能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣 作:ハピ粉200%
───四国行き当日。
いつもの廃神社には三人と一匹が集まっている。
言わずと知れた『魔法特捜部(仮)』の『魔法少女』と見習いとその他一匹である。
今日は土曜の朝、四国に居座る『怪獣』の敵情視察がてら温泉行の日。
イスタスはもちろんいつもの変身状態だが、他二人は私服で来ていた。
二人の私服は少し山歩きモードを意識した気風になっている。
七井土あかりは動きやすいトレッキングシューズにパンツルック、上着はブラウスにカーディガンに薄手のコート。
後輩魔女っ娘である雪下琴音はデニムの短パンにこげ茶色のジャケットとなんか若干場違いな感じであった。
山歩きするからそれなりの恰好でねー、と言ってこの差はなんだとイスタスは内心首を傾げる。
んで、目の前にある謎の物体に対し、あかりは指差してイスタスに尋ねた。
「あのー……これは何でしょうか」
「見て分からない?
───ゴンドラ、よ」
ゴンドラ。つまりはでかい篭である。
篭と言っても木や竹でできているようなものではなく、金属フレームで囲まれた強度の高そうなものである。
ちなみにこれは昔、日曜大工で作成した三上ユウお手製である。
今回家の倉庫から引っ張り出されてきた。
青く塗装されたそのゴンドラには、ワイヤーフレームで小さなかがり火を焚く場所がある。
フレームからはワイヤーが繋がっており、米袋が入るかなぐらいの大きさの布袋が付いていた。
「ゴンドラ……の先にあるこの袋は?」
「『熱気球』だよ。
四国まで空の旅、しよっか」
ばつんと胸を張るイスタスに対し、あかりと流石の琴音も目を丸くして顔を見合わせた。
「電車とか、車とかじゃないんスか?」
「電車だと今、淡路島までしか行けないし。
車もまあ、運転できなくないけど免許なんてもちろん持ってないし」
「あ、そうスか……」
琴音はどうやらイスタスの中の人が運転するものだと思っていたらしい。
二人が固まっている横で、イスタスはいそいそとリュックに詰めた荷物をゴンドラに繋いでいる。
「二人とも、狭いからゴンドラ自体に乗せる荷物は一個だけ。
後の荷物は吊り下げるから、落とさないようそこのハーネスに固定してね」
「はぁ……本気スか」
呆れたように見つめる後輩に、そういえば自分の力はちゃんと見せてなかったなと気付いた。
まあ、困ったら自分の『固有魔法』だと言い張ればいいだろう。
「琴音ちゃんはこの熱気球の袋とゴンドラに見えなくなる結界をお願い」
「まあ、いいっスけど……。この大きさなら問題ないか。
あんまりびゅんびゅん動くようだと結界の効果が切れるんスけど?」
「空の上だと相対的な比較対象が無いから、亀の歩みと変わらないわよ。
確か観測側から見て、近くを走る車程度の速度じゃなければ大丈夫なのよね?」
「なるほど……じゃあ、大丈夫っスね」
ゴンドラ自体はそう大きくない。
琴音の結界は、イスタスが訊く限り十分機能する大きさだった。
彼女の使う結界は、人間・機械問わず観測側の認識を狂わすという呪いみたいなチート結界術である。
激しく動きさえしなければ、違和感にも気づかれずに済む。
流石に車などは不可能であるが、遥か上空を飛べば逆に見つからないという魂胆であった。
「あ、でも肉眼とかカメラは大丈夫なんスけど、レーダー?とかは無理っスよ」
「なんでよ電波も可視光も同じ電磁波でしょ」
「結界的には『目』に働きかけるものなんス。
カメラは『目』っていうカテゴリーにギリギリ入るんスけど、レーダーは『目』じゃないんで」
なんともアバウトな判定である。
イスタスは思わず『強化』能力と実はコレ根っこは同じなんじゃ?と訝しんだ。
「その線引きは誰が決めてる訳?」
「あたしっス」
「じゃあレーダーも入れてよ」
「無理っス。
あたしが心の底からレーダーを『目』だって思いこまないと」
「……あ、そう」
何故か控えめな胸を張る琴音。
イスタスはやっぱりコレ『能力』とかと同じ枠じゃ?と訝しんだ(2回目)
「分かった。
1次レーダー避けに多少高度アップダウンして対応するわ」
「1次レーダーってなんスか?」
「説明するの面倒だから後で調べて」
しっしと説明を求める後輩を追い払って、イスタスは準備を進める。
ゴンドラ───熱気球に搭載されている篝火の燃料、浮力を持つ袋をチェック。
