能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣 作:ハピ粉200%
1階に居る親父とミア……から逃げるように2階に上がってきた三上ユウ。
2階の自室で、ミアとの会話から犯罪歴が見えてきたポヨ公に詰め寄るのだった。
「下に居るミアが……怪獣だってのか?」
「……正確には、その一員ポヨ」
渋々話し出すポヨ公に、ユウは顔を顰めながら続きを促した。
「複数いる、みたいな言い方だな」
「『奴ら』は───あ、まずいポヨ。
上がってくる……ポヨはあかりの家に暫く避難するポヨ」
「あ、おい、待て」
窓を開けてぽーん、と身を躍らせたポヨは器用に塀の上に着地してすたこらサッサ。
あっという間に消えてしまった。
と、どかどかとドアを叩いて親父がミアを伴ってドアを開ける。
ノック?そんなものは存在しない。
「おーい。ちょっと大学から呼ばれたから、行ってくる。
お前はミアと夕飯食って風呂入れておいてくれ」
「……ああ、分かったよ」
興味深げに自室をあっちこっち見回すミアにドギマギしながら、ユウは身体で窓を隠す。
幸いと言うべきか、ポヨ公の事は見られてはいないようだった。
言うだけ言って、親父はまたどたどたと出かけていく。
二人だけになった自室で、ユウは取り合えずクッションを薦めた。
「まー、座ってください」
「ありがとうございます」
ちょこん、と心なしか前傾姿勢で座るミア。
ユウは居心地の悪さを感じてもじもじしながら反対側に胡坐をかいた。
「ええと……夕飯何作りましょうね、何か食べたいものとか苦手なものありますか」
「草以外であれば……虫肉でも大丈夫です」
「草ですか」
肉しか食べない人かな?
アメリカに滞在した時にたまに存在したのをユウは思い出した。
でも焼肉に連れて行ったらタンやらミノはゲテモノ扱いで食わないでやんの。
それに比べれば虫もOKと言うのは寛容……なのか?
「まあ、分かりました。
じゃあ、ちょっと買い物行ってきます」
「それでは……付いて行ってもよいでしょうか?」
「構いませんけど……近くのスーパーに行くだけですよ?」
「是非付いて行かせてください。
市井の人間の暮らしが、見たかったのです」
よっこらせと立ち上がったユウと共に、好奇心に輝く瞳でミアが立ち上がる。
その圧に押されながら、ユウも心の中で諦めというか覚悟を決めた。
(ポヨによるとミアは怪獣かもしれない。
でも、まぁ……先ずは見極めるしかないか)
一見する限りでは悪意を感じない。
外見というものは重要で、感情豊かな人の姿であれば情も沸いてしまうのだろうか。
「はぁ、じゃあ行きますか」
「はい」
靴を履きながら玄関の段差に少し躓いたミアを支え、歩き出す二人。
妙に左右にひょこひょこ揺れる歩き方のミアに、思わずを手を差し出すユウ。
図らずも、手を組んだ形で歩くことになった。
「ええと……気を付けて下さいね?」
「ありがとうございます。
優しいんですね」
何とも甘酸っぱい雰囲気で歩く二人。
その姿は、どこから見ても一組のカップルのように見える。
……ちなみに、曲がり角で七井土あかりが二人を目撃。
驚愕の表情で目を見開き、固まったまま見送ったが二人は気づかなかった。
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夕飯は、結局焼肉にした。
ホットプレートを取り出して、じゅーじゅーと肉を焼いていくと興味深げにミアがそれを見ていた。
スーパーでは丁度オージー牛が安かったのでそれを購入し、ユウは自分用に野菜類を買い揃えた。
ちなみに、買い物中謎の視線を感じ、何度か振り返るが見つけることができなかった。
それなりに人からの視線に気を配っていたユウであるが、不思議と見つけることができない。
まるで
首を傾げながらも買い物を続け、またミアと手を繋いで帰宅したのだった。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます……おいしいです!」
手早く肉を焼きながら、合間でアスパラと玉ねぎをパクつくユウ。
ユウ的には焼肉のたれで食べる焼きアスパラと玉ねぎの味は、肉を上回ると感じていた。
「あの……私も焼いてみていいですか?」
「それは勿論」
自分でも焼きたそうにそわそわしていたミアに、箸でホットプレートのエリアを空ける。
そこにフォークでカルビを置いたミア。
焼き色が変わるまで頻繁にひっくり返して、やや生焼けなそれを口に含んでよく噛むミア。
にや、と口の端を持ち上げるようにして、ミアは笑う。
「お口に合ったようで」
「ええ。このような食事は久しぶりです」
「そうですか。
……ちなみに、普段はどのような物を召し上がっているので?」
「普段……そうですね、あまり食事自体が久しぶりなもので、忘れてしまいました」
「はぁ……」
そんなこと、あるのだろうか。
少し伏し目がちになるミアは、確実に何かの含みを持っていた。
しかし、ユウもここで無理矢理訊いた所で、素直に話して貰えるとも思わない。
「じゃあ、他に普段はどのような事を?
