戦姫絶唱シンフォギア VC   作:サリッサ@無期限休止

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あの頃は、何もかもが大きくて
そして、何もかもが珍しく、輝いていた。

時が経つにつれ、
いつしか見上げていたものを見降ろし、
陳腐なものだと笑うようになっていく。

忘れてしまったのだろうか?
消えてしまったのだろうか?

否、確かにそこに、
幼き日々に目にした情景は残っている。

そして、そんな積み重ねが、
明日へと進む勇気をくれる。


目を閉じれば浮かぶ、人々の声、
けたたましい心臓の音と共に、

今、始まる。


分かれた川は戻らない

 ユタカアイランドパーク。

 

 都内にある老舗の遊園地のひとつ。その歴史は優に百年を超え、今尚多くの利用者に愛されている。水と緑に彩られたそこに、

 

「調!?調ぇ!!どこデスか?!」

 

 暁切歌は方々へ全力で頭を振る。

 

「ここだよ。切ちゃん」

「調ぇ!!」

 

 

 装者含む、S.O.N.G.メンバーは集結していた。

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 再び集められたメンバーに向かって、弦十郎は重い口を開いた。

「蘭堂から、連絡が入った」

 一斉に詰め寄ろうとした面々を制し、弦十郎は一同を見渡す。

「交渉を、持ちかけてきた。内容は、明確にはしていないがな」

「何考えてッ…」

 マリアがこぼす。そばにいた調、切歌が不安そうな顔で見上げる。

 

「…まずは、一つ、謝らなければならない」

 弦十郎はそう言うと、真っ直ぐに少女たちに向き直る。

「不確実情報が多かったこと、余計な混乱をさけること。そして何より、気持ちのいい話ではなかったため、装者諸君には伝えていなかったことがある。すまなかった」

「弦十郎叔父様をそうされるほどの事情とは、一体何が?」

 翼の問いに、弦十郎は藤尭へ目配せをする。少し間を置いて、モニタが切り替わった。

 そこに映し出されたのは、

 

 

「頭?」

 

 

 響の怪訝そうな声が、漏れる。画面には、医療ドラマなどで馴染みのある、白黒の人体、頭部の写真。それが複数表示されていた。

「確かレントゲン写真、ですよね?脳機能の検査する時に使われる…」

 調の言葉に、友里が頷いた。

「医療に関わらず、身近なものだと空港の手荷物検査などにも使われる技術ね。X線を照射して、骨や臓器、脳などの障害物があると、白く撮影される物よ」

「だったら、おかしくねぇか?」

 クリスが目を凝らしながら言う。頭部骨格が若干違うため、皆別人のものらしいことはわかる。

 しかし、写真群には明確な共通点があった。

「骨ほどでなくても、脳も白く映るンだろ?普通…」

 

 そこまで言って、彼女は息を飲む。

 本来であれば、灰色で脳が撮影されるはずの写真。その骨格で覆われた箇所は、全て墨で塗りつぶしたかのように、真っ黒だった。

「これもしかして……」

 

 

「そうだ。脳が、抜き取られている」

 

 弦十郎の言葉に、装者たちは慄いた。あまりの衝撃に、言葉が出ない。

「じゃあこの写真の人たちは、全員…」

「全員、生きているんだ」

 藤尭が、響の言葉に答える。画面が移り変わり、バイタルサインが表示されている。装者たちに医学の知識はないに等しかった。が、自身が普段受けるものを見ていたからか、ある程度、異常正常の判断はできる。

「心臓も、他臓器も問題ない。脳が損傷、ましてや喪失なんてことになったら、身体機能は維持できず停止していくはずなのに。彼らはこの状態で生存し、既に三か月が経過している」

「三か月?!意識は?!」

 驚きの声をあげる翼。弦十郎が首を振り、言葉を続ける。

「全員、眠ったままだ。時折身体が動いている状態から、専属医療チームでは『夢を見ている』と診断している」

「脳がないはずなのに、夢を見ている…」

 噛み締めるようにつぶやくマリアだったが、衝撃を受けたように顔をあげた。

「まさか、これを…?!」

「断定はできない。アイツからも明言はなかった。だが…」

 弦十郎は拳を握る。その姿だけで、何を言いたいか、言いたくないのかを察する一同。

「関係各所では、『脳抜き事件』と呼称し、現在調査を行っています。また、現時点では不確定要素の多さから禁止されていますが、最初期に頭部の手術を行った際…」

 緒川の言葉を受け、藤尭が画面を再度切り替える。映し出されたのは、おそらく手術時の写真だろう。ショッキングなもののため、生々しい切開部分は映されてはいない。

「頭蓋骨を開けてみたところ、羊水と脳があるはずの場所に、半透明のゼリー質の球体が収められていました。憶測の域を出ませんが、このゼリー質のものと脳を移し替えられた、もしくは別の場所に転移させられていると考えられています」

 これ以上は精神的負担が高いと思われたため、画面は全て落とされる。クリスは頭を振って自分を奮い立たせ、切歌と調は抱き合って体を震わせている。

 

「明らかに、異常事態ね」

 静かに、マリアが呟く。

「今までは一握り、そして世界各地で発生していたため、大きく取り沙汰されることはなかった。しかし、例の離反宣言以降、爆発的に報告例が増えた。全く無関係とは…思えない」

