焔の軌跡   作:神宮藍

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 実は章ごとにまとめて投稿しちゃおうかな、と思っていたのですが、そこまで長いものを書くと、途中でモチベーションが下がって投稿しなくなるので、章ごとではなく、章の中の話を区切りが良い所まで書けたら投稿すると言うスタンスにしようと思います。
 その為、文字数は短くなったり、長くなったりとなります。極端に短く、長くなったりはしないと思います。ご承知下さい。また、サブタイトルですが、「第〇話」という風につけて行きたいと思います。宜しくお願いします。


第1話 -青天の霹靂-

「と、父さん!?」

「気が付いたか、リィン」

 

 そこはノルティア州北部の山間の深い所にある、リィンの故郷ユミルの実家の自室だった。

 

「俺はっ……ぐうっ」

「まだ体は回復していない。大人しく寝ていなさい」

「で、でも……」

「状況は知っている。しかし、その前に今は体を治す事が最優先だ」

「……分かった。……今日は何日?」

「11月3日だ」

 

 リィンはその言葉に衝撃を受けた。

 

――ばかな。こんな非常時に丸1日もぶっ続けで寝ていたなんて

 

「ともかく、休め。今の所どこかで大規模戦闘が起こったとか、トリスタが攻撃された、という情報は無い」

「そう、か……」

 

 それを聞いて、今まで起こしていた頭を枕に預けた。

 

「ふぅ……」

「もう一眠りして目が覚めたら母さんの所に行ってやれ。今日の明け方まで看病して、疲れていたからな」

「分かった」

「それじゃお休み」

 

シュバルツァー男爵はそう言い、リィンの頭に手を置くと、部屋から出て行った。

 

「こうなったら仕方ない……もう少し眠るか」

 

 そうひとりごちると、眼を瞑った。しかし、寝れない。瞼の裏に色んな光景が浮かんでは消えていくからだ。

 入学式の日、不慮の事故(?)でアリサに頬を叩かれた事、ガイウスの故郷のノルドを馬で駆けた事、夜、アリサと満天の星の下で語った事、ラウラの故郷レグラムでローエングリン城の探索をした事、ガレリア要塞の帝国解放戦線の襲撃に立ち向かった事、アンゼリカ先輩とアリサの故郷であるルーレでザクゼン鉱山襲撃事件を様々な人々の協力で解決できた事、皇帝陛下からお褒めの言葉を頂き、恩賜で皆とユミルへ小旅行に来た事、学院祭でステージを成功させる為にいつもの様子からは考えられない程のエリオットの地獄でさえ生温いと思えるほどのしごきを乗り切った事、そして旧校舎の最下層で見たあの巨大な歯車が数多く回る異世界のような光景、その終端で巨大な影を力を合わせて漸く討てたこと、学院祭のステージを成功させて1位を取獲った事。どれも大事な思い出だ。

 しかし、後半の部分には全てクロウが傍らに居た。リンクを結んでいた期間はクロウよりもⅦ組メンバーの方が長いだろう。しかし、リンクの深さは誰よりも深かったのではないか。そう思う。また涙が溢れてくる。

 

「クロウ……っ、なんで……」

 

 今まで信じていた相棒に裏切られた。まだ信じられない。ちゃんぽらんで、勉強には身を入れない、でも戦闘やイベントとかでは抜群のリーダーシップを発揮して皆を引っ張って……そんな事を考え、泣いているといつしか眠りに落ちていた。目が覚めると、外は見事な夕焼け空だった。

 

「もう夕方か……結構寝ていたな」

 

 顔を洗う為に洗面所に行くと、鏡を見て。自分の涙の跡が残っているのが分かった。

 

「ハハ……情けないな……」

 

 そう言うと水で顔を洗い、目を覚ました。

 

――気晴らしに外に行くか

 

 そう思うと自室に戻り、パジャマからラフな格好に着替える。何故パジャマ姿なのか。まさか母さんが……ふと脳裏を過ったものを振り払う。だが、母さんじゃなかったら良いけれどもな……とも思った。そして服に袖を通す。去年の物だが、きつい感じがする。やはり成長したのか。それを嬉しく感じつつ着替えると、出る前に母の部屋を訪ねた。

