焔の軌跡   作:神宮藍

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初めての短時間での投稿です。急な投稿で申し訳ありません。文字数は短いですが、お付き合い下さいませ。


第3話 -潜入、そして-

同時刻、アルテリア法国七耀教会聖杯騎士団本部、大会議室――

 

「状況はどうなってる?」

 

 歳は40代に入っていると見られる男性がなりたての雰囲気をまだ残す若い従騎士に聞いた。

 

「はい、クロスベル方面には第五位『千の護り手』が応援に行きました。2年前から潜入している第九位『蒼の聖典』からクロスベルが結界に覆われている、という報告が入っています。他には蛇の使徒が何人かいる、とのこと。なんでも聖女がいるそうです」

「そうか。帝国は?」

「そちらは第八位『哮天獅子』と第七位『黄金の風』が担当しています」

「2人だけか?」

「いえ――第三位がどうしても行きたいらしく」

「何!? あの気分屋の第三位が!? どういう風の吹き回しだ!?」

「いえ……どうやら、なにか縁のある者がいるらしく」

「なるほど……」

 

 会議室は円卓のように座席が並んでおり、背後に聖杯の紋章のタペストリーが掲げられている席に座っていた女性が笑った。

 

「ククク……ハハハハ! 何とも予想しないことが起こるものだな!! だからこそ面白い!」

 

 プハーッ。口に含んでいたタバコの煙を吐き出す。

 

「クロスベルの方はケビンとワジに任せて大丈夫だろう。それよりも問題は帝国だな。黄金の風の報告にあった通り、蛇の連中の幻焔計画の第二楽章とやらが始まる。つまり、クロスベルの次は帝国と言う事と捉えて良かろう。むしろ帝国がメインだろうな。クロスベルの地にあった幻の至宝はもう失われている。それに引き替え、帝国の至宝はまだ生きている。おそらく蛇の連中も惜しみなく人員を投入して来るだろう。場合によっては聖女が出てくるかもしれんな。彼の地には聖女関連の地もある。むしろ来ない方が可笑しいだろうな。もしかしたらあいつらには荷が重いかもしれんなぁ……」

「そ、総長の読み通りだったとするならば、これ以上蛇の連中の好きにさせる事は出来ません!」

 

 総長と呼ばれた女性がゆっくりと煙をくゆらす。

 

「……そうだな。もう既に2つの地とは言え、5人も騎士を動かしているのだ。これ以上増えても同じか……それにトビーも頑張ってるようだし……仕方ない、私も出よう」

「滅多に任務に赴かれない総長が!?」

「さっきも言った通り、蛇に好きにさせるわけにもいかん。分水嶺はまだこの先もあるだろうが、ここは今までと比べると一際大きな分水嶺だ。ここでの結果如何では歴史的にも、国家的にもどうなるか分からん」

「し、しかし……」

「ガタガタ言うな。ケビンとワジにはクロスベルが片付いて戻って来たら、報告書作成と少しの休息を与えた後、いつ指令が来てもいいようにしてろと言っとけ」

「は、はい!」

「私のメルカバはもう動かせるか?」

「はっ! 定期整備点検はあと2時間もあれば終わる見込みとなっています!」

「よし。今回は戦闘任務で行くわけではない。おそらく蛇の連中はクロスベルの件が終わるまで帝国では大きく動かないだろう。今の内に帝国を見ておく」

「分かりました!」

 そう言うと総長は正騎士らしき女性と共に会議室を出て行った。

「いつものことだが、あの人には気圧されてばっかりだな……」

「まぁ、そう言うなよ。聖杯騎士団序列第一位、アイン・セルナート。あのクセ者揃いの騎士団を取りまとめる総長の役目を負っているんだからな。生半可な人には勤まらないだろうよ」