 しばし沈黙の後、弦十郎が咳ばらいをした。

「以上のことから、今回の会合はこの案件に関するものと考えられる。会合には八紘兄貴、そして翼が指名された」

 突然自身と父が挙げられ、驚く翼だったが、ゆっくりと頷いた。

「承知いたしました。お任せください」

「頼む。当日の役割に関しては、日本政府と八紘兄貴と詰めてから連絡する。今回は『脳抜き事件』について先に知っておくべきだと判断し、集まってもらった。思うところはあるだろうが、心しておいてくれ」

 

 

 会合が終わり、各々が暗い顔で指令室を後にする中、響が手をあげる。

「あの話は…女の人は、どうですか?」

 以前の訪問時に一瞬覚醒した、あの夜助けた女性。響の言葉を受け、弦十郎は答える。

「…変わらずだ。特に進展はないと聞いている」

「そうですか…エルフナインちゃんも、まだ…」

 友里が頷くと、響の目線が下がる。しかし、自分の頬を打ち、頭を振った。

「こんな顔してちゃ、ダメですね!まだ蘭堂さんが目的もわからないですし…師匠!!ちょっと走ってきます!!!」

 元気に走り去っていく少女の後ろ姿を、弦十郎は笑顔で見送る。しかし、

 

「もしもの時は…俺が…」

 拳を握った男の深意は、誰にも窺うことはできなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「マリア!早く早く!」

 以上の経緯でユタカアイランドパークへ潜入を開始する面々。蘭堂からの提案に乗るべきか否か迷ったものの、交渉前に話を打ち切られるわけにもいかない。会場を検めるためにも、幾人かを先行して送り込むこととなった。

「貴女達!あまり目立つような行動は———」

「問題ないデス!」

 そう言って切歌と調が取り出したのは、二人のカラーに彩られた眼鏡。

「この潜入美人捜査官メガネをかければ、大丈夫ッ」

 得意げに笑いかける二人を見、サングラスをかけたマリアはため息をこぼした。

「子ども二人と、大人二人分、頼む」

 弦十郎はその後ろで、チケット購入の手続きを進める。窓口には布が掛けられており、対応してくれているのは高齢の夫人のようだ。

「全部で四枚ね。休日のお父さんは大変ねぇ」

「ハハ。俺は……いや、その方が自然か…?」

 妙なことを口走る弦十郎。窓口からは微かに笑う声が聞こえる。

「ええ。周囲に溶け込むには、ロールを決めておくことをお勧めするわ」

 言葉と共に、チケット、そしてタバコのケースが差し出される。

「今のところ、出入り口から怪しい人物は入ってきてないし、何かあればこれで知らせるわね」

 弦十郎は目を丸くした後、その贈り物を笑って受け取った。

「それにしても…私も後輩ができたみたいで嬉しいわぁ」

「いつも、恩にきります。ドラマの出来も、なかなかいいですよ」

 

「いってらっしゃい。せめて、楽しんできてね」

旧友からの言葉を受け取り、彼はいつもと違う戦場に向けて歩き出す。

 

 

 

 弦十郎たちよりも早く来園した、クリス、響、そして未来。

「見て見て未来!クリスちゃん!ここボンバーたこ焼きあるよ!珍しい~」

 目を輝かせながら屋台へ歩き出した響の首根っこを、クリスが捕まえる。

「そうやってすぐに食いモンに吊られやがる。あんまり羽目を取っ払うんじゃねぇっての」

「そうだよ響。まだお昼には時間早いよ?」

「そういう問題でもねぇ!」

 売り子もそんな三人を微笑ましそうに見ている。数分に及ぶ説得により、ようやく響は渋々屋台を諦めた。

「お昼時じゃ混んじゃうかもしれないのにぃ…」

「大き目なレストランもあるんだ!そっちで喰えばいいだろ?」

「それはそうなんだけど…ねぇ?」

 響の同意を求める目に、未来は曖昧に笑って答えるしかなく、クリスは訝しむ。彼女の豪快あり余る食事風景が、脳裏をよぎる。

「あたしが何だってんだァ?!」

 クリスにヘッドロックをかまされ、悶絶する響。

「翼さんたち、もう入ってきたかな?」

 未来の呟きに、クリスのロックが緩む。

「まぁ、先輩たちなら敵襲があっても蹴散らすだろうが…そうだな…」

 クリスも微妙な表情になる。父と子。その複雑な家庭事情から、一時期は半ば断絶のような生活をしてきたのだ。わだかまりが解消されたからと言って、一朝一夕で修復出来るものでもないことは、想像に難くない。

「大丈夫だよクリスちゃん!翼さんなら!」

 クリスから脱出した響が、二人にそう笑いかける。そんな姿に、呆れを少々感じたものの、クリスは頷いた。

「だな。なんてったってあたしらの先輩だもんな」

「うん!」

 同意を示した響に笑顔で歩み寄り、

「?!」

 再び締め上げ始めるクリス。

「あたしだってお前の先輩なんだけどなァァ?!」

「ギブギブ!!!いいでしょ私とクリスちゃんの仲なんだからぁ!!」

「どんな仲だァ??」

 屋台の売り子が、止めに入るべきかどうすべきかあたふたしている。そんな様子を他所に、二人のじゃれ合いに慣れている未来は、笑顔でその様子を見守っていた。

 

願わくば、こんな日常が、末永く続くことを祈って。

 

 

 

「……では、行こうか。翼」

「……ええ、お父様」

 三人の心配通りに、賑わう園内を一定の間隔をあけて歩く親子の姿。道行く他の来場客も、なんとなく二人とは距離を置いているように見える。幸い、まだ翼がトップアーティスト風鳴翼であることはバレていないようだ。それほどまでに、微妙な空気を発しているということか。