 

コンコン

 

「ええ、開いてますよ」

「母さん、入るよ」

 

 そういうとドアを開け、母の部屋に踏み入れる。

 

「リィン! 起きて大丈夫なの!?」

「大丈夫だよ。もう歩き回れるくらいまでには回復したし、体調は万全とは言えないけど、元気だよ。父さんから聞いたけど、今日の朝まで看病してくれてたって」

「そう、良かったわ。子供の為にならそれ位は当然よ。これからどこか行くの?」

「うん、ずっと寝てたから体を動かしたくて。少しユミルの中を歩いて来るよ」

「そう、気を付けて行ってらっしゃい。無理はしないでよ?」

「分かってるよ。じゃ行って来る」

 

 そういうと部屋を出ようとしたが、立ち止まる。

 

「……母さん、有難う」

 

 それだけ言い残すと出て行った。

 

ガチャ

 

ドアを開け、外に出る。晩秋特有のひんやりとした空気が肌を撫でる。前に小旅行で来た時とは違う。まだ1ヶ月くらいしか経ってないのにここまで変わるか。

 

「冬が近づいてくるな……冬、か。フィー、サラ教官、ミリアムは行方不明ってなってたけど、大丈夫なのかな……」

 

 そう考えつつ、里の中を歩く。途中、里人から声を掛けられた。皆知っている顔だ。どうやら帝国時報などで情報を知っていたらしく、気を使ってくれた。それがとても嬉しかった。里人の呼びかけに応えつつ、歩き続けると里の入り口でもあるケーブルカーの発着場の近くまで来た。そして太陽が沈む方向を見た。もはや薄暗く、一番星だけでなく、二番星も輝いていた。街灯が少しずつ灯り始めてきている。この発着場ももうすぐ点くだろう。

 

「そろそろ戻るか」

 

 そう思い、踵を返そうと思ったその時。

 

ガタガタ、ガタン。

 

 発着場の方から音がした。振り返らなくても分かる、この音はケーブルカーが着いた音だ。確か次に来る便が今日最後の便のはずだ。

 

プシュー

 

 ケーブルカーの扉が開く。薄暗くて分かり辛いが、どうやら乗っていたのは女性1人の様だ。降りてきた。結構大きい鞄を持っている。旅行者か? しかし今の帝国の状況で旅行に来る者がそういるとは思えない。見ていると女性は鞄を持ち上げて歩くのに四苦八苦している。大変そうだ。女性と自分との距離が7アージュ位になった時に発着場の灯りが灯った。完璧に日が暮れた。そして、灯りが灯った事で女性が誰だか分かった。驚きで声が出た。

 

「エリ……ゼ……?」

「兄……様……?」

 

 お互いの声が重なった。ケーブルカーに乗っていたのは自分の義妹だったのだ。何故、今ここに。帝都は? アストライア女学院は? 貴族派は? そんな事を考えているとエリゼは持っていた鞄を足元に放り出し、兄の下に駆け寄った。そして。

 

「兄様……兄様!!! 私……私……本当に心配して……! トリスタが襲撃されたと聞いて……! まさかとは思いましたが……兄様はその性格ですから……絶対に戦いに出撃されると思って……更に行方不明だと言われて……! 無事で……本当に良かったです……っ!」

 

 そう言うとリィンの胸に拳を軽く叩きつけた。導力灯に照らされたその顔は涙を流している。今まで抑えていたのだろう。ものすごく泣きじゃくっている。リィンはそんなエリゼを見て、頭に右手を優しく乗せ、撫でた。

 

「……ごめん。物凄く心配させちゃったな」

 

 少しするとエリゼは泣き止んだ。そして今の状況を把握したのか、慌てて軽く咳払いをし、

 

「申し訳有りません。取り乱してしまいました。あと……その手を退けてはもらえませんか? もう大丈夫なので……」

 

 リィンはエリゼを落ち着かせる為に頭に置いていた手を慌てて引っ込める。

 

