戦姫絶唱シンフォギア VC   作:サリッサ@無期限休止

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 会合は失敗に終わった。荒唐無稽な条件を飲めるはずもなく、武者は静かに刀を収めた。
 ここから先は、彼の刃では切り開けぬ道。活路を見出せるのは、6つの光のみだ。
 しかし、その光の瞬きも、時折霞む。不調と言う名の獣が、暗がりから少女らの喉元を狙っている。

 不協和音が周囲を埋め尽くし、石ころが足元を掬う。
 それを扱うのは、ガスマスクの奇妙な、友。

 願わくば。
 武者は人々を先導しながらも、思わずにはいられなかった。
 夢であってくれ、と。



 夢であってくれと、微睡の中で呟く。

 瞼の裏には、惨劇ばかりが沸き上がる。
 雑音が日常を非日常と変え
 悲鳴と絶叫が世界を覆い尽くす。
 
 弔歌の調を奏でる者が、一人
 
 どこにも響かぬその曲を口ずさむ。

 そんな哀しい結末は、きっと夢だ。
 夢でないのなら、助けなければ。

 微睡の外側で、声が聞こえる。ずっと、ずっと、声が、歌が聞こえる。

 いかなきゃ   


弾き出されたモノたち

 連撃を繰り出す調と切歌。サンジェルマンは依然としてファウストローブを纏うことなく、錬金術の盾と銃で、その技を凌いでいた。

「イグナイトのない私たち相手にはッファウストローブは不要ってことデスかッ!!」

 そう歯を食いしばる切歌。だったが、それ以上に、彼女らの本来の全力が出せていない。

「問題は……」

 調が周囲を見渡す。浮遊する石片群、ウコン・バサラ。蘭堂が呼称したその群体は、事あるごとに二人の行動を阻害する位置に飛来。そちらに気を取られている内に、サンジェルマンに回避の隙を与えてしまっていた。

「非常に、厄介ッ」

「でもそれよりも…」

 切歌の目線が、遊園地のアトラクションの方へ。だが、眼前の敵を無視して向かうには、あまりにもリスクが大きすぎる。

 

「…行きなさい」

 二人は耳を疑った。言い放ったのは、相対しているサンジェルマンだ。彼女はゆっくりと銃を下げ、二人を見た。

「どういう…つもりデスか!!!」

「私たちにとって今、貴女たちと斬り結ぶのは利がないわ。それに」

 彼女は懐から何かを取り出す。それを見、切歌と調は再び衝撃を受ける。

「もしかして、あの時のッ!!」

 彼女らが最初に、ユゴス=ノイズと遭遇した、会合前。あの木漏れ日の中、ノイズたちを連れて行ったのは、誰だったのか。

 

「助けられ続きも、本望ではないわ」

 パーク従業員のキャップを被り直した彼女は、そのまま木々の中へと消えていった。

「まッ待つデス!!」

 追おうとする切歌を、調が止める。

「今は、園内の人たちを!!」

「ッ!!…調!!」

 二人は互いに頷き、全力でパーク内へ舞い戻っていった。

 

 

「どうした!!その程度か!?」

 キャロルと相対する、立花響。クリスの的確なサポートを受けながら、しかし、彼女の拳は錬金の盾で防がれる。

「ッ!!!邪魔くせぇ!」

 クリスも周囲で的確に射線を阻んでくる、ウコン・バサラに意識を散らされている。

「クリスちゃん!!!」

 響が叫ぶ。彼女の動きを見、クリスは瞬時に意図を理解する。

「ッわぁったよ!!」

 クリスは突如、響の元へ走り出す。響は一層強い衝撃でもって、錬金の盾を叩き飛ばす。生じた隙を逃がさず、彼女らはレシーブを応用。クリスは天高く飛び出した。

「全発全中ゥッッ!!!」

 上空からばら撒かれた弾丸は、周囲に浮遊していたウコン・バサラの石片と、そして遊具の方へ進行していくユゴス=ノイズに食らい付く。

 

「…」

 粉塵舞う中、キャロルと響は対峙する。束の間の静止空間。キャロルが先に、口を開く。

「先程から手ぬるい攻撃。何のつもりだ?」

 キャロルは響を射殺すかのような鋭い視線を向けた。敵意むき出しのその眼光に、響は一瞬気圧されそうになる。しかし、留まる。逆に真っ直ぐに見つめ返す。

「……キャロルちゃんこそ」

 その言葉に、キャロルの眉間に皺が寄る。苛立ちか。しかし、手は出さない。先のサンジェルマンと同様、彼女の方から攻撃を仕掛けてくることはなかった。

「ハッ!オレが手心を加えているだと?戯言を…」

 キャロルが何かに気付き、ほくそ笑む。

「そういうことなら折角だ……ガリィの真似でもしようか!!」

 急に手を見当違いの方向へ向けるキャロル。響の後方斜め右側だ。そこには。

「ッいてて……」

「?!」

 おそらく逃げ遅れたのだろう。男性が一人、尻もちをついている。

「ッ?!?」

 キャロルの手より閃光が生じる。響は迷うことなく後方へ走り出した。背ががら空きになることも厭わずに。

「オイ!バカ!!」

 クリスの声が届く頃には、響は光球を弾き飛ばす。振り向いた時には既に、その場にキャロルはいなかった。

「無事か?!」

 駆け寄ってくるクリスに、頷く。響は男性に手を貸すと、避難地点を指示した。

「うん。それよりも、園内が心配。行こう!クリスちゃん!」

 頷いたクリスと共に、駆け出す少女。走りながら、己の手を見つめた。

「さっきの攻撃、私が防がなくても…」

 

