能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣 作:ハピ粉200%
丘の上に陣取り、街を眺める七井戸あかりと雪下琴音。
二人の少女は、質疑応答を行うイスタスと『ルクス』をスマホで見、言葉を無くしていた。
(……どう、すればいいの)
ぎりっ、と口の端を噛むあかり。
彼ら三万人は既に『ルクス』の腹の中。
死人を貶めるのは許せない、という気持ちが強い。
ただ、『ルクス』は自ら望んでこうなったとも言う。
もし彼らが自ら望んだとなれば、それは周りがどうこう言うものでもないかも知れない。
迷う心に、あかりは自身で焦りが募る。
このまま迷ったままでは、狙撃はおろか『変身』すら覚束なくなってしまう。
「……ナナ先輩、大丈夫っす。
あれには、あたしが何とかします」
「琴音ちゃん……?」
震えるあかりの手をぽん、と握った琴音。
右手でチェーンに繋いだ『涙虹石』をくるくる回して見せながら、琴音は笑った。
「スタ先輩でも、ちょっとこの局面は厳しそうなんで。
ここは『魔法使い』として、ちょっと本気出すっスよ」
琴音は改めてペンデュラムに魔力を掛けなおし、あかりに言った。
「これで暫くは『指し示し』の呪いはもつっス。
あたしはちょっとスタ先輩を助けてくるんで、狙撃はナナ先輩にお任せするっス」
「え……どうにかできるの?」
目を見開くあかりに、琴音は親指を立てて応える。
「お任せっス。
あたしは元々ドルイド系の魔法使いなんで……魂を送る事も。
森が遠いし、数が多いのがきついっすけど……『涙虹石』で何とかするっス」
「……わかった。イスタスさんをお願い」
「了解っス!」
正直、琴音自身は勝算が低いと見ていた。
今の素の状態で送れる魂は良くて二人ぐらいが限度。
『涙虹石』で拡張しても、十数人で魔力が切れると見ていた。
でも、それでも……願えば、動けば叶う可能性はある。
言霊の力はそれが『できる』と言葉にすれば、『魔力』が動くと信じて。
「おばあちゃんが言っていたっス。
世界は自分を中心に回っている。そう思った方が楽しいって」
琴音は『涙虹石』を持つ手で天を指差しながら、あかりへ言うのだった。
──────────────────────────
一方、イスタスと『怪獣』の対峙する場面に戻る。
イスタスは怖気を振り切り『ルクス』へ問うた。
「……そう、まあ分かったわ。
でも、どうして彼らは自分からここに残ったの?」
『それは画一的な理由を持ちません。
ですが、総じて近似しているのは『死への恐怖』です』
「結局あんたに食べられているのに、『死への恐怖』っておかしくない?」
少し身体を震えさせながらも、腕を組んで顔を上げたイスタスが顔を持ち上げて問う。
『それは認識の違いです。
私は今まで多くの種族と出会い、似た理由で彼らを『捕食』して来ました。
彼らは『映像情報』として高度な情報存在となり、私の中で生き続けるとも解釈できるからです』
(……そういうことか。
とんだ墓石みたいな『怪獣』って訳ね……)
イスタスは頭をぽりぽり掻きながら、思案した。
『ルクス』の生態は大体わかった。
当初想定より、だいぶ動物的な存在なのだ。
だが、頭は悪くない。
恐らくイスタスが生放送を行うと見て、急遽方針転換したのだろう。
下手に隠すようなら、ここでイスタスが情報と化した街の実態を暴露して嘘つき怪獣と広めることもできた。
しかしあえて、自らの弱み……人類を捕食することを隠そうとせず、逆に『情報化』する等と理由をつけて、回避している。
「……もう一つ聞かせて。
3万人もいれば、当然望んでなくても家族に連れられたり無理やり来させられた人も居ると思うけど」
『肯定します』
そろそろ余裕の演技も剝がれてきて素に近いイスタスが、腕を組みながら睨むように『ルクス』を見る。
「あんたはその人たちに、どう思うわけ?」
『思うことはありません』
「……あんたは、人類をどう見ている訳?」
『社会的生命体であり、地球で一番発達した情報システムを持つ存在』
あくまで機械的。
