研究室でコーヒーを。
いつもの場所で目が覚めた。
カフェと分割してある研究室。
片方はオカルトチックで、もう片方は整理されているとは言い難い、研究室。
…おかしいな、私がこんなこと、思うか?
───夢を見た、私が一冠を制した、そのあとに…足に痛みを感じた。
左足浅屈腱炎、つまり、私達ウマ娘…レースを走るウマ娘にとっては不治の病。
私は、引退会見を始めるその時に目が覚めた。
悪夢?ありえたもう一つの世界線?…考えたくもない。
怖い、いやだ…この生活が終わるのが…
いや、終わらない…もう私は三年間を走り切ったんだ。
でも、まだ先を見ていないんだ、まだだ…まだ見れてないんだ…
その先を、限界の先を…!カフェとなら…見れそうなんだ…!
……私が、できなくなれば、カフェに託すだけ、なのに……恐ろしく、怖い。
カフェと離れたくない…つい、この間知覚した、この想いは…まだ…怖い……カフェが恋しい…
「…どうしたんですか、震えて…風邪でもひきましたか?」
「…そうじゃない、私としたことが、悪夢を見てしまってね」
「……そうです、か…いつになくあなたがおかしいので、いや、何時もおかしいですが…普段と違っているので何かと思いましたが…」
「…なぁ、カフェ…私は…その先を見れるだろうか?……限界の、その先を」
「…どうでしょう」
「…そうか…なぁ、カフェ…すまないが、コーヒーを入れてくれないか?」
「え、貴女が…?明日槍でも降ります?それとも天変地異…?」
「…別にいいだろ、私だって飲みたくなるんだ、甘いのじゃなくて…苦いのが」
「…はぁ、わかりました、じゃあ少し、待っててくださいね」
…私らしくはないな。
───
…未だに慣れない、コーヒーの匂い。
豆はよくわからないが、カフェが楽しく話すのを見ていると、和む。
「もうすぐできますから、起きてください」
「…ん、わかった」
ベッドとは名ばかりのソファから身を起こす。
…私も、随分とまともなベッドで寝ていないな。
「はい、どうぞ…貴女に豆の種類を言っても、わからないと思うので」
「…そうだな、確かにわからないな……ありがとう」
「…いえ、別に」
丁寧にコーヒーが注がれた、竹製のマグカップ。
カフェのトレーナーくんが、カフェの誕生日にと、買ってきた奴だったねぇ。
もう、カフェと一緒にいれる時間も少なくなってきた。
…ここを卒業したら、次はいつ会えるか?
……先のことなんて考えたくもない。
マグカップに注がれたコーヒーを一口。
苦い、が、この苦さが今はいい。
…理想、憧れ、目標、好敵手、友情……いつから、違う感情になった?
それまでに向けてきた感情と、”ソレ”はまったく違う感情で。
何時なんだ?いつ?……わからない。
カフェが、彼女が私以外に向ける感情を見るだけで辛い。
私のものにしたい、けど、それではカフェは幸せにならない。
カフェの幸せが私の幸せなんだ。
カフェが望むなら、私は死んでやる。
「……なあ、カフェ…もう一つ頼みがあるんだが」
「はぁ…全く、今回は何ですか?」
「…すまないが、私を抱きしめてくれ」
「…は?」
「…嫌なら、いいんだ…別に忘れてくれ……私は、ちょっと散歩に出てくる」
────────
何故か、今この人を外に出したらもう会えなくなるかもしれない。
私の勘と、『お友だち』の勘。
「…いいですよ、ハグ…してあげましょう」
「…ほんとか?私を憐れんでの同情ならいらないぞ」
「っ…同情じゃ…ないですよ…!」
まだ貴女に、何にも伝えてません。
何にも返せてません…!行かせません。
「…本当なら、私の気持ちを聞いても、引かないのか?」
「…あなたの、私に向ける感情は…私と同じですよ」
「……憧れや理想、友情、そして素晴らしい[[rb:好敵手 > ライバル]]…そんな感情が…いつの間にか…」
「…いつの間にか、恋情になっていた…と」
「…そうだね、カフェ…私が君に向ける感情は…濁ってる、恋情だ」
「…」
「…君も…カフェも同じ感情でもあるのかい?」
「勿論ですよ」
「!…そう、なのか?」
「…私が、思いを伝えられずに…チャンスが来たと、思っていたら…!貴方は…あなたは私の前から姿を消そうとした…!人の話を聞かない癖…損ですよ」
「…そう、か……すまない…」
「……私も、貴女に向ける感情が、何時しか変わっていました…けど、貴女鈍感ですし……遠回しに言っても気づかないし…」
「…その…」
「…言い訳をするぐらいなら、行動で示してください……ハグ、するんでしょう?」
「……そう、だね…カフェ、ちょっと来てくれないか」
「…はい」
タキオンさんに歩み寄る。
コーヒーの香りと混ざった、彼女特有の甘い匂い。
目の前まで歩み寄ると、タキオンさんは私を抱きしめてくれた。
…私より、少し高い身長…意図せず、彼女の肩に顎を乗せる形。
「…すまない…その、カフェも…同じ感情をだったなんて…」
「…いいですよ、その代わり…私、愛は重い方ですよ?」
「…なるほど、生憎、私も重い方なんだ」
「…ふふっ」
「…くくっ」
彼女のぬくもり、彼女の匂い、彼女の想い。
何もかもが、私のもので…私の全ても、彼女のもの。
「…カフェ、少し、私の顔を見てくれないか?」
「?…いいですけど…」
────────
研究室側の窓から入った、何時の間にか沈みかけの夕日が。
つながった二つの影を伸ばす。