ご趣味とか」
なんか趣味ばかり訊いている気がするユウ。
「趣味……ですか。あまり考えた事ありませんでした」
んー、と顎に人差し指を当てながら考えるミア。
その間にもどんどん、焼けた肉を口に放り込んでいくと、あっという間に無くなってしまった。
ユウは、最後の肉が乗った皿を寄せた。
「肉……最後はホルモンですけど、大丈夫ですか?」
「ホルモン……肉なら、問題ありません」
「分かりました。
ちなみに、ホルモンは牛の内臓……腸です」
おいしいが、べた付いてプレートの掃除が大変なホルモン。
最後に持ってきたのは勿論他の具材が焼けなくなるからである。
ジュージューとホルモンを焼き始めるユウ。
ひっくり返したところで、好奇心に輝く瞳のミアが箸を伸ばしひょいぱくと口に含む。
あーあー、生焼けで……と心配するユウをよそにずっとモグモグするミア。
「ホルモンはよく焼かないとお腹壊しますよ」
「すびません……へも、私はお腹丈夫なので、大丈夫へす」
噛み続けながら言うミアは、確かに先ほどの健啖ぶりからして丈夫そうだ。
生焼けのホルモンぐらいで腹は壊しそうにない。
ユウは溜息をついて追加のホルモンをプレートに乗せた。
「生焼けのホルモンって、あんまり美味しくないですよ。
焼いて焼いて……焦げる前ぐらいまで焼くぐらいが丁度いいです」
「そうなのですね。
でもこれも噛み応えがあって、好きですよ」
もぐもぐ噛み続けながら喋るミア。
暫くモグモグ咀嚼するミアと、ジュージュー焼ける音だけが響いた。
(そろそろ……訊いてみた方がいいだろうか)
色々訊きたい事を考えながらチラチラミアを見ていたユウは、意を決してこほん、と一つ咳払いをした。
「あ、これが趣味です。
美味しいものを食べる事」
「え?……ああ」
そういえば趣味を聞いたんだった、と思い出したユウ。
明らかに今思いついたような答えではあるが、美食はかなりポピュラーな趣味となるから別おかしくはない。
「美食が趣味なら、肉以外でも色々食べてみませんか?」
「草はいりません」
「草て」
ユウは焼いている玉ねぎを勧めてみるが、すげなく断られてしまった。
肉専門では、中々どうして話が広がらない……と、ユウは溜息をついた。
「じゃあ今度はハツとかレバーとか買ってきましょうか。
あんまり匂いが付くと掃除が大変そうだなー」
「いい匂いです」
「食事時ならね」
焼けたホルモンをミアと分け合って平らげる。
彼女は、どことなく満足そうな雰囲気を漂わせながらむふー、と息を吐いた。
シンクに皿とプレートを片付けて水に浸したユウは、食休みでもするかとミアの対面のソファーに腰を下ろす。
「ミアさんは、これからどうするので?」
「『イスタス』さんを探します」
「……探して、どうするので?」
「……」
口を噤むミア。
食後の機嫌がいい状態でも、流石にそこまでは話してくれないか、とユウも諦めた。
冷蔵庫からジュースを入れたユウは、ミアにそれを出しながら話しかけた。
「じゃあ、何でもいいので……ミアさんの事を教えてくれませんか?」
「……そうですね」
僅かに顔を陰らせたミアは、どこか姿勢を正して座りなおした。
最初に感じた品を感じさせる座り方である。
「ユウさんは、この世界と異なる世界……異世界があることはご存じでしょうか」
「ご存じありませんが……まあ、あるかもな、ぐらいは思っています」
ポヨや怪獣がいた世界があることは、もちろんユウは知っている。
でも、実際に行ったことが無い以上は実感が無いのが本音であった。
「私たちのいた世界は……滅びを迎えました。
世界中の『魔力』が減少し、生物が死に絶える魔の世界となったのです」
「……」
「私たちはそれでも諦めず、何とか世界を存続させようと尽力しましたが……間に合いませんでした。
そして、私たちは生まれ故郷を放棄する決断に至ったのです」
大きな瞳からは、僅かな涙がこぼれている。
悲しげにそう言うミアには、ユウは嘘を見つけられなかった。
「……それで、この世界に来たと?」
「はい。正確には次元のはざまと呼ばれる場所へ、当てもなく逃げ出すことになりました。
そのため、私たちは永遠に彷徨い続ける運命にあるかと思われましたが……この世界に道標を見つけ、やって来ることができました」
「道標……それが、『イスタス』にあると?」
「はい。
我が国が作り上げた試作型魔力生成炉『涙虹石』の反応があったからです」
という事は、ポヨ公の反応を見つけて追ってきたという事か。