 

 

「ッ!!ッ!!!」

 マリアの剣撃を、蘭堂は躱していく。他装者が苦戦しているウコン・バサラの石片を、彼女は展開した短剣と勢いで無理やりに吹き飛ばす。

「マリア!!!」

 翼の声に、マリアは蘭堂との鍔迫り合いを押し崩し、時間を作る。

「翼は園内の救援と皆の陣頭指揮を!!ランドは、私がッ!!」

「ッ!!強制解除の可能性がある。深追いはするな!」

 翼は行動を阻む石片を切り飛ばすと、速力を活かしアトラクションの方へ。横目に見送ったマリアは、己の攻撃で木に叩きつけられている男に向き直る。

「やれやれ。そう簡単にはいかないか」

 立ち上がる男の動作に、疲労やダメージの兆候は見られない。白衣の裾を叩く蘭堂に、警戒の眼差しを送る。

「貴方、意外と武闘派なのね」

「そうか?近くにいたのが…ゲンとハチ、八紘だからな。一般人と比べれば、多少耐久性はあると、言えるか」

 彼の周りに、再び石片が集まってくる。

「あまり時間の余裕もない。ここらでお暇させてもらおう」

「させるとでも?」

 マリアの持つ刀身が、ゆっくりと展開され、蛇腹状に変異する。

「フンム。ではせいぜいうまく撒かせてもらうとしよう」

 空間を走る蛇腹剣とその勢いを削ぐために群がる石片。双方は互いに火花を散らせながら、園外へと向かっていく。

 

 

──────────────────────────────────────

 

 

どこかで、声がする。

 

 

 

「ノイ、ズ」

 

 

眠りしモノは、ただその時を待ちわびている。

 

 

──────────────────────────────────────

 

 

 

 園内はあちこちの地面が破壊され、建物の瓦礫が散乱している。煙が立ち上り、阿鼻叫喚の様相を呈していた。ユゴス=ノイズと呼ばれた新種のノイズ群に追われる人々。内の一人が、コンクリート片に躓き倒れてしまう。

「イ、ヤ…」

 距離を詰めるノイズに顔を引きつらせる女性。その甲殻類の腕が女性に

「ちょせェ!!!」

 届く前に、無数の弾丸が行く手を阻む。爆炎で隙ができた瞬間に、調と切歌が女性を救い出す。

「大丈夫デスか?!」

 切歌の問いかけに、呆然になりながらも頷き答える。二人は女性と、同じく避難していた一団を護衛しながら走り去る。

「それにしても!」

 ノイズの胴の中央に拳を叩き込みながら、響は思考する。同様の疑問は、クリスの方も考えていた。近場に降り立ち、クリスと響は互いの背を預け、周囲を見渡す。彼女らの周りには、同じ格好のノイズ、ユゴス=ノイズが群がってくる。

「思ったよりも」

「手ごたえがねえ…」

 百戦錬磨の彼女たちに、今更ノイズ。以前その思い込みで痛い目を見たこともあった。だからこそ、油断はしない。響は近づいてきたユゴス=ノイズを再び殴り飛ばす。

「数は多いから、気は抜けないけど…」

 クリスは眉を顰める。蘭堂の現状での目的は、撤退で間違いない。他二人の錬金術師も、十中八九同じだ。しかし、とは言えなぜ、アルカノイズを使わないのか。現在相対しているユゴス=ノイズ。周囲の破壊も間違いなくこのノイズによるものだ。が、しかし、その全てが見たところ打撃。分解機構を扱う様子もない。明らかに力不足と言う他ない。

「立ち止まるな!」

 そこで二人に声がかかる。翼だ。アメノハバキリの機動力を活かし、歩き回るユゴス=ノイズを次々と切り裂いていく。

「目論見が何であれ、眼前の人々を防人ることに変わりなし!」

 翼の言葉を受け、二人は頷く。翼の後方に、クリス、そして響で続く。後方を見、翼は口角をあげると、眼前の敵をさらに掻っ捌いていく。中央のクリスは広範囲の敵を狙い撃ち、左右の敵を響が叩き飛ばしていく。

 

「流石…!」

 機動性の高いシュルシャガナを活かし、避難誘導を優先していた調はこぼす。青、赤、橙。三人は三色の閃光となり、ノイズたちをなぎ倒していった。

「調!!」

 切歌は鎌でノイズを切りつけながら走っていく。調も一呼吸遅れて、後ろに続いた。

「あの子たちみたいなのは…いない…」

 園内偵察の際に出会った、三体のユゴス=ノイズ。彼らの動きは彼女らの知っているノイズの動きではなかった。今眼前にいるものたちは、今まで敵対してきたノイズのように、人々に襲い掛かろうとし、物を破壊しながら迫ってくる。