或いは動物的な回答。
イスタスはそこに、感情を感じない。
まるで借り物かのような知性……人間を模倣するオウムを連想した。
「違う。あなたは人間に対し感情を持ってない。
自分のエサとしてしか、考えていない」
『あなたの解釈であれば、その通りです。
でもそれに何か、問題があるでしょうか。
人間が策定した食物連鎖のサイクルで考えれば、私が人間の上位者となります』
「……」
そう言い放つ『ルクス』に一片の感情の揺らぎはない。
何様だと憤るイスタスの前で、『ルクス』は続けた。
『少数の例外はあれ、ほとんどは自ら望んで私の栄養となりに来ました。
むしろ人間達が自ら食べる為に、動物達を苦しめ、家畜として殺すよりもよほど、上等ではないでしょうか』
イスタスは無言で目を閉じる。
そしてちらりと放送中のコメント欄を横目で見ると、想像通り白熱していた。
:It's a pity, but I can't let a wild beast out of its cage and let it run wild.
:まあ自業自得よ
:Das Informationsleben ist ein notwendiges Element, um die Singularität willkommen zu heißen.
:It's impossible. I broke up with my boyfriend. It's getting more and more divided, and it's becoming 8 bodies. It is said that there is no chance of winning. She is completely surrounded. Hey. can't win
:いやこんな生物いること自体脅威でしょ
:Рыцарь, сделанный из золотых железных слитков, не может отстать от работы в кожаных доспехах.
:〇せ
:Щоб досягти безсмертя, вбити його було б втратою для світу.
:এইটো ৰাখিবলৈ আপুনি নিশ্চয় নিঞ্জা হ'ব...এয়া লেতেৰা, নিঞ্জাৰ পৰা আশা কৰা ধৰণে
:勿体ない。死ぬ間際だったら、救いになる
:자신도 지금의 고통에서 벗어나 정보체로서 계속 살아 있다면, 조금 해보고 싶은 생각도 한다
はあ、と息を吐きながらイスタスはぼんやりとコメント欄が流れるのを見る。
そしてキッと『ルクス』を睨みつけた。
(残念だけど……俺は、こいつは認められない)
情報として生きている人間がいるとして、それが本当に『生きている』と言えるのかは、難しい問題だ。
でも、何よりイスタスは奴の態度が気に入らないかった。
「人間が他の動物よりも上に立つ理由は、我々が冷酷に他の動物を苦しめることができるからではなく、彼らを憐れむことができるから。
……と、昔の偉い人が言ったそうよ」
『……』
お釈迦様のありがたい言葉である。
さすがに偉人の言葉は『ルクス』すら引かせるものがあったのか、無言だった。
「あなたは人間に対し、特に感情を抱いていないそうね。
私たちは憐れむことで、『いただきます』を言えることで、初めて彼らの上に立っている。
それがないあなたは……人間の上に立つ資格は無い」
人類との愚かさ対決なら多分負ける。
でも、それでも、そこに一片の憐れみが感情があるのなら、それが救いになるとイスタスは信じていた。
『結論としては……この地球への居住は認めて貰えない、という事でしょうか』
「あんたが今の考えのままなら、少なくとも私は認めない。
積極的に害するつもりもないから、退去するなら見逃してあげるけど」
そんなことしないんだろうな、と半ば諦めつつもイスタスは『ルクス』へ訊いた。
『退去は不可能です。再び別世界に渡る機能を私は持ちません。
