能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣   作:ハピ粉200%

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つづき


第二話 新たなる魔法少女、仇を断つ

 七井戸なないどあかりの親友、三笠佳奈子宅にて。

 思いがけず彼女の仇敵と遭遇した七井戸なないどあかりは思い人の助けと先輩魔法少女イスタスの薫陶、親友の危地により、ついに死の恐怖を乗り越え『涙虹石イーリス・リアクター』の力で『魔法少女イーリス・ブラック』へと変身した。

 

 黒地に金のラインが走るコスチューム、金の髪の少女。

 イーリス・ブラックの心臓が鼓動すると共に全身の血管を通し、七色の光が走る。

 

「はぁぁぁっ!」

 

 気合を入れながら、一気に『それ』に接近したブラック。

 狙い過たず両手で角を掴んだまま体当たり気味に窓を突き破り、外へ飛び出した。

 

「え、えぇぇあ!?」

 

 思いがけず2階から飛び出してしまい、思わずつんのめってその手を放してしまうブラック。

 そのままくるくる空中を回りながら地面に衝突した。

 

「いたた……いや、痛くない、んだ」

 

 ブラックの耐久力は大幅に強化されており、まったく痛みはなかった。

 ブラックは跳ねるように起き上がる。

 唸り声をあげながら体をくねらせて逃げようとする『それ』を見ながら、駆け出す。

 

「逃がす……かぁ!」

 

 アスファルトを粉砕する程の振動を響かせながら、ブラックが跳ねる。

 加減したとて、魔力で強化されたその脚力は隼のようにブラックを急加速させた。

 

 ───ギギキキキッ!?

 

 弾丸のように飛び込んだブラックの手が『それ』の牙を掴んだかと思うと、勢い余ってへし折る。

 青い粘液を滴らせながら転がる『それ』に顔を顰めながら、ブラックは今度はヤクザキックでボールのように跳ね飛ばした。

 

(なるべく、人のいないところへ!)

 

 ちらりと視界の隅に映るカウントダウンを確認───残り233秒。

 それはブラックの残り魔力から計算された彼女の残り時間死の宣告

 長いようで短いその時間の中で、ブラックは考える。

 

(なるべく、すぐ倒さないと!)

 

 ボールのように空へ跳ね上げた『それ』を睨みながら焦るブラックに、サポートAIが喋る。

 

<<アロー・フォームを推奨>>

 

 言葉と共に、ブラックの脳内にイメージが投影される。

 それは彼女の知識では『ボウガン』と呼ばれる形状の武器に該当した。

 

トニトルス……アロー・フォーム!

 

 ブラックの上着に記された金に刺繍が反応し、するすると両掌に移動する。

 それはぐにゃりと形を変え、黒い『ボウガン』のような姿へと変化。

 自動的に光が集まり弦となり、矢の部分には黒く細長いダートが収束した。

 

「当たってッ!」

 

 狙いをつけるや否や引き金を引いたブラック。

 七色の光の尾を引きながら、音を置き去りにした黒矢が飛翔する。

 ドン、という反動により思わずブラックは弓を跳ね上げてしまった。

 

「……きゃ!?」

 

 同時に発生したソニックブームによりぱん、という空気振動が発生してビリビリと住宅街の窓が揺れる。

 発射された瞬間に『それ』は異常を察知して空中で何かを噴射して黒矢を避ける。

 そのまま虹色の光により加速された黒矢はその先の雲に直撃し、急激な気圧変動を発生させ雲を吹き飛ばし、第一宇宙脱出速度を超えて宇宙へ消える。

 

「……ちょっと怖い、これ」

 

 予想外の威力に思わず汗をたらすブラック。

 空に消えたからよかったものの、地上へ向けて発射したら結構やばいことになりそうだ。

 しかも一発撃つだけで変身残り時間が30秒も吹っ飛んでしまった。

 

(もっとその……安全そうなので)

 

<<ソード・フォームを推奨>>

 

……トニトルス・ソード・フォーム!