「すまない、なんとなく昔からの癖で……」

「ふふ……兄様は変わりませんね」

 

 やっと泣き止んで顔を見せてくれた。

 

「いろいろ聞きたい事があるけど、まずは家に帰ってからだな。その鞄は重いだろう? 持って行くよ」

「に、兄様、わざわざ持っていただかなくても」

「良いから、頼ってくれよ」

 

 その言葉でエリゼは答えを決めたようだ。

 

「では、お願いします」

「ああ。お安い御用だ」

 

 そう言うと鞄を持ち上げ、2人揃って歩き出した。行きと同じく、里人に声を掛けられたが、対象が違った。ほとんどがエリゼに対してだ。

 

「いつ帰って来たの」

「おお、珍しいな」

「兄妹で歩いてるのを見るのは久し振りだね」

「どうだ、これでも持って行くか」

 

 色々声を掛けられ、様々な物をもらった。この兄弟は昔からユミルでは有名で、シュバルツァー男爵は民に寄り添う領主であり、ユミルの民から慕われていた。当然その子供も慕われる。とりわけエリゼは幼い頃から可愛らしく、だれが言い出したのか分からないが、「ユミルの聖女」「ユミルの宝」などと呼ばれた。年頃になり、そう呼ばれるのを恥ずかしく思うようになったエリゼがそう呼ぶのを止めて欲しいと言い、里人はそれを受け入れたが、本人が居ないところでは未だにそう呼ばれている。

 里人から色々話し掛けられ、様々な物を頂いている内にシュバルツァー邸に着いた。玄関をリィンが開ける。

 

「ただいま!」

 

 それにエリゼも習う。

 

「只今戻りました、父様、母様」

 

 その声を聴いたのか、キッチンから女性が走り寄ってくる。2人の母、ルシア夫人だ。夫人はエリゼの元に駆け寄り、腕を回して抱き締める。

 

「エリゼ……! 良く無事で……! 本当に良かった! ああ……エイドスよ、感謝致します!」

 

 そして階段上から声がする。男爵だ。

 

「エリゼ、無事に戻って来てくれた! 何も怪我もないようで何よりだ」

「母様、苦しいです……父様、只今戻りました。駅で兄様にお会いしたので、一緒に帰って参りました」

 

 階段を降りながら話す。

 

「そうか、そうか。ん、何やら頂き物が多いようだな」

 

 夫人がようやく離れる。

 

「あら本当。また頂いたの?」

「ええ。皆さん本当に親切で。兄様も頂いていました」

 

 リィンはエリゼの鞄を持つ反対側の手を見せる。袋一杯に詰め込まれている。

 

「そうか、後で礼をせんとな……ルシア、夕飯はあとどれ位かな?」

「そうね、あと30分と言ったところかしら。それまでエリゼは自分の部屋に荷物を置いて、少しゆっくりすると良いわ。あなた、手伝って下さる?」

「うむ、引き受けた」

 

 そう言うと男爵はキッチンへと向かう。

 

「あ、じゃ母さん、俺も……」

 

 リィンはそう言いかけたが、夫人が遮った。

 

「駄目よ、まだ体が治り切って無いじゃない。あなたもゆっくりしなさい」

 

 その言葉にエリゼの顔が蒼白になる。

 

「に、兄様! 治り切ってないって!? 何かお怪我を!? ああ! 私の馬鹿! そんな状態とは露知らず、荷物持ちを……! 兄様、今すぐ荷物を下ろして下さい!」

「ま、待てエリゼ、怪我と言っても昨日丸一日寝てたんだから荷物運び位なら全く問題は無い! むしろ体を動かしたかったんだから丁度良かったさ」

 

 それでもエリゼは兄の手から鞄を奪おうとする。

 

「あらあら、仲がいいわね。そうね、エリゼ、リィンが無茶をしないように見張っててくれる? エリゼの部屋はまだ暖かくないからリィンの部屋でゆっくりすると良いわ」

 

 そう言うとキッチンへ戻って行った。

 

「ええ!? か、母様!?」

 

 しかしその声はもう届きはしない。

 

