣れたものだ。

 

「へぇ? 上手いじゃない」

「実家で良くやっていたからな……晩秋からは蒔割りが日課みたいなものだったよ。」

 セリーヌとそんな会話を交わし、作業に没頭する。

 

――やっぱり何かに没頭するっていいな……余計な事を考えずに済む……そう言えば、ユミルもそろそろ雪の季節だな……

 

 ある程度薪を割った所で小休止を入れる。額に出来た汗を拭う。その時だ。近くの草むらから何か音がする。人間が草をかき分けて進んでくる音だ。此処からは視認できない。当然、戦闘態勢に入る。斧は得手ではないが、無いよりはましだろう。そして相手を待ち構える。その相手は出てきた。だが……子どもだった。予想外の相手に意表を突かれ、気が緩むが、直ぐに立て直す。

 

「何の用だい?」

 

 そう聞くと、子どもが口を開いた。

 

「げ……誰かが居るなんて……爺さんは店番してたからいないと思ったのに……兄ちゃん、

誰?」

 

――そうか、ここでは俺は余所者だった。

 

「あぁ、俺は色々あってお世話になってるのさ。今は蒔割りをしていた所だよ」

「ふーん……ならいいか……俺はライルって言うんだ。宜しくな!」

 その目上にも関わらず口調が生意気なのはこの際、置いておくことにした。

「あぁ、ライル君、宜しく。ところで……何しに来たのかな?」

「そ、そんな事……言えるわけないじゃないか……」

 

 少し顔を赤らめている。

 

――この反応、何回も見た事がある。だが……何の反応だったかな……

 

 そんな事を考えていると、ライルは走って蒔割り台の横を通過して、そこまで大きいとは言えない窓を覗き込む。リィンも駆け寄る。その窓は、作業室を覗き込める窓だった。そのガラスの向こうではベルが一心不乱に作業をしていた。刀を槌で叩いている。歪みを取る作業の様だ。

 

「はぁぁ~っ、やっぱすげーなー! 武器とか導力機械の調整が出来るとか……マジかっけ~」

 

――ふ……ん? 言葉に淀みがあるな……おそらく本心じゃないだろうな。本当の目的は他にありそうだ

 

 リィンはライルの嘘を見抜きつつも口には出さず、ライルの発言に答えた。

 

「そうだな。かっこいいな。でもやっぱりあの女の子の方がもっとかっこいいよな」

「おおっ、兄ちゃん、分かる!? そうなんだよな、ベル姉ちゃん、綺麗だよな……」

 

 一瞬の後、ライルは自分が自爆した事に気づいた。語るに落ちる。まさかここまで引っかかるとは……

 

「ず、ずるいぞ! 今のはゆーどーじんもんだ! 無効だ!」

 

 少し笑みを作って、

 

「何の事かな? 俺は何も言ってないよ? 君が勝手に言ったんじゃないか……」

「う、うるさいな! !まさか、兄ちゃんもベル姉ちゃんを……? そ、そうはさせないぞ!」

 

 かわいらしいパンチをリィンに浴びせてくる。何故パンチされるのか分からなかったが、付き合ってやる事にした。

 当然力の差があるから完全にライルは遊ばれてる。体捌きでライルの足を少し引っかけて前のめりに倒れさせる。そして素早く前に回り込み、ライルの両脇を支える。

 それで差があると悟ったのか、それ以上は抵抗しなかった。

 

「兄ちゃん、強いな……」

「はは、今のはたまたまだよ。……何が目的なのか話してもらえるかな?」

「うっ……俺、前にベル姉ちゃんに助けてもらった事があるんだ。父ちゃんが大事にしていた導力ラジオを落として壊しちゃってさ……んで、怒られたくないと思ってそのラジオを持って家出したんだ。でも、結局どうにもならなくてさ、そこにあの姉ちゃんが来たんだよ。多分、この村に帰ってきたんだろうな。でかいキャリーケースを持っててさ……。俺を見て近づいてきたんだ。

 んで、紙に書いて、どうして泣いてるのか、聞いてきたんだ。なんで紙に書くのか分からなかったけど、大人しく理由を書いて渡したら、少し考え込んで、私と一緒に来ないか、って言ってくれたんだ。実家は工房だから力になれるかもしれない、ってさ。でも、お金がないって言ったら、そんなのは要らないよ。君がこの村での初めてのお客さんだから! って。