「でもッ」

 自分たちで助け、触れあった姿がちらつき、少女の集中は乱される。

「やりにくいのは、変わらないデスねッ!」

 調と同意見なようで、切歌も苦々しい顔をしながら戦っている。遊具や建物の合間を走り抜けつつ、逃げ遅れた者たちを探す。そこへ影が舞い降りた。

「調さん!」

 緒川だ。服は普段のスーツに変わっており、気を失った少年を抱えている。彼も避難に尽力しているようだ。調は周辺のノイズを払いのけ、緒川の元へ向かう。

「緒川さん!マリアは?」

 蘭堂を追っているらしいことは無線で把握していた。しかし、それ以降情報が入ってきていない。焦る思いを汲み取ってか、緒川は汗を拭いながら頷いた。

「未だ引き離されず追跡してくれています。ノイズが大量に発生しているため、こちらからの援護は派遣できていません」

 調の傍に切歌が着地する。

「ならやっぱり、助けに行かないとデス!」

 調も頷き、走り出そうとするが、緒川が止める。

「まだ園内に避難出来ていない方がたくさんいます。翼さんたちがノイズを引き付けてくれていますが…」

 そこで通信が入る。

『本部!なんかおかしいぞ!』

 クリスだ。翼と響と共にユゴス=ノイズを撃破していた彼女だが、明らかに苛立っている。応対したのは仮本部の弦十郎だ。

『どうしたクリスくん!』

『敵が、減った気がしねぇ!どこから湧いて出てんのかってくらい、勢いを削ぎきれねぇ!それに、』

 続くのは翼だ。

『時折ですが、手ごたえが全くありません。まるで切っ先が霞の向こうに消えたかのように…』

 

 通信を聞いた調が周囲に目を向ける。何か情報をと振り向いた先に、奇妙な光景は待ち構えていた。

 

 

 ノイズから、ノイズが生えている。

 

「切ちゃん、緒川さん…あれ…」

 切歌と緒川に注意を促す。見れば見るほど奇妙な動きだった。ノイズが三体、ジェットコースターの柱の傍に集まっている。

「何を…して…」

 一体がもう一体の胴に両腕を突っ込み、何かを引っ張り出そうとしている。次第に胴から、ユゴス=ノイズの特徴的な渦巻き状の頭部が引き出された。ひり出されたノイズは翼の攻撃を受けたのか、上下に切り裂かれ、胴体が千切れかかっている。断面図は何やら無数の触手がうねっている。

「気分いいものではないデス…」

 緒川が素早く通信を繋げる。

「本部!」

『どうした』

「ノイズが相互に転移による回避を行っているのかもしれません。映像を送ります」

 緒川の送った映像を見、息を飲む音がする。

『これって…』

『ノイズが助け合っている…?そんなことが?』

 藤尭の言葉を受け、切歌が混乱したように頭を抱える。ノイズの連携はこれまでも少なくはなかった。だがあくまで外部の統制者がいての話だ。更に、目の前で同種の身体を繋ぎ直そうとしている三体のノイズ。その動きは、あまりにも常軌を逸していた。

『……なるほど。確かに特別製。動きが奇妙だというのならッ!』

 翼の発言と共に、遠方の空が青く光る。小さく見える程度だが、無数の剣が、地面に突き立てられたらしい。

『影縫いに出来ずとも、互いの間合いに入れさせなければ!!』

『一匹ずつブチ抜きゃいいってことだろ!!!』

間髪入れずに衝撃と爆発音。翼が動きを封じ、響とクリスが動きを止めた敵を確実に仕留める戦術に転換したのだ。

『ノイズたちは私たちが抑えるから、切歌ちゃんと調ちゃんは、逃げ遅れた人たちを!』

「「了解!」デス!」

 返答と共に、改めて気合を入れる二人。先輩たちの勇猛な姿勢は、彼女らにいつも勇気を与えてくれる。緒川も頷き、ジェットコースターのレールを利用し駆けていく。

「調!わたしたちも行くデスよ!」

 切歌の言葉を受け、調も戦闘を再開する。

 

 

 

 木々を抜け、道路を飛び越え、建物の隙間を駆ける。蘭堂の背を追うマリアの勢いは削がれない。

「私がッ!!!」

 脳天へ振り下ろす短剣を、蘭堂は首の動きで躱す。危なげないその動きは、伊達に彼女らの戦闘を見てきたわけではないと示す。

「そう執着する必要もないだろうに、妙なやつだ」

 肩を竦め、ウコン・バサラを投擲。蛇腹剣に撃ち落とされることはわかっていると言わんばかりに、踵を返して走り出す。

「待てッ!!!」

 マリアはそれでも、その背を掴むために走る。

「これ以上は流石によそう。互いのためにも、な」

 肩越しにマリアを見る蘭堂。ようやくマリアの手が背に付こうとした。

「ッッ!?!」

 だが手は虚しく空をきる。突然巻き上がった砂塵。おそらくウコン・バサラの応用なのだろう。一瞬にして、追っていた背中を見失ってしまった。

 

 

 

「さて、時間稼ぎは、しておかなくてはな」

 ビルの狭間で、蘭堂はつぶやく。手には結晶。地面に放れば、ユゴス=ノイズが一体、生じる。

「すまんが、囮を頼む」

 蘭堂の言葉を受けつつ、ノイズの身体は表面上、蘭堂の容姿と瓜二つとなった。ノイズはそのまま、機械的に走り出し、道路に姿をさらす。おそらく監視カメラの映像で、囮の位置は直ぐにマリアへ伝えられるだろう。

「さて、」

 蘭堂は地面に手を置き、立ち上がった。そのまま隙間の奥へと歩みを進める。

 

「……」

 後方より、足音が、する。遠方での騒ぎの音を背景に、しかし妙にはっきりと、誰かが蘭堂の後ろからやってくる。

「…フンム、そうか」

 蘭堂の進んだ先は、丁度建物と建物の間。建て替え等の都合か、コンクリートがむき出しな、不自然に程広い空き地となっていた。

「逆に誘い込まれてしまった、と言うべきか」

「ピンポーン」

 女性の声が、後方より蘭堂へ向けられる。空地の外に通じる道は、彼が入ってきた道を含めて三つ。その全てに、人影があった。

「正解者にはプレゼントを贈呈だゼ」

「貰って嬉しいものでは、ないでありマスが」

 蘭堂が中央にやってくると、影たちは、暗がりより出でる。三人の女性。

「結社の残党、改造か何かされているのか」

「素敵なお姉さんたちに向かって、そういう物言いはないんじゃない?」

 蘭堂の言葉に、口元に手を当てて返したのは、褐色の肌を持った長身の女性。グラマスな体を見せるかのようにくねらせるが、しかし蘭堂は手を振った。

「身体のほぼ機械だろうに、俺に対しては特に無駄だ。要件は?」

「…」

 三人は、蘭堂を見、動き出す。少しでも逃げる素振りがあれば、即座対応できるように。

「それともなんだ、ここはお前を呼べばいいのか?

