能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣   作:ハピ粉200%

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つづき


第八話 新たなる魔法少女、オフ凸コラボ配信(前編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法特捜部(仮) Ch. イスタス を待っています

 X月X日 xx:xx

#魔法特捜部(仮)

【四国から】オフコラボします!!!【魔法少女/イスタス】

4,282,391 人が待機しています・20XX/0X/XX に公開予定
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:配信ってマ?

:تكون لحظة تاريخية

:Nije me briga, molim te dođi u moju zemlju

:Sconfiggi tutti i mostri e i mostri

 

 配信待機画面には、各言語の様々な言葉が躍っていた。

 期待、不安、感謝・要望等ありとあらゆる話題がとっ散らかっている。

 世界の危機たる『怪獣』を打倒する現代の英雄にして未知の存在であれば、さもありなん。

 

 やがて待機画面が切り替わり、以前の動画で使われたクソみたいなOP放送。

 OPが終わり全員が横に並んだ絵が暗転すると、パッと長い赤髪の少女の姿が映る。

 

 背中とお腹が大きく開いたデザインの黒いインナー。

 上に短いマントを羽織った、フレアスカートの魔法少女。

 言わずと知れた魔法少女イスタス───三上ユウである。

 

「全世界60億くらい?の皆さん、こんこんにちにちー。

 怪獣蔓延るマッポーの世に舞い降りた魔法少女、イスタスですっ!」

 

 配信者ムーブしながら笑顔で挨拶するイスタスに、物凄い勢いでコメントが流れていく。

 ちらりと横目でポヨ公の操るPCを覗くイスタス。

 

:配信ってマ?

:やっぱ日本人じゃん

:我希望魔法少女们来到我们的国家。

:I would like you to speak in English if possible

 

「私たちは今日、日本の四国は高知県にお邪魔していますー。

 知ってます? 四国。

 うどんが美味しかったり、色んな人たちが安全都市宣言したりしてる日本列島の一部ですよー」

 

 イスタスが誰かを肖って『─欠』みたいなポーズを披露。

 カメラを持つポヨがぐっぐっ、とサインを出す手が右端に映った。

 

:Je ne sais pas où se trouve le Japon, mais j'adore les monstres, alors s'il vous plaît, ne faites rien d'inutile.

:四国安全都市宣言

:Eu costumava ser obcecado por Kamen Rider RX.

:我不在乎,但请不要从日本来这里

 

「んでんで、記念すべき私たちのチャンネル第一回のライブ放送。

 今日は四国に現れた『怪獣』さんと凸オフコラボしようと思いまーす!」

 

:치쿠와 다이묘진

:迷惑系ユーチューバーで草

:An assault delivery to a monster? that's good Please find out what they are invading for.

:Jag har inget akademiskt intresse. Även om det bara är en del av organisationen, snälla ta det.

 

「早速今日のオフコラボ相手である『ルクス』さんを呼んでみたいと思いまーす。

 あ、お相手さんの視点も出ると思うので、後で概要欄に追加しときまーす」

 

 ぐるりとカメラが横を向くと、そこには巨大なカメレオンの顔があった。

 音もなく匂いもなく風すらも揺れず、ただそこに最初から居たかのように『怪獣』は立っていた。

 

『人類の皆さんこんにちは。『ルクス』と申します』

 

 相変わらず巨大な眼球がぎょろぎょろと辺りを見回したまま、合成音声のような声が響く。

 イスタスはその巨大な音声に耳を押さえた。

 ちなみに鼓膜を『強化』しすぎると何も聞こえないので、今は地味に弱点だったりする。

 

「あ、間近で聞くと大きい声ですねー。

 ちょっと音量調整しますねー」

 

 声量に顔を顰めつつイスタスは、カチカチとマイクの音量を下げた。

 高級収音マイクはコンプレッサーで色々音を抑えられるのだ。

 

「あ、あ……これでいいかな。

 では改めまして、初めまして『ルクス』さん。

 魔法少女イスタスと申しますー」

『初めまして』

 

 何でもないように始めるイスタスと、何でもなく答える『ルクス』。

 二人はまるで打合せしていたかのように息ピッタリであったが、ぶっつけ本番である。

 

「今日は突然のオフに参加頂いてありがとうございます。

 あ、でもそちらもそのつもりでした、かな?」

『はい。私はイスタス、あなたをここに呼んでいました』

「なるほどー。

 では早速ですが、世界初、魔法少女と『怪獣』のオフコラボ放送を始めます!