 

 黒いボウガンが金帯の光になり、細長く伸びて『剣』の姿を取る。

 刃渡りは約60センチ程。

 黒いまっすぐな直剣であり、刀身には虹色の文様が描かれていた。

 

「それっ!」

 

 ブラックは剣を両手を持つと、落ちてくる『それ』目がけて走り大上段から振り下ろす。

 がつん、と地面を割り2m以上の亀裂をアスファルトに作る。

 『それ』はまたしても空中で何かを噴射し剣の軌道から間一髪逸れていた。

 

 ちなみにもちろんブラックには剣道や剣術の嗜みはない。

 今はただ有り余るパワーにより、実に10kg近い異常な重さの剣を羽か紙かのように振り回していた。

 

「あた、れ!」

 

 ───ギキキキっ!

 

 大振りのスキを突いて『それ』が一瞬地面に沈み込んだと思うと、跳躍して残った牙をブラックへ向ける。

 動体視力まで魔力で強化されたブラックはそれに気づくが、身体が反応しなかった。

 だから、サポートAIが動く。

 

<<ダブル・ソード・フォーム展開>>

 

 ブラックの左手が勝手に動き、掌に収束した光がもう一振りの剣を形作る。

 刃渡りは40cm弱、短めの直剣である。

 『それ』が向ける牙の軌道に差し込まれた左手剣により、ブラックへの攻撃は外側へ逸らされる。

 

「でえぃっ!」

 

 そのまま左手を引き『それ』に向けて突き出した左手剣は、狙い過たず腹部を刺し貫いて青い血をまき散らす。

 返り血が顔にかかるのも構わず、そのまま地面へ左手剣で縫い止めたブラック。

 そのまま一度後方に距離を取り、両手で改めて剣を握り直す。

 

「決めます!

 トニトルス、エクティス、フル・チャージッ!

 

<<幻想改変枝プリズム・コンバーター接続、イーリス・リアクター最大出力マキシマム>>

 

 ブラックが持つ剣に光が収束し、黒い刀身にある文様が虹色に輝く。

 胸元にあるイーリス・リアクターが熱を持つ程に光を放ち唸りを上げ、ブラックの残り時間を急速に削る。

 十分に魔力充填されたところで、既にタイムアウト死亡まで───17秒。

 

 ブラックは意を決して剣を両手で支えるように腰だめに構え、そのまま体当たりをかます。

 縺れるようにぶつかり込んで、ブラックは『それ』の胸部をしっかりと刺し貫いた。

 

 ───ギキキキっ!?

 

 刺し貫いた瞬間、刀身の文様から充填された魔力が『それ』に迸る。

 幻想改変枝プリズム・コンバーターにより『存在確率』への干渉を引き起こし、この世に存在しながら『存在しない』という矛盾を『それ』に叩きつけた。

 『それ』は体中をまだら模様の存在の霧と化しながら、よろける様に手を伸ばす。

 

 ブラックはその姿を見る事無く剣を抜くと『それ』に背を向ける。

 そして剣を縦横に十字に切り、ソード・フォームを解除する。

 と同時に『それ』は遂に矛盾に耐え切れず爆散、七色の霧となって消え去ったのであった。

 

<<……3、2、1スリー ツー ワン、イーリス・リアクター強制冷却>>

 

 ふわっとブラックの纏ってたコスチュームが光の粒と化し、髪色も金から元の黒へと戻る。

 強制的に変身を解除され制服姿へと戻ったブラック───あかりは体の奥が急激に冷える感覚を味わって前のめりに倒れ込んだ。

 

 ───とん。

 

 そのまま地面まで倒れ込むかと思われたその身体は、何者かに優しく支えられた。

 それは豊かな胸元から覗く黒いインナーに、短いマントとフレアスカートの少女。

 赤い髪を翻して微笑むのは、何を隠そう魔法少女イスタスである。

 