そして推進用の小型手持ち扇風機をゴンドラのへりに括り付ける。
全てイスタスの『強化』能力範囲内である半径2m以内に入っていることを確認。
ちなみになんで熱気球を選択したかというと色々あるが、一番は『強化』が楽なのである。
姿勢制御だとか重心に推力を合わせるとか余計な作業が無く、浮力と扇風機の推力を『強化』して気圧調整さえすれば普通に飛べるのだ。
前回アメリカ・ドバイ行きでは時間が掛かるために、取れなかった手段である。
「二人とも、ゴンドラは私の魔法で気圧変化から守るから、私から2m以上離れないようにね」
「あたしそれまったく聞いたことない魔法なんスけど……」
「世の中は広いのよ。
さぁ、それなりに時間かかるんだから、早速出発しましょう」
首を傾げる後輩を引っ張り、イスタス一行はゴンドラへ乗り込むのであった。
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───熱気球による空の旅。
いっそあっけない程、順調であった。
イスタスが固定したミニ扇風機から出るびいいん、という音以外は意外に揺れもない。
イスタスの『気圧強化』である半径2m以内に2人とゴンドラをすっぽり納めているので、寒さもあまりないのだ。
ただ風情が無いので、気圧調整を控えめにして若干風を感じる程度に調整していた。
「すごーい!」
などと最初はきゃいきゃいはしゃいでいたあかりと琴音であるが、1時間もすると見飽きたのかスマホを弄っていた。
幸いにも高所恐怖症は居ないらしい。
イスタスとしては観光バスの添乗員になったつもりで、観光スポットの案内なんぞしながら熱気球を操縦する。
ポヨ公?
荷物と一緒にゴンドラの下に吊るしている。ちなみに激寒い(高度1000~6000m)。
「寒くない~?」
「はいー」
「大丈夫っス」
二人は『強化』範囲内なので問題なし。
ゴンドラは心もち程度、都心部を避けるために山林部へ迂回してから気流に乗って約700kmの旅。
途中レーダー避けの為に山間部で高度を落として谷を抜けたり、富士山をフライバイしながら飛ぶ。
ルートもお馴染みGPSを使えば、迷うことなし。
お腹が減れば名古屋でこっそり降りてお昼兼トイレ休憩をして味噌カツと手羽先を堪能。
その後琵琶湖を見ながら進んで大阪あたりで休憩し、あつあつのたこ焼きを食べながら更に西進。
神戸・淡路島は少し注意しながらレーダー警戒で高度・速度を落として進むこと計7時間弱。
一行は少し疲れを感じながらも、四国は高知県の真ん中あたりへと到達していた。
するすると山中へと降りた熱気球はすぐに畳まれ、持ってきた偽装ネットで隠される。
琴音の結界を張ってもいいのだが、ある程度彼女自身から離れると効果が落ちるそうなので、今回は物理的手段だ。
んで、一行はようやく目的地である温泉宿『木の光温泉』に到着していた。
施設は風情はあるが、新しめの建物である。
隣にはレストランとEV用の充電設備まで備えているようだ。
ただ、今は人の気配はない。
「やっぱり、避難用として空いてるね。使わせて貰いましょう」
「結界張るついでにお金置いとくっスよ」
「お願い」
宿は一時的な避難所に指定されていたらしく、鍵は開いていた。
一時的な避難ということで、受付下に宿泊代だけ置いて一行は宿へお邪魔する。
「あぁぁ~……畳の上は落ち着きますねー……」
「ほんとっスね~……」
あかりと琴音は空の上から地面に降りた反動で、ぐでっと畳の上に寝転がる。
ちなみにポヨ公は寒さで行動不能になったので、布団の中に放置。
「少しゆっくりしたら温泉行きましょうか。
あ、湯着あるからちゃんと着てね」
「はーい」
湯着とは温泉入るときに着る用のゆったりしたローブみたいなものである。
流石のイスタスも基本は男の精神、少女たちの裸を拝めば動揺はある。
(でも、今の精神状態って結構変身の影響が大きいみたいだな)
女の身体になっているイスタスは、女の身体を見ても少々動揺はするがすぐに平静に戻ってしまうらしい。
女の身体に精神が引っ張られているのかもしれない。
変身直後はそうでもないだろうが、既に変身にも慣れ今日は朝から7時間も変身しているのだ。
時間経過でだんだん身体に精神が馴染んでいると考えると、少しだけ恐ろしくなる。
(精神って、当たり前だが身体に依存してるんだな……。
そのうちどっちか本当か分からなくならないか?)