「えっと、じゃあとりあえずエリゼの部屋まで荷物を運んで、その後に俺の部屋に来るか?」

 

 何故か顔を赤らめて答える。

 

「ええ、そうですね。宜しくお願い致します、兄様」

 

トントン。階段を上がってエリゼの部屋の前まで来る。流石に妹とは言え、年頃の女の子の部屋には入れない。エリゼにバッグを渡して自室に向かう。バッグを受け取ったエリゼは部屋に入って、中身を取り出し、その中から適当な服を見繕い、着る。だが、途中で気付く。

 

――……これで良いのかしら……いえ、兄妹なんだし、これで良いはず……

 

少し考えた後、最初に選んだものよりも少し飾りがついて、色合いも可愛いものに変えた。

 

――いえ、これは兄様だからって訳じゃ……淑女! 淑女の嗜みです!

 

 そう自分を納得させ、姿見の前に立って髪の毛を手櫛で鋤く。そして兄の部屋に向かう。部屋の前に立ち、1回深呼吸する。

 

コンコンコンコン。

 

「兄様、入ってもいいでしょうか?」

「ああ、良いぞ」

「失礼します」

 

 そう言って部屋の中に入る。久し振りの兄の部屋。最後に入ったのはいつだったか。そうだ、父様と母様に兄様の事を聞かされて以来だ……それ以来兄妹の交流も減り、私はアストライア女学院に入ってしまった。何年か振りに入る兄の部屋は新鮮だった。棚の本が増えた位か。男性の部屋は父以外に知らないので、年頃の男子の部屋の標準が分からなかったが、それでもシンプルなものだと思う。ベッド、本棚、机、椅子、上着掛け、箪笥。それだけだ。他の小物や必要な物はトールズ士官学院の学生寮に置いているのだから当然か。

 

「エリゼ、その服可愛いな。うん、似合ってるぞ」

「!?」

 

 兄からの不意打ちのマッハパンチを喰らい、一瞬混乱した。が、立て直す。

 

「有難うございます。兄様は……相変わらずですね」

「? 何の事だ?」

 

――やはり……まだ治ってないのか……この分では兄様のクラスの方々も恐らく……

 

「? どうした? 何か悩んでるみたいだが」

「いえ……何でも無いので、ご心配なく。それよりも兄様、私に何かお聞きになりたい事があるのでは?」

「! そうだな。いや、正直助かった。お前の方から話を振ってくれたから。まぁ、とりあえずここに座ってくれ」

 

 リィンはそう言うと自分が座ってるベッドの隣を手で軽く叩いた。だが、誰よりも長く兄妹としてリィンと共に過ごしてきた者はその未来を読んでいた。

 

「いえ、兄様お構いなく。私はこちらの椅子に座りますから。それに隣に座っていますと話しにくいでしょう?」

 

 そう言うと椅子をベッドの近くまで持って来て兄と対面の形にした。流石の対応である。リィンの特性を見通し、それによってもたらされるであろう未来を相手の心証を害することなく回避したのである。

 

「それもそうだな。さすがエリゼ。気が利いてるな。自慢の妹だよ」

「!」

 

 顔を瞬時に背け、赤面している顔を見せずに済んだ。

 

――に、兄様ったらもう……

 

何とか平常心にし、再び兄に顔を向ける。

 

「この位、当然です。高い教育を受けた淑女たるもの、この位できなくてはいけませんから」

「そうなのか。アストライア女学院も厳しいんだな」

「まぁ、全てではないのですが。さて、兄様、私が此処に戻って来た訳をお聞かせしましょう」

「うん、頼むよ」

 

 では――と軽く咳払いをしてからエリゼは話し始めた。

 

「今日から4日前、ギリアス・オズボーン宰相の演説を私達も聞いておりました。アストライア女学院の各自の教室で、です。トールズ士官学院学院祭の夜、ガレリア要塞消滅の報を受け、今の内に、と故郷に帰られた方々も多かったのですが、それでも学院内にはまだ何人か残っておりました。全体の4分の1位でしょうか。

