りばーす・ざ・ろっく!   作:灰虎

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皆さんぼざろの7話見た?
制作陣ですら「なんだこれ?」なんていうアニメってなかなかないですよね。

それはそうと、今回いつもより文字数多いくせに、未だにアニメ一話の内容すら書き終わっていない脆弱二次作家がいるらしい。…………そうです、俺です。
次こそ! 次こそアニメ一話の内容終わらすんで許して!

あっついでにUAが1500を超えて、総合評価も60超えました。
応援ありがとうございます。


#3 完熟マンゴーと爆弾発言

 

 俺たちはバンドの練習のため、ライブハウスの中に設けられたスタジオに集まっていた。

 

 スタジオに入って各々で演奏の準備をする。最初は、助っ人として呼ばれたのはひとりだけなので大人しく練習を見学させてもらおうと思っていた。

 しかし、虹夏さんやリョウさんが「折角なんだし少し弾いてみない?」なんて言うので俺も自身のギターをケースから取り出し準備する。

 

 すると当然のように、虹夏さんからこのような疑問が投げかけられた。

 

「あれ、ひとりちゃんと一心くんってギター同じなんだね。お揃いにしたの?」

 

 そうなのだ。特に意図していなかったが俺とひとりは同じモデルのギター、ギブソン社のレスポール・カスタムを使用している。

 

 というのも、俺は彼女より先にギターを始めている。ひとりが中一、俺は小二から始めた。ひとりの父である直樹さんから勧められたのがきっかけである。

 当然そんな幼い時分にギターなど持っているわけがなく、俺は彼からギターを借りて練習していたのだ。

 

 そして時は流れ、もうすぐ中一になろうとする頃。

 俺は今まで貯めたお小遣いとお年玉で今の愛機を購入したのだ。足りない分は親へ相談し出して貰った。おかげで誕生日とクリスマスのプレゼントは無しである。

 

 もちろん他のモデルにするという選択肢もあった。こんな50万近くするバカ高いやつではなく、10万くらいのモデルなら貯めた資金だけで購入できた。

 

 しかし五年もの間、毎日のように弾いてきたせいか愛着が湧いてしまった。全く新しいモデルでというのも悪くは無いが、やはり慣れ親しんだもので演奏するのがいいと思ったのだ。

 

 なにより、この時点で俺はもう後戻りなんてできないくらいにギターへの情熱で燃えていた。

 骨の髄までロックに魅力されていた俺は、最高のギターを手に最高の演奏をするという魅力を振り払えなかったのである。

 

 我ながらバカな考えでバカな選択をしたもんだなと思う。そんな一時の感情で大金を支払うなんてバカとしか言いようがない。

 

 でも、後悔はしなかった。むしろ最高の選択だったと言っていいだろう。

 

 ……ただ、俺が自身のマイギターを購入してしばらくした後に、ひとりの手にそのギターが受け継がれたことには驚いたが。

 

「わざわざお揃いにした訳じゃないですよ。ひとりのは父親から借りてるもので、俺のは趣味です」

「へぇ、いい趣味してるね。手入れも行き届いてるみたいだし」

「ありがとうございます」

 

 リョウさんからお褒めの声をいただいた。自慢の愛機のために、知り合いの楽器屋店員にみっちり教わってメンテナンスの技術を習得したんだ。もっと褒めてくれ。

 

「えっえへ、えへへ。おっお揃い!」

 

 ……というか、ひとりはそろそろ自分の世界から戻ってきてくれ。気づかずしていた仲良しエピソードに浮かれるのは構わないが、そろそろ練習始まるぞ。

 

「はいこれ、今日のセットリストとスコア」

「あっはい。ありがとうございます」

 

 虹夏さんから今日演奏する曲のセトリと楽譜をまとめた紙束を渡された。ひとりがおどおどとした様子で受け取る。

 そのとき疑問に思ったのかひとりが質問を投げかけた。

 

「あっあの、バンドメンバーは?」

「これで全員だよ〜。あとあたし達、今回はインストバンドだから」

 

 俺は横から覗き見るような形でひとりと一緒に、渡された紙束を見る。難しい譜面ではないし、ひとりもこれくらいならという顔をしている。

 

 インストバンドということでボーカルがいない分、演奏技術が求められるがひとりの実力なら問題ないだろう。

 

 もちろん、ちゃんと実力を発揮できればの話だが。

 