 

       訃堂」

 

 少しずつ距離を詰めていた三人の眉が動く。動揺。

 

「…なんでわかったんだゼ?」

 ピンクと白、そしてミニスカートの女性が蘭堂に問う。答える必要はないと言わんばかりに、肩を竦められる。

『代われ』

 空き地に、凄みのある一言が木霊する。スーツケースに乗った犬耳の少女が、懐より端末を取り出す。その画面には、蘭堂には見知った顔が写っていた。

『変わらず無様を晒しているようだな。妖怪』

「これはこれは、風鳴機関のトップ殿。息災か?」

 煽りともとれる発言に、画面の向こうの老人の顔に、青筋が浮かぶ。

『息災だと?どの口が…ッ!!!』

 画面から漏れ出てきそうな程の殺気。息を飲む追っ手三人とは対照的に、蘭堂は冷ややかな目で画面の向こうの男を見据える。

「フム。悪くないタイミングだ。確かに俺は、これまでで一番道半ば。お前の望んでいた殺し時に相違あるまい」

 蘭堂はマスク越しに笑い声をあげる。訃堂も少し冷静さを取り戻したらしい。軽蔑な眼差しを讃えたまま、口角をあげる。

『此度はこやつ等の試し切り。貴様を滅せるとは思わぬが、あてがうのには相応だ。せいぜい半端なバケモノ同士、不出来に踊って見せるがよいわ』

 言葉を終えると、画面は暗転する。戦場でありながら、緊張がゆるみ、追手たちの肩の力が少し抜けたように見える。無論、画面の向こうからの無礼を忘れることはないが。

「一体、何をしたでありマスか?」

 先程の剣幕を受け、犬耳の少女が蘭堂に問う。彼は空を見上げ、しばし沈黙する。何を思い、何を思い出しているのか。

「ただ、アイツを、殺させただけさ」

 地面に目を移すと、袖口から石片を勢いよく取り出した。三人の身体にも力が通う。

「さて、もう頃合いだろう。どうやら君らも何か遂げるべき目的があるらしい」

「……それじゃあ」

「「「遠慮なく!!!」」」

 

 三人は、両手を蘭堂に向けた。彼が石片を投げる前に、状況が変化する。

 

 

「ほう……これはこれは」

 

 

 逃げる間もなく、蘭堂の周囲は立方体のブロックによって囲まれてしまった。

「迷宮の類か……これもまた哲学兵装。確かギリシアの伝承にあったか」

 立方体を軽く叩き、感心したように頷く蘭堂。

『これでオマエはもう逃げられないんだゼ!』

 外より声が聞こえる。勝ち誇った声からは、この技に余程の自信があるとみえる。蘭堂は気にせずマスクを弄りつつ、青白く光る床と壁を触っている。

『流石聖遺物研究者、と言ったところね。どういうものか、推察できているご様子。でも一度囚われたのなら、この怪物のいる迷宮から、自力で脱出は不可能よ。そして——』

「あー、ちょっといいか?」

 言葉を遮り、蘭堂は手に持った石片へ目を移す。

『…何で、ありマスか?』

 警戒の色を含んだ声音が、迷宮内に伝わる。手に持った石片を空中へ投げる。

「この技術、確かに興味深いが——」

『そんな石ころじゃ、この迷宮を攻略なんてできないゼ!』

仕返しとばかりに返された言葉と共に、手元に石片が戻ってくる。石片が手に納まった瞬間、彼は告げた。

 

 

 

「出来るんだな、これが」

 

 

 

 

『ッ?!?!』

『エルザちゃん??!』

 驚きと共に、迷宮が瓦解していく。

「おそらく迷宮形成後に攻撃手段があるんだろうが、時間を与え過ぎだ」

 蘭堂の前には、肩口から出血した、犬耳の少女。彼女の前方の地面には、彼の手にあるものと同じ石、ウコン・バサラが突き刺さっていた。

「さっき、石片を放った、時にッ」

 痛みに顔を歪めながら、少女は蘭堂を睨む。

「ウム。先手を打たせてもらっていたよ。想定通り、三人の位置関係が重要だったな。動きで分かりやすい。改善の余地ありだ」

「手なら、まだあるわッ!」

 声と共に飛来する、右腕。褐色の女性の腕が、有線のロケットミサイルとなって迫る。身体のひねりを利用し、蘭堂は上空へ打ち上げた。

「フンム。エネルギー切れか。おおかた、その供給を条件に訃堂に使われている、といったところ。難儀なものだな」

 舌打ちと共に、腕が女性の元に戻る。事実、彼女らの顔は深手を受けていないにもかかわらず、青く苦悶に満ちていた。

「アタシらは、なんとしても——」

「まぁ、」

 第二射を放とうとする彼女たちを遮り、蘭堂が言う。

「君らの生存に手を貸すほど、俺も暇はないわけだが」

 彼は直立から、逃走へと姿勢を移す。逃がさないように動こうとした女性たち。しかし、犬耳の少女の前にあった石片が光り出す。

「それでは、さらばだ」

「エルザちゃんッ!!!」

 爆発。咄嗟に動いた褐色の女性のお陰で、少女は無事だった。しかし、

「ヴァネッサ!!?」

 至近距離で破裂した石片を受け、褐色の女性の背部は無残にも引き裂かれていた。

「ッこのォォ!!」

「待つでありマス!ミラアルク!!」

 路地へと消える蘭堂を、ミニスカートの女性が追いかける。

 