 導力ラジオの放送を校内放送で聞いておりました。演説が佳境に入った時、突然演説が途切れました。そしてその数秒後、人々の悲鳴が聞こえてきました。おそらく途切れた時、銃撃されたのでしょう。そこでラジオは途切れました。しかし少しすると戦車の砲撃音が聞こえてきました。それで私達は窓を見ました。すると空には巨大な艦が浮かんでいました。銀色の艦です。以前お見かけしたオリヴァルト殿下が建造を主導したと言うカレイジャスと言われる紅い船よりも遥かに巨大に見えました。そして皇宮近くから黒煙が何本も昇っておりました。そして定かではないですが、何やら蒼い物体が空を飛んでトリスタ方面の方に飛んで行くのを見かけました。私の見間違いではと思うのですが、何やら胸騒ぎがしまして。その日は先生方の指示で全員が講堂に集まり、夜を明かしました。そしてその次の日、何が起こったのかを知りました。演説の途中で宰相が銃撃された事、それをきっかけに宰相に反対する勢力が攻撃を仕掛け、帝都を占領した事、そしてトリスタが襲撃された事。もう私はその時から不安で、不安で……本当に良かった……」

 

 少し泣いた。リィンは黙って待っていた。

 

「申し訳ありません、少し取り乱してしまって。さて続きです。その日はもう当然授業にはならず、講堂ではなく女子寮で自宅学習になりました。アルフィン様は……その日にバルフレイム宮にお戻りになりました。どうやら迎えの者が来たらしく。そして次の日、11月1日ですね。その日の午後、ある女性が学院にお出でになり、全員が講堂に集められました。その女性は誰だかお分かりになりますか、兄様?」

 

 突然質問をされ、戸惑った。

 

「え? 女性? うーん……俺も知ってるのか? サラ教官……は無いな。まさかアルフィン皇女? いや、違うな……まさかシャロンさん? うーん、誰なんだ?」

「ふふ、今の答えの中に半分正解の方がいらっしゃいますね。学院にいらっしゃった女性はクレア大尉です。」

「……」

 

 一瞬止まった。

 

「えええええええ!!!????? ク、クレア大尉!?」

「はい。そうです。そして半分正解と言うのがアルフィン様です。」

「どういう事なんだ?」

「はい、それがクレア大尉がいらっしゃいまして、私達アストライア女学院の生徒を責任持って家まで送り届けるとおっしゃいました。護衛には鉄道憲兵隊の方々が付いてきてくれました。そのお陰で無事に帰れたのですが」

「鉄道憲兵隊が!? 一体どうして……」

「クレア大尉が私に話してくれましたが、どうやらアルフィン様が皇帝陛下に掛け合ってくれたらしいのです」

「アルフィン皇女が!? 何て方だ……」

「ええ。帰る順番は決まっていました。今日が私の番だったのです」

「そう……だったのか……」

「はい。こうして会えて嬉しいです」

「俺もだよ、エリゼ」

 

 そうやって話していると、様々な状況が分かった。帝都は領邦兵が占拠した形になっているが、帝都民に危害を加えるようなことはしていない事、帝都では10月30日以来大きな戦闘も小さな戦闘も起こっていない事、帝都上空に現れた大きな戦艦は10月31日には居なくなっていた事。リィンが知り得なかった事を教えてくれた。

 

「そうか、色々な事を教えてくれて有難う。本当に助かったよ」

「ふふ、お役に立てたなら良かったです。……」

「? どうした? エリゼ?」

「兄様、兄様の方も何があったのか、教えて頂けませんか!?」

「……っ、それは……」

「帝国がこうなった以上、兄様は絶対にこの状況をどうにかしようと思い、動くと思っています。ならばこそ、せめて、兄様が今どんな状況にあって、これからどうしようと思っているのか……聞かせてもらえませんか? 引き留めると言うようなことはしません。ですから……」

「……分かった、俺の負けだ。……強くなったな、エリゼ」

「それでは……」

「ああ、話すよ」

 