 ついて行って、工房でラジオを渡したら爺さんと何かやり取りをしてこの作業場に入って行って、ほんの三十分後位にはラジオが直ってて、渡してくれたんだ。そのお陰で心配事が無くなって家に帰れたんだ。

 でも、結局ラジオの音が以前より良くなっててさ、親にはばれちゃったんだ。親には正直に話したよ。でも、何でか分からないけど親は何故かベル姉ちゃんとはもう会うな、って釘を刺されてさ。……だから、こうやってこっそり見に来るしかないんだ」

「そうか……君は、彼女が好きなんだな?」

「な、なな何を言うんだよっ!? そんな事、無いよッ!」

 

 ライルの顔が赤くなる。その顔を見て、リィンはやっと思い出した。

 

――あぁ、そうか。「好きな人はいないのかい?」とエリゼに聞いた時の顔」だ……。と言う事はエリゼにも好きな男がいるってことだな!? きっちり聞き出さないと……

 

 そんな遥か彼方にとんだ意識を強制的に引き戻す。

 

「君は彼女が聞こえないって事を知ってるのかい?」

「もちろん知ってるさ! だから親はもう会うなって……何でだよ!? 可笑しいだろ!」

 

――俺も今まで彼女の様に耳が聞こえない人に会った事は無かった。自分達とは違うと言う事で恐れているのか? 貴族派と革新派の対立だけじゃない、まだまだこう言った偏見に満ちた問題が残されているじゃないか……

 

 そう思うと、何故か自然と次の言葉が口から飛び出した。

 

「ライル、君は……彼女を護りたいと思うかい?」

「当ったり前さ! でも……親の反対を乗り越えられる程強くないよ」

「……なら、少しだけでも教えてあげようか? ……武術を、さ」

 

 そう言った途端、ライルの目が俄然輝きだした。

 

「まじで!? 頼む! ……いや、お願いします!」

「本当に良いのかい? 本当にほんの少しだけど、さ」

「もちろん!」

「分かった」

 

 その時、リィンの心の中に師匠の言葉が浮かび上がった。

 

――こりゃ、リィン! お前は他者に教えを与えられる程の力を持っとるのか!?教えると言うのは軽々しく口にすることではない! 教えると言うのは、相応の責任を負う事になる事ぞ。お前に八葉の名を背負う、その覚悟はあるのか?

 

 目前に師匠が居て、直に言われた様な心境だった。だが。

 

――……師匠、俺は……ライルに教えたい。例え少しだけでも、誰かを護る力を与えられる

なら……責任云々の事は分かります。それでも!

 

 しばしの間、そんな問答が続いたが、やっと決まった。ライルの一言があったからである。

 

「兄ちゃん、お願いします!」

 

 その一言が肚を括らせた。もう吹っ切れた。

 

「よし! じゃあ、まずは型を少し覚えようか。俺の真似をしてついてきてくれ」

「はい!」

 

 暫くの間、稽古が始まった。教えるのは八の型、無手の型であった。だが、リィンはその事を口にしなかった。そしてその様子を見ていた者がいた。ファベルである。ライルの気配がしなくなったのを不思議に思って窓に近づいていたのである。稽古をしている内に、陽が落ち、空にはもう一番星が輝いていた。ひんやりとした風が頬を撫でた。

 

「あっ、やっべぇ! 俺、そろそろ帰らないと!」

「ああ、そうか。もう暗いから気を付けてお帰り。反復練習は大事だぞ!」

「うん、分かった! あ、そう言えば兄ちゃんの名前聞いてねぇ!」

「言ってなかったか。俺はリィンだよ」

「リィン兄ちゃん、またな! あと、ベル姉ちゃんにはさっきの事言うなよ!」

「あぁ」

 

 そう言うとライルは走って表通りへと出て行った。リィンは近くにあった蒔割りの斧と台を片付け、割った薪を纏めて店の中に入って行った。セリーヌはリィンの足の間からスルッと店内に入って行った。

 

「あぁ、お疲れさん。遅かったね。すまないが、薪は纏めて2階に置いてくれるかな」

「分かりました」

 

 割った薪を2階に持って行き、少量の薪が積みあがっていた所に置く。そして、もう夕飯時と言う事を思い出し、食卓とキッチンを見る。まだ夕飯の支度は出来ていないようだ。一階に向かって声を出す。

 