 

「まだ、ついて来るのか」

 若干呆れつつ、蘭堂は後ろの女性、ミラアルクに声を掛ける。一拍おいて、ミラアルクは地面に着地する。その顔は、疲労が色濃く浮かび、今にも倒れ伏しそうだった。

「アタシらは…諦め…ない」

 息も絶え絶えな女性を見下ろし、蘭堂の顔には疑問が浮かぶ。

「何としても…三人で、人間に……戻るんだッ!!!」

 なけなしの力を振り絞った一撃。己の体組織を、羽に模したブーメランに変え、投擲する。飛来するそれは、蘭堂の首を斬り飛ばす軌道で迫った。

 

「そうか」

 しかし、その決死の攻撃も、届かない。密集したウコン・バサラで容易に防がれてしまった。

「く、そおおおおお!!!!!」

拳を地面に叩きつけ、ミラアルクは己の命を引き絞る。ありったけで右手に形成した鋭利な爪を、前方に突き出し突撃する。立ち上がれず、最早倒れ込むような姿勢。簡単に避けられる貧相な攻撃だった。

 

「お前たちも、そうか」

 

 その爪が、蘭堂の右腕に突き刺さる。ミラアルクすら呆然としていた。対する蘭堂は、目を見開き、彼女を見ている。それは、自身の腕に爪を突き立てたことに対する、驚きではなかった。

「なんで…」

 意図せずこぼれたミラアルクの言葉に、蘭堂は思案の後、頷く。

「そうさな。であれば、こうすべき、か」

 

 

 宙に舞う腕。

その傷口からは、どす黒い粘性の液体が滴る。

路地に無造作に転がったそれは、

               蘭堂の右腕だった。

 

 

 ミラアルクは、己の爪に付着した液体を見て、驚くしかできなかった。

 その様子を見、蘭堂は首を傾げる。

「なんだ。実験ばかりで、他者を害する機会も少なかったか。であれば覚悟しておけ、と言うべきか、ここは。おそらく今後はもっと、俗に言う悲惨なことを強要される。目的を達するためならば、訃堂と組むなら、尚更、な」

 蘭堂は自ら切り落とさせた腕を無遠慮に蹴り、ミラアルクの方へと寄越す。

「これでも持って行けば…いや、腕一本では足りないか」

 彼は徐に、己の口元へ手を伸ばす。覆っていたマスクを、

 

外す。

 

「ッ!?!??」

 ミラアルクは、先ほど以上の衝撃でもって、息を飲む。蘭堂の方は気にせず、腕の場所へマスクを放った。

 

「二つくらい寄越せば、アイツも満足するだろう。特に俺が、人前で口元を隠している理由をアイツはよく知っているからな」

 

「お前は…一体……何なんだ、ゼ」

 

 ミラアルクの顔が、恐怖に歪む。信じられない、名状しがたいナニかを目の当たりにしたような彼女に対し、

 

  彼は‟笑った„。

 

 

──────────────────────────────────────

 

 

「本部!!こっちなのね!!」

 追走するマリアは、友里のバックアップにより、間もなく蘭堂の元へたどり着こうとしていた。爆発音。方向としては、彼女の後方。おそらく遊園地の方だろう。一瞬よぎる思考を、強引に切り替える。

「私はッ!!!」

 建物の壁面を蹴り上げ、中空へと身体を躍らせる。見つけた。他の人々に紛れ、歩道を走っている。彼の動きは、どこか妙に感じたが、背格好は間違いない。

「ランドッッ!!!!」

 怒りに似た感情を纏い、彼女は眼前に武器を投げる姿勢を取る。奥歯を食いしばり、必中の一撃を、

撃てなかった。

 突如、進行方向を変えた蘭堂。歩道を走っていた彼が、道路へと身を向けた。その先には。

「危ない!!!」

 歩道を進む、少年が一人。どうやら母親の待つ向こう側へ渡ろうとしていたらしい。その前に、大型トラック。そして運転手は少年に気付かない。爆発音に気を取られ、目前の歩道が見えていない。

「ダメ!!!!」

 マリアは刹那に思案する。どうすればいい。今から少年の元まで辿り着くには、距離が遠い。刀身を伸ばすか。無理だ。既に手には投擲寸前の剣がある。

  剣。それは、誰に投げるつもりのものだったか。

 

「いやああああああ!!!」

 母親の叫び声で、我に返る。マリアは迷いを振り払うように、一投。刀身は、トラックの車輪を貫き、車体を道路に縫い付ける。勢いは殺せた。しかし、足りない。

「?!?!!」

 

 大きな音が炸裂し、周囲で悲鳴が上がる。惨劇。蒼白のマリアは、道路へ着地し、煙をあげるトラックに近づいた。

「ランド…?」

 そこには、伴成蘭堂が、いた。その身体の所々が崩れ、液体のように溶けていく。偽装が剥がれ、ユゴス=ノイズの姿があらわになった。混乱するマリアは、更に驚愕する出来事に直面する。

 