三上ユウ、アイデンティティ喪失の危機である。
しかしそんな思考も「まあいっか」の精神で無視をする。
どうにもならない事に関してイスタスは寛容なのだ。生死に関わらなければ。
───そんなこんなで、温泉に移動した一行。
出払う前に元栓は閉めたのか内風呂は使えなかったが、かけ流しの露天風呂はそのまま使用できた。
ちゃぷちゃぷと温度を確かめてから、イスタス達『魔法少女』御一行は風呂へ入る。
イスタスも男の精神を持つ者として動揺はあれど、今は女と言い聞かせて女湯に入る。
ちなみに変身状態で服脱げるのか?はポヨ公からやり方を教わった。
どうやら出力を最低限まで落とす事でコスチュームが脱げるそうな。あれそれって……の先は考えるな。
んで、豪快に一瞬で脱いだイスタスは湯着をいそいそと着て一番に風呂に出る。
二人の着替えを見てしまえば、動揺するのは間違いないとの紳士的配慮である。
露天温泉は源泉かけ流しの岩づくり、男湯とは竹壁で仕切られていた。
イスタスに遅れてがらがらやってくる二人。
ちなみにあかりは湯着を着てもクソ恥ずかしがって離れた場所に入った。
湯殿には、イスタスと琴音のみとなる。
あ、みんなのスタイルの話する?
大、中、小。
イスタス、あかり、琴音、の順で大、中、小である。
ちょろちょろと掛け湯が流れる音と、さわさわと木々が擦れる音。
そして遠景に聳える『巨木』が見える絶好のロケーションであった。
「あれは……楠っぽい?
まるで『巨木伝説』っス」
「何それ?」
手拭いを頭に乗っけた琴音が巨大な木を見ながら言う。
イスタスも遠目に巨木を見やりながら手足を湯に広げてリラックスしながら訊いた。
「世界中に今では信じられないような『巨木』があったって、伝説があるんスよ。
あれっス。ユグドラシルとか、オーストラリアにある巨大な根っこの跡とか。
日本の旧名『扶桑』だって中国のなんたら、って書物に出てくる東にある巨大な木のことなんス」
「へぇ……」
以外に博識な琴音に、イスタスは掛け値なしの感嘆の声が漏れる。
ギャルっぽく陽キャかと思えば歴女っぽい知識も持ってるとか、こやつ大分モテルのでは?とも邪推した。
「意外ね。琴音ちゃんがそんな事を知ってるとは」
「こう見えても、あたしは真面目なんスよ?」
「そう……」
ばしゃばしゃと足をばたつかせながら、微笑む琴音を見ながらイスタスは思案する。
そろそろ……ここに来たもう一つの目的を実施するべきかな、と。
「琴音ちゃん……一つ訊いていいかな?」
「何スか?」
「端的に訊くけど……私たちに近づいて来た目的は、何?」
「……」
この3日間で、イスタスひいては三上ユウとしては琴音を大分信用しかけている。
能力的にも隠蔽・捜索とできる有能であるし、魔法的な助言も貰える。
しかし、今まで『魔法少女』に加わりたいとは聞いたが彼女の目的を訊いたことは無かった。
イスタス的にはその胸の内を訊くまでは、『涙虹石』を渡す決心はできない。
そのため、イスタスは腹を割って話す場として今回の温泉行を決めていた。
正直『怪獣』の情報収集はおまけである。
「……そうっスね。そろそろ話しておきますか」
観念したようにはあっと息を吐き出す琴音は、手ぬぐいの中からペンデュラムを取り出した。
「あたしの家系……魔法使いの家系ってことは言ったっスよね?」
「ええ」
「魔法使いって世界の魔力減少に伴ってもう60年以上前にほぼいなくなったっス。
あたしのおばあちゃんが、最後の魔法使いって呼ばれてたみたいで」
「……」
