オーバーロードの モモンガが しょうぶをしかけてきた! 作:maximum
モモンガはピクリとも動かなくなったモンスターボールを拾い上げる。
これでギラティナは手持ちポケモンとして扱われるのだろうか。アルセウスフォンを起動し、手持ちポケモン欄を見てみる。
(お、いるいる。HPはほぼないな、捕まえたからといって勝手に回復する訳では無いのか。だが……)
気になるのは表示されているレベルだ。ギラティナの場合は47となっているが、果たしてこれはどのような構成になっているのか。見た感じギラティナは異形種であるし、ユグドラシルと同じレベルの仕組みなら種族レベルも重ねているだろう。そうなると中の上程度を目標にするしかなくなる。
(レベル構成が不明だとどうしようもないからなぁ……種族レベルを重ねると強くなりづらいのが面倒だ)
ユグドラシルにおいて、人間種が異形種よりも強く育つ傾向があるのは常識だ。そういう意味ではギラティナを人間にしてしまえばいいのだが、それには特定の
だが、そんな心配も杞憂に終わる。モモンガは何気なくギラティナのタブをタップし、新しく開かれたページを呆然と見ていた。
「はぁ? 何だこのステータスは……」
画面に表示されたのは名前、レベル、おや──捕獲者のことだろう──などなど。
モモンガが素っ頓狂な声を上げたのは「などなど」に含まれる所である。
HP。こうげき。ぼうぎょ。とくこう。とくぼう。すばやさ。
たった6つの単語と付随する数字はモモンガの理解を超越していた。
(幸運値は存在しないのか!? それに「とくこう」って何!? 魔法攻撃力とか魔法防御力はどこだよ!?)
平仮名で表記されていることも気になるが、そんなことよりも、だ。
MPがない。魔法防御力・攻撃力がない。幸運値がない。
間違いない、ギラティナ──ポケモンは、ユグドラシルのルールに則った存在ではない。この世界独自の法則に従い、モモンガの知らぬ技術を手に入れモモンガとは異なる経験値を積んだ、モモンガの脅威に成り得る存在である。
(ゴースト、ドラゴンって何だよ…そんな種族知らないぞ。
だがこれはある意味幸運とも言えようとモモンガは自分に言い聞かせる。
全てのポケモンに出会えと言った光、その目的が言葉通りであれば、最初のポケモンの捕獲はチュートリアルに該当する。であれば低レベルの個体が現れるのが順当だが、今手にしたのはレベル40を超えた中盤の頭で出てくるような奴だ。できることや分かることがより多いだろう。傷だらけだったのは気になる──
(──おっと、いつまでも傷ついたままにしておくのはまずいな。餡ころもっちもちさんに叱られてしまう)
犬を飼っていたかつての仲間ならモモンガの状況に顔をしかめるだろう。右手に持ったボールを割り開き、中身の光がギラティナを型どる。現れたギラティナは、立っているのも辛いのかその長い首を地につけて伏せていた。
このモンスターボールというのも便利なものだ。
さて、目の前の案件に戻ろう。
先程表示されていたギラティナのステータスは、ユグドラシル基準で判断すると例え100レベルになろうともモモンガの魔法1つで殺せる。しかしユグドラシルには存在しないステータスやタイプなるものが、その甘い希望を絶っている気がしてならない。
では、位階魔法やマジックアイテムの効果はポケモンにもあるのか。
「検証開始だ」
行く宛てのない──というか分からない──手がふらふら揺らめくと、虚空に呑み込まれ目的の物が捕まった。
成程、とモモンガは思う。この手の先はアイテムボックスであり、少し動かすとスクロールや
空のモンスターボール、そしてギラティナを入れていたものを突っ込み、目的の
こちらをじっと見つめる巨体へ歩み寄り、手にした深紅を注いでいく。淡い緑の光に巨体が包まれ、その傷を癒し尽くす──前に消える。
即座にアルセウスフォンを見て、確信する。
「ふむ、これは……」
分かったことは1つ。分からないことは1つ。
前者はユグドラシルのアイテムはこの世界でもその効果を発揮する可能性が高いということ。まだポーションしか検証できていないが、他のものも前向きな結果が得られるだろう。
後者は、その程度がユグドラシルから変更されているかもしれないこと。先の
(50レベル弱…いや、50レベル強のモンスターに使用した時みたいだ)
ユグドラシルのレベルの示準は、ポケモンのレベルに応用可能。
これは半分確定だろう。懸念すべきは、レベルに比例して乖離していく可能性だ。ギラティナが特異であったり、タンクに似たステータスをしているかもしれないが、平均的なプレイヤーより遥かにHPが高い。もしこのままモモンガの常識から離れて成長する場合、ステータスだけであれば神話級を装備したモモンガを上回ることとなる。あるいは、限界を知らずに無限に強くなることも考慮される。
「素晴らしいな、想定以上に良い滑り出しだ」