「マ、マ?」

 ユゴス=ノイズの腹部から、ゆっくりと、轢かれたかに思われた少年が現れた。轢かれる寸前、少年の元にたどり着いた、蘭堂。マリアの目には、その身体に少年が呑み込まれていったように見えていた。母親が駆け寄り、出現した自分の息子に駆け寄る。

「よかったッよかったッ」

 少年には外傷がなかった。手と言葉で無事を確認し、涙と嗚咽を漏らしながら、母親はしっかりと少年を抱き寄せる。近くにいる、指定特異災害のことなど、気に留めていない。

「助けて、くれたの?」

 溶解していくノイズに向かって、抱き寄せられたまま少年の手が伸びる。止めなければ。マリアの思いと裏腹に、少年の指が、ノイズの体表に到達した。

「……」

 

 炭素化、しない。触れられたユゴス=ノイズの頭部。消えかけた触手が、微かに動いた。

「笑った…?」

 溶け消えるノイズの最期の姿。近づいてくる救急車のサイレンを遠くに、マリアはただ、立ち尽くすことしかできなかった。

 

 

 

「間もなく入園者の退避が完了するもようです。園外へのノイズの流出は確認できません。この勢いなら!」

 戦闘管制を続ける友里からの報告を聞き、弦十郎はそれでも怪訝な顔を崩せない。

「どういう…ことだ」

 疑念は膨らみ、泡のように増殖する。不可解が頭を侵食し、思考が落ち着かない。

「バン…お前は何を…」

「司令!!!」

 警告音と共に、藤尭の鋭い声が飛ぶ。現実に戻った弦十郎が見たのは、モニターに移る異形の光景だった。

「何だこれは?!?」

 園内の監視カメラに映ったのは、ユゴス=ノイズたちが積みあがっていく姿だった。何かへと変貌を遂げようとしているのか。その位置はすぐさま装者たちに伝えられ、現場へと急行する。

 

「お前は、何を成そうとしているんだ」

 

 

 弦十郎の問いが、空を弾いた。

 

 

 

「チッ!またデッかいのかよ?!」

 クリスの悪態を横で聞きながら、響は現場へ駆けつける。そこは人々が行き交っていた園の広場だった。昼間の人々の賑わいは消え去り、眼前にはユゴス・ノイズたちが群がり、折り重なっている。

「まさか分裂増殖の二の舞ではあるまいな…」

 翼が以前現れたノイズを想起する。これ以上、被害を広げるわけにはいかない。

「一気に蹴散らすぞ立ば…?!」

 言葉に詰まり、胸をおさえる翼。その様子に、クリスが焦る。

「先輩どうし…まさかッ!?」

 明らかな異常。その様子は、装者全員が少し前の演習の頃から体験していたものだった。

『こんな時に、ギアの不調?!』

 戦闘管制の友里が、悲鳴にも近い声を上げる。それと同時に、強制解除されてしまう、翼のギア‐アメノハバキリ‐。私服に戻った翼が歯を食いしばる。

「不覚ッ!!よもや敵の眼前でッ」

 一番苛烈にノイズを掻っ捌いていた影響か。どちらにしろ、予期不能なタイムリミットが近いかもしれない。その想像に、残るクリスと響は慄いた。

「クリスちゃんは翼さんを!!」

 響は言い終わらない内に突貫する。クリスの声を後ろで聞き、そのまま巨大なノイズを殴りつけた。

「クソッ!!!」

 周囲に目を配りながら、クリスは消耗の少ない短銃スタイルへと切り替える。周辺には集まり損ねたノイズが残っている。背を預ける翼の息は上がったままだ。

「すまない雪音…私は」

「先輩はそのまま!アタシが…ッ!!」

 

 響の連撃をうけ、唸り声をあげるノイズ。しかし、倒れない。薙ぎ払うように振るわれた右腕を、どうにか回避する。

「まずい…このままじゃ…」

 響自身、クリスもいつ強制解除に見舞われるかわからない。そんな時のための蛇足兵装。無意識に、響の指先がペンダントの突起に触れる。

「蘭堂…さん…」

 苦し気な顔を残し、響はノイズの横腹を蹴りつける。ノイズは尚も蠢き、周囲を破壊していく。

「あぁ…」

 思わず声が漏れた。壊れていく。誰かの日常。突如としてフラッシュバックされる、ディバインウェポンの爪痕。脳の中で、湧き立つ情景。脳を汚染されるような感覚を、踏み込みによって強引にかき消す。

「止めなきゃ…ッ!!」

 キャロル、サンジェルマン。そして身近に居た筈の蘭堂すらも、彼女は手を結べないのか。ノイズが叫ぶ。瓦礫に埋もれ消えていった人々の声が、耳に響いているようだった。

「…ッ!!!」

 

 少女の瞳から、 宝石のような一筋が、 流れた。

──────────────────────────────────────

 

 

 

「、なきゃ」

 

 

 

        覚醒ノ刻 キタレリ

 

 

 

──────────────────────────────────────

 

 

 

 衝撃音

 

 

 何かが突如として、遊園地に飛来した。

 

 大地は大きく波打ち、周囲の者は飛ばされぬように踏ん張るしかなかった。

「また新手…ッか?!」

 ノイズたちに銃口を向けていたクリス。突然視界を遮られたため、状況の把握を急ぐ。まず見えたのは、隕石が墜ちたように、地面の陥没。剥ぎ取られたコンクリートが塵となり、先ほどまで集合体がいた場所に、ナニがいることしかわからない。

 

「立花!!」

 横で翼が叫ぶ。見れば、爆心地の近くで、座り込んでいる響が見える。手傷を負ったようには見られない。だか、ナニかに、驚いて呆けているようだった。

 

 