「すみませーん、もし迷惑でなかったら俺が夕飯を作りましょうかー?」

「ほう、そろそろ準備しようと思っとったが……それなら甘えるとしようかの。食材は有る物を使って構わんよ。因みに今夜はパンの予定だ」

「分かりました! 出来そうになったらお呼びします!」

 

 そう言って夕飯の料理に取り掛かったが、改めて考えると、自分にそこまでのレパートリーが無かったのを思い出した。

 

「あぁ……士官学校では男子は料理の実習が無かったからなぁ……どうしようか……」

 

 そんな事を考えていると、ふと昔の事を思い出した。

 

――そう言えば、料理を作ったと言えば、士官学校に入る前に家でした切りだな……そうだ、エリゼと作った料理があった……

 

 回想を終えると、早速準備に取り掛かった。材料を揃える。じゃが芋、ニンジン、玉ねぎ、長ネギ、アスパラガス等。材料を揃えると、それぞれの材料を必要な大きさに切って行く。

 

トントントントン……

 

 リズミカルな音が奏でられる。その音にシュミット老人は目を細め、その心地よい音に耳を預ける。セリーヌも同様である。

 具材を切り終えると、鍋に火をかける。水を投入し、具材も投入する。コンソメ、塩、胡椒等の調味料で味を調える。また、使っていなかったもう片方のコンロにもフライパンを乗せ、火にかける。そちらには油をひき、ほうれん草、ベーコンを投入。炒め、胡椒で味を調え、良い焼き加減になったら火を中火にし、溶いた卵を落とす。上手くほうれん草とベーコンをとじる。そのタイミングで下の2人を呼ぶ。

 

「すいませーん! そろそろ出来ると思います!」

 

 そう言った直後、カウンターの椅子が動く音がし、工房のドアを開ける音がする。今回は工具は飛んでこなかったようだ。そして階段を昇ってくる音がする。先に上って来たのはシュミット老人だった。

 

「おぉ、良い匂いがするのぅ。どれ、皿を出さねばならんな。」

 

 老人が皿を出し、テーブルに並べる。そのタイミングでファベルが階段から顔を出した。厨房に立つリィンを見て、その風景が見慣れないのか目をパチクリさせている。状況が掴めたようで、上がってくるとスプーン、フォーク、コップと言った食器を出してテーブルに並べ始めた。そこへ老人が細長いパンを切った物を籠に入れてテーブルの端に置いた。中央には鍋敷きを置いた。つまり鍋はそこに置いてくれと言う事なのだろう。

 リィンは既に出来上がった鍋の味見をしてから鍋敷きの上に運ぶ。ほうれん草とベーコンの卵とじも各自の皿に載せる。そして全ての準備が終わり、リィンも席に着く。昼食の時と同じく、空の女神に祈りを捧げる。祈りが終わると、老人が待ち切れんと言った面持ちで鍋の蓋を取る。

 

『ふわぁ~っ。』

 

 まさにそんな言葉が聞こえるように湯気がもうもうと立った。

 

「おお、こりゃ旨そうじゃのう。リィン君、これは一体何じゃ?」

「ええ、これは俺が実家で良く作っていた料理でして、ポトフと言います。材料を切って鍋にぶち込んで煮れば完成、という至極簡単な料理です。それでいて体が温まるので今日みたいな日には丁度良いかと思いまして。」

「ほう、それはますます美味しそうじゃ」

 

 そう言うと、シュミット老人はファベルの方を向いて今話した内容を伝える。それを理解したファベルは羨望の瞳をリィンに向けてくる。

 

「ほっほっほ、ベルは料理が下手でのう。目玉焼きとかスープとかそう言った簡単な物しか作れんのじゃよ……」

 

 そう言うと肩をすくめる。今の会話の内容は聞こえていないはずだが、老人の型を叩く。

 

「おぅおぅ……今のは見えてしもうたか。まぁ、こう言うのは読めるじゃろうしの……」

 

 老人がそう言ったのをリィンは見逃さなかった。

 

「あの、今のは? 読めるって?」

「おおぅ、その事については追々話すとしよう。それより鍋が冷める。食べようではないか」

 

 そう言うと老人はお玉で自分の皿にポトフを移していく。その後にファベル、リィンと続く。リィンは自分の分を移すと、次に小さめの皿にポトフを移し、セリーヌの近くに置かれたミルクの隣に置いた。スプーンを持つとそれぞれ一斉にスプーンを突っ込み、口に運ぶ。

 

「! 旨くて温かいのぅ!」

「はふぅ~っ」

「我ながら上手く出来た!」

 

 三者三様にコメントは違いつつも恍惚の表情を浮かべる。しかしその中でもファベルの表情は元々が美少女なものだから余計にエロチックで艶めかしいものだった。それを見たリィンは一瞬とは言え、心奪われてしまった。しかし、

 

――いやいや! 何やってるんだ俺は! しっかりしろ、リィン・シュバルツァー!!