「『紅耀石(カーネリア)』ですか。一体いつからここに居るんですか?」

「さぁな。ただ、騎士団の中でも古参の人しか分からないだろう。ただ、10年やそこらじゃないのは確かだな」

 その時、扉が開かれた。

「おっと、いかんいかん、忘れ物をしていた」

 そういうと先ほどまで座っていた席にあったマッチらしきものを拾い上げた。そして確認して部屋を出て行く。ドアノブに手を掛ける時、

「おっと、それから君達、女性の年の話をするのはこの世のタブーの1つだと思うぞ、フフ」

 そう言い残すと今度こそ完璧に出て行った。

「……何か術を使ったんですか?」

「お前……使ったなら少なからず痕跡があるだろ。んなもんないだろうが」

「……化け……」

「おっと、それ以上言わん方が良いと思うぜ?」

 「化け……」と言いかけた従騎士らしき男は思わず手を口にやった。

「ま、それがあの人だよ。俺達は聖騎士の方々を何も言わず、サポートすりゃいいのさ。信頼関係はあった方がいいだろうがな」

「信頼だなんて……僕、従騎士になる前の見習いの時、あの人に声を掛けられたことがあるんです。法術の勉強が上手く行かなくて、このままじゃ従騎士になれない……って思ってた時、夜、廊下を歩いていた時、あの人が声をかけてきてくれたんです。その時、『術は全て七耀に遍くものを使役してその効果を顕現させるもの。効果だけを追い求めていても思う通りにはいかん。まずは術の効果をイメージして、それに対応する火、風、水、地、時、光、幻のエネルギーを足元から吸収して、手の平から放出するイメージを大事にすると良い』と言ってくれたんです。そしたら少しずつ出来る様になって。いち見習いにも声をかけてくれるのも信じられなかったし、あの言葉のお蔭で僕は此処に居るんです」

「まァ、ここであの人に信頼を置いてない人なんていないだろうな。さて、俺達も出来る事をやっとくか」

「そうですね! 先輩!」

 そう言うと先輩・後輩の関係にある男性2人も会議室を出て行った。

 

「へっくしゅん!」

トヴァルがくしゃみをした。

「トヴァルさん、大丈夫ですか?」

「あー、問題ねぇ。誰かが噂でもしてたんだろうさ」

 そう言うとエリゼは頷いて前を向いた。

 

――……くしゃみ、ねぇ。この感じは良い感じじゃねぇなぁ……

 

 そう思うと、列車の車窓の外を見た。もうケルディックは通過した。残り10分もかからずにトリスタに着くだろう。

「そろそろってところだな。リィンはもう着いてる頃合いだろうな」

「そうですね。ユミルを出発してから3時間以上です。確かに着いてるのではないかと」

 サラが起きた。

「んん~っ、着きそうなの?」

「ええ。残り10分もないと思います」

「そう。それにしてもこんな深夜に列車に乗るのは久しぶりね」

 

『皆様、長らくお待たせいたしました。次はトリスタ、トリスタ。お忘れ物、落し物の御座いませぬよう、御注意下さい、繰り返します、次はトリスタ――』

 

 車内アナウンスが流れた。

 

「よし、着くな。一応警戒態勢は敷いておくか」

「エリゼちゃんは私達の後ろに居て。いいわね?」

「は、はい。」

 

 その時、サラのアークスが鳴った。

 

「はい、こちらバレスタイン――ええ、リィン、無事に着いたのね? 今はミヒュトさんの所に居るのね? それで見張りは? ええ、領邦軍、解放戦線共に居ない。駅に見張りはいない。学院には? 入り口に見張りが2名、か。少し厄介ね。ええ、後で合流しましょう。場所は駅の改札前の待合スペースで」

 

 そう言うと通話を切った。

 

「うーん、学院前に見張りか……ちと厳しいな」

「どうにかするしかないわね。制圧するだけなら簡単だけど、定時連絡とかがある筈。それに町の皆に迷惑はかけられない」

「うーん……」

 

 そうこうしている内に列車はトリスタ駅に入った。さすがに緊張状態だからか、深夜だからか、乗客は少なかった。降りて改札を通ると駅員に少し驚かれた顔をされたが、口に人差し指を当てるジェスチャーをしたら、意を察したようで笑顔で頷いてくれた。

 待合スペースに目をやるとリィンが居た。こちらに気付いたようで近づいて来る。

 

