……嘘です。忙しかったのは本当だけど、そんなパーリでピーポーな出来事なんてなかったです。
というわけで前回から遅れに遅れて二週間ぶりの投稿です。
急いで書いたから荒くても許して。
星歌さんに促され入店した俺とひとりは、ライブハウス内のドリンクカウンター前で店長である星歌さんと軽い挨拶をしていた。
「一心のほうは知ってるからいいとして、そっちの子とは初対面だからな。あらためて、あたしがここの店長だ。以後よろしく」
「よっよろしくお願いします……」
ひとりは完全に萎縮していた。
いくら星歌さんが妹想いでツンデレという萌え属性を搭載しているからといって、ひとりから見ればイケイケな見た目をした怖い女性。ヤのつく男たちに姐さん呼びされていそうな貫禄の持ち主である。
「君って昨日ギター弾いてた子だよな。名前は……聞いてないや。え〜と、マンゴー仮面?」
「まっ、ままマンゴー仮面ですぅ!」
「えっ、本当にそんな名前なの……」
「違いますよ。お前も新しいあだ名だからって受け入れんな」
「痛ッ!」
俺はあだ名をつけてもらった嬉しさで珍妙な名前を受け入れようとするひとりの脳天に、軽くチョップをお見舞いする。あまりのチョロさに頭が痛くなる。
すると後ろから聞き覚えのある声が会話に混ざってきた。結束バンドの良心、虹夏さんである。
「そうそう、お姉ちゃんも適当なあだ名つけないでよ」
「おねッ!? 虹夏ちゃんのお姉さま……」
「前に説明したよ? ほら、スターリー来る時に」
「聞いてなかったろ」
「あっはい、すいません……」
まあ緊張で心臓バクバクしてたからな。こっちにまで聞こえてきたし。……こいつ本当に俺らと同じ人間なのだろうか。
「そういうことなので、だからそんな緊張しないでいいよ〜。ねっ、お姉ちゃん!」
「ここでは店長って呼べ。あと仕事に私情を挟むな」
「ピギィ!」
ひとり、流石にその動物の鳴き声みたいな悲鳴はどうかと思うぞ。
「も〜、怖がらせないでよ〜」
「そうですよ、というか星歌さんなんて私情挟みまくりじゃないですか」
「……んなことねえよ」
俺は星歌さんの言葉に思わず笑ってしまった。バイトなのに勝手に自分の弾きたいギターを入荷したり、商品をライブで使おうとしてた人が何言ってるんだと。
星歌さんの否定の言葉を聞き流し、俺は彼女の前に置いてある紙パックのジュースを手に取りストローを差した。
勝手に取った俺も、取られた星歌さんも何も言わずにジュースを飲む。うん、美味しい。
「え〜と、もしかしてお姉ちゃんと一心くんって知り合いだったりするのかな?」
俺らの近しい距離感に疑問を抱いた虹夏さんが質問してきた。他にもひとりやリョウさんも気になるのかこちらを見てきている。
「まあな。付き合いは……どれくらいだっけ?」
「5~6年くらいじゃないですかね。会う頻度はそこまで高くなかったですけど」
「お前の家遠いもんな」
そりゃあ片道二時間ですから。高校生未満の少年が頻繁に通える距離ではない。
すると虹夏さんが頬を膨らませ不満を吐き出す。
「へ〜、二人ともだいぶ前から知り合いなんだ。お姉ちゃんは紹介してくれなかったし、一心くんも教えてくれなかったら知らなかったな〜」
「いや、妹がいるとは聞いてたんですけど名前は知らなかったので。ここの店長が星歌さんだと知ったのも昨日ですし」
「あたしの場合、紹介する機会がなかっただけだ。というかお前ら、そろそろ仕事しろ」
確かに話しすぎたかもしれない。星歌さんに促され、俺らは仕事を開始した。
とはいえ、開場してからが本番のライブハウスでは今できる業務は掃除くらいしかない。他にもあるのだろうが専門のスタッフがいるし、バイト初日の奴が手を出していいものではないからな。