 貴族派が帝都を占拠した日、トリスタを貴族派が攻撃しに来たこと、それを教官達が防ぎ、Ⅶ組はもう一方の街道からの襲撃者を迎え撃ち、戦いの最中痣が疼き、灰の騎神と呼ばれる人型兵器を呼び出し、戦った事、Cが自分と同じ人型兵器に乗っており、習熟度があちらが遥かに上でやられそうになったが、Ⅶ組の皆が盾になって自分を逃がしてくれたこと、ロダイ村で世話になった事、そこでまた領邦兵との戦いになり、満身創痍になりながらも命からがらこのユミルに戻って来れた事。エリゼはこんなに想像もつかないようなことを話されても表情を変えずに真剣に聞いてくれた。そして話し終わると少し考えて口を開いた。

 

「兄様は、その士官学院に囚われたⅦ組、いいえ、学院にいらっしゃる方々を助け出したい、とお思いなのですね?」

「……ああ。その通りだ。だが、今の俺じゃあ全く歯が立たない。せめて、俺にもっと力があれば、倒せないまでも追い返す位は出来たかもしれないのに……」

「兄様、御自分を責める事はありませんわ。その状況ではそれしかなかったのでしょうし。兄様、また悪い癖がお出になっていますよ? 全ての結果は自分にあると思い込んでしまうその癖が。もう少し、周りの方々をお頼りになさっては如何ですか?」

「……そうだな。エリゼの言う通りだ」

「あの、兄様、実は……」

 

 その時。階下から声がした。

 

「リィン、エリゼ、もうすぐ出来るから降りてらっしゃい」

「あっ……分かりました、母様。只今参ります」

 

 そう言うとエリゼは座っていた椅子を元の位置に戻し、部屋を出ようとした。

 

「兄様、食事です。行きましょう?」

「あ、ああ。行こう」――エリゼは何を言いかけたんだ……?

 

 やっとベッドから腰を上げた。部屋の電気を消し、ドアを閉めて階下に向かった。その時、リィンは気付かなかったが、窓の向こうで光る2つの目があった。

 久々の実家の食事は美味しかった。特にシチューが。やはり母の作る料理は美味しい。そう思いながら料理を口に運んだ。

 

「母様、このシチュー、また何か隠し味がありますね?」

「ふふっ、分かる? コクを出すためにチーズを少し溶かしいれたのよ。ふふ、気付いてくれて嬉しいわ」

 

 その言葉に男爵が委縮する。

 

「いやぁ……毎日食べている私よりエリゼの方が分かってしまうとは……面目ないものだ」

「ふふ、毎日美味しいと言って食べてくれてるだけで十分よ。嬉しいわ」

「いや、それでもなぁ……少しは気付かんと悪いと言うものだ。もう少し気を配らねばならんな」

「どう? リィン、美味しいかしら? それとも味付けが薄かったかしら?」

 

 そう話を振られて慌てる。上の空ではなかったが。

 

「ううん、やっぱり美味しいよ。母さんの料理は最高だ。寮の食事よりも美味しいよ」

「あら、うふふ、有難う。寮ではどんな物を食べているの?」

「ああ、それは――」

 

 寮の話、毎日美味しい料理を作ってくれる管理人さんの話、学院での話、学院祭。様々な事を話した。食卓は楽しく、ゆったりしたものだった。食後は母がブレンドしたハーブティーを啜った。男爵が口を開いた。

 

「学院祭か……エリゼはどうだった?」

「ええ、本当に楽しかったです。色々な催し物がありまして、茶道、プラネタリウム、みっしぃ叩きなど……本当に充実した日でした」

「まぁ、それは楽しそうね。ここからは遠いから行けなかったのだけれども。残念だわ」

「ふむ……」

 

 男爵が考え込む。エリゼはそれには構わず話し続ける。

 

「やはり兄様達Ⅶ組の方々によるステージは鳥肌が立ちました。アンコールの曲の時などはもう本当に……会場全てが一体になった感じでした」

「まぁ、前にユミルに来ていた時に準備していたことね? ふぅ、聴きたかったわ」

「む……」

 

 男爵が険しい顔になる。

 