 

 自分にそう活を入れ、強制的に平常心に戻した。そんなリィンの様子を見ていたのか、ファベルが微笑みを浮かべる。勿論、リィンがそれに気づく事は無かった。

ほうれん草とベーコンの卵とじソテーも好評を得、食事は和やかに進んだ。そして食べ始めてからおよそ四十分後、食事が終わった。ポトフは余ったので、次の日に持ち越す事となった。食べ終わった後の食器はシュミット老人が洗っている。「儂は良いから二人で話をしなさい」と強制的にリィンからその役目を奪ったのだ。そこまで言われてしまっては何も話さないわけには行かない。話し始めたのはファベルだった。昼と同じように紙でのやり取りである。

 

『今日は有難う。貴方が作ってくれたポトフ、とっても美味しかったわ。貴方、料理が上手いのね。私はスープとか簡単なものしか作れないから尊敬するわ』

『上手いと言ってもまだまだだよ。妹の方がもっと上手いからさ……ベルの方こそ武器や導力製品の調整や製造が出来るだろ? 俺は出来ないから逆に凄いと思うよ。お互いさまじゃないかな』

 

 読み終わると、ファベルは顔を少し曇らせて書いた。

 

『機械いじりとかは好きでやってるから良いんだけど……やっぱり女の子なんだから、もっと料理が上手かったらな……って思う事があるわ』

『ごめん、無神経な事を言っちゃったな』

『ううん、いいの。分かってるから』

 

 そう返って来た時、リィンはあっちゃーという顔をした。アリサ相手だったらグーパンも

のである。そんな事を考えてる内にファベルが続きを書いて寄越した。

 

『さっき、貴方の刀とアークスを整備させてもらったのだけれども、とても丁寧に使われているのが改めて分かったわ。ただ……申し訳ないのだけれども、一つ警告しなければならない事があるわ。それは、刀の事よ。あの刀はあの形状からして東方伝来の物と思ったわ。あれは刀身は薄いけど、それを補って余りあるしなやかさと鋭さ、切れ味があるわ。だからこそ、よ。貴方がどんな戦いをして来たのかは分からないけど、とてつもなく硬い相手もしくは武器を相手に戦ってきた代償として刀の耐久力が著しく低くなってるわ。もしも今までと同じような戦いをするなら、そう遠くない未来、死ぬわ。』

 

 ファベルの返事を見たリィンは衝撃を受けた。結びに使われた「死ぬ」と言う言葉もそうだし、なによりユン老師に師事してから今まで使い続けた自分の分身とも言うべき刀の寿命宣告をされたようなものだったからだ。とは言え、今の状況では戦いを避けることなど、出来ないだろう。

 

――だが、それでも知らずにいるよりはまだいいはずだ。感謝しなければならないな……

 

 そう思い、ファベルに返事を書いた。

 

『そうか、分かった。有難う。』

 

 それのみだった。それを読んだファベルは肩を震わせながら書いた。

 

『死ぬとか言ってごめんなさい。ただ、私はどんな武器でも、導力製品でもただの物として扱うことが出来ないの。人間の様に生きてる物と思っちゃうの。ごめんなさい。』

『その方が有り難いよ。どうでもいいと思われるよりもその方がこっちとしても安心できる。』

 

 感極まったのか、ファベルは本格的に泣き出した。泣き止むのに 5分近い時間を要した。いつの間にかセリーヌも老人も場に居なかった。ハメられたのか、偶然なのか。それは置いといて、リィンはファベルが泣き出したのにオロオロするしかなかったのだった。

 泣き止んだ後、二人は下の工房へと入って行き、そこでファベルからアークスと刀を受け取った。確かに見ると刀は刀身が以前より鋭く、漆黒の輝きが増しているように見えた。アークスもちょっと前はカバーと本体の接合部がカタッという微妙なグラつきがあったが、今は完璧にない。それどころか開閉もものすごくスムーズになっている。誰が見ても素晴らしい仕事ぶりだ。恐らく分解し、パーツレベルでチューニングが施されているのだろう。