「お疲れ様です。どうでしたか、途中は?」

「まぁ領邦軍の列車チェックが厳しかったけどな。なんとか切り抜けられたよ」

「そうでしたか。皆さん、腹の具合はどうですか?」

「さすがにお腹がくっつきそうね。深夜の食事は美容の敵って言うけど、構ってられないわ」

「俺もだな」

 エリゼは言い出しにくいのか、黙ってたが、お腹は空いてるようだ。

「キルシェにさっき寄ったらフレッドさんが御馳走してくれるらしいです。行きましょう」

「あら、ラッキーね」

 

 一同はキルシェに移動してマスターのフレッドさんが用意してくれてた軽食をごちそうになる。

 

「いやぁ、大変だったね」

「ほんとよ。全くとんでもないもんしでかしてくれたもんだわ」

「うーん、それにしても……まさかここに戻って来るとは思わなかったよ」

「まぁ、イロイロあってねぇ~。それよりフレッドさん、なにか変った事は無いかしら?」

「そうだなぁ……変わった事と言ったら、領邦軍が引き上げた位かな。あっ……でも、一つだけあったな。はっきりとは聞こえたかどうか分からないんだけど、学院の方から鐘の音が聞こえてきた気がしたなぁ」

「!? それっていつ!?」

「え、ええと、確か一昨日の筈だよ」

「一昨日……11月2日ね? ……誰か学院に残ってる人から話を聞ければいいんだけど」

 

フレッドに食事のお礼をして、喫茶・キルシェを出る。一同は第3学生寮に向かう。何かを残していると考えるならば、この寮か学院の可能性が高い。リィンは玄関近くの草むらに隠されていた寮の鍵を開けた。3人が続く。寮内は灯りが無く、暗い。時刻は午後11時を過ぎている。

 

「灯りをつけることも出来ないわね。何かの拍子に気付かれるとも限らないし」

 

 しかし見えなくては探索もままならない。そこで食堂に忍び込み、蝋燭と、光が漏れにくいよう、厚紙で保護することになった。しかし、そこで待っていた光景は一同の予想を超えるものだった。テーブルの上にあるものが置かれていたのだ。それはラインフォルト社製の光量を細かく調整できるつまみのついたライトが3つ用意されていたのだ。しかも光線が拡散しないようにも出来る仕様である。同時に手紙も用意されている。

 

『おそらくサラ様たちはこちらに戻って来ることがあるかと思います。お役に立てるかどうかは分かりませんが、置いてゆきます。もしも使う時があれば遠慮なくどうぞ ――シャロン』

 

 どこまで読んでいるのか。この分では部屋にも何かあるのではないか。そう考えずには居られない。

 

「ま、折角だから使いましょう。光量は……この位なら気付かれないでしょう。使う時は部屋に入ってから。窓よりも低い位置で使うように。基本、光線は拡散させないように」

 

 ライトはリィン、トヴァル、サラが持った。エリゼはサラと同時行動だ。1階の探索はトヴァル、2階の男子フロアはリィン、3階の女子フロアはサラとエリゼ。それぞれに別れて探索を始めた。リィンはエリオット、ユーシス、ガイウス、マキアスの順に回った。ガイウスとマキアスの部屋から手かがりが出た。ガイウスの部屋には机の引き出しの裏にメモが貼ってあった。そこにはこうあった。

 

『リィンへ。思う所があり、故郷に戻る。心配するな』

 

 それだけだった。ガイウスらしい簡潔な文章だった。マキアスの部屋の棚にはチェスの駒が並んでいた。リィンはその中の駒の1つ、白のキングを手に取った。底は何故か一体感が無かった。ネジを緩める方向(左回り)に回すと、底が取れた。中は空洞になっており、巻かれた紙が入っていた。それを広げると。

 

『音楽好きの友人が僕を遊びに誘ってくれた。彼はあそこに行くのは5月以来だと言っていた。なかなかいい所らしい。』

 

 間違いない。エリオットとマキアスはケルディックにいる。何故ケルディックに居るのかは分からないが、とりあえずこの情報は大事だ。他の部屋には何もなかった。1階に行くとトヴァルがソファに座っていた。その顔を見ると、何もなかったようだ。少し待つとサラ教官とエリゼが出て来た。情報は2つしかなかった。まず、ミリアム。

 