「ふふ、あなた、別に責めるわけじゃありませんから」

「うーん、しかしそれは惜しいことをしたかもしれん……。話によれば、ルーファス君やレーグニッツ知事閣下、アルゼイド子爵殿も来ていたのだろう? 良い機会だったかもしれん……」

「父さん、これからいつでも会うチャンスはあります。大丈夫です」

「ふむ、それもそうだ。アルゼイド子爵殿と言えば、この前いらっしゃったしな」

「!? 子爵が!?」

「ああ。あれは8月頃だったか。色々と奔走しているように見えた。確か各地の貴族派にも革新派にも属さぬ所謂中立である有力者や貴族の方々を取りまとめるとか言っていたな」

「そう、か……」

 

 その後は母の食事の片付けをエリゼが手伝い、リィンと男爵はリビングでくつろぐこととなった。

 

「ウォン!」

「! バド! 元気か!?」

 

 先ほどまで寝ていた、家で飼っている猟犬のバドがリィンが座っている椅子に近づいてきた。あごを優しくさすってやると足元に座り込んだ。

 

「はは、相変わらずそこが好きだな」

 

 さすっていると新聞を読んでいた男爵が声をかけて来た。

 

「バドはもうそろそろ狩りには連れて行けんかもしれん。ゆっくり過ごしてもらおうかと思っている」

「! やっぱり。うーん、前にも年だと言う事を言っていたし、それが良いのかもな」

「うーん、仕方がないか」

「うん、今まで良く働いてくれたし、これからはゆっくりさせようと思ってる」

「そっか、バド、お疲れさん」

「もし間に合うなら私の孫たちとも遊んでもらいたいものだがな……」

「……父さん? それは……」

「まぁ、今のは私の独り言だ。気にしないで良い」

 

 そう言うと男爵は飲みかけだったハーブティーを一気に飲み干し、キッチンへ持って行き、その後書斎に戻った。そこに皿洗いが終わったらしいエリゼと母、ルシア夫人が入れ変わるようにリビングに来た。

 

「あら? 今お父さんと何を話していたの?」

「いやぁ、大したことじゃないよ。バドはそろそろ引退かなって言ってただけさ」

「そうですか、バド、今までご苦労様です」

 

 エリゼはそう言うとバドの頭を優しく撫でてあげた。バドは嬉しそうに「ウォン」と鳴いた。夫人とエリゼも椅子に座り、ハーブティーを飲み始めた。ハーブティーと一緒に持ってきたクッキーもある。リィンはそのクッキーの内1枚をつまんだ。サクッと歯ごたえも良く、味も申し分ない。昔から慣れ親しんだ味だ。

 

「うん、やっぱりうまいな!」

「ふふふ、有難う」

 

 そうやって何分か団欒を楽しんだが、唐突にエリゼが切り出した。

 

「兄様、先程お話しした内容ですが、実はまだ話していない重要な事があります」

「え……?」

「実は私も知らなかったのですが、クレア大尉に教えてもらって知ったのです」

「な……何だ?」

「……兄様、気を強く持って聞いて下さい。兄様の通うトールズ士官学院は――……昨日の12:00をもって無期限休校となりました」

「えっ……?」

 

 

 

第1章Part1 -青天の霹靂- END

 




 こんばんは、神宮藍です。今回は色々とやり方の変更もあり、戸惑われた方々もいらっしゃるかもしれませんが、お付き合い頂けましたら幸いです。下手な部分もありますが、そこはご容赦下さい。
 今週のゲーム雑誌で新キャラ、劫炎のマクバーンとかが発表されていましたね。クロチルダさんのスクリーンショットで写っていた赤メッシュのキャラはこの方だったんですね。執行者序列第1位……そのポジジョンは何を意味するのか。なにやら噂ではアリアンロード並の強さとか言われてますが、どうなんでしょうか。焔を操る、と言う事で注目のキャラです。
 あとはアリアンロード様の配下のデュバリィさん。どのような役回りになるのか。ラウラに対抗心を燃やしてるとか書いてあって、カワイイと思ってしまいました。
 私の小説はオリジナルの流れなので、出るかどうかは分かりません。

小説への評価、感想などお待ちしております。

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