 俺がそんなことを考えていると、ひとりは何故かドラミングを始めた。もしゴリラの真似なら手はパーにしろ、ゴリラに失礼だろうが。

 

「じゃあ早速だけど、頭からやってみよっか!」

 

 ひとりが正気に戻った後、演奏の準備をする。虹夏さんから最初は少しゆっくりめに、徐々に慣らしていく感じで演奏することを伝えられた。

 

 俺はスタジオに積まれてあった木製の丸椅子に座り、端っこの方で練習を聞かせてもらう。いくら弾いていいと言われても、これからライブに出演するのはひとりなんだ。大人しく見学していよう。

 

「それじゃいくよ!」

 

 ──そうして練習が開始されたのが数分前のこと。

 

 ちょうど一曲通し終わった後、虹夏さんとリョウさんはお互いを見つめ、一つ頷く。そしてひとりの方を向き、一言。

 

「……ド下手だ!?」

「プッ」

「え゛ぇ゛!?!?」

 

 ひとりは言葉を失った様子で硬直する。まあ残念ながら当然というか、そりゃそうだよなというのが俺の感想だ。それぐらい普段のこいつとはかけ離れた酷いクオリティだった。

 

 そもそも、大前提としてひとりは重度のコミュ障だ。日常会話すら怪しいこいつとって、生身の人間と呼吸を合わせることが重要なバンドなど難易度ルナティック級の所業。

 目すら合わせられないので、他のメンバーを置き去りにした突っ走る演奏になる。

 

 ソロ弾きでは最強のギターヒーローも、バンドではミジンコ以下の最弱に成り下がるのだ。

 

「あーウソウソ! いや嘘じゃないけど、なんて言うかその、え、えっとなんかごめん!」

「一心、ひとりっていつもこんな感じ?」

「いや、こいつって極度の人見知りなんですよ。それに加えてバンドで演奏とかしたことないんで、緊張やら不慣れやらでボロクソな演奏にって感じですね」

「そこの二人! 冷静に話し合ってないでひとりちゃん慰めるの手伝って!」

 

 なんか怒られた。

 

 そうこうしているうちにイマジナリーフレンドと話し終わったのか、ひとりは床に奇妙なポーズで寝転がる。

 

「どっどうも、プランクトン後藤でーす……」

「売れないお笑い芸人みたいな人出てきた!?」

 

 それプランクトンの真似だったんだな。なら手や足の感じ方からしてミジンコだろうか。無駄にクオリティ高いのが腹立つ。

 

 そして耐えきれなくなったのかひとりはスタジオを飛び出し、近くの控え室にある可燃と書かれたゴミ箱の中へ籠城した。

 引きこもるならまだマシな場所もあるだろうに、ゴミ箱を選ぶあたりナメクジみたいな生態をしている。

 

「ねぇ出てきて〜、本番始まっちゃうよ!」

「や、やややっぱりできませぇん……」

「しょうがないよ〜即席バンドなんだし! あたしだってそんな上手くないし!」

「私は上手い」

「俺も上手いです」

「二人ともちょっと黙ってて!」

 

 また怒られた。

 

 でも、こういう場面で胸を張れる度胸は凄い。自信満々なところとか俺に近いものを感じて勝手に親近感が湧く。

 

 どうやら向こうも似たようなことを考えたらしく、リョウさんはこちらにサムズアップしてきた。俺も彼女にサムズアップを返す。虹夏さんがジト目で見てくるが知らん、俺たちはマブダチだ。

 

「へ、へへっ。へへへっ、へへへへへっ……」

「とりあえずこっち向いて〜、現実逃避しないでぇ〜」

「えっ演奏もですけど、MCでも全くお役に立てないですし……。あっあはははははは、私の命をもって腹切りショーでも、ばっバンド名くらい覚えて帰って貰えるはず……」

「ロックすぎる!?」

「そんな簡単に死のうとするな、家族が泣くぞ」

 

 流石にこんなことで人生を終えてほしくない。急に娘が死んだら後藤家のみなさんが可哀想だ。

 

 そんなことを考えていると、落ち込んでるひとりにリョウさんが声をかける。

 

「大丈夫、ひとりが野次られたら私がベースで"ポムッ"ってするから」

「べ、ベース、そんなファンシーな音しますかね……?」

 

 リョウさんのジャスチャー的に、ボディを叩きつける感じになるからそんな可愛らしい音は出ないな。多分流血と共に鈍い音が響く。

 

 でもまあ――

 