『ボクは一旦情報部に戻るね。何かあればこっちから接触するよ。バイバイ』

 

 ミリアムらしい。とにかく情報部に戻ったのは確からしい。さて、次はエマだ。

 

『私はラウラさんと一緒にレグラムに行きます。今の私には身を寄せる所はないので、ラウラさんの言葉は有り難かったです』

 

 ラウラとエマは一緒にレグラムに居るらしい。手に入った情報はこれだけだった。

 

「さて、ここは一通り探したわね。次は士官学院に向かうとしますか」

「サラ教官、見張りは……」

「そうだったわ。それがあったわね」

 

 見張りをどうするか。それが問題だった。エリゼが発言した。

 

「でしたら、町の誰かに頼んで、見張りに『あっちで不審者を見かけた』とかいって見張りを移動させるのはどうでしょう?」

 

 その案は中々に良い案だった。しかし、誰に頼むのか。考えたあげく、フレッドさんに頼むことにした。フレッドさんは快諾してくれた。

 

「いやぁ、実はここの所あいつらのせいで色々窮屈な思いをしてたんでな。協力させてもらうぜ」

 

 とのことだった。更には、1人じゃ信用されないと思い、トリスタのラジオ局《トリスタ放送》のディレクター、マイケルさんも巻き込んだ。マイケルさんも快諾。いかに士官学院生及び関係者が日頃から信頼されているかが分かる。

 シナリオとしては、トリスタの東街道で不審な人物を見かけた、ということになった。リィン達は士官学院途中の礼拝堂で隠れ、見張りが通り過ぎて行ってから礼拝堂を出て、学院に潜入することになった。危険ではあったが、エリゼの要望もあり、同行することになった。教会まで一緒に行き、そこで別れた。フレッドさんとマイケルさんが小走りで学院の正門に向かう。礼拝堂の扉は閉まっていなかったようで、すんなり入れた。

 

「後は見張りが居なくなるのを待つだけだな」

 

 トヴァルがそう言い、全員は司祭が立つ主祭壇に近づいた。月明りでステンドグラスが照らされ、幻想的だった。その中に佇む女神像は何とも言えないものがあった。するとシスターが内陣(神父・司祭が儀式を行う所)に跪いていた。その人物は誰かが近づいてきたのを感じ取ったらしく、立って振り向いた。

 

「何者ですか!?」

 

 小さく、だが、鋭い声。

 

「俺だ。Ⅶ組のリィン・シュバルツァーだ。驚かせちゃったらしいな。すまない」

 

 それを聞くと、シスターは安心したらしく、息を吐いた。

 

「本当にびっくりしました……御無事の様で良かったです、リィンさん」

「ああ、君もみたいだな、ロジーヌさん。」

 

 シスターはリィンと同じ学年のロジーヌだった。どうやら話を聞くところによると、彼女は家に帰る事は止め、ここトリスタの方々を支えたいと思い、休校になった後はずっと礼拝堂の手伝いをしていたのだと言う。

 

「ロジーヌさん、紹介するよ。こちらは妹のエリゼだ。それからこちらは遊撃士のトヴァル・ランドナーさん。今回、色々助けてもらってるんだ」

「そうですか、エリゼさん、初めまして。それから、トヴァルさんでしたか。宜しくお願い致します」

「いえ、どうやら兄様とご知り合いの様子。こちらこそお願いいたします」

「ああ、丁寧にすまないな。俺達は直ぐ出て行くから。悪かったな」

 

 会話をしていると、外から声が聞こえた。どうやら見張りが行ったようだ。

 

「それじゃ、ロジーヌさん。俺達はそろそろ行かないと。気を付けて」

「皆様に女神の幸運と加護がありますよう……武運を祈っています」

 

 その言葉に頷き、リィンを先頭に一行は礼拝堂を出て行った。そして第1・第2学生寮に通じる広場を抜けて学院に行く途中の最難関の坂を登り切る。フレッドさんとマイケルさんが上手く連れて行ってくれたようで見張りはいない。その隙を有効活用出来る様、スムーズに忍びこんだ。サラとエリゼはスカートだったが、男性陣はもう学院しか目になかったらしく、パンツが! みたいな心配は無かった。




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