能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣 作:ハピ粉200%
───魔法少女、イスタス。
三上ユウが変身した姿である魔法少女は、最早かけらも元男性の面影はなくなっていた。
ぱっちりとした大きい目に長い睫。
長い赤髪と白を基調としたコスチュームを着た少女は、女性化した手をぐっと握りこみながら、具合を確かめる。
割れた窓ガラスに映った自分の姿を見たユウは、気恥ずかしさを抑えて長い髪を少しうっとおしそうにばさりと翻して怪獣を睨む。
怪獣───目玉がたくさんついた手長恐竜もどきは、100mを超える巨体で建物をなぎ倒しながら相変わらずどこかへ歩いていた。
「さて、身バレ防止としてはこれでよし。
……筋力量は落ちてるかな。まあ、調整すればいいか」
「でもどうするポヨ?今のイスタスは最低魔力しかないポヨ。
力も耐久力もほとんど変わらないし、固有魔法も使えないポヨ」
心配そうにポヨが耳をぴくぴくさせながら言うが、イスタスは少しだけ得意げに笑って言う。
「身バレ防止以外に魔法とやらはいらない。
こちらとら(能力バトルに備えて)6年間鍛え続けた力があるんでな、舐めるなよ───『全身強化』×32倍」
三上ユウ───イスタスの身体が謎の能力で強化される。
だん、と再び10階建てのビル屋上を蹴ったイスタスは地上に降り立つと、そのまま怪獣へ向かって走る。
(でかいやつへのセオリーは、足を攻める!)
イスタスは強化された身体能力に物を言わせ、前転、側転とくるくる回って回転力を加えながら、刺々しい鱗を持つ怪獣の足へ蹴りを叩き込む。
今の彼女の身体能力は常人の32倍。通常100~200Kgの力で蹴れるとして、少なくとも3.2t~6.4tの破壊力を誇る。
スペック上は平成〇イダーとかに届きそうな出鱈目な強化具合である。
しかし───がん! と怪獣の鱗はビクともしなかった。
イスタスを見ることもなく、悠々と足を振り上げ歩みを続けるだけ。
(硬っった! ……おかしいだろ!)
怪獣の身体は、異常な硬さであった。物理的に考えると100m越えの巨体というのは、大分おかしい。
自分の体重を支えるために相応に硬くなるのはわかる。
しかし、同時にできる限り軽量化しなければ自分の体重を支え切れずに潰れてしまう。
太古に存在した巨大な恐竜は、自分の骨などを極力スカスカの密度にして自重を抑える工夫をしている。
しかし、この出鱈目怪獣はコンクリート塀を軽々と粉砕する蹴りを受けて、びくともしなかった。
「じゃあ、もっと上げるだけだ───『全身強化』×64倍」
そう言い放つとイスタスは一旦離れ、もう一度勢いをつけて怪獣へ殴り掛かる。
本来こんな筋力で殴ったり蹴ったりすれば自分の身体が持たないが、『全身強化』は筋力を強化すると共に強度・質量すら強化できるある意味チート能力である。
二度目の攻撃は───かん、と鱗が僅かに削れるだけだった。
「もっとだ───『全身強化』×1024倍」
むきになって一気に引き上げた身体能力で、もう一度殴り掛かると、今度はばこんっ!と鱗を粉砕し肉にめり込んだ。
───しかし。
(微動だにしないか、……まあ、サイズ差考えるとそんなものか?)