「こんにちは」

 

 響に笑いかける、その姿は

 

 

「私は弾焚 琉璃。この子はカドゥケウス。えっと、誕生日と身長は…忘れちゃったけど、よろしくね」

 

 

 天空より舞い降りた女性。

 はためく病衣。ポニーテールでまとめられた黒髪。

 衣類の端からは、インナースーツが微かに見える。

 

 何より異質なのが、その足、脚部。

 機械のような、ロボットの脚部を思させる部品が伸びている。

 その様は、正に響が纏うものと同じ。

 

 

 響によって助けられたその女性が、

 灰色のシンフォギアを纏っていた。

 

 

「えーっと、とりあえずは、掃除しなきゃ、かな」

 弾焚 琉璃と名乗った女性は、地面につま先を打ち付ける。すると、

「な?!?」

 翼とクリスが駆け寄るよりも早く、女性の身体に浮きあがる。二階程度の高さで静止すると、女性はその場にまるで地面があるかのように三歩進み、滑走の構えを取る。

「行くよ。カドゥケウス」

 呼応するかのように、灰色のギアに光が灯る。両足の特異な二重構造が一気に展開され、飛びあげた勢いのまま、複数のユゴス=ノイズを蹴り払う。

「すごい…」

 響が感嘆の声をもらし、思わず翼も頷く。シンフォギア装者の中では、足技を多く持つ彼女。多彩な蹴り技を放つ謎の女性に対し、素直に驚いた。空中を足場にし、伸縮自在の脚部を用いて薙ぎ飛ばしていく。

「敵なのか、味方なのか?!」

 対応を決めあぐねるクリスだったが、女性の背後に迫るノイズへ銃口を向ける。援護のために放った弾丸。女性は急に身を翻すと、ノイズへと向かう弾丸を更に蹴り飛ばし、別方向のノイズ数体を貫通させた。

「なッ?!?」

「ありがと♪」

 驚愕するクリスに目配せをし、再度跳躍する。向かう先には、おそらく一撃目で飛び散ったノイズ群。再び集合しようと蠢き集まっていた。

「そっれッ!!!」

 高高度で身を翻し、逆さまの状態から、見えない足場を思いっきり蹴り飛ぶ。その様はまるで一本の槍。加速は留まることを知らず、ノイズたちが気づいた時には、既に遅い。地面が爆ぜ飛ぶ音と共に、灰色のギアによる強靭な脚底部によって、ノイズたちの身体は脆く爆散した。

「ハイ!これでおしま…?」

 伸びをしつつ、クレーターから立ち上がった女性が首を傾げる。何かを感じ取っているのか、その顔がゆっくりと横を向いていく。

 

 

 

「あ、まだいたんだ」

 

 女性の目線の先、そこには

「調ちゃん?」

 調、だけではなかった。座り込んだ彼女の前には、一体のユゴス=ノイズがいた。

「オイ!!!」

 響の言葉で気付いたクリスが、焦った声をあげる。その横を、一瞬で駆け抜ける、女性。迷うことなく、調の眼前のノイズに対し、足を振り上げ

 

「待つデス!!!!」

 

 砂塵舞う遊園地で、少女の声が響いた。切歌だ。驚くべきことに、ユゴス=ノイズと女性の間に立ち塞がった。S.O.N.G.全員が、驚愕で声も出せない中、振り上げた足をそのままに、女性は首を傾げた。

「どうして?」

 女性に向かって、調は真っ直ぐに見返す。沈黙の後、調は重い口を開く。

 

「友達、なの」

「友達?」

 女性は二人とノイズを交互に見、頷いた。

 

「友達なら、駄目だね」

 

 

 

 ユタカアイランドパークでの騒乱は、終結した。

 

 多くの疑問と、各々へのしこりを残しつつ、しかし転がり出した石は、着実に、速度を増していく。

 

 

──────────────────────────────────────

 

「手酷くやられたわね」

 

 椅子に座っていた蘭堂に向かって、サンジェルマンは言った。彼の纏った衣服は、以前にも増して泥や裂傷が目立つ。薄暗がりから、その目だけが静かにサンジェルマンへ向けられる。

「問題はない。いや、少々面倒、というべきか、ここは」

 立ち上がろうとして、右側を見る。一瞬小首をかしげるも、己の右腕が失われたことを思い出した仕草をした。サンジェルマンは短くため息をつくと、空中を指でなぞる。即座に錬金的陣が形成され、別区画に格納していた物品が出現する。

「せめて、これでもつけておきなさい」

 それは、義手とガスマスクだった。義手はオートスコアラーの物を転用しているらしく、節々に作り物の様相が見える。ガスマスクは、彼がもともとしていたものと同じ、口元だけを覆うタイプだ。

「用意がいいな」

 左手で受け取った蘭堂は、右腕を自身の付け根にあてがう。煙と肉の焼ける臭いと共に、義手が身体に食い込んでいく。顔は陰になっていて、サンジェルマンからは見えない。

「痛みは、ないのね?」

 腕の調子を確かめている蘭堂に対し、問う。男は右手指を自在に動かしながら、頷いた。

「元より感じるようにはしていない。知ったのもだいぶ後だったからな」

 彼は立ち上がると、新たな腕でマスクを付ける。首の可動を確認し、いつもの癖でマスクの位置を直した。

 

「やはり、その‟口„は慣れないわね。付けていてくれた方がしっくりくる」

 サンジェルマンは頷き、踵を返した。蘭堂もその後ろに続く。部屋から出た二人は、廊下を歩いていった。廊下には、水槽だろうか。アクアリウムのようなガラス張りとなっている。