 

 

「大丈夫でしょうか…翼さん」

 そのぎこちない様子を、他の者とは違う目線で伺う影が、ひとつ。園内スタッフの服に袖を通した緒川慎次。つば付きの帽子で目線を隠しながら、清掃業務を片手間に二人の身辺へ注意を向けている。

 

「ちょっと。流石に目立ち過ぎよ」

 背後から声をかけられ、一瞬臨戦態勢に入りかける。声をかけてきた主がマリアだとわかると、緒川は自身の緊張を解いた。同時に己の周囲に警戒を欠いていた事実に、内省する。

「いらっしゃいませ、お客様。何かお探しでしょうか?」

 その様子に噴き出すマリア。確かにいつもの彼でありながら、見慣れたスーツとは違うカラフルな装い。そのちぐはぐさに、おかしみを感じてしまう。

「気持ちはわからなくないけれど、もう少し砕けたほうが良いのではなくて?あまり固いと逆に浮きかねないわよ」

「そうですね…」

 目線が、再び風鳴親子の方を伺う。十何年以上、側に控え見てきたのだろう。そのまなざしに、服装とは別の、いつもとの違いを感じる。

「あの服、二人とも何時間も悩んだんですよ」

 マリアにそう呟く彼。八紘は外向けのスーツを少し崩した様子。翼も装者たちで遊びに行く服装と、あまり変わらない。

「状況が、状況だからかしら」

「勿論それもあるのですが…」

 緒川はおかしそうに笑う。

「何を着て行ったら変じゃないか、二人とも鏡の前で悩んでらっしゃって。これは翼が見たらどう思うかとか、お父様にいぶかしまれたりはしないだろうか、って」

 二人の間にある出生による隔たりと、その不和が生み出したすれ違いの、長い時間。翼自身から聞いたマリアだからこそ、緒川の言わんとすることが分かる気がした。

「やっぱり、親子なんですね。二人は。最近は本当に、そう思う瞬間が多くて、僕は…」

 そうして、彼は笑った。満面の笑みだった。

「だからきっと、翼さんなら、失ってしまった時間を取り戻せる。僕はそう信じています」

 マリアは、静かに頷いた。

「少し、羨ましいわ」

「?」

 微かな言葉に、緒川は聞き取れない。戦友の後ろ姿を見送り、含みのある笑みを浮かべた。

「邪魔したわね」

「いえ、そんなことは…」

 緒川の言葉を尻目に、彼女は踵を返す。

「私も園内巡回に……いえ、一旦トレーラーに戻るわ。今日はどうにも…」

 こめかみの辺りを擦り、歩き出した。焦っている、のだろうか。彼女自身、何が心をざわつかせるのか、未だ掴み切れずにいた。

 

 

「…お父様、ティーカップです」

「…そうだな」

 ぎこちない親子は、歩き続ける。どう切り出せばいいのか、どう応対したものか。久しくまともに言葉を交わさなかった家族、と言うよりも、風鳴という家柄がそうさせた。それでも、互いの距離は、前よりずっと近いと、そう思いたい。

 

「……乗るか」

 少々過ぎた地点で、八紘が急に立ち止まる。呆気にとられる翼と共に、元来た道をたどり、回転する遊具の前に立つ。

「……大人と子っ…、大人二人で」

 その勢いに少し驚いたようだったが、従業員は笑顔を浮かべ、二人を誘導した。丁度よいタイミングだった。二人が座ってすぐ、アトラクションが動き出す。ゆっくりと、でも、しっかりと。

「お父様は、乗ったことはありますか?」

 翼の問いに、少々間を置いて、頷く。

「ゲンと……蘭堂と、英国に行った折にな」

「そうでしたか…」

 気まずい話題だったと焦る翼だったが、ティーカップの速度が増し、引き戻される。八紘だ。彼が目の前のテーブルを回している。

「お父様??」

「ゲンのやつがな」

 回しながら、彼は言う。

「あの時は、こうしたほうが面白いと言って、際限なく回すものだから、途中で取っ手が壊れてしまった。蘭堂……バンのやつはそれを見て、真似をしようとするものだから慌てたよ」

 動かす手を止め、翼を見る。驚いたような、少し混乱したような表情だ。こうして膝を突き合わせて、真っ直ぐに、彼女の顔を見る機会も、長らくなかった。

「お前も、やってみるといい」

 渡された取っ手を、翼が掴む。ゆっくりとテーブルを回し始めた。加速がつき、重力を感じる。彼女の顔が、綻んでいく。

「セイ!」

 勢いよく、振りぬき、彼女は楽しそうに笑った。年相応の、少女の笑顔だった。

 

「すみませんお父様。夢中で回してしまって…」

 カップから降りるや否や、翼が謝罪する。八紘は頭を振った。二人とも全く目が回っている様子はない。

「戦闘機の操縦に比べれば、どうということはない」

「心得が?」

 少々意外だった。弁によって事を成す彼の姿からは想像ができなかった。

「一通りの操縦技術は体得しているつもりだ。昔取った杵柄、だな」

 談笑を続けようとした二人。しかし、

「あれ…もしかして……」

 少し騒ぎ過ぎたらしい。二人は頷くと、人込みに紛れていく。先ほどよりも、確かに近い距離で。

 

 

 