「じゃあテーブルから片して、それ終わったら掃き掃除……って、ぼっちちゃんどこ行った?」
虹夏さんはバイトの先輩として新人の俺とひとりに仕事の流れを説明するが、肝心のひとりがいないので首を傾げる。
俺は彼女の行動にため息をつきながら、虹夏さんへひとりの所在を伝えた。
「ひとりなら下にいますよ」
「下にいるって……本当だ!? どうしたのぼっちちゃん!?」
「すいません、暗くて狭いところで一息つきたくて……」
「まだ始まったばっかりだよ!?」
開始早々テーブルの下で一息つくひとりへ、律儀にツッコミを入れる虹夏さん。申し訳ないですけど、慣れてください。
そんなことがありつつも順調に仕事を進める俺ら四人。戦力外のひとりやサボり気味なリョウさんがいるとはいえ人数も多く、男手もいるためテーブルも手早く片付けて掃き掃除に移る。
ひとりは虹夏さんからドリンクの提供について教わるためカウンターのほうへ向かった。俺は昨日のうちに覚えたので問題ないが……結構種類あるし、ひとりはちゃんと覚えられるだろうか。
……それよりも、リョウさんはいつまでサボってるんですか。
「ん、だいぶ楽にさせてもらった」
「そりゃあ八割くらい俺が掃除しましたからね。しかもリョウさん寝てたし」
「その分、給料から引いとくな」
「そんな殺生な」
まあお客さんがいないと全体見渡せるからバレるよな。リョウさんは星歌さんの無慈悲な減給宣言をなんとか撤回させようとするが、結局受付のほうへ追い払われていた。
「じゃあ俺も受付行ってきますね。チケットの処理とか教わってきます」
「わかった。あと、リョウに伝えといて。ちゃんと教えてやるんだったら減給はナシにしてやるってな……って、なにニヤニヤしてんだよ」
「いえ、素直じゃないなと思いまして」
「ですね〜、こういうのツンデレって言うんでしたっけ」
「うっせ、早く黙らないとクビにするからな」
「は〜い」
「わかりました」
いつの間にか来ていたPAさんと一緒に星歌さんをからかったら怒られてしまった。クビにされたくないので急いで受付に向かう。
着いてすぐにリョウさんへ先程の伝言を伝えるとものすごく丁寧に教えてくれた。チケットの持参・購入別の対応、ドリンクについて、フレイヤーはどうするかなど、それはもう事細かに説明してくれたのだ。そんなに減給が嫌なら真面目にやればいいのに。
「それにしても、やっぱり開場前の仕事は少ないんで楽ですね」
「その代わり、開場してからは忙しいけどね。たまに変なお客さんも来るし」
「まあ、この業界って変人多いですから」
「えへへ」
「まったく褒めてないんですけど」
酒カスベーシストを筆頭に、ツンデレシスコン店長、心は乙女なおっさんに、上昇意識の強いコミュ障ツインテと個性豊かな面々が揃っている。
もちろんリョウさんも負けず劣らず個性が強いし、直接の面識はないが自称14歳の地雷系音楽ライターなんてのもいる世界だ。変人の一人や二人は来るだろう。
「そういえば一心、作業手馴れてたけどバイトしてた?」
「バイトっていうか、他のハコで手伝いを少ししてましたね」
「ふ〜ん、そうなんだ。教えるの楽だったから助かった」
「リョウさんはいつからここに?」
「私は中学からかな。その頃からここを手伝ってて、今はその延長みたいな感じ」
「あ〜、なるほど。でもあれですよね、リョウさんっていくら金欠でもバイトしてるイメージなかったんで少し意外です」
実際、さっきの掃除もサボってたし。
「失敬な、私だってバイトくらいする。……草ばっかり食べたくないし」
「今なんて?」