『怪獣』は特にイスタスに関してはノーリアクション。
どこかへ向かって歩みを進めるのを止めない。
まあ、仮に『怪獣』が人間サイズだったとして自分の殴りは蚊の一刺しぐらいにしかならないかもしれない。
ささくれの一つが捲れたぐらいしかダメージが無いとしたら、この攻撃は意味がない。
少し冷静になったイスタスは、自身の火力不足を自覚した。
「……一旦下がるか」
めくれ上がったアスファルトを跳躍して飛び越えながら、一旦怪獣と距離を取る。
そこに屋上から追ってきたポヨがふよふよと飛んできた。
「まずいポヨ、どうするポヨ……見てたけどあいつ出鱈目にも程があるポヨ」
「魔法とやらでどうにかならないのか?」
「ううん、固有魔法が発現すればあるいは……でも、魔力での強化は基本的に魔法少女の身体を丈夫にして力を引き上げるものポヨ。
なぜかわからないけど、既に今のイスタスは普通の魔法少女よりずっと強いポヨ。
今ポヨの全魔力をイスタスに渡しても、たぶんあんまり変わらないポヨ……」
しゅんとしながら、4つ耳を垂れてポヨは悲しそうに言った。
イスタスも魔法をあまり頼る気はなかったが、やはり打開策はなさそうだった。
「次は、目を狙う?うーん……生き物だとすると、あるいは高圧電流でも流し込むか、窒息でも狙えないのかな」
「イスタスはそんな力があるポヨか?」
「残念ながら、強化だけだ」
イスタスは徐に電柱へ向かうと、2、3個を掴んで無理やり地面から引っこ抜く。
繋がっている電線を千切らないよう気を付けながら、『怪獣』の沢山ついている柔らかそうな眼へ向けて投擲。
がん、と弾かれたので、イスタスはリバウンドをキャッチして身体能力に物を言わせて無理やり電線を付き入れる。
それを2回繰り返して、電線同士でショートして交流電流でぶすぶす焼けないか試してみたが……あまり変化なし。
「これショートしてるか? ニュートラル突っ込んだか? 絶縁体なのか? それとも電気止まってるのか?」
もし怪獣の身体や神経が絶縁体だったらもうどうしようもない。
電気で体内から焼く作戦は、どうやら失敗の模様。
そしてしばらく観察してると、付き込んだ電柱・電線が体内から膨れ上がった肉の塊に押し出されて排出される。
潰れたはずの眼は、肉が盛り上がった下から新たな眼が形成された。
ぎょろり、といくつかの眼がイスタスを捉える。初めて、彼女を認識したような心持だった。
「おおい……自己修復早いですねこれは早い。
……君、本当にどういう身体してるの。細胞分裂早すぎてすぐ死んだりしない?」
複数の眼で睨まれたイスタスは突如強烈な悪寒を感じ、反射的に両手で顔を守る。
数瞬間後、強烈な光が複数の眼から照射された。アスファルトが一気に赤熱し、地面が赤い液状に茹る。
立っていられないイスタスは無理やり液状地面を強化した足で蹴りつけた反作用で跳躍。
しかし、光はイスタスを追尾する。
「……このっ!」
とにかく逃げ出すために跳躍に跳躍を繰り返し、怪獣から距離を取る。
ビル影に隠れても油断なく追尾してくる光。一定以上の距離を取ったときに、ようやくそれは止んだ。
「……はぁ、驚いたけど、一応大丈夫か」
イスタス───ではなく三上ユウの持つ強化能力は肉体の強度だけでなく、熱・衝撃・圧力・耐水・対酸と考えうるあらゆる強度に対して『強化』をかけている。
意識しなければ能動的にかかりはしないが、来るべき能力バトルを想定して6年間研鑚してきた結果、かなりのチート能力として育っていた。それらの頑張りが、今のイスタスを助けている。
「服の強化忘れてたけど……コスチュームが何ともないのは、すごいな」
コスチュームは不思議な魔力で構成しているのか、地面が溶ける程のレーザー光を受けても何ともない。
余計な部分に強化の意識を割かなくて済むのは、地味にありがたかった。
ここで裸にでもなっていたら、初手いきなり裸の魔法少女としてまた何か違うジャンルに移行するところだった。
「とはいえ、どうする……。手が無いな。
逃げるか?」
離れたことで怪獣はイスタスに興味を失ったのか、再びどこかへ向かって歩みを続ける。
ずしん、ずしん、と地震を勘違いするほどの歩みで遠ざかる怪獣を見やりながら、イスタスはここで初めて『撤退』を視野に考え始めた。
今のイスタスでは、倒されはしないが倒しもできない。
このまま放っておけば被害は広がるが、いずれ自衛隊なり米軍が対処を始めるだろう。
……でも、本当に対処できるか疑問がある。
怪獣の強度的には20mmや30mm機関砲レベルはたぶん効かない。戦車砲弾レベルになれば通りそうであるが、今度は同じく火力不足になるだろう。
何百発撃ち込んでもあの再生能力で無効化される恐れが高い。
となると、あとは大量破壊兵器でも使うしか……。攻撃時にレーザーで迎撃されないといいが。
(本当にゴ〇ラじみた怪獣だ。しかもあのレーザーは何だよ。どうやって作ってんだ。
……何か腹の中にエネルギー源でもあるのか?)