「みんなぁ…どこ行っちゃったデスかぁ?」

 園の外縁を歩く姿が二つ。調と切歌だ。二人とも、焦りと疲れが顔に浮かんでいる。

「切ちゃんがはしゃいで進んじゃうからだよ。司令と一緒に行動しなきゃいけなかったのに…」

「調だってカエルのピョンピョンに夢中だったじゃないデスか…」

 そんなことを話しながら、歩道に沿って歩いていた二人だったが、切歌が足を止める。

「切ちゃん?どうしたの?」

「……あれ、何デス?」

 切歌が指差した方向には、子どもたちがいた。何かを囲んでいるのか、背の高いシルエットがあるが、木々に隠れて見えない。

 しかし、二人にとってその形は、心をざわつかせるものだった。

「もしかして…!」

同時に走り出す。嫌な予感が心中を満たしていく。携帯していた注射器に手を伸ばし、臨戦態勢に入る。そして、

 

 

「やーいやーい!よわっちぃのー!!」

 

 

 呆然とした。

 

 そこには、子どもたちがいた。さらに、もう一つ。背の高いシルエットは、かなり異様な風体をしている。鱗を纏った体表。体格にしては小さな羽のような器官。二足歩行で、ずんぐりとしている。手に相当する部分には、蟹のようなハサミが付いている。そして頭部が、異様だった。何か繊維質の物を束ねたような形状で、渦を巻き、ところどころから触覚のようなものが伸びている。そして、

 

「反撃してみろー!」

 

 めためたに蹴られていた。奇怪な存在と、子どものあまりにも想定外の力関係に、立ち尽くしてしまう。見れば奇怪奇天烈存在は、子どもに蹴られるのを嫌がっている様子だが、特に反撃できず怯え震えている。

「何デス…あれ?」

「新しいタイプの、着ぐるみ…なのかな?」

「お前!宇宙犯罪ギルドの手下だろ!!オレらが退治してやる!!」

宇宙犯罪ギルド、TVアニメ電光刑事バンの敵組織だ。少女たちはよく知らなかったが、響の友人が熱心なファンであった。聞くところによると、何十年も前の作品らしく、何故少年たちが知っているのかは不明。

 しかし、とはいえ、この状況を見過ごすわけにもいかない。

「コラー!なにしてるデスかー!!」

 最初に動いたのは切歌だった。大声をあげ、両手を上に掲げる。少年たち、だけでなく奇怪存在も驚いた様子だ。両者動きが止まる。

「弱い者イジメは!成敗デース!!」

 そのまま切歌が少年たちに走り寄る。少年たちは突然の可憐な来訪者の怒号に驚き慌て、我先にと逃げていく。その隙に調が奇怪存在に駆け寄る。

「大丈夫…ですか?」

 着ぐるみなのだろう、か。未だよくわからない存在に対し、問う。奇怪存在も、ハサミで頭を抱える仕草で調を伺っている。

「……平気だよ、さあ」

 調は笑いかけ、そして手を差し出した。彼女の胸中で、尊敬する先輩の顔が浮かんだ。

「……」

 奇怪存在は差し出された手に、時間をかけ、恐る恐るハサミをおいた。硬質のものかと思いきや、柔らかい。確かにこれは新素材の着ぐるみなのかもしれない。

 

「調~どうデスか~?」

 少年たちを追い払ったのか、切歌が駆け寄ってくる。

「あの子たちは?」

「お尻ペンペンしてやろうかと思いましたけど、追っ払うだけで許してやったデス!」

 胸を張る親友に微笑みかける調。そんな彼女の手、奇怪存在の方を見る。

「こんにちは~大丈夫デスか?」

 流石に彼女らももう高校生。大人の事情を分かっている常識人だ。つい先日まで、中の人という存在など思ってもみなかったことは内緒だが。

「手酷くやられましたね…もう安心デース!!」

 少女の笑顔を見てか、頭部の細かい触手が動く。どうやら喜んでいる仕草らしい。仕掛けは謎だ。奇怪存在は身体を何度も折り曲げる仕草をした。お礼のお辞儀のつもりのようだった。

「そんなぁ私たちは正義の味方デス!小さい子でも悪事は見逃さないデスよ~」

 切歌の言葉に少し動揺する奇怪存在。どうやら正義の味方という点に反応したと、調は察する。もう片方の手を、その大きなハサミに置いた。

「私たちは、あなたを傷つけたりはしない」

 奇怪存在は安堵した様子で、もう一度深くお辞儀をした。

 

「ちょっと!待ちなさい!!」

 そこへ、女性の声が聞こえてくる。奇怪存在はその音に驚いたのか、少女たちの後ろへ隠れた。

 木陰から出てきたのもを見、切歌と調はまた驚いた。奇怪存在が増えたのだ。二体が何やらひどく焦ったような多動をしながら現れた。そして、目もないが、少女たちと奇怪存在達の視線が交錯する。

「ど、どうも」

 調の言葉に、いや声をかけられたことに、奇怪存在二体はもうパニックといった様子だ。両腕のハサミを激しく上下し、片方は後方にから来る別の誰かを必死に呼ぶ動きをし、もう片方はボクシングの構えをするが、明らかに人で言うへっぴり腰だ。

「うーん…どうしましょう…」

 切歌の困惑した言葉が紡がれる中、ようやっともう一人、現れた。

「まったくあれほど離れるなと——」

 

 

 出てきたのは、パークの従業員服を着た女性だった。目深にキャップを被り、その顔は少ししかうかがえないが、少し出た髪の色は綺麗な銀髪だ。

「ッ!?!」

 従業員は二人を見、身体をこわばらせる。二人も、そんな従業員に対してなんと声をかければよいか、考えあぐねた。

 

