能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣   作:ハピ粉200%

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つづき


第六話 新たなる魔法少女、二人のパートナー

 

 さわさわと響く穏やかな森と温泉の環境音の中、イスタス───三上ユウは焦っていた。

 後輩魔女っ娘である雪下琴音ゆきしたことねに近づいてきた腹の内を訊こうとしたら、自分の正体が男であると疑われ変身解除を求められたからだ。

 

(焦るな……考えろ)

 

 ぐるぐると廻る思考の中、イスタスは答えを求めて過去の琴音の姿を回送する。

 彼女の言い分では()()()()()()()()()()()()()()()を見つける道具として『ペンデュラム』が向くらしい。

 

(それは本当にそうか?ならなぜ、今ここで会いに来た?)

 

 彼女の話が本当に素質だけ見ているのであれば、もっと早く三上ユウに会いに来てもおかしくはない。

 ならなぜ今来たのか?

 それは三上ユウが『変身』してからではないのか。

 

「……一つ、聞きたいんだけど」

「何っスか?」

「仮に私がその相手だとして、琴音ちゃんはどうするつもり?」

 

 恐る恐る訊くイスタスに、琴音は笑顔で答えた。

 

「そりゃあ、決まってるっス。

 何としても、あたしに惚れてもらうっスよ。

 うちに伝わる惚れ薬だってあるっス」

「過激ね……」

 

 とんだ肉食系である。

 バクバクと鳴る心臓を抑え、イスタスは首から下げた『涙虹石イーリス・リアクター』を手に取った。

 いよいよ正体が……と琴音が期待した瞳を向ける。

 その視線の中、イスタスはなぜか『涙虹石イーリス・リアクター』を持った右手をぐっと横に伸ばす。

 

「……あれ?」

 

 琴音が違和感に気付く。

 手に持ったペンデュラムが動いている。

 その指し示す先は、イスタスではなく───イスタスが右手に伸ばした先を向いていた。

 更にイスタスは左手に『涙虹石イーリス・リアクター』に持ち直して左手を伸ばすと───その先へぐぐぐっとペンデュラムが動く。

 

(やはりそういうことか)

 

 イスタスは確信した。

 彼女は魔力素質が云々言っていたが、やはりこれに反応するのは魔力ではないだろうか。

 そうでなければ、イスタスへ変身前の時点で見つかっていた筈である。

 

「……それ、本当に資質を探してる?」

「そう、聞いてるんスけど……あれ?ちょっと自信無くなってきたっす……。

 で、でもスタ先輩だけ正体隠してるのはずるいっスよ!」

 

 琴音の勢いが少し萎む。

 ここだ、とイスタスは勢い込んだ。

 ここで言い包めなければ後は無い。

 

「私の正体を知りたくなるのはわかるし、私があなたたちを知っていてあなた達が知らない状態が不公平に感じるのもわかる。

 でも、私の正体を共有して政府なり『怪獣』なりに漏れた場合、私はともかくあなた達も危ないのよ?」

 

 ぶーぶーと不満そうに琴音が不平を漏らすも、イスタスは妙に真剣な顔を作って言う。

 

「いわゆるNeed to Knowの原則。

 勿論相手次第だけど、これに従っておけばあなた達が狙われるリスクだって下げられる」

「でもずっと秘密にするつもりっすか?」

「当然、いつまでも秘密にする気はないわ。

 そう……残り4体の『怪獣』を倒したら、教えてあげる」

「うー……絶対っスよ?」

 

 タイムリミットを設定したことで、琴音は引いた。

 これが単なる時間稼ぎであることに変わりはない。

 しかし貴重な時間を稼ぎ出したことで一旦、イスタスは満足することにした。

 

(……でも、その時どう言い訳するんだ?)

 

 実際に正体をばらす際の言い訳───という難題に、イスタスは頭を悩ませながら温泉でぐつぐつと茹るのであった。

 

 

──────────────────────────

 

 

 ───飯。

 

 飯である。

 現在の所高校生であるイスタスこと三上ユウ、及びその他一行。

 彼らはひと時、その立場に大いに甘んずることをよしとして、感情の赴くままに生きることを旨とする。

 つまり何が言いたいかというと、皆食欲に忠実に生きていると言うことですよ。

 

 どん、と湯がいたうどんを持ち込んだざるを持ち込んだ三人はめんつゆにつけて豪快にずるずると飲み込んだ。

 四国だからうどんだろとイスタスが持ち込んだ讃岐うどんを湯がいただけの時短飯。

 薬味は持ち込んだチューブのしょうがとわさびとネギだけであるが、これが大分食が進む。

 

「……ずるずる」

 

 ひたすら無言で食が進む。

 普段なら琴音あたりがもう少し話題でも振っただろうが、風呂での一件が尾を引いているのか大人しかった。

 