「……お疲れさん。

 ───後は任せろ」

 

 イスタスにポンと頭に置かれた手には、どこか彼女の思い人の匂いを感じさせる。

 その不思議と安らぐ匂いの中、眠りの中で落ちていくのだった。

 

 

──────────────────────────

 

 

 ───で、その日の夜。

 

「うん、扱いにくい」

「そうポヨね」

 

 三上ユウと謎生物ポヨは諸々の後始末を終えて、夕飯を食べて居間で寛ろいでいた。

 ちなみに後始末はユウが全部何とかした。

 

 具体的には、まずあの負傷したあかりの友人三笠佳奈子を病院に叩き込んできた。

 あかりと同様の方法で治せないか試したのだが残念ながらあかりほどの素養は無く、断念。

 しかし不幸中の幸いか死にかけていたせいで三上ユウの『強化』能力が通り、血管を阻害して流血を抑え体温の保持は成功。

 仮死状態を保ったまま人工心臓を保有しているその手の権威の医者がいる病院に叩き込んだという具合。

 

 え、普通人工心臓なんかないって?あるんだな、これが。

 ユウはあかりの万が一を考えて、人工心臓の在庫と権威がいる病院を事前にピックアップしていたのだ。

 モノがあるなら後は『お話し』すればよい。

 『魔法少女イスタス』として強気の交渉を以て緊急手術を承諾させ、何とか一命は取り止めた。

 まあ、幾つか条件を提示されてしまったが……それはまたの機会に。

 

 んで、後はあかりを家に送り届けてから適度にイスタスの姿を現しながら『怪獣と戦ってました』アピール。

 あかりがぶち壊した家とか道路とか普通に考えたらヒェッとなる金額だろうが、これで天災カテゴリにされて保険とか補助とか下りないかなとワンチャン試してから帰宅したのだった。

 んで、今に至る。

 

「なんであかりの変身は時間制限なんかあるんだ?」

「うーん、色々あるポヨが……。

 まず、変身だけの1stフォームでしかないイスタスと違って、ブラックはちゃんと戦闘用の2ndフォームだポヨ。

 それだけ魔力消費が激しいポヨ」

「なるほど」

 

 イスタスにとって『涙虹石イーリス・リアクタ―』は単なるお着換えスイッチでしかない。

 しかしブラックはちゃんと魔力による身体能力・耐久力の強化が効いていたというのだ。

 

「それからあの強化具合はちょっとポヨの想像以上だポヨ。

 異常に出力も消費も高いのはおそらく、心臓に『涙虹石イーリス・リアクタ―』を埋め込んだことで血管から全身に魔力が循環してるせいかも知れないポヨ」

「それは大丈夫なのか?」

「分からないポヨ。

 魔力は基本的に生物には毒ポヨ。

 あかりの魔力親和性が高いおかげで、何とか生き永らえているとも言えるポヨ」

「あいつは、いつもそんな感じだな」

 

 あかりには何故かいつもぎりぎりの危うさ、の様なものが付き纏う。

 それはもう運命かも知れないと、ユウはため息をついた。

 

「ほんとはサポート要員が欲しかったんだが……まぁ、正面から戦える戦力もそれはそれでいい。

 でも実質5分戦闘した後は一晩眠って魔力チャージとか、ちょっと燃費悪すぎ。

 ……イスタスよりかっこいいとは思うが」

 

 例えるなら戦闘・支援色々できる歩兵ユニットを要求したら、使い切り高威力のミサイルが配備されてしまったようなものか。

 それはそれで使いようではあるが……極端なのだ。

 

「で、あいつの固有魔法とやらは何なんだ?」

「うーん……はっきり分からないポヨが恐らく『運命干渉』……だと思うポヨ」

「……なんか壮大だな」

 

