秘封活動記   作:流浪の東方厨

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境界暴き

 「ウウウー・・・・。」

 遠くの工場から終業のサイレンが聞こえる科学都市の夕暮れ時。学校の終わった蓮子とメリーは町外れの山の方角に古びたヒュンダイi30を走らせていた。車内には洒落たジャズミュージックが流れ、遠くなっていく摩天楼の光も相まって叙情的な雰囲気を醸し出している。

 彼女たちが何故こんな山の中に来ているかと言うと、この先にある幽霊神社に『境界暴き』をしに行くからだ。境界暴きというのは、彼女らが組織しているオカルトサークル『秘封倶楽部』の主活動だ。その内容は、メリーの能力「結界の境目が見える程度の能力(仮称)」を使って、蓮子とメリーのいる現世から、妖怪たちが暮らす並行世界である幻想郷を観測することだ。

 「ききっ。」

i30の幅広いスポーツタイヤが音を立てて静止する。そして、蓮子とメリーは車を降りた。降りた先は大きなバリケードが張られた一本道だった。そこには、立ち入り禁止の看板が建てられていたが、蓮子はお構い無しに乗り越えた。

「入るなってことは入れって言ってるようなものよね。」

「そうね。隠せば隠すほど中身を見たくなるのが人の(さが)ってヤツね。」

蓮子が言うと、メリーも同調する。二人はづかづかとバリケードの先に進んでいった。

 

 噂の幽霊神社

 しばらくあぜ道を歩いた先には古ぼけた鳥居と石段があり、そこを登ると神社の本殿が見えた。

「いやぁ~、やっとついたわ。噂の幽霊神社。」

「はぁ、はぁ、意外と鳥居とかはきれいに残っているわね。」

かなり歩いたのに余裕綽々の蓮子とは対照的に、メリーは息切れ気味の様子。

「はぁ、はぁ、蓮子、よくあんな歩いたのにそんな元気でいられるわねぇ・・・。」

「あー、私昔おじいちゃんから日本拳法を教わってたから、体力的には自信があるのよ。」

 「はー、通りでいつも元気いっぱいなわけね。」

「あれ?日本拳法のこと言ってなかったっけ?」

「ええ、初耳よ。まぁ、そんなことは置いておいて境界暴きしましょ。」

「がってんしょうちのすけ!」

二人は境界を探し始めた。そもそも、境界とは、現世と幻想郷を隔絶する結界のほつれのことであり、そこから幻想郷が見えたり、はたまた幻想郷にしかないものが落ちてきたり、とにかくそこを起点にパラノーマルな現象が発生するのだ。

「あっ!めちゃくちゃ大きな境界めっけた!」

 「えっ!マジか!?どこ?」

「ほら、あそこ!」

「うーん、見えないなぁ。」

メリーが指差す先にはアホみたいにデカイ境界が出現していた。しかし、普通の人間である蓮子にはなかなか視認できない。蓮子が必死で境界を捜していたその時、境界から何かしらが落下した。

「あっ!何か落ちてきた!」

「あれはさすがに見えたわ。」

「ちょっと行ってみましょう!」

二人が何かしらが落下した場所に向かうと、そこには角が生えていて明らかに妖怪といったなりの男がいた。その妖怪を物陰から二人は観察していた。

「あちゃー、がっつり向こう側の方が来ちゃってるわね。」

「どうする?蓮子?」

「うーん、興味はあるけどヤツに迂闊に近づいてメリーに何かあったらやだしなぁ。」

「撤退しますか。」

二人が撤退しようとしたその時。

「ぱりっ。」

 ((あっ。))

蓮子がうっかり小枝を踏んで音を立ててしまった。

「誰じゃあ!そこにいるのは!」

「やっべぇ!バレた!」

焦る蓮子。

「どどどどうしよう!?」

高速で二人に向かって接近してくる妖怪を前に足がすくみ動けないメリー。

「しゃあなし!殺るか。」

蓮子が日本拳法を構えた。

「いやいやいや・・・・。殺るって言ったって妖怪相手に日本拳法の効果が出るわけないじゃない!」

焦るメリー。

「いや、やってみなきゃわからないわよ!」

 そうこうしているうちに妖怪はもう目の前に接近していた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ・・・・

 

 二分後、妖怪は痙攣しながら地面に突っ伏していた。蓮子の右ジャブが顔面に直撃して顔面がかなり陥没してしまったからだ。

「え?弱くない?」

蓮子は拍子抜けしたように呟く。

「いやこれ、蓮子が人間辞めてるだけじゃないかしら?だって今、あなたのパンチ目で捉えられなかったもの。」

メリーが突っ込んだ。

「まじで?だとしたら、鍛えてくれたおじいちゃんには感謝しかないわね。貴方の教えが妖怪から相棒を守るのに役立ちました。ありがとう!」

蓮子は祖父への感謝を述べると、拳に付着した妖怪の血液をガーゼを使って拭き取り、研究用パウチにしまった。

「妖怪の血液なんてどうするのよ。」

 メリーが不思議そうに言った。

「これ?明日学校に持っていって生物学部の飯田橋くんに解析してもらうんだ。」

蓮子が答える。飯田橋とは、蓮子たちの同級生で、生物学を専攻する若人だ。

「へぇ、解析ねぇ。確かに、妖怪って人間と体の構成が違うし、血液の成分も違うかも。」

「そ、これが思わぬ大発見に繋がるかも知れないじゃない。知的好奇心って大事よね。」

 二人が会話していたその時、轟音と共に辺りを強烈な光が包んだ。二人が空を見上げると、中型のフライングシップが二人に向けてライトを照射していた。その無機質極まるボディには権威を示す「KCPD(京都府警)」の文字が刻まれており、明らかに蓮子たちを威圧するように低空飛行していた。

 「こちらは京都府警航空警ら隊である。そこの二人、ここは立ち入り禁止区域内だ。即刻立ち去りなさい。さもなければ逮捕する。」

「ちょっと蓮子・・・・。これ、まずくない?」

「まずいなァ。わかりました、退去すればいいんでしょ?」

二人はもう少し探索したいという知的欲求を押さえつけ、渋々車まで戻った。車に乗り込み、エンジンキーを回して、しばし眠らせていたエンジンを暖めている間、蓮子は不平を垂れていた。

「なによォ。あの警察の態度。あんな高圧的なのってある?」

「まぁ、法を犯したのは私たちだし、仕方ないっちゃ仕方ないわよね。」

「そうねぇ。なぜ政府は向こう側のことを隠したいんだろ?」

蓮子がギアを入れてアクセルを踏む。すると、ボロの白いハッチバックは頼りない駆動音と共に発進した。

「さァ?なにか重大なことを隠してるんじゃないかしら。そういう『秘封』を暴いてこその秘封倶楽部でしょ?」

メリーが言った。

「そうね。隠せば隠す程気になるのはオカルトマニアの(さが)よね。次はバレないように警察無線を傍受しながら境界暴きをしましょう。」

蓮子が運転しながら答える。

「警察無線を傍受って、そんな機械どこで入手するのよ。」

 「まァ、ちょっと幼なじみのつてをつかってね。」

 「貴女本当に顔が広いのねぇ。」

 世界の真実を追い求める若き探求者二人は夜のビル郡を車で走り抜ける。眼を焼き尽くすような原色のネオンや、やたら派手に飾り立てた車で暴走するイカれた若者などが蔓延る薄汚い現世。そんな世界から一歩進んだ境界の先を知る為に、彼女たちは今日も『秘封』を暴き続けている。

 

 続

 

 

 

 

 

 

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