「流血沙汰もロックだからね!」

「ロックだからしょうがない」

「ロックだからな、そういうこともあるだろう」

「ロック免罪符すぎる!?」

 

 そういうもんだ、受け入れろ。

 

「それに、うちのバンド見に来るの多分私の友達だけだし!」

「へ……?」

「私、友達は虹夏と一心だけだから」

「あれ!? いつの間に友達に!?」

「さっきですね。俺とリョウさんはマブダチです」

「ちょっと意味わかんないんなんだけど……というかそういうの今はどうでもいいから! えっとだからね、普通の女子高生に演奏の善し悪しとかわかんないって! だから安心せい!」

「と言われましても……」

 

 虹夏さんが下手したらすごい勢いで燃え広がりそうな焦げ臭い発言をする。しかしひとりはゴミ箱から出ようとしない。

 

「私は善し悪しわかるけど」

「俺もわかります」

「そこはほら、二人とも普通じゃないから」

「えへ、えへへへ」

「それほどでも」

「いや、喜ぶな喜ぶな」

 

 普通じゃない=特別って感じがして、つい。

 

 そんな寸劇じみた会話をしているとゴミ箱からすすり泣くような音が聞こえてきた。

 

「ごめんなさい……」

 

 そう謝るひとりの声はか細く震えていた。彼女の悲しい気持ちが胸に痛いくらい響いてくる。

 虹夏さんやリョウさんへの申し訳ないという気持ちや自分はダメなんだという悲痛な思いが込められていた。

 

「けど……!」

「……虹夏、無理強いするもんじゃない」

「……だよね。無理なお願いしてごめんね」

「あっいやそこは!」

 

 無理なお願いをしたと謝る虹夏さんに、ひとりが「それは違う」と声を上げる。一体何が違うのかと虹夏さんとリョウさんが首を傾げた。

 

「……ほ、本当に嬉しかったんです、声かけられて。バンドはずっと組みたいと思ってたから……。で、でもメンバー全然集まらなくて……」

「あれ? 一心くんはひとりちゃんとバンド組んだりしなかったの?」

「いえ、一時期ひとりと一緒に探したんですけど、良い人が全然いなくて……」

 

 俺らの周りに楽器やってる奴なんてそういなかったし、俺らの性格に付き合えるような奴はもっといなかった。

 

 ひとりも俺も、割と困った性格をしていると自覚している。だから下手な人とバンドを組んだりしたら、こじれにこじれて仲違いしかねない。

 

 そうなったら俺はともかく、ひとりは深く傷つく。俺は幼馴染としてこいつに悲しんで欲しくなかった。

 だからこそ、過保護かもしれないが厳しくバンドに誘う人を選んだ。結局、誰も誘えなかったが。

 

「ひとり、普段はなに弾くの?」

「あっ結成した時すぐ対応できるように、ここ数年の売れ線バンドの曲はだいたい……。それで弾いたカバー曲はネットに上げたりしてます」

「えっすご」

「いや全然、結局こんな感じになって……。やっぱり私には、誰かとバンド組むなんて……」

「売れ線のカバーばっかりか~。なんか『guitarhero(ギターヒーロー)』さんみたいだね。って知ってる? 多分あたしらとそんな歳変わらないんだけど」

 

 知ってるも何も、目の前でゴミ箱の中にいますよ。

 

 話題の人物が目の前にいるなんてことはつゆ知らず、虹夏さんは『guitarhero』のすごいところを並べ立てていく。

 

「知らないなら後でURL送るよ! もう最高に上手いから聞いてみて!」

「私もオススメに何度も上がってくるから見たことあるけど、すごく上手かった」

「……俺も見てますよ。それにプロでも十分通用するレベルとかで、一部の音楽関係者にも注目を集めてるみたいですね」

 

 なにやらゴミ箱がガタガタと騒がしく揺れている。まあ俺には動画を投稿していること隠しているみたいだし、もしバレたらヤバいもんな。主に盛りに盛りまくったリア充エピソードとか。

 

「まあネーミングセンスはちょっと痛いけど」

 

 哀れ、ひとり。

 みんなに褒められてデレデレに喜んでたのに、虹夏さんの一言でひとりの心が傷ついた。こっちにまで心がひび割れる音が聞こえた気がする。

 

「あと、話題の人でいえば『Lion Heart(ライオンハート)』って動画投稿者が気になってる」

 

 ………………危うく声が漏れるところだった。いや、別に何の関係もないけど。

 

