水雪、イギリスへ行く   作:ゼリーフィッシュ

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エピローグ

 とうとう水雪の留学が終った。彼女はイリアと彼女の両親と共に空港にいた。

≪寂しくなるわね。1か月お疲れ様でした≫

≪イリアと仲良くしてくれてありがとう。またイギリスに来た時は、是非ともカサブランカに寄ってくれ。エールの1杯くらいならサービスしてあげるからな≫

≪リタさん、トマスさん。1か月の間、本当にありがとうございました! 一生忘れない留学になりました!≫

 最敬礼のように頭を下げる水雪。両親はしんみりとした顔になっている。しかし、イリアは笑顔だった。こんな時に暗くさせたくない、彼女なりの気遣いだった。

「水雪、1か月本当にお疲れ様。そして、ありがとう」

「イリア……。あたし、イリアがいなかったらきっとこの留学乗り越えられなかったと思う。本当に、大好きな友達に会えたよ!」

 明るく努めていたイリアだったが、この言葉に涙腺を崩壊させられた。たちまち涙が溢れてきて、それを隠すかのように思いきり抱き締めた。声をあげて泣いており、水雪も心配そうに頭を撫でる。

「そんな大げさだよ。SNSで繋がったし、もう一生会えないってわけでもないじゃん!」

「だけど、だけどぉ……」

 それから言葉が続かなかった。水雪がイリアをあやすように頭を撫でていると、少しずつ落ち着いてきたようで、悲鳴のような泣き声はあげなくなっていた。身体から離れたのは、それからもう数分経ってからのことだった。イリアは落ち着きを取り戻したようで、やや赤面している。

「ごめん、めっちゃ取り乱した……」

「いやいいよ。ちょっとびっくりしたけど。でも、本当にありがとう」

「水雪……」

「また涙流してる。イリアってそんな感じだったっけ?」

 水雪が苦笑すると、アナウンスが発せられる。鳴山国際空港着の飛行機の時間が迫っていたのだ。

「イリア、あたしそろそろ行かなきゃ」

「待って! 最後に一つだけ!」

 イリアは両親に見えないように器用に人ごみに紛れると、水雪の額にキスをした。その時間は一瞬だったが、彼女はこれほどまでにないほどの笑顔だった。

≪愛してるよ。水雪≫

 放心状態になりそうだった水雪だったが、直ぐに持ち前の笑顔で応えた。

≪私も、愛してる!≫

 

 12時間のフライトを経て、水雪は鳴山国際空港に到着した。国際線のロビーで一旦落ち着くと、塔子とソラにメールを入れる。

『今国際線のロビーに着いたよ!』

 数分としないうちに二人から返信が届くと、安心したようにスマホをスリープ状態にする。彼女は帰国直前のイリアを思い出していた。キスをした後のイリアは、これまで見たことが無いほど大人の女性に見えた。彼女の口からあまり出なかった本場のイギリス英語での愛の告白も、それに拍車をかけていた。

「ずるいよなぁイリアは。どうしてこんなに可愛くてカッコいいんだろ」

 ふぅとため息を吐いて、イギリスでの出来事を思い出す。出てくるのは、イリアや修二、四五とのことばかりだった。3人がいたから、留学が一生の思い出になったのだった。だが今になって、涙がこみあげてくる。もう泣かないと決めたのに、一筋の涙が頬を伝った。

 と、誰かに肩を叩かれる。後ろを振り向くと、一か月ぶりにソラが目の前にいた。

「水雪、留学お疲れ様」

「お兄ちゃん!」

 水雪は人前であることを気にせず、勢い良く抱き着いた。イリアが彼女にしていたことを、今度はソラにぶつける。苦笑いした塔子が来たのは、それから数分後のことだった。

 

 車の中で、水雪は留学の出来事を話していた。

「まあ詳しくは家に帰ってから話すけど、テンブリッジには日本人の教授が二人いたんだよ」

「そうなのか。薊野教授なら知ってるかもな」

「うん! 二人も電波喰いの影響で、かぐやのお母さんと薊野教授は知っていたみたい。一度会ってみたいんだってさ。二人から見ても薊野教授って超天才みたいな感じみたいだし」

「水雪、イギリスでは友達は出来た?」

「うん! ホームステイ先の女の子と仲良くなったよ! あとで写真見せるね!」

 和気藹々と会話が弾むと、自宅に到着するのもあっという間に感じられた。水雪は久し振りの我が家に心を躍らせており、いち早く車から降りようとした。しかし、塔子が止める。

「お母さん、どうしたの?」

「水雪、ちょっと待ってて。ほんの数分でいいの。ソラ、ちょっと中の様子を見てきて」

「分かった」

 ソラが先に車から降りて、自宅に入る。何が起こっているか分からない水雪だったが、対照的に塔子は笑顔を隠しきれていない。何がそんなにおかしいのか。何か企んでいるのではないか。そう思っていると、ソラが出てきた。

「もう準備は完了してるって。水雪、行こう」

「え? ちょっと……」

 水雪の手を引いて家に入るソラ。水雪は不安そうに周囲を見回すが、特に不審なものは見られない。「ただいま~」と小声でリビングに入ろうとする。ドアを開けると、そこには彼女にとって予想もしない光景が広がっていた。

「これ、何……?」

「水雪ちゃん、留学お疲れ様!」

「待ってたぜ、水雪ちゃん!」

「みずき、お帰り。これ、皆で考えたんだよ」

 テーブルの上には料理が並べられており、『留学お疲れさまでした』とチョコレートでデコレーションされたケーキもある。

「水雪が帰ってくる1週間前から、皆で考えてくれたんだよ? お母さんも本気出しちゃった!」

「マジで……? 皆ありがとう!」

「さ、座って! 主役の登場だ。と、その前にこれ」

 イシマルが一通の手紙を渡す。そこには見覚えのある文字で『月見里 水雪へ』と書かれていた。

「薊野教授……?」

「うん。一応誘ったんだけど、研究で忙しいって言われちゃって。だから、簡単に手紙を書いて貰ったんだ」

「そんな、留学から帰ってきたくらいで大げさだよ。でも、ありがとう」

 手紙を鞄の中に入れると、指定された席に着く。隣にソラが座ると、お疲れ様会が始まった。

「さて改めて、水雪! お疲れ様!」

「私の為にこういうことを考えてくれてありがとう! 今めっちゃ幸せだー!」

 ホームステイ先の話やテンブリッジでの勉強の話、そして修二と四五と出会い、そこで大切なことを学んだことなど、水雪は自分が経験したことを饒舌に話していく。しかし、修二から言われたことは約束通り、この場の誰にも話さなかった。

「あれは、イリアと教授たちとの秘密だから……」

 ピースしたアリスの肖像画を思い出しながら、これからの学生生活を歩んで行こうと一人誓ったのだった。

 

 

 




これで水雪のif物語は終わりです。最後まで読んでくださりありがとうございました。
次は白昼夢の青写真Case3を軸に二次創作を書いていく予定です。まったりやります。
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