「ミー!」

 突如、甲高い音がした。少女たちの後方、奇怪存在だ。先ほどまで隠れていたが、少女たちの背後から、同族が来たことに気付いたのだろう。喜びの声をあげたらしく、のっそりとした足取りで、二体の元へ駆け寄った。二体もそれに応じるかのように、一体は駆け寄ってきたモノを抱きとめ、もう一体は再会を喜ぶように踊りまわっている。非常にコミカルな様子に、双方の緊張が解かれた。

「もう、貴方たちは…」

 帽子のつばを掴み、首を振る従業員に向かって、少女二人は歩み寄った。

「この子の、保護者…さんですか?」

 調の問いかけに、従業員は身体をこわばらせたが、すぐに答える。

「え、ええ。そうよ。園内を練り歩いていたのだけれど、途中でどうやら、子どもたちに連れて行かれてしまったらしくて」

「着ぐるみだと見えにくいですからね…いじめていた悪い子たちは、私が追い払ってやりましたデス!」

 再び得意げに振る舞う切歌に、なだめる調。その様子を見、従業員はしばし沈黙した。

「そう、あなたが…」

 そして軽く会釈をする。

 

「ありがとう」

「マッかせなさい!何を隠そう私たちは———」

「わわわわー!!」

 妙なことを口走る前に、調が口をふさぐ。勢い余って要らぬことが口から出かけた切歌は、申し訳なさそうにうな垂れた。

「それでは……貴方たち!」

 従業員の声掛けにより、奇怪存在たちの動きが止まる。そして慌てながら一列に並んだ。

「二度とはぐれぬように!いいわね!」

 敬礼のように頭上にハサミを掲げる三体。内一体は勢い余って自分の顔を強かに叩いてしまった。悶絶する姿に深くため息をつくと、従業員は三体を連れだって歩き出す。

「もうはぐれちゃダメデスよ~」

 その後ろ姿に、切歌が声をかける。奇怪存在が振り向き、おおげさに両のハサミを振った。

 

「また、助けられたわね」

 従業員が小さく呟いたが、少女たちには聞こえなかった。

 

 

 

「さて、どうなるかしら…」

 

 

「?調?何か言ったデスか?」

「え?何も?」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 夕刻。

 天に輝いていた太陽は、徐々にその身を地平線へと落としていく。その赤く染まった空の下。親子二人は、園を見下ろせる高台にいた。

「今日は、いろいろな乗り物に乗りましたね。お父様」

「そうだな」

 眺めれば、先ほどまで楽しんだ遊具たち。今度は小さい子連れの三人家族が、ティーカップを回して楽しんでいる姿が見える。他にも、今は開放していない、広大なプール。水しぶきをあげるジェットコースター、園内の森林を進む列車。豪快なフライングパイレーツ。お化け屋敷に空中ブランコ。趣のある美しい回転木馬。少し前の様子を思い出し、翼が噴き出した。

「しかし、お父様がフライングパイレーツの折、終始固まってらっしゃったのは…なんとも…」

 八紘も思うところがあったのだろう。そっぽを向いてしまった。

「あれは、少々レバーの固定がゆるかったからであって————」

 そう言いながら振り返った、八紘の言葉が止まる。彼の前には、自身の娘の横顔があった。夕日に照らされ、彼女の蒼い髪が煌めいた。

 

「皆、本当に楽しそうですね」

 彼女の目線は、未だ園内で楽しむ人々に注がれていた。

「この遊園地、大正時代からあるそうです」

 昼頃に通りかかった、園の歴史が書かれた記念ボード。彼女はそれを熱心に読んでいた。

「戦争を、そして震災を、この遊園地は、人々と一緒に乗り越えてきたのですね」

 もっと遊具が充実している行楽施設は他に沢山、生まれている。それでも人々がここに集うのは、きっと相応の理由があるのだ。

「楽な歩みではなかった。記念ボードも読ませていただきましたが、書かれた以上に、私の思いもよらぬ様々な障害や苦難が、あったはずです」

 ティーカップで遊んでいた三人家族が、従業員に手を振られて去っていく。どちらにも、綻んでいた。

「度重なる危機を、それでも耐え、この場所は今日まで多くの人々の笑顔を生んできた。ボードには、ここを守るため、多くの方々が苦心し尽力してきたことも書かれていました。そして、子どもの頃遊んでいた人々が今度は、大人になってこの場所で働いている」

 どの遊具にも、人々の笑顔が咲き、そして、従業員たちの奮闘する姿があった。閉園後にメンテナンスを行うところもあるだろう。土地を維持するために、こことは別の場所で働く者もいるはずだ。

「この遊園地は、人々の心の拠り所。笑顔と共に、手を取り合って立ち上がるための勇気をくれたのかもしれないと、私は思うのです」

 

 そう言った娘の笑顔に、父は何も言わなかった。翼からは、夕日の反射で八紘の表情は読めなかった。ただ、少女には見えなかったメガネの奥に、強い覚悟が浮かんでいた。

「そうだな」

 静かに、力強く、頷いた。

 

「もう、いいだろう。そろそろ時間だ」

 八紘が唐突に、背後の林に声をかける。翼は少し驚いたが、すぐに身体をこわばらせた。木々の影の中に、何者かが潜んでいる。

 