 

――ジョルジュ先輩の整備も凄かったけど、ファベルのはもう超えているかも……なぁ……何で此処に居るんだろう……

 

 そう思った時にはもう紙にペンを走らせていた。

 

『この整備、ものすごいよ! 以前とは比べるくもないさ! ベルさん、何で此処までの腕があって、この村に……? 貴女の力ならもっと大きな工房でも活躍できると思うけど。』

 

 それを読んだファベルはさっきよりも一層険しい顔をした。しばらくの間、考え込んで、ペンを走らせた。

 

『私は、そこまでの者じゃないの。貴方には話してなかったけど、ラインフォルト社で修行していた事があるわ。それで分かったのよ。私の様な者は無理よ。いくら頑張ったって、無理なの……』

 

 そう書いて紙をリィンに押し付けると、工房を出て二階に上がって行った。リィンはその姿を見送る事しかできなかった。リィンには窺い知れない、余程の事があったのだろう……。工房を見廻し、部屋を出た。すると、カウンターの椅子にシュミット老人が座っていた。誰もいないと思っていたので少し驚いたが、直ぐに冷静になった。

 

「あの……すみません……」

 

 その声を聴いた老人が読んでいた帝国時報を机に置いた。

 

「ふむ、何に対してかな? さっきベルが泣いて2階に上がって行ったことに対してなら、儂ではなく、ベルに謝るべきじゃないかね?」

 

 正論だ。まごうことなき正論。

 

「それでも……貴方に対しても謝らなくてはと思って……」

 

 そう言いながら先ほどの会話を見せる。シュミット老人は読み終えると、眼鏡を外し、額を抱え、溜息をついた。

 

「……ベルはな……知っての通り聞こえん。これは儂もベル自身からではなく、両親……息子夫婦から聞いたきりじゃ。能力はあった。しかし、そういうやつほど疎まれやすい。君も分かるじゃろ? それが聞こえないとなると尚更だ。いじめなどがあったらしい。それでもう耐えられない、と息子夫婦に嘆願して、儂の所に来ることになった、と言う事じゃ。勿論、この村でもそう言った偏見は全くない、とは言い切れん、じゃが、ルーレに居るよりはよっぽど良いじゃろう……」

 

 それを聞いて、リィンは己を恥じた。良く考えれば、そこまでは分かったはずなのに。軽々しく書いた自分を責めた。

 

「そうでしたか。ならば尚更申し訳ありません。今日はもう無理だろうとは思いますが、明日の朝、もう一度ベルに謝ろうと思います。」

「うむ……それが良いじゃろ。どれ、そろそろ寝たらどうかね。」

「それではお言葉に甘えさせて頂きます。それから、僕は明日この村を立とうと思います。」

「もうかの? そこまで焦らんでもいいと言うのに。じゃが、もう決めたならもう言わんよ。その時までゆっくりして行くと良い。」

「重ね重ねのご厚意、有難うございます。」

 

 そう言うと、リィンは2階の寝室に向かった。それを見届けると、シュミット老人は口に咥えたパイプを燻らした。そして目を細め、カウンターの下に置いていた絵に目を走らせた。絵には30代前後らしき二人の男が描かれていた。写真と見紛うほどリアルなものだ。そして、その後ろにはほど大きい建物が建っている。

 

「グエン……儂は、どうするべきかね……?」

 

 返事など来ないのを知っていても、言わなければならない、そんな雰囲気だった。

 

「そうじゃな……」

 

 何かを決意したような面持ちで呟いた。そしてここロダイ村の夜も更けて行った。

 

 朝が来た。チチチと言う鳥の心地よい囀り。リィンはうーん、と腕を大きく伸ばし、ベッドから抜け出した。部屋を出ると、昨日作ったポトフの香ばしい匂いが食卓を占めていた。台所に立っていたのはファベルであった。リィンが起きて来たのに気付いたのか、ファベルがこちらを振り向いて、小さく手を振った。その挨拶にリィンも手を振り返す。そこにシュミット老人が階段を昇って来た。

 

「おお、起きたかね。もうすぐで朝食の用意が出来る。顔を洗って寝癖を直してきなさい」

 

 そう言われて自分の髪がどんな状態にあるかを理解した。足早に洗面台に向かう。顔を洗って髪を水で整えて戻って来たら食卓にはもう完璧に用意が出来ていた。セリーヌ用のミルクとポトフも完璧だ。