 ユウは箸で焼き魚を口に運びながら、眉を顰める。

 ポヨの口から出てきたのは、なんとも概念的なものだった。

 

「サポートAIのログを見る限り、運命干渉系の幻想改変枝プリズム・コンバーターが生成されていたポヨ」

「それ、何ができるんだ?」

「大量の改変因子魔力を対象に流し込むことで、世界存在確率を操作して運命因果律に矛盾を起こし、対象をいなかったことにするポヨ」

「こえーな、おい」

 

 非〇リンコゲート空間追跡機かな?どれだけ発言力かかると思ってやがる。

 まともに食らえばイスタスですら消し飛ばされかねない。まあ、刺さらないけど。

 

「でもあの大きさの怪獣?を消し飛ばすだけで残り魔力の殆どを使ってしまったポヨ。

 100mクラスの怪獣を消し飛ばすには全然魔力が足りないポヨ。

 あったとしても身体が持たないと思うポヨが……」

「うーん……怪獣相手はやっぱりきついか」

 

 強力なのは強力ではあるが、ピンポイントで使うしかない。

 怪獣の頭や心臓、コア? があるタイプであればそこに叩き込むのもありだが、ドバイに現れた樹木みたいなタイプだときついだろう。

 一発撃ったら魔力切れで終わりというのも、あまりよろしくない。

 彼女の回収係が必要だし、前回みたいに魔力切れでの変身解除からの正体バレという(社会的)即死コンボも発動する。

 

「大人しくあのボウガンで後方支援してもらうか……」

「あれも誤射したら、結構危ないポヨ。

 魔力で生成された弾体は重金属の十倍以上重いんだポヨ」

「……」

 

 タングステンより十倍以上重い金属矢を空の彼方まで飛ばしただと?

 ユウは自分の頭を撃ち抜かれ粉砕される姿を想像した。

 まあ、それぐらいじゃ『強化』は抜けないけど。

 

「……特訓がいるな」

 

 力はあれど運動音痴なあかりには、基礎訓練が必要だろう。

 また射撃支援もやって貰うならそれ相応の訓練も必要になる。

 せっかくのイスタスには無い有望な遠距離攻撃手段持ちだ。

 腐らすのは惜しい。

 

「ところでイスタスも2ndフォームになれば、あんな感じに何か武器使ったりできるのか?」

「イスタスは普通に殴ったりした方が強いポヨ」

「そいつは残念」

 

 ユウはさほど残念でもなさそうに言う。

 

「でもこうなると、いよいよ怪獣捜索系の何かテコ入れが欲しくなるな」

「1週間も行方不明なのは、確かにおかしいポヨね」

 

 世界は広いようで狭い。

 100mクラスの怪獣がいて騒ぎにならない方がおかしい。

 となると、可能性はいくつかに絞られることになる。

 

「巨体が見つからない場所で考えられるとすると、深海か南極や北極なんかの極地に居る。

 或いは宇宙空間に出てどっか飛んで行った……てのもあるかもな」

「だとしたら楽ポヨね」

「でも地球付近は結構観測されているからな。

 ちょっと調べたが怪しい天体が増えたとかは出てなかったから、可能性は低いだろ」

 

 宇宙のどこかに消えたのであればそれはそれで嬉しいのだが、『居る』と想定して備える方がいいだろう。

 

「流石に極地探索に行く気には、なれないな……行けなくはないが……。

 あ、そうか」

 

 そこまで考えて、ユウの脳裏にもう一つ考えが浮かぶ。

 

「ちなみにポヨ公、知ってたら聞きたいんだが……。

 ……『怪獣』に人間並みの知能持っているやつって、居ないよな?」

「何馬鹿な事言ってるポヨ」

 

 ポヨは何でもないことのように笑う。

 ユウは安心して湯呑からお茶を呷る。

 

「居るに決まってるポヨ」

 

 ユウはお茶を噴き出した。

 

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