「もう少し、後でもよかったんだが?」

 ゆっくりと立ち現れたのは、この会合の提案者。その薄汚れた白衣の様子は変わらず、口元はガスマスクで隠され、晒された目だけで感情を読み取るのは難しい。

「蘭堂…さん」

 翼が低くつぶやく。その手は自然と胸元へと移行する。しかし、八紘が制した。

「お父様」

「話し合いに来たんだ。飛び道具を出すのは、終わった後でも遅くない」

 その様子に、蘭堂は、歩を進める。

「いいのか?こういう時はいつでも出せるようにしておけ、というのものではないのか?」

 その問いかけに、八紘は少し笑みを浮かべた。

「セオリーなら、な。お前相手ならば、必要はない」

 蘭堂は肩を竦めた。二人は言葉を発することなく、少し離れたテーブルへと向かった。なんの変哲もない、白いプラスチックのテーブル。まるで雑談でも始めるかのように、そこへ腰を下ろす。

「さあ、始めようか」

 夕日が見届け人として、二人の顔を照らしながら、奇妙な話し合いが幕を開ける。

 

 

「では、まずは……」

 そう言いながら、蘭堂が懐から二種類の紙束を取り出す。ひとつは複数の書面がクリップで留められている。そちらをテーブルへ置きつつ、もう一束、枚数が少ない方に目を通し始める。

「それは?」

 八紘の問いに、蘭堂は紙から目を離さずに答える。

「発言許可リストだ。俺が要らぬことをよく言うことは、知っているだろう?」

 その言葉に、苦笑する八紘。翼は眉を顰める。

「交渉は腹の探り合い、というべきか、ここは。最初は反対されたし、今は愛想をつかされるわけにもいかぬのでな」

 いつも通りの口癖に、

「その紙を書いたのは、協力者、ということでしょうか。それは…」

 翼の問いかけを遮るように、蘭堂は紙を閉じる。

「それは、不許可項目だ」

 

「確認は済んだようだし、用件を聞こうか」

 八紘がテーブルへ肘を置く。メガネの奥の眼光が鋭く光る。彼の主戦場。その目は正しく、言葉で戦う武人のものだった。

「最初に、明言しておくとしよう。多発している脳抜き事件。

  あれの主犯は、俺だ」

 

 勢い余って立ち上がろうとする翼の腕を、八紘が見ずに掴む。

「翼!!」

「しかし!!!」

 歯噛みする娘の腕を、しっかりと掴んだまま、八紘は眼前の元友人を見据える。

「何故?」

 静かな問い。しかし、その奥底に、先ほどまではなかったものが感じ取れる。敵意だろうか。落胆だろうか。

「こちらは、今、エネルギーを必要としている」

 気にする様子もなく、蘭堂は椅子に背を預ける。

「想い出の錬成、というやつだ。錬金術師の焼却方法を転用するため、にな」

「それでは、魔法少女事変の時のようにッ!!」

 翼の脳裏には、以前の事件の折、記憶を奪われた人々の姿が浮かんでいた。蒼白となり、倒れ伏した姿。そして、嘆き悲しむ家族の姿が。

「自我喪失を気にしているのなら、その心配は不要」

 しばしの沈黙、続きを話せと、態度で示す。

「こちらが転用するのは、夢の記憶、だけだ」

「夢?」

 蘭堂はガスマスクを弄りながら続ける。

「いつぞや話した、夢の話は覚えているか?」

「確か、現実と夢の境界線、だったか」

 満足げに頷いた。

「常人でも、脳の錯覚で見た夢を覚えているだろう。夢の世界、ハザマで見たものも、同様に記憶として蓄積される。その『夢での想い出』のみを変換錬成に利用する」

「よって、現実での記憶の欠損はないと?」

 八紘の目と蘭堂の目が交錯する。口元を覆った彼の表情を読み取るのは難しい。が、長年の付き合いの八紘だから、わかることもあるのだろうか。

「その間、眠り続けるわけだから、まぁ支障がないというのは違うがね。しかし、ウラシマ太郎って程ではない。そして、眠っている期間を短縮するための、ソレだ」

 今度は机の上に置かれた紙を指差した。八紘には、この時点で何が書かれているかはおおよそ予想が立っていた。故に、彼の手は、ゆっくりとその紙に伸ばされる。

「名…簿?」

 横から見た翼が呟く。そこには何枚にもわたって多種多様な人物名が記載されていた。

「その名簿上の人間たちは、所謂‟夢を見やすい人間„だ。多数の内より、比較して夢の世界、ハザマに入りやすい素質を持っていると思われる」

 八紘は顔色を変えない。ただ静かに、名簿から目を離した。

「彼らを、明け渡せと?」

 蘭堂は肩を竦める。

「回収に協力しろとは言わん。だが、断りもなしに攫ってばかりでは、要らぬ騒動も起きるだろう?ゆえに、一思いに対象を開示して黙認してもらえればと思ってね」

そこで、

 

「ッ?!何故!!?」

 翼が一層驚愕の声をあげる。彼女の手には名簿。その中にあった名を見、翼は蘭堂の顔を見た。詫びいれもなく、動揺もない。男の顔には、以前から彼女が感じていた、違和感が如実に表れていた。

「貴方は…何を考えているんだ」

 

「白い孤児院」

 翼に答えるように、一言。シンフォギア適合者、そしてフィーネを継ぐ者を見つけるための組織F.I.S.それに連なるフレーズだ。

「集められたのは、フィーネの器となる可能性を秘めた人材だった。その中で、彼女だけが、一時的にでも覚醒してみせた。わかるだろう?」

「月読…ッ」

 翼の鋭い目線を意に介さず、蘭堂は言う。

「そうとも、月読調。今回彼女の存在が少々面倒ごとを招いてしまう危険性がある。無論、こちらとしては客人として、不自由のない待遇を提示すると約束しよう」

 