 

「さて、食べるかの」

 

 そうシュミット老人が言うと、全員が手を合わせ、祈りを捧げた。そして終わると食べ始める。

 

「うむ、昨日と比べても味も落ちていない。それに朝の胃に優しいのぅ」

 

 そう言われて図らずも顔が緩む。多分、事情を知らない人が見たら全員が「何でこいつ笑ってんだ、キモい」と思っただろう。ファベルは声を発せず、ただ柔和な笑顔を見せつつ食べている。穏やかな食事風景だ。――と、そこにその空気を裂くような音が響いた。店のドアからである。

 

――ドンドン! ドンドン!

 

 何度も叩いている。シュミット老人が一階に降りていく。リィンは二階の窓からドアの外を覗き込む。そこに居たのは……領邦軍であった。

 

――!?!? 何故だ!? 何で今領邦軍が? くそっ! 俺が此処に居る事がばれたら迷

惑を掛けちまう! どうすればいい? 考えろ!

 

 そう考えていた時に肩に手が置かれた。見ると、ファベルの手だった。怖がっている表情でシュミット老人と自分を交互に目を動かしていた。分からない、という目だ。

 

――そうか! なんでシュミットさんが下に行ったのか分からないのか!

 

 表情の意味を汲み取ったリィンは今の状況を素早く、メモした。

 

『ドアの前に領邦軍が居る。恐らく目的は俺だ。もし見つかったら貴方達に迷惑がかかる。俺は刀とアークスを持ってこの家から抜け出す。このメモをシュミットさんに見せれば分かってくれる! とりあえず、席に座っていてくれるか?』

 

 そう書いた紙をファベルに渡すと同時に寝ていた部屋に走る。刀とアークスは枕元の近くに置いていたのだ。アークスをスラックスのポケットに、刀を腰に吊るすと二階の窓から身を乗り出した。飛び降りて外に出るつもりなのだ。踏み出そうとした、その時。肩に手が当てられた。振り向くとファベルが立っていた。紙をこちらに寄越す。

 

『もう行っちゃうの? まだ話せていないことが一杯あるのに……! 私だって馬鹿じゃないわ! 貴方の正体については薄々感づいてた。それでも、言っちゃうと貴方が去って行くような気がして……! これでお別れなんて、そんなの嫌よ!』

 

 そう言われて溜息をついた。一瞬考え、紙に返事を書いた。

 

『これでお別れなんかじゃないよ。絶対にまた会えるさ。だって、この刀とアークスの整備をまた頼むつもりだからさ。今は行かなきゃならないんだ。それでも納得しないなら……これを預かっててくれ。』

 

 紙を渡すのと一緒にスラックスのポケットから獅子のワッペンを取り出してファベルに渡した。それを見て瞳に涙を湛えつつ、頷いたファベルを見て、窓から身を躍らせた。地面が迫る。草が生えてるとは言え、このまま衝突したら大ダメージだろう。しかし顔にその心配など一寸もなかった。

 

「エアリアル!」

 

 風系アーツを唱え、アークスが煌めく。真下の地面から風を発生させた。それによって体が地面すれすれの所で浮き上がり、けがの一つもなく着陸した。そして二階の窓を見上げると、セリーヌが飛び降りて来た。見事な着地である。アーツなど使う必要もない程だ。そしてファベルを見る。ファベルに対してこの一日だけで何とか覚えたハンドサインを使う。それを見たファベルは泣き崩れた。そのハンドサインの意味は……『また』『会おう』と言うものだったからである。

 それを見届けたリィンはセリーヌに続いて隣の囲いを飛び越え、逃げる。2軒ほどの家の庭を過ぎた辺りで大通りに向かう。そして様子を窺う。まだ領邦軍は店の前に居る。そしてここまで怒号が聞こえる。シュミット老人の声だ。

 

「なんじゃ、あんたらは! いきなり朝食の一時を邪魔しおってからに……はぁ? 不審人物の捜索? んなもん知るわけなかろう! 知ってたとしてもこんな礼儀のなってないお前たちに教える義理などないわ!」

「それは確かに申し訳有りませんでした。しかしこの村から行方不明者が居るかもしれないとの通報を受けまして……我々も任務なのです。手荒くはしたくない。家探しをさせて頂けませんか? ほんの5分で済みます」

 