地球人類ほどに発達した社会的生命体をの居住する惑星を、この世界の宇宙から発見できる確率は限りなく低い。
私が生存するためには、地球人類を糧とする他ないでしょう』
不穏な空気を漂わせ始めた『ルクス』に、椅子から立ち上がったイスタス。
ざわざわと、イスタスを囲む幻の人たちが動く。
極力目を合わせないようにしながら、イスタスは『ルクス』に問う。
「じゃ、どうする? ここで私と戦う?」
『いえ、
「……え?」
瞬間、わっとイスタスに幻の人間たちが縋り付いた。
「止めてくれ! 『怪獣』を殺されると、わしらが死んでしまう!」
「お願い、やっとここで平和に暮らせるの。放っておいて!」
「おねえちゃん、死にたくない!」
パン屋風のエプロンを付けたおっちゃんが、子供を連れた主婦が、小学生ぐらいの女の子が。
懇願する表情でイスタスに縋り付き、泣き崩れていた。
彼らには、もちろん実体が無い。
縋り付くといっても、物理的な衝撃は皆無だ。
しかし、『魔法少女イスタス』へのダメージは大きかった。かなり。
(まずい……放送を切るか? いや、今切ってしまえば奴の思う壺か)
一瞬ちらりとポヨ公が切るか?との合図を見て考えるが、首を横に振る。
あからさまな『人質』を前に、諸共吹き飛ばすのはかなりイメージが悪い。
ここで奴を倒さなければ、被害は確実に広がる上に擬態して逃げられる。
しかし、ここで奴を倒せば『魔法少女』は人類を害するものと受け取られ、反感を買う。
八方塞がりの状況に、イスタスは唇を噛む。
イメージ悪化を覚悟で吹き飛ばすか……と臍を噛んだその時である。
───そこに救いの後輩は現れた。
太陽を背に、逆光で姿をカメラに映さないようにしながら。
空の上で防寒用に持ってきたマフラーをマスク代わりにはためかせ。
少女は三日月形の『涙虹石』を天に掲げた。
「───変、身」
天に輝く『涙虹石』から虹色の光が放たれる。
光の中で琴音のジャケットとハーフジーンズは虹色に分解され、光の粒となり溶け消える。
右手を天に掲げたままの琴音に七色の光が巻き付き、先輩二人と同じ黒いレオタードのようなインナーが形成。
手に巻き付いた光が紺の手袋となり、びょんと跳ねて身体をくるくると回りながらノースリーブの青い上着と変わった。
小さめのネクタイの上に、タイピンと一体化した『涙虹石』が斜めに刺さる。
更に紺のブーツと長めのマントが形成され、頭には小さめのとんがり帽子をちょんと被る。
最後に髪は少し伸びてくるりと二つに纏めたお下げとなった。
「使命と希望を力に変えて、今あたしは生まれ変わる」
セーラー服風魔法使いチックになったコスチュームを翻し、とんがり帽子のつばから下がるリングをちりんと鳴らす。
いつの間にか彼女の周りにはアスファルトを貫いて苔が生え、若木が異様な勢いでその幹を太らせ葉を茂らせる。
「───魔法少女、イーリス・ブルー」
青々と生い茂った樫の枝が琴音───イーリス・ブルーを包み込む。
その中を掻き分け、ばさりと現れた彼女のコスチュームには金地の葉脈模様が刺繍のように残っていた。
「受け継がれしこの力で───あたしは、今度こそ大切なものを守って見せるっス!」
ブルーが右手を天に翳し、見得を切ると共に彼女の胸元にある三日月型の『涙虹石』が光る。
<<イーリス・リアクター戦闘出力。魔力整流枝、領域展開>>
「この国の魔力よ。
私に力を貸してくれっス!」
ついに誕生した、三人目の魔法少女。イーリス・ブルー。
元から『魔法使い』として『魔力』の扱いに長けた彼女には、先輩二人を凌ぐ理解度で『涙虹石』を使うことができた。
「……豊穣の祝福!」
ブルーの上げた手に連動して、次々とアスファルトを貫いて樫が生える。
街中の映像を貫いて次々と生える樫が絡み合い、樹海のごとく埋め尽くしていく。
『ルクス』が展開している街の映像は、密林の中で絡み合うジャングルとなった。
「な……!」
思わずイスタスも仰け反ったが、彼女たちの場所だけ丸くくり抜かれたかのように木々が入らない。
目を見開くイスタスに、ブルーはウインク一つで応えた。
「さっすが『涙虹石』!