 そして、彼は、告げる。

 

「一年とは言わん。数か月、その名簿の者たちの自由を、俺に預けてくれ」

 

 

 あまりに異常、首を縦に振る道理の無い提案。八紘は怒らず困惑せず、静かに前を見据えていた。

 

「エネルギーを集め、何を成す?」

「ノーコメント」

「方法は?」

「ノーコメント」

「それは誰のための行為だ?」

 

 八紘の言葉に、蘭堂が止まる。

 

 

「それも、ノーコメントだ」

 

 

 

「残念だが、話にならないな」

 

 八紘が、ため息をついた。その吐息に込められていたのは、失望か。言葉を受けて食い下がることもなく、蘭堂は背もたれに大きく身体を預けた。

「まぁ、そうだろうな、そうだろうとも。こんな素っ頓狂で情報不足の話に乗れるわけもない。すまんな。付き合わせてしまって」

 予想外の謝罪の言葉に、翼は眉を顰める。非道とも思える計画を述べた口から、こうも率直な謝罪が出てくるとは。思わず油断を誘う策かと勘繰る彼女だったが、

「違う、翼」

 八紘が、娘の心持を汲み取ったのか、言葉をこぼす。

「コイツは、ただそのまま、なのだ。迂回やごまかしを、することがない。ありのままと言うには、人の尺度から酷くかけ離れているが」

 会合が始まってからその目に秘めていた鋭さはなりを潜め、穏やかさをもって、眼前の存在を見ていた。その言葉に、諦めのようなものが含まれていることを、翼は敏感に感じ取る。

「では、ここらでお開きと———」

 

 

 

 蘭堂が席を立ち上がろうとした時、テーブルに何かが突き刺さる。剣だ。白銀の刃の短刀が、蘭堂と八紘の間に刺さっている。

 

「もう、いいわよね」

 ゆっくりと、草木の影より、マリアが現れる。

「マ、マリアさん!まだ話している途中ですって!」

 焦った声をあげた響の言葉を合図に、他の装者たちも現れる。皆既にシンフォギアを纏っている。

「オイ!マジに出てくっていうのかよ…その、ワケわかんねぇ計画も!」

 クリスが歯を食いしばる。その様子を見、蘭堂は無言で彼女らを見返す。

「ああ、すまんな、と言うべきか?ここは」

 言葉が終わるや否や、マリアが動く。再度出力した刃を、蘭堂に向けて投擲。最小の動きで投じられたそれは、真っ直ぐに彼の喉元へ吸い寄せられる。そして、

 

「?!?」

空中で何かとぶつかり合い、はじけ飛んだ。

 

 

「だから言ったでしょう、時間の無駄だと。‟みて„もいたくせに」

 その声を聞き、装者全員の背筋が凍りつく。響は、内心ずっと自身の見たものが間違いであったと思いたがっていた。そう願っていた。その思いが打ち砕くと共に、舞台へ女性たちが姿を現す。

「試す、というのをちょっと、真似てみたかっただけなんだ。案の定、上手くはいかなかったがね」

「サン…ジェルマン…さん…」

 つい数か月前に、手を取り損ねてしまった者。そして己の全てを焼却して彼女らを救ってくれた者。サンジェルマンの姿が、そこにはあった。手に持つフリントロックピストルの銃口から、仄かに煙があがっている。

「同感だ。用が済んだのならとっとと去るぞ。まだやり残しが山積みだからな」

『キャロル・マールス・ディーンハイム…』

 無線の先から、弦十郎の声が漏れた。大きな三角帽魔法使い然としたいで立ちの、小柄な少女。見慣れた顔をしているが、しかし、その佇まいで威圧感を与えてくる。

「久しいな。と言うのは、まだ早いが」

 要注意戦力が、二人とも揃い、全員に緊張が走る。双方のにらみ合いの中、蘭堂は首を回した。

 

「改めてお開き、と穏便に済ませたいが、そうも行かんだろう。故にここからは撤退戦だ。であれば…」

 蘭堂は白衣のポケットへ手を

 

 

 

衝突音

 

 

 

 双方の銃撃と剣技がぶつかり合う。

 

 マリアの刀身をブーツの靴底で受けた蘭堂は、ポケットから抜き取ったものを空中へ放った。

 

「不相応だが、よろしく頼むぞ」

 

 響の拳を、シールドで受け流すキャロル。二人の視線が交錯する。

「どうした?あの時ほどの覇気が感じられないが?」

 キャロルの不敵な笑みに対し、響は苦悶の表情を浮かべる。

「オイ!!手ぇ抜いて戦える相手じゃねぇぞ!!」

 後方より支援するクリスが叫ぶ。しかし、響の顔は、変わらない。

 

「‟また„会ったわね」

 調の鋸と切歌の鎌を、しのぎ切るサンジェルマン。

「どうも…デス!!」

 斬り飛ばした鎌の刃を撃ち落とし、追随する回転鋸を押し飛ばす。

「ファウストローブを纏う時間はッ」

「与えないデスよッ!」

 

 しかし、阻むことは出来なかった。

 

 空中で、何かが弾ける。

 それは散らばり地面に落ちた。指令室より息を飲む音がする。モニターしていた藤尭の、驚きの声があがった。

 

『これは…まさか!!!』

 赤い多角形の結晶。地面に現れる錬金式。とくれば。

 