 ……あ、椅子座りますねー」

 

 イスタスはどこからか取り出した椅子に腰を下ろし、優雅に足を組んで見せる。

 余裕を示すのは義務だとばかりにどっかり座るイスタスに、『怪獣』は特に何もリアクションを示さなかった。

 

「じゃあ、始めましょうか。

 最初ですし、まずお互いの知りたいことを交互に訊きあうっていうのは如何でしょうか?」

『構いませんよ』

 

 これから始まるのは、お互いの腹の内を読み正当性を主張し合うバトル。

 世界が見ている中、下手な嘘・偽りは使用できない。

 

(……さて、どうなることやら)

 

 余裕の表情とは裏腹に、イスタス───三上ユウの内面的には何時になく緊張している。

 放送自体初めてであるし、下手なことを言えば特定される。

 さらに言い方を誤れば人類からの反感を買ってしまうこともあるだろう。

 イスタスはちらりとカメラを持つポヨを見、ポヨが頷くのを見て今一度心を引き締めた。

 

(少なくとも、二人が場所を特定するまで会話を長引かせる必要がある)

 

 最終手段暴力を取る算段が整うまでは、まだ時間が必要なのであった。

 

 

──────────────────────────

 

 

 ───同時刻。

 

 街が見下ろせる丘の上に付いた七井戸なないどあかりことイーリス・ブラックと、後輩魔女っ娘である雪下琴音ゆきしたことね

 

 二人は双眼鏡で現れた巨大怪獣『ルクス』とその前で座るイスタス、イスタスを撮影するポヨを眺めていた。

 

「始まったっス」

「ええ……交渉が上手くいけば、いいんだけど」

「まだ言ってるっスか、ナナ先輩。

 どうせ戦いになるっスから、ちゃっちゃと準備するっスよ」

 

 てきぱきと寝そべれる場所にブルーシートを敷いた琴音は、カメラ用の三脚を立ててペンデュラムをひっかける。

 

「ナナ先輩は変身時間が短いっスからね。

 さっき言った通り、先に『指し示し』の呪いを掛けたペンデュラムをここに置いたっス。

 このペンデュラムの指す先に『怪獣』が居るっスから、そこを狙ってください」

「……分かった」

 

 琴音が三脚の先に引っかけたペンデュラムに魔力が灯ると、微かに光りながらぐぐっと街を向く。

 あかりは三脚の下にうつ伏せに寝るように伏せ、何時でも変身できるように待機した。

 

「よし、準備完了っス」

 

 琴音がポヨに向けスマホで合図を送る。

 琴音が開いた魔法少女チャンネルでは、画面端にポヨから『了解』の意を組んだぐっぐっ、というサインが見えた。

 

「……琴音ちゃん、これ、動いてない?」

「あれ、確かに……」

 

 ペンデュラムを眺めていたあかりが、ふっふっと動きを止めないペンデュラムに首を傾げる。

 視線の先ではイスタスと『怪獣』が向き合っている筈だが、視線先へは向かわず絶えず動いていた。

 それはすなわち、イスタスの目の前に居る怪獣は偽物の幻ということだ。

 

「やっぱり……スタ先輩の目の前の奴は映像っぽいっスね。

 ナナ先輩、動く的に当てられるっスか?見えないっスけど……」

「が、頑張る……」

 

 初回から難易度の高い狙撃を実施しないといけないあかりの額には、じっとりとした汗が滲んでいた。

 

 

──────────────────────────

 

 

 ───カメラはイスタスと『ルクス』の前へ戻り。

 

 椅子に座ったイスタスは笑顔を作りながら、『怪獣』へと話しかけた。

 

「じゃあ、先手はお譲りします。

 『ルクス』さん、イスタスに訊きたいことは何でしょうか?」

 

 余裕を示すように両手を広げたイスタスが『怪獣』に先手を譲る。

 

『では伺います。イスタスはなぜこの四国に来たのでしょうか。

 私を害する意図があるのでしょうか』

 

 どストレートな質問が、イスタスに飛び込んでくる。

 あんまりに真っすぐなもんだから、イスタスも思わず苦笑してしまった。

 

「私はここに温泉に入りに来たの。

 あなたをどうこうする気はない……って言って、信じる?」

『その解答は虚偽と判断します。

 あなたは、映像情報からここに私が居ることを事前に知っている。

 わざわざ私が存在し人類が疎開している地に『温泉に入る』為に来るとは、考えられません』

「別に嘘じゃないわ。ここの温泉に入って、仲間と親睦を深める目的で来たの。

 あなたに会うことは、ついでよ」

『……』

 

 いっそ傲岸な態度を崩さないイスタスに、『ルクス』も言葉を無くす。

 初手一発目かましとくか、みたいなムーブのイスタスに、コメント欄も加速した。

 

:موقفك أكبر مما كنت أعتقد وأنا أضحك

:Ей, мына сөйлемді аударып тұрған жалқау сенсің. Жақсы жұмыс. Осындай мәліметтерді оқығаныңыз үшін көп рахмет

:ほんとにござるか~?

:Más féidir leat labhairt mar seo, nach leor é a bheith in aontíos le daoine?

:誤魔化すんじゃねえ!

 

「質問が終わりでいいなら、次は私の番ね。

 『ルクス』さん、あなたのご趣味って何かしら?」

 

:cosa diavolo sta ascoltando? qualcuno per favore traduca

:お見合いじゃん

:Het is logisch om naar hobby's te vragen. Omdat hobby's universeel zijn

:他に聞くことあんだろ

 

趣味・・の概念は人類が持つ余暇行動と認識しています。

 私に余暇行動は必要ありません』

「それは違うわ。あなた生命体で知性があるんでしょ?