この空も大地の『魔力』も、全部あたしのものっスよ!」
その類稀なる魔法使いの才能により、ブルーは自らに発現した『固有魔法』を理解して使用した。
その名は魔力整流枝。
世界に満ちる『魔力』を整流し、自らの『魔力』として利用できる規格外魔法。
世界に『魔力』が満ちる限り、ブルーに魔力切れは存在しない。
「世界に満ちる『魔力』が少なくなってなければ、これだけで神にもなれたっスね。
まあ……今は、これで十分!」
「派手な魔法だけど……これ、目晦ましするだけ?」
「まっさか!
豊穣の祝福は『生き物』を満ち足りさせる祈り。
たとえ映像になんかなったとしても、『呪い』は効果を発揮するっス」
はっと振り向いたイスタス。
彼女はそれまで縋り付いていた映像の人たちが、どこか気の抜けた表情になっているのに気付いた。
それまで恐怖に泣き崩れていた主婦も、飛び跳ねていた小学生もとろんとした表情でぼーっとしている。
「……これ、大丈夫なの? 無理矢理頭ハッピーにしてない?」
「心外っスよ。どっちかと言うと、あの『怪獣』が煽ってた恐怖心を取り除いただけっス。
本来の人間は恐怖心と克己心とがバランスしてるもの。
その調和を取り戻しただけっス」
「そう……分かったわ」
言葉の裏を読み取ることは止めて、イスタスは前を向く。
琴音の魔法によって泣きすがる人々は正気に戻った。戻ったと言ったら戻ったのだ。信じろ。
気を取り直して『ルクス』に向き直ろうとしたイスタスだが、その姿は既にない。
幻と消えた『ルクス』を探す必要があった。
「『ルクス』を逃がすわけにはいかない……探せる?」
「お任せっス。
……まだ、残ってる鼠たちよ、その鼻でその牙でかの者を探し出せ。
───飢餓の祝福!」
ざわり、とイスタスですら感知できそうな『魔力』がブルーから放たれると、どこから現れた鼠達が大挙して現れた。
数十、数百、数千───数えきれない数の鼠が祝福を受けて涎を垂らし、鼻を鳴らす。
森の木々や僅かに残る恵みには目もくれず、ただ『ルクス』を求めて三々五々散らばって行く。
そして程なく散らばった鼠たちが再集結。
何もない道路の中に、大量の蠢く鼠の山が作られる。
……そこに、『ルクス』はいた。
もぞもぞと蠢く樹海に足を取られ、更に無数の鼠に集られては流石に直ぐ離脱はできなかったのだろう。
しかし、一瞬の間で結構二人からは距離を取られてしまっていた。
「もう暫く、そこに留まって貰うっス」
位置の割れた『ルクス』を見つつ、すかさずイスタスが逃がすかと飛び出していく。
しかし間に合うかは微妙であった。
樹木と鼠に足を取られてはいたが、そこは100mクラスの恵体。
バキバキと蹴散らしながら速度を上げて逃げようとしていた。
それを見ながらブルーは右手を天に広げ、『魔力』と共に告げる。
「───来い、エスス・オークロッド!」
その呼び声に従い、空を、樹海を貫いて一本の杖がブルーへ向けて飛び出してくる。
背後から飛んできたねじくれた樫の杖を右手で掴んだブルーは、くるりと回して逃げる『ルクス』へ向ける。
それは彼女の一族が保有し、脈々と受け継がれてきた神代のアーティファクト。
数千年の間眠っていた杖は、今イーリス・ブルーから放たれる神代に匹敵する莫大な『魔力』で眠りから目覚めたのだった。
「おばあちゃんから受け継いだ力を───見せてやるっス!」
<<魔力整流枝 全開放、イーリス・リアクター最大出力>>
あたり一帯から根こそぎ吸い上げられた魔力がブルーに収束。
ブルーが持つ杖から放たれる波動により、晴れていた空が急激に曇りだす。