『ノイズ反応?!?!』

「え?!?」

 地面より表出せんとする様は、正しくアルカノイズのソレだ。しかし、

「切ッちゃん……」

 装者の中で二人だけ、別の意味でも驚愕する。

 

 

 鱗を纏った体表。小さな羽。二足歩行で、ずんぐり。蟹のようなハサミの手。

 そして異様な、繊維質の物を束ねたような形状。渦を巻き、ところどころから触覚のようなものが伸びている、頭部。

「調…これはッ?!?」

 

 

 彼女たちだけは、既に‟遭遇していた„。

 

 

   「ユゴス=ノイズ」

 

 

 蘭堂は静かに言う。鍔迫り合いの中で、装者は男を見る。

「かの地の菌糸類を元に、用途に合わせた特別製だ。せいぜい手を抜いて戦ってくれると有難い」

「ッッ!!!」

 生じていくノイズを捌き潜り抜け、マリアは尚も先行する。複数の剣を出力し、蘭堂へ向かって射出する。紙一重で躱しきる蘭堂。しかしそれは彼女の思惑通り。狙った位置に身体をさらすことだった。

『マリア君!!!』

 無線の先の司令の声を置き去りに、狙い研ぎ澄まされた己の小刀を振りかぶった。

 彼女の目に、蘭堂の、顔が写る。

 

 

「?!」

 

 次の瞬間、マリアは自身が地面に倒れていることに気が付いた。

 

「な…にが?」

 クリスが意図せずこぼす。彼女からは、蘭堂へ必殺の一振りを与える寸前、マリア自身がその場で倒れたように見えたからだ。

 マリアも疑問を払い、立ち上がろうとする。しかし寸前に、再び何かに阻まれた。

「ッこの!!!」

 倒れる前に、彼女は剣に指示を出す。蛇腹状になった刀身が、周囲の空間を切り飛ばす。

「下がれマリア!!!」

 八紘を安全な場所に送ってきた翼が、戦場に舞い戻る。我に返ったマリアが、大きく飛び退く。装者全員が互いに背を預けながら、動きを止めた。

 

「何か、ある…」

 その中で、響がゆっくりと拳を前に突き出す。しかし、その動作は異物に邪魔された。伸ばしきる寸前の軌道。丁度手首の位置。そこにいつの間にか石片が割り込んでいた。少し大きいが、何の変哲もないはずの石。それが、空中に縫い付けられたように固定されていた。

「これは…なんデス?」

 

「以前言っただろう?お前たちの動きの分析解析を重ねた、対シンフォギア戦術」

 蘭堂は掌を上に向ける。すると、地面から勢いよく、一つの石片が飛びあがる。よく見れば、それぞれの石片は、中央に空洞が出来ている。また、形状は三角形に近い。

「石器、とりわけ中央に穴の開いた、逆三角形の形状。これは石斧として、中国や北欧で古く呪具やお守りとして用いられた。死者が通る道、シャーマンの治癒と破壊の象徴、等々。付与された意味は多岐にわたるが、大事なのは精神体が関係する事象が多い事」

 空中の石片を手に取り、手の中で遊ばせる蘭堂。

「事象積層。俺の一部をコレらには付与している。そんで、俺はまがりになりにも元S.O.N.G.の聖遺物研究副主任。とまでくれば、あとはわかるか?」

 ガスマスク越しに、装者たちを見る目。

 

 

「私たちのデータを元にした、対シンフォギア用、哲学兵装ッ!?」

 調の言葉を受け、返答せずに彼が手を空へ掲げた。すると周囲より、同じ形の石片が次々と浮遊し始める。

 

「ウコン・バサラ」

 蘭堂だけではなく、キャロルとサンジェルマンの周囲にも、石片が鎮座する。臨戦態勢を取るように、徐々に回転を始めた。

 

「便宜上、そう名付けた。

 気を取り直して、障害物鬼ごっこを始めようか」

 

 

 

倒壊する建物の土煙と共に、追撃戦が幕を開ける。

 




こんにちは。
サリッサと申します。
お読みいただき、有難うございます。

第三話…
情報いっぱいですみません…
今回も新要素ばかりで恐縮ですが、
これからもバンバカ出てくるかと思います…

・ユゴス=ノイズ
 ようやっとちゃんとクトゥルフ出てきましたw
 完全に元はアレです。
 ご本人登場、とは違いますが、しっかりと重要な役回りです。
 なんてったって、シンフォギアの主役はノイズさんですからね!
 オリノイズさんのご活躍に、乞う御期待!!

・哲学兵装 ウコン・バサラ
 名前発案は、私のバイブルGEからいただきました。
 大本は、フィンランド神話 雷神ウッコのもつハンマーですね。
 古来より、石斧には儀式的な意味合いがあり、
 アジア圏では穴の開いたものは霊の通り道だったとか…(裏づけうすくてすみません
 ともあれ、こちらもシリーズ上、重要なキーになっていくものですので、
 どう立ち回っていくのか、楽しみにしていただければ幸いです。

・ユタカアイランドパーク
 こちらは私のお世話になった遊園地です(ガチ
 ここを出したかったから、今回の場面が産まれたと言っても過言ではありません。
 この場をお借りして、 最大の感謝を。
 貰った思い出を胸に、生きていきます。



さて!!なんちゃって解説などしておりますが、
次回はいよいよバトル開始です!(…バトルになるかな??
稚拙な書き方で恐縮ですが、頑張って参ります!

今後もどうぞよしなにお願いいたし〼


PS.映画化アアアアアアアアアアアウワアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!(以降バラル遮断
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