かの怪獣王であるなら、天然の原子炉が存在する。
だとするなら、たとえどうにか倒したとしても放射能汚染が起こる可能性も否めない。
(冗談じゃないぞ……どうしてもここで───消滅させるレベルで倒さないと大変じゃないか)
イスタスは怪獣の進行方向を見やりながら、唇を噛み締めた。
その先には───さっきまでいた空き地、そして三上ユウの自宅がある。
家族が避難していればいいが、まだ怪獣が現れて十数分しか経っていないのだ。逃げ遅れている可能性もある。
「……そろそろ覚悟をするときかな、艦長」
「艦長って誰ポヨ?
……まさか、命を捨てたりするんじゃないポヨね?」
ふよふよ近づいてきたポヨにおどけたように言いながら、イスタスは長い赤髪を翻して言った。
「切り札を使う。……命は捨てないが、危険は伴う。
正直、ちょっと怖いけど───今は『魔法少女』なんだろ。願いと約束は守らなくちゃな」
臆心を押し殺し、しゅばっと右手を伸ばして見得を切る。
震える指先を見ながら、ポヨは不安げに眉を下げた。
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はあ、と一度深呼吸したイスタスは決意した目を開いて全身に『強化』をかける。
「身体強化率、最大」
ぶわっと、空間に歪みができたかのようにイスタスから湯気が上る。
正真正銘、今のイスタスに可能な身体強化率を最大にまで引き上げた。
今のイスタスには例え太陽に突き落とされようとも、耐え切るだけの出鱈目な耐久力がある。
それが───これから必要になるのだ。
「コア物質特性、最大強化」
イスタスは崩壊したビルから引き抜いてきた鉄筋に対して、『強化』を掛ける。
それは主に物質強度と質量に対する最大強化。
強化率が大きすぎるため、バランスを崩さないよう徐々に徐々に強化していく。
「コア物質極小重力を確認、加圧開始」
おおよそ強化し終えた段階で、今度は質量が肥大した鉄筋の『重力』を捉えて強化してゆく。
制御する項目とバランス調整が増えたことで一気に忙しくなり、イスタスは初めて額に汗を浮かべた。
一歩制御を間違えれば、跡形もなく吹き飛ぶかも知れないのだ。
バランスよく加圧された鉄筋はビー玉のような真球になり、イスタスの両手の中で徐々に白い光を放つ。
光の放出量を抑えたせいで目は潰れないが、本来は太陽を凌ぐ光量を放つそれを、イスタスは更に加圧する。
「───重力崩壊点、突破」
一際強く光ったかと思うと、その真球は姿を消す。
真球があった場所の周りの空間が、重力レンズ効果でまるでいびつな虫眼鏡のように向こう側の風景を歪ませていた。
「シュバルツシルト半径、拡大……約1.8m。
……魔法少女としては、必殺技は叫ぶもんかな。
───特異点、発射」
イスタスはゆっくりと真上に腕を伸ばし、それを───怪獣へ向けて投擲。
加速度を操作し、怪獣の中心点で速度を0にした。
怪獣は突如として現れた『それ』に抗うこともできなかった。
その強靭な身体をくしゃりと折りたたまれ、ぎちぎちと細長く細長く引き伸ばされながら見えない歪みの中心へ落下していく。
「現出時間、残り7秒。
───特異点の中に、落ちていきな」
ウラシマ効果によって怪獣の主観では一瞬だがこちらでは永遠とも呼ぶべき時間に引き伸ばされているはずだ。
しかし特異点自体はイスタスによってホーキング放射を加速され、急速にエネルギーを失い7秒で消失する。
7秒後、特異点が全て蒸発した後は何も残らないレベルで円形の破壊痕が残った。
爆圧と収縮圧を調整し、極力周囲の被害を抑えるべく集中していたイスタスは、蒸発後のγ線等の有害な放出物を抑えきって、ようやく、はあ、と息を吐く。
───暴眼竜、撃破。
「……残留物確認、ヨシ!」
この世界に現れた最初の魔法少女───イスタス。
彼女の勝利のポーズは、高らかに響く『ヨシッ!』の掛け声と共に指さし確認、ヨシッ! のポーズとなったのであった。
「……これぜったい魔法少女の技じゃないポヨ」
ポヨはぼやくように、ぼそっと呟いたのだった。
投稿、ヨシッ!