「進捗は?」

「システムとしては問題なく進んでいるわ。さすがは奇跡の殺戮者。埒外すら、強引無遠慮に開拓していっているワケだ」

 蘭堂の問いへの回答に、少し声が、混ざる。

「シャトーは竜宮からのサルベージ品で改修はバッチグー!」

 サンジェルマンが咳払いをする。胸に手を当て、何かを呟いた後、再開する。

「…とはいえおそらく動いて一度きり。その時が来たら、試運転無しでやるしかないわ」

「フンム。まぁ支障はないだろう。流石はアダム・ヴァイスハウプトの腹心、と言うべきか?」

 その言葉を聞き、サンジェルマンは思いっきり身体を反転させる。落ち着き払った彼女からは、想像できない挙動だった。

「ちょっとぉ!それは言わない約束でしょ!!やーなこと思い出しちゃうじゃないの!!」

「…約束した記憶はないが?」

「そーいうのは察する…オイ、カリオストロ!」

 サンジェルマンはまるで自身を叱咤するかのように言葉を発した。無論、この空間には蘭堂とサンジェルマンの身体しか、ない。

「窮屈そうだな。一人の身体に三つの精神体。まぁ強靭な精神へと昇華された君らでなければ、廃人化が必定ではあったが」

 蘭堂はマスクを弄りながら、告げる。サンジェルマンはうんざりしたように頭を振ると、大きなため息をつく。

「どうにかならなかったのかしら、コレ。いくら共同生活が長かったとは言え、三人で同じ肉体を共有するなんて、トンチンカンにも程があるワケだ。賃貸を要求するー!せめてあーしたちそれぞれのお部屋がほーしーいー!!」

 詰め寄るサンジェルマンの身体を前に、蘭堂は手を振りながら答える。

「無理だ。そもそもラピスの輝きとして、シンフォギアの一部へと変質した君らだ。抽出するのにも手間がかかったんだぞ」

 肩を竦める蘭堂の背を叩こうとする自身の手を、もう片方の手で止める彼女、たち。

「既に一つとなったものを、矛盾ないように個々人の精神体へと分離しようとしてみろ。互いに補い合っている繋がりが千切れ解け、揃ってチリと還るのが関の山だ。それでは困る。俺が困る」

 

「そうだな」

 二人のやり取りの中、近くのドアが開き、その華奢な姿を見せる。

「少なくとも、レイラインとの接続経験のあるサンジェルマン。シャトー基本設計に携わったプレラーティには、居てもらわなければ、オレの仕事が増える」

 キャロル・マールス・ディーンハイムは腰に手を当てて二人を見やる。その姿に、再びサンジェルマンが顔を寄せた。

「ちょっとぉ!それってば、あーしはお邪魔ってことぉ?体格近いんだから、プレラーティとアンタ一緒になりなさいよ!あーしとサンジェルマンは二人仲良くできるから!!」

 突如始まった四人の言い合いを尻目に、蘭堂はキャロルのやってきた部屋へと入った。

 

 かなりの面積を有する一室。

 入ってきたドアは上階に相当するようで、階下を見下ろす。青白い光が、大量に光っていた。

 

「お前が一部開示したせいで、占有出来る総数が減った。どうしてくれる」

 後から入出したキャロルの悪態に対し、蘭堂は右腕を振った。

「まぁ、助言のお陰で最小限だ。確かに一部にしておいて、正解だったよ」

 明らかに不機嫌なキャロルの後方より、無言のサンジェルマンが視線を向ける。その視線には、意外にも責めの色は見えなかった。

 

「やはり、真似事ではうまくいかんな。君らの助力、感謝する。と、改めて言っておくべきか、ここは。俺では、必定を破ることは不可能ということが、立証された」

 

 蘭堂の眼前。青白く発光する容器。その一つ一つに、人間の脳が収められている。それが、見渡すかぎり続いていた。青白い光を受け、目を細めた彼は、自嘲気味に笑う。

 

 

 

「運命を手繰る腕を持たない、‟我々‟では、な」 

 




こんにちは。
サリッサと申します。
お読みいただき、有難うございます。


いや、ほんとごめんなさい…
毎度毎度大幅な遅れ、スミマセン…

さて、謝罪も早々に、ほぼバトル一色となった4話。
表現が直観突貫無頼漢しているので、読みにくいところがチラホラ(多々??)あったかもしれません。
本当にお読みいただき、有難うございます(´;ω;`)ブワッ

ついに、覚醒した謎の女性。弾焚 琉璃。
彼女の脚部に備わる謎のシンフォギア-カドゥケウス-
そして不可解に塗れるユゴス=ノイズの動き…

等々w

個人的には、ノーブルレッド三姉妹を出したかった箇所なので書けてよかったッ!
妄想の粋ですが、普通の人が、いくら身体を無茶苦茶に改造されたからと言って、
無関係な人を非情に巻き込んで大惨事を起こせるのかなぁ…と。
改造した人々への復讐なら、合点もいくのですが。
そう言う意味で、手段を選ばない動機とセットで、
キッカケがどこかにあったのではないか…
というのが、ミラアルクのシーンに繋がっています。
妄想と偏見ですがね(;^ω^)
(ノブレ三姉妹…幸せになってくれ…orz


ともあれ、もう詰め込みまくっちゃう悪い癖駄々洩れでございます。
が!
これからもチマチマと業界の隅っこでがんばる所存╭( ・ㅂ・)و ̑̑


今後もどうぞよしなにお願いいたし〼


PS.絶ステ21楽しかったデス!!22はサークル参加で端に陣取りますよ~
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