「それってギターだけじゃなくて、歌ってみた動画とか上げてる人だよね。その人もよく見るなぁ〜」

 

 ……まあ、今はそのライオンハートなる人物は置いておき、虹夏さんの話に集中しよう。

 

 ……ちなみに、これは関係ない話だがひとりはライオンハートを知っている。なんならひとりの正体であるギターヒーローが生まれるきっかけの一つでもある。

 

「えっと、何が言いたいかって言うとね。上手くて話題の人達も、私たちが見てないところでたっくさんたっくさん練習してギターを弾いてきたんだろうな〜って。後で見てみて、動画見てると伝わってくるから」

 

 そうだぞひとり。お前は現実では誰も自分に興味無いなんて思ってるだろうがそれは違う。

 美智代さんも、直樹さんも、ふたりちゃんやジミヘン、そして俺や目の前の二人。

 お前のことを認めてくれる人間は周りに沢山いるんだ。

 

 ……それはそれとして、幼馴染としては虹夏さんにポジション取られたみたいで少し悔しい。

 

「今日がダメだからってバンド諦めるのは早いって! 私たちがアレなだけかもだし」

「アレってなに?」

 

 そりゃアレですよ。……アレってなんだ?

 

 そんなやり取りをしているとひとりが立ち上がった。うつむいているから表情が見えにくいが、前髪の隙間から決意のこもった顔が見える。

 

「ひとりちゃん?」

「あっ立った」

「わ、わたし、そのっ……」

「もしかして、出てくれる気になったとか?」

 

 どこか期待に満ちた声で虹夏さんは問いかけるが、ひとりは徐々にゴミ箱へと戻っていく。

 

「う、うぅ……」

「ひ、ひとりちゃん?」

「無理すんな。ゆっくり、ゆっくりでいいから」

 

 いくら覚悟を決めたとはいえ彼女は根っからのコミュ障。初めて経験することへの恐怖やお客さんからの視線に耐えられないのだろう。だからこうやってなかなか言い出せないでいる。

 

 俺も落ち着かせるように声をかけるが、さてどうやってひとりをライブに出演させるか……。

 

「怖いならこれに入って演奏したら?」

 

 そう言ってリョウさんは完熟マンゴーと書かれたダンボールを掲げる。

 

 そのとき、獅子堂一心に電流が走る。

 俺とリョウさんは心から通じあったベストフレンド。一瞬で彼女の狙いを悟るとダンボールを受け取り、部屋にあったガムテープや他のダンボールを使いあるものを組み立てる。

 

「い、いつも弾いてる環境と同じです!」

「どんなところに住んでるの?」

 

 そうして組み上がったのはダンボールシェルターだ。

 ひとりとギターを入れても余裕はあるが狭い空間に、光があまり入らないよう開けた空気穴。匠の仕事である。

 

 完成させたと同時に俺とリョウさんはハイタッチを交わす。やはり俺らはマブダチだ、どこぞの幼馴染よりも以心伝心である。

 

「みなさーん、下北盛り上げて行きましょー!」

「少し気が大きくなった」

 

 自分のテリトリーだからか、はしゃいでいるな。傍から見たら喋って動くダンボールなので非常にシュールである。

 

「そういえばライブでなんて紹介すればいい? ひとりちゃん? 本名でいいかな?」

「い、いやそれは……」

 

 ひとりはダンボールシェルターの正面部分に作られた開閉式の小窓から顔を出す。キャットドアをイメージして作ってみたギミックだ。

 

「じゃああだ名とかはないの?」

「ちゅ中学では"あの〜"とか"おい"とか……」

「それあだ名じゃなくない!?」

「あっあだ名で呼び合うほど親しい交友関係は持ったことが……」

 

 ひとりの悲しいあだ名事情が公開された。するとこっちへ話題が飛んできた。

 

「一心くんはひとりちゃんをあだ名で呼んだりしなかったの?」

「面倒なのでしてません」

 

 一時期あだ名で呼んで欲しそうにチラチラ見てきたがスルーしてやった。昔から名前で呼んでるので、わざわざ呼び方を変えるのは面倒くさいという理由である。

 

「……ひとり、ひとりぼっち。……ぼっちちゃんは?」

「おぉう、またデリケートなところを……!」

「ぼぼぼぼぼっちです!」

「喜んでるし」

「今日一嬉しそうだな」

 

 それこそバンド誘ってもらったとき以上に。いくら初めてのあだ名だからってそれでいいのか……

 