 責任者らしき男と老人のやり取りが続く。それを聞いてリィンは感謝の気持ちと同時に申し訳なさを感じていた。そして大通りに出る前に起動者としての力を発揮した。心の中で唱える。

 

『ヴァリマールよ、来い――!』

 

 しかし、今いる路地にヴァリマールを呼び寄せるわけにもいかない。ある程度開けたところに行かなければならないだろう。そう考えたリィンは井戸広場に行くことを決めた。様子を窺った後、井戸広場に向かってダッシュした。当然、領邦軍にも見つかった。

 

「おい、いたぞ!」

「何!? 何故あそこに!?」

「追え! 銃火器の使用は極力控えろ!」

 

 物騒な言葉が飛ぶ。後ろを振り返ると兵士が追いかけてきた。規模からして班レベルだろう。大体2班か。そう判断すると、背後を振り返って、アーツ起動。幻属性アーツ、「シルバーソーン」だ。突然道のド真ん中に現れた陣に驚き、止まる暇は無かったようで、5人ほどがかかった。混乱して動けないようだ。それを確認すると、また走り出す。井戸まで50アージュ。シルバーソーンにかからなかった他の兵が追いかけてくる。4人。井戸に辿り着いた。

 もう逃げる必要もなくなった事で、振り向く。1人が混乱から回復したようで5人が追いかけてきていた。もう1発アーツをブチかまそうと思い、詠唱を始める。しかし詠唱が打ち切られた。敵がアーツを撃ってきたからだ。火属性アーツの「ファイアボルト」。避けるので精一杯だ。なんとか撃って来た2発は避けたが、その間に兵が追い付いてきた。井戸を背にしているお蔭で完璧に囲まれた訳ではないが、包囲された。

 

――やばいかな……

 

 こう思い、刀を抜く。兵は筒のようなものを取り出し、伸ばす。伸縮式のロッドのようだ。殺しまではしないらしい。リィンは兵を見渡し、誰が襲い掛かって来るか注意した。動いたのは右と左の兵だ。一瞬で判断し、右の兵の方にダッシュし、まだ両手で持って居た棒に対し刀を下から切り上げて切って捨て、肩からタックルをブチかます。吹っ飛ばされた兵は頭を農耕車のボディに打ち付けたらしく、気絶する。左の兵が迫ってくる。棒を突きだしてくる。流石に軍隊だ。的確に体を狙ってきた。だが、遅い。ガイウスの方がもっと鋭くて迅い。刀の側面で流し、慣性でこちらに向かってきた兵の腹を柄の先で突く。鳩尾に勢いのついた突きを喰らい、倒れる。残り、3人。先ほどの戦闘を見て怖気付いたのか襲ってこない。

 

「来ないならこちらから行きますよ?」

 

 そう言うと、左に居た新兵であろう初々しさが見て取れる兵に向かっていく。その兵は実戦慣れしていないのだろう、棒を持つ手が震えている。そして無暗に振り回して向かって来る。他の兵が「あっ、バカっ……待て!」と言ってるにも関わらずだ。そういう相手ほどやり易い。振り回していた棒の先端に突きを加える。すると新兵は足が後ろにふら付いて、腕が上がって体ががら空きになっている。そこに隙を逃さず蹴りをお見舞いする。心の中で謝りながら。蹴られた新兵は体が吹っ飛んでいく。だが、吹っ飛んでいく途中で誰かが受け止めた。良く見ると先ほどシュミット老人と言い合いをしていた隊長らしき人物だ。

 

「ほう……一人でここまでやるとは……お前たち、下がれ。お前たちでは返り討ちになるかもしん」

 

 上官にそう言われた残り2人の兵は命令通り上官の後ろに下がる。

 

「さて、リィン君かな。私の可愛い部下が世話になった。君は何か勘違いをしているようだ。我々は君を保護しに来たのだよ」

「……そうですか。でも、俺は大人しく保護される気はありません」

「やれやれ……こうなっては仕方あるまい。気絶も止むなしと言うものだろう」

 

 そういうと腰に下げた剣を抜き放つ。軍用サーベルらしい。上官だからだろうか、少しの装飾が施されている。構えるとかなりの速さで突っ込んできた。

 

――突き技か!