湿った風が流れると共に急激に気温が下がり、嵐のような寒波が局所的に巻き起こった。
「───権能開放、超寒獄に……堕ちろっス!」
異様なほど急激に下がる気温は、湿度を一気に上げ空気中の水分を表出させる。
100%の湿度でべとべとになった一帯は、更に下がる気温で次々と氷結していく。
セルシウス温度で−273.15 °Cまで堕ちた一帯は、ある程度分子の動きすら抑制し、停止させる。
『ルクス』ですら、『怪獣』ですら足を止めるに至った。
しかし、『ルクス』は
そんな過酷な環境で氷結されてなお、『ルクス』はすぐに動きを再開する。
走り向かうイスタスの射程からは、まだ届かない。
もう一手、必要だった。
「……ブラック!」
しかしブルーは心配していない。
彼女が振り向く先にいる、丘の上に陣取ったあかり───イーリス・ブラックが照準するために必要な時間は、稼ぎ出したのだから。
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推移を静かに眺めていた七井戸あかりは、少しだけ静かに黙祷した。
彼女に『情報化』した3万人の人々を救う術はない。
本当に生きているのか、それとも『怪獣』の持つデータでしかないのかも、判断できない。
でも、それでも彼女は人々の悲しみは分かる。
悲しみを解さない『怪獣』にそれを踏みにじられるのは───
「悲しみを踏みにじるのは……絶対に許さないっ!
───変身!」
あかりの決意に呼応し、心臓から表出した『涙虹石』をぎちぎちと握ったあかり。
放たれた虹色の光の中で、あかりの私服は虹色に分解され、光の粒となって消える。
目が明けていられない程の眩しさの中、両手を横に広げたあかりへ七色の光が巻き付き、黒いレオタードインナーへ変化。
両手両足にはレース地、黒字に金のラインが入った手袋と膝までのソックスが伸びる。
腰の後ろに大きな黄色いリボンが巻き付き、そこから伸びた光がシンプルな黒地のミニスカートとなる。
上半身には白と黒のジャケットが形成され、金の刺繍とラインが入る。
少し開いた胸元には『涙虹石』が取りつき、ペンダント状へ変化。
長い黒髪は金色と染まり、柳眉を逆立てたあかりが光と共にオート名乗りを上げる。
「命と悲しみを力に変えて、今、私は生まれ変わる」
そこにいるのは、黒い下地に金のラインが入るコスチュームの魔法少女。
「───魔法少女、イーリス・ブラック」
『魔力』出力では後輩に負けるが、『魔力』出力では圧倒的に勝るブラック。
彼女は正に今、氷結状態から逃げ出そうとする『ルクス』を見据え宣言した。
「人々を苦しめる怪獣は、私の命を全て使って───倒し尽くして見せる!」
ブラックが右手を横に振り、見得を切ると共に彼女の胸元にある『涙虹石』が光る。
<<イーリス・リアクター戦闘出力。タイムアウトまで294秒>>
「トニトルス……アロー・フォーム!」
変身後すかさず放つべく彼女の手に『ボウガン』が現出する。
だがそれだけでは、不足だと感じたブラックが更にダメ押しを重ねる。
「───ファスケス・モード・セプテム!」
<<収束7発モード展開。タイムアウトまで79秒>>
黒いボウガンの銃身部分が七つに分かれ、矢の部分には黒く細長いダートが7本セットされる。
ブラックが残り時間を削って作りだした黒い矢は、想いを込めて鈍く光る。
「当たっ……てッ!」
そしてペンデュラムの誘導先を照門、照星に合わせたブラックは、一気に7つを解き放つ。