ポヨ公の名前が出てこないことは若干気になるが、どういう関係なのかがユウは気になった。
「『涙虹石』ってのは?」
「『イスタス』さんが使用していることは映像から確認しました。
あれは、不足する魔力を高次元から引き出し、世界の寿命を延命するために作られました」
それに、どうやら『涙虹石』は元々、ミアさんの国で作られた世界崩壊を防ぐ手段だったらしい。
そんな重要そうなものを盗み出すとは、中々ポヨ公もやることはやっていると考えるべきか。
「……」
思わず、ポケットの中にある『涙虹石』をぎゅっと握りしめるユウ。
現状、ユウにとっては『涙虹石』は別に必須ではない。
身バレ防止に便利だから使っているだけで、返しても問題ないだろう。
───問題は、あかりである。
彼女は『涙虹石』の魔力供給によって心肺機能が生かされている状態だ。
『涙虹石』を引き抜かれれば死ぬしかない。
人工心臓もあるにはあるし、彼女の親友はそれで何とか生き永らえさせている。
でも、今では巨大な装置になるし、今のように健常に生きることはできなくなる。
「……つまり、ミアさんの目的とは『涙虹石』を取り戻すことにあると?」
「いえ、違います」
「あれ?」
どうしようか悩むユウが続きを促すと、ミアはあっさりとそれを否定した。
あっけに取られるユウに、ミアは苦笑を浮かべた。
「『涙虹石』はあくまで試作型……プロダクションモデルがその後完成していますので、特に『涙虹石』は必要ありません」
「あれ……じゃあ、なんでイスタスに会いたいので?」
「それは───」
ぽーん、ぽーん、と柱時計が鳴る。
時刻は既に午後9時を回ろうとしていた。
ユウとミアは、顔を見合わせた。
「……少し、喋りすぎました。
今日は休ませてもらってもよろしいでしょうか」
「分かりました。
お風呂入れますので、入って下さい」
「ありがとうございます」
いそいそと風呂の支度に行くユウ。
だがその内心、どうしたものかと頭を抱えていた。
(……どこまで本当かはポヨ公から話を聞いて裏を取るか。
結局、どうしたいのか聞けなかったが……まあ、次の機会を待つか)
国というからには、複数人居るのだと考えられる。
この世界に来ているのがミア一人だけじゃないとすると、日本だけじゃなく色々な国に現れているかもしれない。
彼らの目的が何なのか───それはまだ、分からなかった。
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───城南大学、三上研究室。
街の端研究棟の端にある、小さな廃れた研究室。
微かに歪んだドアをきい、と空けて歩く背広姿の男が一人。
ドアプレートに掛かる名前は、三上研究室。
担当教授は、三上正道。
背広姿の男は、乱雑に積み上げられた資料の山を掻き分け、教授席に座る男に話しかけた。
「……三上一佐、ここにおいででしたか」
「元、一佐だ。
俺が辞めて何年経ってると思ってる」
ぶっきらぼうに答える男は、三上ユウの父親にしてテンガロンハットを被った無頼漢。
三上研究室の教授にして、考古学教授にして冒険野郎。
それら全て正解であるが、それが全てでもない。
「では教授。
教授の家に連れ込んだ目標α……彼女をどうするおつもりですか」
「それはこっちのセリフだ。
お上は、あいつをどうするつもりなんだ」
帽子のつばを掴んだまま、背広姿の男に聞く教授。
背広姿の男は僅かに手を握り締めながら、答えた。
「それは勿論、世界中に現れた目標α……推定異世界人と、コミュニケーション。
可能ならその目的の情報収集です」
「そんなことは分かり切っている。
世界中に現れた異世界人が政府筋、反政府筋問わず浸透してよく分からない工事をさせている。
特に『怪獣共生派』の奴らなんか、ほぼ100%クロだな。
そんなことは、直接見てきた俺が一番よく知ってるよ」
教授は机に引き出しから伸ばした写真を置く。
そこには、謎のフードをかけた人物が写されていた。
同じ人物ではない。
しかし、特徴は一致している。
一見して人に見えるが、その皮膚は人ではなく、鱗に近い。
目は縦に瞳孔が割れ、どこか爬虫類を思わせる鋭さを持っていた。
その謎の人物が、世界中至る所で見つかっていた。
ロシア政府、アメリカの軍事基地、中国政府大使館、他様々である。
「じゃあ、重要性はお判りでしょう。
早急に、隊で確保して情報収集すべきです!」
「逆に聞くが、そんな刺激して無事に済むと思うのか?