「なんでもない。というわけで私は深く傷ついたから、慰謝料として私にご飯を奢ることで許してあげる」
「それが目当てか……。一回だけですよ、それ以降は取り立てるんで」
「ヨシッ!」
この人はどれだけ追い詰められてるんだろう。草食べるとか初めて聞いたぞ。
「それより一心。そろそろお客さん来るよ」
「もう17時ですか。じゃあ頑張りましょうか」
「うん、私は横で見てるからメインは一心がやって」
「いや、アンタもやれよ」
その後、リョウさんはお客さんが来ても本当に横で見てるだけだった。マジでブレねぇな、この人。
◇◆◇
次々来場するお客さんの対応をしていると星歌さんが受付に来た。
それまでは、途中でひとりを叱る虹夏さんの声が聞こえたくらいで特にハプニングなく業務を遂行し、現在はリョウさんと雑談するぐらいには余裕がある。
「お前ら、もうすぐライブ始まるから代わってやる。今日は人気のバンドばかりだから勉強してこい」
その言葉に甘えて俺とリョウさんはドリンク組との合流を果たした。
ライブを見に来るお客さんも多かったし、星歌さんの言う通り実力のあるバンドだろうから是非とも見ておきたい。
「お疲れ」
「お疲れさまです」
「お疲れ……ってあれ、受付は?」
虹夏さんの質問に先程の出来事をそのまま伝える。すると虹夏さんは納得した様子で頷いてくれた。
「あ〜、うちのお姉ちゃんアレなの。ツンツン、ツンツンツンツンツンツンツン……デレェ、みたいな?」
「ツンが多い」
「てへっ」
さらに言えばデレの部分が相当甘い。アイスクリームにチョコレートと蜂蜜に砂糖ぶっかけたくらいには甘い。ゲロ甘である。
まあ、今は星歌さんのツンデレ話は置いておこう。
「それで、ひとりはドリンク大丈夫だったか? ……うん、悪かった。だからその暗いオーラ引っ込めろ」
「……戦力にならないどころか、お客さんと目も合わせられないクソ雑魚ですいません」
「大丈夫! 今日は初日なんだしすぐ慣れるって!」
最悪、星歌さんに頼んで接客の少ない仕事に回せるだろうしな。もちろん、出来たほうがいいのであくまでも最終手段だが。
……だからリョウさん、その烏龍茶のダンボールはしまってください。使わないんで。
「わっ私みたいなミジンコ以下に、どうしてそんな優しくしてくれるんですか……?」
ふと、ひとりからそんな疑問が投げかけられた。
俺みたいな長年一緒にいた幼馴染なら兎も角、出会って数日しか経ってないのに何故。それがわからないと彼女は言った。
「あたしね、このライブハウスが好きなの。だから、ライブハウスのお客さんと関わるのってここと受付くらいだし、いい箱だったって思って貰いたいって気持ちがいつもあって……」
「すっすすすいません、そんな場所でド下手な接客を……」
「いや違っ、そうじゃなくて。あたし、ぼっちちゃんにもいい箱だったって思って欲しいんだ〜。もちろん一心くんにも」
「……俺にも?」
「うん、そうだよ! 楽しくバイトして、楽しくバンドしたいの。一緒に……もちろん笑顔で接客できるようになって欲しいけどね」
そう締めくくった虹夏さんの言葉に俺は、多分ひとりも感じ入るものがあった。
「あっ、二人とも始まるよ!」
虹夏さんの言葉に促され、俺とひとりはライブステージへ視線を動かす。
なるほど、星歌さんが勉強になると言った通り、レベルが高い。
でも、それよりも会場が一体になっている。演者も観客も一生懸命に演奏して、応援して、声を張り上げて……
……うん、本当にいい箱だ。
「すみません、オレンジジュース」
「はっはい!」
俺らがライブを見ていると観客の女性がドリンクを注文してきた。対応するために返事しようとしたが、ひとりがそれより早く対応した。