 

 迫ってくる剣先を集中して避けると同時に思わぬ攻撃が飛んできた。左手でのパンチだ。頬に命中する。衝撃で体が吹っ飛ぶ。

 

「かはっ……」

 

――予想外だった。パンチを繰り出してくるなんて。

 

 少し口が切れて血の味が広がる。その血を唾液と共に吐き出す。

 

「おっと、口を切ったようだな。だが、すまないね。これも任務なのでね。悪く思わんでくれ」

 

 言い終わると今度は剣を青眼に構え、迫ってくる。思わす刀を防御に回す。すると剣を刀に当て、胴ががら空きの状態にする。そこに蹴りを喰らわす。

 

「ぐうっ……」

 

 一アージュ前後は吹っ飛んだだろう。

 

――強い。剣の攻撃がメインなのか拳や蹴りがメインなのか分からない。

 

 それでも刀を杖代わりに立ち上がる。そして構える。

 

「ほう……まだやるか。その根性、ウチの兵にも見習わせたいものだな」

「褒め言葉と受け取っておきます……」

 

 とはいえ、どうすればいいのか。そう思ったその時、音がした。

 

――来た。

 

ズズズズズズズズズズズ……。

 

 隊長を含め、3人の兵が突然の音に戸惑う。

 

「な、何だ!?」

 

 森の方を見ると、1つの影が此方に近づいて来る。ヴァリマールだ。そうこうしている内に井戸広場に着陸する。3人とも何も言葉が出ないようだ。ここでヴァリマールに飛び乗って逃げたいところだが、生憎ヴァリマールとリィンの間に隊長が居る。隊長を突破する必要がある。まだ状況がつかめていないこのチャンスを逃す事は無い。

 

「せいやあああぁぁぁぁっ!」

 

 掛け声を出して自分に発破を掛けて隊長に向かっていく。ヴァリマールに気を取られていたが、さすがは隊長を務めるだけあって切り替えも速い。こちらが振り降ろした刀を受け止める。そしてがら空きになった胴体にすかさず蹴りをお見舞いしてくる。だが、それはもう織り込み済みだ。蹴りだしてきた右足を左足で受け止め、円の動きで自分の右側にいなす。そうやってバランスを崩したところに突進する。隊長の体が地面に倒れる。

 隊長を突破した後は2人の兵だ。2人とも相手にする必要もない。ヴァリマールの直線方向に立ち塞がっていた左の兵に刀の峰での一撃を右わき腹にお見舞いする。倒れこんだ兵の左側を通り抜けてヴァリマールへとひた走る。と、そこで背後から気を感じた。一瞬で振り向くとそこには倒れた兵の棒を持った隊長が迫っていた。予想もしない攻撃に混乱する。リーチのある棒を水平に振ってきて、頭に一撃もらう。そこでもう気絶しそうな所だったが、追撃が来た。背中を勢いよく突かれたのだ。前のめりに倒れこみ、意識が薄くなる。

 

――くそ……あと少しなのに……

 

 そこに思わぬ援軍が来た。

 

ズ、ズ、ズ……

 

 空属性のアーツ、「ダークマター」。隊長と部下が重力の球の引力に引かれて行く。そのせいでリィンから遠ざかる事となる。その隙にセリーヌが口でリィンの制服の襟を引っ張ってヴァリマールへ近づかせた。そこで2人は光となり、ヴァリマールの中に吸い込まれた。操縦席に座ったリィンはおぼろげながらもセリーヌの姿を確認した。

 

「ふぅ……どうなる事かと……ダークマターが間に合ってよかったわ。」

「ピピ……起動者ノ搭乗ヲ確認……起動者の身体ニ危険アリ……早急ニ飛ビ立チ、治療スル必要アリト判断……」

 

 そこまで聴いたところでリィンは視界が少しずつ暗くなっていくのを感じた。

 

「そう……リマール! と……く飛んで! 行先は……州……部の……」

 

 もう聴き取るのも難しかった。

 

「了解……全……ブ……」

 

キュウゥゥゥ……ゴゥン!

 

 ヴァリマールが離陸した。と同時に完全にリィンは意識を失った。ヴァリマールは地表から少し離れると方向を変え、大通りの上を飛び去った。そしてその様子をファベルとシュミット老人の2人だけが領邦兵とは違う目つきで見送っていた。いつまでも、いつまでも……ヴァリマールが黒い点になって、見え無くなっても……。

 

~序章「惜別の約束」END~




こんばんは、初投稿させて頂きます、神宮藍です。今後、宜しくお願いします。


ピクシブの小説にも同じ内容を投稿しておりますが、今後はハーメルンのみで書こうと考えております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。