今家に居るやつは、少なくともこちらに友好の意思を示してるぜ」
「……既に主要7か国以上が、目標αと何らかの協力関係にあるとの分析もあります」
背広男のセリフから、教授はどこからの圧力があるのか背景を類推した。
おそらく、何らかの技術供与を受けていると思しき外国に遅れては困る、という経済界からの圧力だろう。
国防を担う背広男にとっても、それが不服であることは態度から察せられた。
「焦ったって何も良い事はない。
先方はまず『彼女』と面会を所望されてるんだ。
その恩を売った上で、要望を引き出すのがいいと考えるが」
「……例の『イスタス』との面会ですか。
まだ我々でも足取りを掴んでおりませんが、どうされるのですか?」
「そこは引き延ばすしかないだろう。
先方の要望を叶えない限り、情報交換には応じられない。
……そう、上司には言っておけ」
話は終わったとばかりに椅子を回転させる教授に、背広の男は机に手をついて吠えた。
「せめて、教授の家に盗聴器を置かせて下さい!
毎度毎度近隣に設置するごとに、撤去されてはこちらも立つ瀬がない!」
「あれを撤去してるのは俺じゃねぇよ。
息子がやってんだ。中々優秀だろ?」
教授は肩を竦めてニヤリと笑う。
背広男は疲れたように肩を落とした。
「教授の息子さん……彼に、目標αの対応も投げたそうですね」
「ああ。多分、あいつなら上手くやるだろうよ」
「危険でしょう。親としてそれでいいんですか?」
「ああ。俺の息子だからな。
それにあいつは何やら『隠し玉』もあるらしいし、問題ないだろ」
背広男の言葉にも、教授は意に介さなかった。
背広男は諦めたように溜息をついて、立ち上がる。
「対応に失敗したら、責任は重いですよ」
「辞めた俺に何の責任があるってんだ」
「私に連絡を取っておいて、よく言いますね」
そう言いつつ、教授はどん、と机の上に何かのモニタを置いた。
その先の映像には、どこかの家の居間が映っている。
もちろん、映る先は三上家。
さっき置いてきたオーストラリア土産には隠しカメラが仕込まれており、それがここに映っているのだ。
「……そういう、ことをしているのでしたら、こちらにも映像回して欲しいのですが」
「馬鹿野郎、まだ息子にバレてないだけで明日にでも潰されるだろうよ。
その間に───ん? なんじゃこりゃ」
映像の先、居間では人型大の謎の空間の歪み……のようなものが現れ、こちらに手を伸ばしたかと思うとぐしゃっと潰された。
そして、それっきり映像は途絶えてしまうのだった。
「……」
二人も、しばし無言で顔を見合わせるしかなかった。
「……お前、これでも無理やり隊に連れてけって思うか?」
「……息子さんには、こんな妖術まで教えているのですか」
「バカ野郎、こんなこと知るわけねーだろ」
「はぁ……また、上司への説明に苦労しますよ、これ……」
謎の怪奇映像を持たされた背広男は、心なしかしょぼくれた様子で研究室を後にするのだった。