後ろの棚からプラカップを一つ取り、氷を入れ、飲み物を注ぐ。そしてひとりは両手でジュースを差し出し、相手の目を見て笑顔でお客さんに差し出した。
「どっどうぞ〜……」
ひとりの接客は酷かった。声も体も震えているし、目も限りなく薄目。相手によってはクレームものの対応だろう。
「ふふ、ありがと」
それでも目を合わせられた。相手の目を見て、笑顔で渡せたのだ。
「ふぅ……」
「いや〜、ドキドキした〜。でも、凄い! カウンターからちゃんと顔を出して接客できたね!」
「あ、がっ頑張りました……」
うん、よく頑張った。
……でもひとりにとっては頑張ったことでも、他の人からすると当たり前というのが悲しくなる。ひとり、お前はどれだけ対人レベルが低いんだ……
「ぼっちちゃんのおかげできっと今日のライブがもっと楽しい思い出になったよ。ぼっちちゃんも一歩前進だね!」
「一歩……」
そのとき俺はひとりの顔を見て察した。
こいつ、自分では百か千歩くらいは進んだと考えてたな。残念ながら一歩だけだぞ、それも他の人は既に通り過ぎてる道だ。
◇◆◇
やがてライブも終わり、片付けも済ませた俺とひとりは一足先に帰らせて貰うことになった。家が遠いし、初日ということもあって星歌さんが気を利かせてくれたのだ。
「じゃ、今日はお疲れ。気をつけて帰れよ」
「バイバイ」
「あっお疲れ様でした……」
「お疲れ様です。明日もよろしくお願いします」
別れの挨拶を済ませ俺たちはライブハウス入口の階段を上る。すると後ろから虹夏さんが声をかけてきた。
「ぼっちちゃん、一心くん、またね!」
「はっはい! ま、また明日……!」
「はい、また明日」
虹夏さんの言葉に返事をし、今度こそ俺らは夜の下北沢の道を歩き、帰路へつく。
今日一日を振り返ると虹夏さんのライブハウスに対する想いや、ひとりの成長などいろいろあった。
特にひとりの成長は大きい。昨日今日で今までとは比べ物にならないくらい前に進んでいる。
「お、終わったぁ〜……」
「そうだな、よく頑張ってたと思うぞ」
「えっ、そっそう? えへっ、えへへへっ……」
……こうも純粋に笑うひとりを見るのは久しぶりかもしれない。いつもは俯いて影があるし、引きつった笑みなので本当に珍しい。
それだけ今日のことが彼女にとって大きなことだったのだろう。
「うん、バイト意外とやっていけそうな気がする! あっ明日も頑張るぞ〜! ……へっくちっ!」
「……ん?」
「……へ?」
……その後、ひとりの体調から風邪と判明した。それも、数日寝込むレベルの症状らしい。
原因は言わずもがな、あの氷風呂と冷却シート扇風機だろう。完全に自業自得なのだが、それでもこれから頑張ろうとしたときに発症する間の悪さには同情する。
……本当にこんなんでこれから大丈夫なのだろうか。
そういえば一心くんの容姿とか説明してなかったので大雑把に教えます。
赤いメッシュの入った茶髪で、橙色の目
身長は170cm後半で、PAさんほどではないがピアスも開けている
顔面偏差値はひとりと同じくらい、つまりイケメン
イメージとしては星歌さんを男にしたような感じ
今回高評価を入れてくださった
☆9 : 如月慶人さん、Πνευμαさん、NYAKITIさん
本当にありがとう!
それと高評価を未だに送ってないシャイなボーイ&ガール達も遠慮せず高評価よろしく!(承認欲求の化身)
感想、お気に入り登録、ここすきなんかも待ってます!
あとこの二週間でUAが16000超えててビックリしました。(小並感)
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