前回の比ではない音速突破のソニックブームが巻き起こり、衝撃に丘の上の木々は薙ぎ倒されブラックも吹き飛ばされた。
魔力による身体強化した筈なのに、発射の衝撃で右肩を脱臼までしたブラックは痛みに呻きながらも発射先を見据える。
───程なく。
7発は見事逃げ出そうとした『ルクス』へと命中した。
いや、残念ながら2発は的を外したが、5発は100mある『ルクス』の身体を捉えた。
魔力強化によりタングステンの10倍の質量をもつ矢は、遺憾なくその運動エネルギーを一点に集中させて貫いた。
残念ながら加速距離が短いためにマッハ3程度までしか加速できていないが、『ルクス』の硬皮を貫いたのだ。
『ルクス』は特に悲鳴を上げるでも無かったが、命中した瞬間辺り一帯に広がっていた『街』の映像が乱れて消える。
にょきにょきと生える樫を除けば、そこは更地とも言って良い廃墟になっていた。
───しかし、しかしである。
しばらく苦しむように身を捩った『ルクス』は、その目をぎょろりと動かして、もう一度逃げ出さんと足を動かす。
ここでまた動き出せば、逃げ出してしまえば、もうこいつを捕捉するのは困難になってしまう。
「───やっと、捕まえた」
そして、ようやく。
ようやく……魔法少女イスタスの左手が『ルクス』の頭を掴んだ。
イスタスの全身は『強化』により非常識な防御力を誇る。
暴れる『ルクス』が逃れようと捩ったり叩き落そうとするが、万力のように顔を掴んで離さない。
「墓標の怪獣、『ルクス』。
お前は幾つの生命、文明を飲み込んできたんだろうな。
そろそろ……おまえ自身がその一つとなろうか」
走りながらイスタスの右手では、鉄球が超高圧で加圧が続けられていた。
時間短縮のために続けられたそれは、もう白い光を放つ恒星レベルの加圧が掛けられている。
『止めて下さい。
私が死んだら3万人の人間も死んでしまいます。
あなたは、3万人を殺すのですか』
「人はまだ、情報だけの命を生命とは言わない。
でも、それが罪になると言うなら……それは
『私と同じく追放されたものを傍に置きながら、なぜ───』
足掻く『ルクス』は更に走馬灯のように人間達の映像をイスタスに見せる。
しかし、イスタスはもはやそれには一切取り合わなかった。
「───重力崩壊点、突破」
イスタスの右手で白く輝く恒星が重力に負け、ぐにゃりと向こう側の光景が歪む。
重力レンズ効果によって反転した光景が見える中に、超重力の『特異点』が存在する。
「お別れです───これで、眠りなさい」
放たれる『特異点』は、即座に『ルクス』の頭を貫いて身体の中心に至る。
そして約1.8mのシュバルツシルト半径の中に、折りたたまれるのように細長く細長く裁断されながら『ルクス』は落ち込んでいく。
───墓標龍、撃破。
しばらく『特異点』が怪獣だったものを飲み込んでいくのを眺めた後。
イスタスはホーキング放射でエネルギーを蒸発させ、きらきらと消え行く残り香のような光を目で追ったのだった。
魔力も尽きたのか樫の森も枯れ果て、廃墟と化した街は生き物の気配も無い寂寥感で満ちていた。
何とも言えない気持ちを湛えたまま、ふと気づいたイスタスは、まだ律儀にカメラを回すポヨ公を見た。
「……あ、これで終わりポヨね。
放送切るポヨよー」
ぶつん、とポヨ公がライブ放送をブチ切りする。
情緒の欠片も無いポヨ公の行動に、こいつも人間じゃないんだなとイスタスはため息を吐いたのだった。
ストリームは3秒前に終了しました
#魔法特捜部(仮)
【四国から】オフコラボします!!!【魔法少女/イスタス】
第二章終了