「なんか静かポヨね。宿には人もいないし、家の近くとはえらい違いポヨ」

「ええ……四国の戦力は軒並み封鎖に回してんのかもね。

 ……っていうか、それ以上言うな」

「理不尽ポヨ」

 

 静かさのあまりフラグを立てかけるポヨ公を黙らせるイスタス。

 危うく宿を出たところで射殺されかねない所であった。イスタスは銃撃程度では止まらんが。

 

「それで、これからはどうするんですイスタスさん?」

「そうね。

 今日はこのままここで一泊して、明日は町周辺で消えた人たちがいないか調査。

 その後、あの巨木周辺を『怪獣』調査かな」

「ネットで見ても姿を消してるらしいですね、あの『怪獣』」

 

 しばらくネット上の情報では、『怪獣』ことルクス君は姿を消している。

 これだけの監視体制の中、100mクラスの怪獣が見つからないとなれば選択肢は少ない。

 

「姿もカメレオンっぽいし、たぶん擬態してるんでしょう」

「そこで琴音の魔法で捜索よ」

 

 びっしと琴音に親指を立てるイスタスに対し、琴音は少しだけ目線を下げた。

 おやっと、イスタスは意外な顔で琴音を見る。

 

「んー……ごめんなさい今、魔法の精度下がってるっス。

 あたしが魔法を信じ切れてない、せいで」

「ふーん……」

 

 風呂場での一件だろうか、とイスタスは想像する。

 魔法がどういう理屈で動いているのか、イスタスには皆目見当が付かない。

 ただ彼女のモチベーションがそのまま精度の現れるとなると、もう少し頑張ってもらうしかない。

 そう考えたイスタスは一気にうどんを吸い込んで、茶碗を置いて気合を入れた。

 

「じゃあ、先に戦闘になった際のフォーメーションだけ確認しとくわ。

 もし戦闘になった場合、私が先頭で『怪獣』を引き付けるから、二人は隠れる」

 

 イスタスは右手に1本、左手に指を2本立てた。

 1本───つまり自分をぐぐっと前に出し、2本を机の端にとんとんと、指す。

 

「で、あかりは変身してボウガンの準備、狙いは琴音が魔法で誘導。

 最大7発以内に仕留めるのが理想ね」

 

 ただでさえ5分の時間制限がある中、一発撃つ度に30秒消費する。

 発射準備と照準に10秒ぐらい掛かるととして、実用は7発ぐらいが限度だろう。

 

「イスタスさんなら、すぐに倒せるんじゃ?」

「残念ながら私は捜索系はさっぱり。

 擬態して隠れられたら、見つけられないわ。

 手段を選ばなければ、そこら中(特異点で)吹っ飛ばすけど……」

 

 四国が死国と化す覚悟があれば、『ルクス』討伐は早々に可能である。

 でも3万人の殺戮者にして四国の自然も根こそぎ破壊するB〇TAみたいな存在になる。

 諸共吹き飛ばすから討伐確認も難しくなるのがネックだ。

 

「他に私が使える遠距離攻撃手段って、もの投げるぐらいしかないし……。

 だから私は囮になって、二人で仕留めてもらうのがベストね」

 

 『強化』は強力故に、意外と融通が利かない能力だ。

 イスタスをユニットに例えると、火力と防御力がボスレベルに高い代わりに、射程1。

 移動力はあるが小回りが利かない重ユニットである。

 更に索敵ができないから、作戦に組み込むなら囮が最適だ。

 

「今回は二人のコンビネーションが攻略のカギになる。

 だから今日は、二人の親睦を深めるって事で、二人で一緒に寝泊まりしてもらいましょうか。

 人と人とが分かりあうには物理的距離が近い方がいいって、偉い博士も言ってたし」

 

 えー、と顔を見合わせる二人。

 今まで同じ部活の先輩後輩という繋がりはあれ、あまり接点のない二人であった。

 

「明日は早くから歩くから、今日は早めに寝ましょうね」

 

 うどんを平らげた一行は、備え付けたの布団を引っ張り出して雑魚寝。

 心なしかあかりと琴音の布団をくっ付けたイスタスではあるが、意外に寝相の悪いあかりが夜中飛び出していた。

 

 ───時間が飛んで、朝風呂。

 

 ()()()身体が冷えたあかりは、温泉に来て風呂に入らないのはもったいないとばかりに朝風呂に入っていた。

 

 風呂縁に顎を乗せて、何も考えずにただ景色を眺める。

 ぽかぽかと温まる身体は血行を促進し、様々な考えが巡る。

 しばらくそうしていると、がらがらと誰かが入ってきてびくっとあかりは身体を跳ねさせた。

 

「あ、ナナ先輩も入ってたんスねー」

「あ……うん」

 

 入ってきたのは、後輩であった。

 一瞬恥ずかしさで身体か固まるが、ここで出ていくのは感じが悪すぎるかと観念した。

 

 ちゃぷちゃぷとかけ湯してから入ってくる後輩の身体をちらちらとあかりは眺める。

 意外と肉がついている。

 もちろん贅肉ではなく、筋肉の方。

 運動部ではないはずだが、きゅっとしまっている身体と自分のやや緩いお腹周りを比べて少し落ち込んでいた。

 

「ナナ先輩は……その、どうして付いてきてるっスか?