 じゃあ生存に必要な行動……食事でも睡眠でも生殖でもいいけど、必ず優先順位が付くはずよ」

『肯定します』

「だったら、その優先順位は?何を基準にして決めてるわけ?

 栄養価、時間、危険度……あるいは美醜でも。

 色んな基準を見て総合的に付けてるわけでしょ。

 それがたとえ無意識だったとしても───時にはそれを『趣味』って言うのよ」

『……』

 

 『ルクス』は暫く黙ったまま、ぎょろぎょろと目玉を動かす。

 そして何かが定まったのか、何か右前足を掻くような動作をしてイスタスに告げた。

 

『イスタスの言う『趣味』概念をアップデートしました。

 人類共通概念とはズレがありますが、この場での定義として認識しました』

 

 そして、『ルクス』は大きな口をパクパクさせながら言う。

 

『その上で回答します。

 私の趣味・・は映像情報の収集になります。

 私の行動優先順位で最も高い行動です』

「へぇー。

 案外あれ? 動画もアップしてたし、動画見ながらゴロゴロしてたりするのが好きなのかしら」

『ネットワーク上から閲覧可能な動画情報はほぼ全て捕食・・しています』

 

:couch potato. is my favorite word

:ニートで草

:চিকাৰী আচৰণ কি?

:Я хочу съесть удон больше, чем это

:Was und wie viel isst du genau? Wie sieht Ihre Tagesaktivität und Schlafzeit aus?

 

「なるほど、よく分かったわ。

 相互理解に一歩近づいたようで何より」

『私から次の質問です。

 イスタスに伺います───私の地球居住を認めて貰えるでしょうか』

 

 そして『ルクス』から次に飛び出した質問もまた、直截的なものだった。

 あからさまなイスタスご指名に、彼女は少し首を傾げながら答える。

 

「……それを、どうして私に訊く訳?」

『地球のネットワーク情報から確認する限り、この世界で私を害する事ができるのは、イスタスのみです。

 故に、イスタスに問う事が最適解と認識しました』

 

 イスタスは少し溜息を付きながら、肩を竦める。

 ここまで人類社会を理解しながら、それを自分に問うのか、という呆れも含まれている。

 

「まず、私に土地をどうこうする権限も権利もない、という前置きを入れておいて……。

 アドバイスで良いなら答えましょう」

『お願いします』

「人類が住んでる既存の土地ではどうしても角が立つから、行くなら北極か南極。

 或いは太平洋の真ん中とか……海の中がお勧めね」

 

 無難なところは人類国家の手の及ばない場所。

 公海上、深海、北極南極に居ればおいそれと手出しはできなくなる。

 でも今そこに居ないということは、無理なんだろうと思いながらイスタスは提案した。

 

『私は、その提案には従えません。

 なぜなら、そこでは私の生存に必要な要素が不足しています』

「要素って何?」

『私の意識を構成する為の、社会活動を営む映像情報の更新。

 及び私の肉体を構成する細胞を活性させるための、栄養です』

「……」

 

 イスタスはやっぱりなと思いながらも、今までの問答で『怪獣』に対する違和感を感じて眉を上げた。

 自分が想定していた反応とはちょっと違う。

 この街という舞台を用意したりエンタメを煽ってみたり。

 大分外連味に溢れる性格であると思っていたのだ。

 だが……。

 

(あれ、こいつもしかして……知性はあっても情緒がない……?)

 

「……あんたの意識って、アレ?

 もしかして人間の活動を『模倣』してたりするの?」

『私は周囲環境に存在する知性体の社会活動を映像情報として捕食し、擬態します。

 私の意識も、捕食した知性から現地生命体に最適化した形で構成されます。

 それが私の最優先行動───あなたの言う『趣味』です』

 

 その『怪獣』の言葉は、ある二つの事実を示している。

 『怪獣』自体が知性を持っている訳ではない。

 そして人間の知性をこれだけ持っているのであれば……。

 

「……さっきも聞いたけど、捕食ってのはあくまで情報を、って事よね?」

『情報と栄養は同時に摂取します。

 どちらか片方だけでは効率が悪い』

(まさか……)

 

 怪獣討伐の大義名分としては十分すぎるカードを手に入れる事はこれでできた。

 しかし───なぜ、自分から言い出したのかは、分からない。

 『それ』は想定していたが、思わずイスタスは気色ばんで訊いた。

 

「この街が今、人も建物も映像で作られている事は知っている。

 もしかしてあんた……この街一つまるまる、もう既に腹の中だったりする訳?」

『肯定します』

「……逃げ遅れた、3万人の人も?」

 

 イスタスがあたりを見回せば、映像として動いていた人々は集まり、一様にこちらを見ている。

 少し薄ら寒いものを感じながらも、イスタスは『ルクス』を見続けた。

 

『否定します。

 彼ら3万人の人間は自ら・・ここに残りました。

 彼らは望んで私の情報となったのです』

 

 映像になった人々の視線、あまりにも人間らしく様々感情の籠る視線が、イスタスを包んでいた。

 ぞっとするような、怖気がイスタスの背を駆け抜けたのだった。

 

 

 


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