「あだ名とか初めてで……」

「うぅ、なんか涙出てきた……」

 

 こんなに喜ぶのならあだ名をつけてやればよかったなんて思うが……やはり面倒なので却下だ。

 

 するとあだ名の話で何か気になったのか、ひとりはある質問を二人へ投げかける。

 

「あっまだバンド名聞いてなかったです」

「そういや聞いてなかったですね。なんて名前なんですか?」

「うっ、そっそれは……」

 

 正直、俺も気になるのだが虹夏さんからの反応は芳しくない。

 なにやら答えづらそうに口ごもっていたが、リョウさんがそんなもん知らんとばかりにあっさりと答えた。

 

「結束バンドだよ」

 

 一瞬耳を疑った。

 結束バンドとはあれだろうか。100円ショップやホームセンターなどでまとめ売りされている、ケーブルなどを束ねるための道具のことだろうか。

 

 ……どうやら俺の予想は間違っていなかったらしい。リョウさんが笑いながら教えてくれた。

 

「ププ……傑作」

「ダジャレみたいで寒いし! 絶対変えるから!」

「なんで? 可愛いよね?」

「あっはい」

「俺も好きですよ。覚えやすいですし」

 

 実際いい名前だと思う。

 シンプルでいてインパクトもあり、親しみやすい。個性に溢れてる感じがして面白いと思う。

 

 それに知り合いの酒クズベーシストのバンドも、ダジャレみたいな名前だからそこまで違和感はない。四苦八苦ってバンド名としてどうなんだ。

 

 虹夏さんが頭を抱えて唸っていると、そろそろ出番らしくスタッフさんからお呼びがかかった。

 

「け、結局一曲しか練習出来なかった……。それに一心くんもごめんね、弾けるって言ったのに全然させてあげられなくて」

「別にいいですよ。それよりこれから本番ですよね、頑張ってください」

「うん、任せて。期待して待ってるといい」

「あっ、うぅ……ほ、本番……」

 

 今更ライブの本番が怖くなったのか、ダンボールへ引きこもろうとするひとり。まあ練習一回しかしてないから不安なのだろうが、そんな様子で大丈夫か。

 

 相変わらずの幼馴染の様子に一抹の不安を抱きながら控え室を出て客席の方へと向かおうとするが、その前に俺はひとりへ少しばかりのエールになればと声をかける。

 

「ひとり、念願のバンドを組んでする初ライブだ。思う存分楽しんでこい」

「……う、うんっ!」

 

 ひとりの返事を聞いて、今度こそ俺は控え室を出ようとする。

 

 ようやく、ようやくひとりの夢が叶おうとしている。

 自身の性格が災いして、誰ともバンドを組めずに孤独にギターを弾いていた。もちろん俺も傍にいたのだが、あいつの孤独を埋めるには距離が近すぎたのだろう。

 

 あいつが求めていたのは初めから影に寄り添ってくれる俺ではなく、光から影に踏み入って引っ張ってくれる虹夏さんのような人だった。

 

 だから少し楽しみなんだ。

 練習の様子からして本来の実力なんて微塵も出せないだろうが、あいつが誰かと組んで弾く音はどんなのだろうかと期待に胸が膨らむ。

 

 控え室の扉を開き、客席を向かうために部屋を出ようとする。しかし、伝えなきゃいけないことがあることを思い出した。

 

 自分でも今言うのかなんて思うが、言わないでズルズル引きずるとロクなことにならない。

 最悪、仲違いしてバンド解散なんてことになったら目も当てられないので扉の前で彼女達の方を向き一言。

 

「あっあと俺、結束バンドには入る気ないですから」

「……へ?」

 

 当然のカミングアウトに驚きを隠せない彼女たち。そして再起動した虹夏さんがプルプル震えながら大声でツッコミを入れる。

 

「……この流れで!? それに今言うことじゃなくない!? あっちょ、ま、待てぇぇぇ!」

 

 そんな声を聞き流して、俺は控え室の扉を閉めた。




高評価マジでありがたい。もっとくれてもええんやで。
だから遠慮せずにバンバンお気に入り登録と高評価よろしくお願いします。
感想も気軽にしてね!

今回高評価を入れてくれたCrazy Pumpkinさん、あとらす0901さん、音速で動く猫さん、本当にありがとうございます!

頑張って明日も投稿します(できれば)
書いてると思う、毎日投稿してる人マジスゲー。本当に尊敬するわ。
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