 半分、強制みたいなモンなのにっス」

「そ……」

 

 それは勿論……と答えようとして、あかりは言葉に詰まった。

 彼女自身なんで戦っているかなんて、分かっていない。

 流されて来ているのは間違いないが、それでも「もうあんな光景は見たくない」とは思っているのだ。

 

「……恩返し、かな」

「恩返し?」

 

 あかりは自分の気持ちを言葉にすると、それに集約された。

 命を救われること、命を助けること。

 あかり自分が救われた場合も、親友を助けた時も。

 それはそこに誰かがいて、手を伸ばしていなければならないのだ。

 

「最初は流されてただけ……。

 でも、やっぱり声をあげないと、手を伸ばさないと助からない、から……」

「だから自分も、誰かに手を伸ばすって事っスか?」

「うん……。変かな?」

「変じゃないっス。でも変わったっスね」

 

 かつて琴音が知る彼女であれば、誰かに手を伸ばしたりはしなかったであろう。

 ただ自分で貯めこんで、爆発するのを待つだけの爆弾のように見えていた。

 琴音は一度ぐにぐにと、手で持ったペンデュラムを握ってからあかりに訊く。

 

「やっぱり、あれっスか?

 彼氏さんが変えてくれたって感じ?」

「え、それは……うーん、そうなのかな……」

「じゃあスタ先輩?」

「それは……ある、かも知れない」

 

 あかりの中で三上ユウは、庇ってくれる優しい同級生の男の子。

 そしてイスタスは少し厳しいけれど、引っ張って叱咤してくれる先輩といった感じである。

 運動部的なノリは嫌いだったあかりではあるが、何だかんだ最後は何とかしてくれるイスタスを嫌いにはなれなかった。

 

「ふーん……そうっスか。

 ナナ先輩は、その……彼氏さん一筋って事でいいんスよね?」

「……?

 え、ええ、まあ、そうだけど」

 

 一瞬何を言っているのか分からず、あかりは首を傾げながら琴音に答えた。

 琴音は何やら恥ずかしそうに顔を桜色に染めながら、あかりをちらちらと見ていた。

 

「……じゃあ、スタ先輩の事はあたしが貰っても、いいっスよね?」

「……」

 

 あかりの時間は3秒間ぐらい飛んだ。

 ちょろちょろと流れる湯の音だけが、妙に頭に残る。

 

「え、ちょっと待って、すごく待って?」

 

 温泉で温まっている筈が、あかりの顔から血色が消えて青ざめた。

 あかりは思わず腰を上げて琴音から3m以上の距離を取る。

 

「あ、違うっス。『そう』じゃないっス!

 あたしが欲しいのはスタ先輩の『中の人』っスから!

 あの人たぶん男の人っスから!」

「……え?」

 

 琴音が『そっち系』の女性だと誤解したあかりは距離を放したままであったが、琴音の言葉に目を見開いた。

 

「……そう、なの?」

「そうっス。

 あたしの魔法で相性占いみたいなことできるんスけど、あの人が出てくるんス。

 今はちょっと調子悪いみたいっスけど……男の人以外は出ないんで、そこだけは間違いないと思うっス」

 

 琴音の相性占いは子孫繁栄に特化している分、ある意味精神的な相性を少し無視しても異性が出る。

 なぜ『涙虹石イーリス・リアクター』に向かっていたのか……は分からなかったが。

 しかし同じ『涙虹石イーリス・リアクター』を持つ七井土あかりへ向けて向かないということは、少なくともイスタスの方が男である可能性が高いと見ていた。

 

「よくある同じ男を巡って~とか、あたしは嫌っスからね。

 ここは仲良く、パートナーは決めといて応援しましょうってことで。

 今回はあたし達のコンビネーションが重要ってスタ先輩も言ってましたし?」

「それは……うん、そうね」

 

 イスタスが男……という事にまだ納得はできないが、パートナー分けにはあかりは異存ない。

 もし仮にこれで彼女が『三上ユウ』を狙ってまーす、などと言われたら彼女の脳は破壊されたかもしれないが。

 

「わかった。琴音ちゃん、イスタスさんとの事は応援するよ。

 これからもよろしくね?」

「了解っす。

 ナナ先輩も彼氏さんとの事は応援してるっす。

 あたしらのコンビネーションばっちしにして、スタ先輩にいいとこ見せましょう!」

 

 二人は笑顔でがしっと固い握手を交わした。

 同じ部活に居るが、あまり接点の無かった二人はここで初めてお互いを友として認め合ったのかもしれない。

 

 ちなみに同時刻、イスタスは大きなくしゃみを二回していた。

 

 

 

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