憂うようにじっとペンデュラムを見つめる琴音に、イスタスは言葉を挟めなかった。
「あたしのお母さんはおばあちゃんの血は継いでるんすけど……才能なかったっス」
そう語る琴音の瞳は、悲しみとも諦めとも取れる複雑な色を湛えている。
「おじいちゃん、魔力素質の無い人間だったっス。そもそも男で素質がある人間がかなり少ないそうで……。
魔力素質がある人間と無い人間の子供で魔法の才能が引き継がれるのがだいたい1/4の確率。
だからお母さんが素質が無いのも、ある意味当然のことで」
琴音はくるくるとペンデュラムのチェーンに指をかけて回しながら言う。
「でも、うちも終わりかと諦めてたとこで、何の間違いかあたしが生まれてしまったっス」
「……それは、喜ばれたんじゃないの?」
「はい。おばあちゃんは大喜びでした。
喜んで色んな魔法・魔術・術式を教えてくれたっスよ」
にっこりと笑う琴音はしかし、その目の奥で微笑んでいない。
それが彼女にとって良かった出来事とは、イスタスはどうしても感じられなかった。
「でも、魔法が持て囃された時代はもう終わってたんス。
お母さんもお父さんも……おばあちゃん以外あたしにはもう振り向いてくれなくなりました。
魔法使い仲間なんてのも……いない。
おばあちゃんが死んだ後、あたしは『最後の魔法使い』の名も引き継ぐ事になったっス」
「……」
不幸自慢と言ってしまえばその通りだが、少しはイスタスにも共感する話であった。
イスタス───三上ユウこそ真の孤独である。
かつて小中時代に世界中を廻って『能力者』を探したのも、真に自分が孤独でないと確かめたいが為であった。
まあ、三上ユウ自身はそんな思春期を過ごして既に吹っ切れている。
いずれ現れるかもしれない『脅威』に備えるために、感傷は振り切って自身の力の研鑚に注いだとも言えるが。
「このペンデュラム……失せもの探しとか人探しに使ってるっスけど、本来の使い方って何だかわかるっスか?」
「いえ……何なの?」
「魔力素質を持った相性の良い異性を探す道具っス。
魔法使いの血を残すために、代々残されたものだそうで。
おばあちゃんから受け継いだっス」
「……」
イスタスは無言であった。
何となく空を見やり、巨木があっても変わらずにすいすい空を飛んでいる鴈を眺めた。
「あたし、家族を───子供を作る時はあたしみたいな不幸にはしたくない。
だから相手を決めるときは、必ず素質のある男にする。そう、決めてたっス。
……ねぇ、スタ先輩?」
「……」
イスタスは無言である。
琴音の持つペンデュラムはいつの間にか、イスタスを指し示していた。
……最初に出会ったときと、同じように。
「運命のペンデュラムは、スタ先輩を指し示したっス。
───スタ先輩、一回変身解いて貰って欲しいっスけど?」
ほぼ確信に至る正解を指し示す琴音。
イスタスは外面をポーカーフェィスで取り繕いながら、内心だらだらと冷や汗を流していた。
(まずい……何がまずいってこの状況がまずい!)
変身後の感覚に流されるまま、堂々と女湯に入って後輩女子高生と一緒の露天風呂に入っているこの状況。
百歩譲ってこれが普段の神社とかなら、あかりが居なければ正体を晒してもいいかも知れない。
でも今変身を解いて男に戻れば……それは単なる変態である。
女と偽っているのが更に悪い。いや今は正真正銘女の身体だが。
(……どうしよう。変身に慣れ過ぎた罰、なのか?)
さわさわと流れる静かな環境音が響く中、イスタス───三上ユウの沽券が大ピンチだった。