モモンガは勢いよくアイテムボックスへ手を突っ込み、先程とは違うポーションを数本纏めて取り出す。下級治療薬の時の回復量から逆算し、ギラティナの傷が完全に癒える量より少し多い位だ。栓を抜き取り、手首のスナップを活かしてギラティナに一気にぶっかけた。
「……! グォォ……」
淡い光に外傷を拭き取られたギラティナはゆっくりを首を持ち上げ、霊力のこもった昏い翼を広げた。陽の光を浴びてもなおどこかおどろおどろしい雰囲気を漂わせるその姿は、成程ユグドラシルの同レベルよりも強いことを納得させる。何故か左手を睨みつけているギラティナを前にモモンガは無い口を開いた。
「さて、ギラティナよ。お前はこれより俺の……協力者だ。お前が強くなれるようできる限り手を貸すし、俺の実験にもある程度付き合ってもらう」
モモンガの言葉にギラティナは軽く頷く。その間もずっと左手を睨んだままだ。
「ああ、それと。お前は俺と同じ言葉を話せないようだが、一応俺の名前も伝えておこう。一方的にこちらが知っているのは対等でないしな」
これからしばらくの間、もしかしたら数年共に行動するかもしれないし自己紹介は大事だ。
今の自分は何だろうか。骨しかない手を見てモモンガは考える。ヒトだった過去、死を超越した現在──いや、違う。
モモンガは転移前にナザリックにある物を持てるだけ持ち出した。積み上げた金貨の山、黄金期に作り上げた装備、手に入れた時は年甲斐もなく大はしゃぎしたアーティファクト……墳墓に残された物を。
最期だからと、仲間たちの栄光を持ち出した自分はこの場所に来て責任を背負った。輝かしい追憶を、自分は、自分だけは裏切ってはならない。
ならば──ああ。
初めからこれしかないじゃないか。
「俺の名は、アインズ・ウール・ゴウン」
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「さて、これからどうするかな」
ギラティナがアルセウスフォンをずっと睨みつけていたことが分かり、アイテムボックスに仕舞った後。
方針は決まったが、ここが何処かも分からない。
正確に言えばアルセウスフォンからマップを見ることは出来たが、ここがどんな場所なのかは全く理解出来ていない。
ここで、アインズにギラティナの図鑑説明が浮かび上がる。
取り敢えずギラティナの世界に行ってそこに拠点を作り、それから何処へ行くか決めよう。最悪ここに戻ってくることぐらいできるだろう。
では、と頼もうとしたが、目の前で首を傾げていた当人は急に左を向いた。何事だろうか。
「ギラティナ、何かあった──」
ガサガサ。ガサガサ。
モモンガから10歩程右斜め前にある木、正確にはその先端の枝達が揺れていた。
敵襲。
アインズは舌打ちしそうになり、辛うじて堪える。幸先が良く浮かれすぎていた。右手首に巻かれたバンドは〈
無詠唱で〈心臓掌握〉を発動できるよう身構え、相手の出方を伺う。ギラティナよりは弱いと思われるが、何もかもが不明な今予備には予備を重ねるべきだ。
次第に揺れが大きくなり、影が吐き出される。
大地に降り立ったそれはその羽を雄々しく広げ、吼えた。
「ピピロパピロピー!」
アインズとギラティナの前に立ちはだかったのは、膝丈にも及ばぬ体格をした小鳥であった。
顔、胸、尾羽根の中央には白の、顔の周りと翼の先、裏や尾羽根の左右が濃い灰色の羽毛が生え揃っている。それ以外は薄い灰色だ。顔に対して占める割合が大きい目は、可愛げがあり庇護欲をかき立たせる。
だがその目は今つり上がっており、鳴き声に怒りが含まれていたことは明白だ。縄張りに侵入者が現れたことに荒くれだっているのだろう。
「ほう…さっきのが捕獲のチュートリアルなら、次は戦闘編というわけか」
丁度いい。アインズはギラティナに自らが持つアイテム、いわば物質的バックアップを見せることは出来た。しかしながらギラティナはアインズの力を目にしていない。ここで上下関係をしっかり構築してしまおう。
わざわざ姿を見せたことから知能は低く、また飛び下りる速さも小さいのでアインズの敵足り得る存在ではない。
完璧だ、ここまで実験に適した状況に遭遇できるとは。
アインズは左にいるギラティナに語りかける。
「お前の強化を約束した以上、俺も信用を得られる程度の強さを見せないとな。さて、まずは小手調べだ」
アインズは習得している
エリア攻略からイベントボス、レイドボスにおいてもほとんどの場合愛用していた奴を呼び出すために。
いつだってアインズの壁となり、敵からの攻撃を防ぐのに重宝したその能力はきっと今回も役に立つだろう。
───中位アンデッド作成・
発動と同時に出現したのは
2.3メートルの体長、その4分の3を覆える巨大な盾、半身を超える長さの歪んた剣。
黒い金属の鎧を纏い、生者への殺戮に飢えた息を漏らす口には針より鋭い牙がびっしりと生え揃っている。
ユグドラシルの時と寸分違わぬ、暴力を象った姿。
それは
「
「オオオァァァアアアアアアーーッ!!」
主からの命。歓喜の時。
与えられた役目を果たす、使役存在としての本懐を遂げる。
死は駆け出した。
次回、アインズ様初のポケモンバトル。