能力バトルかと思ったら魔法少女、相手は怪獣   作:ハピ粉200%

21 / 38
つづき


第三話 アル=ラツェルトの騎士

 

 ───時刻は夜。

 

 親父は結局、家に戻ってこなかった。

 今まで大学での泊まり込みも多かったので、ユウは特に気にしていない。

 三上家では、夕食後ミアを風呂に入れるところでまたひと悶着あった。

 

「え、いや流石にそれは……」

「すみません、使い方がよく分からないので……」

 

 分かっていたが浴室の使い方が分からないミア。

 ユウは勿論断って必死に言葉で説明したが、結局観念して所々補助として入ったのだった。

 

 ミアのすべすべとした鱗を持つ小さな背中を洗い、髪を洗う。

 髪は人間のものと大差無いものであった。

 勿論ミアにはタオルを巻かせ、ユウも極力見ないように顔を背けていた。

 

「……痒いところないですか?」

「ええ。暖かくて気持ちいいです」

 

 ミアは目を細めて気持ちよさそうに笑う。

 異世界人とはいえ女性の裸を……という気持ちもあるが、途中から妹を入れているような気分になった。

 妹居ないけど。

 

 そんなお風呂タイムが終わり、お休みタイム。

 風呂中に居間で何かが潰れたような音がした気がしたが、特に物が無くなってはいなかった。

 軽く家探ししても、特に侵入の形跡も見当たらない。

 ミア関連の何かだろうかと諦めて、引き上げたのだった。

 

 客間に布団を引いた後にさっさと自室に引き上げて就寝したが、夜中に目が覚めた。

 誰かいるような気配がして薄目を開けると、パジャマ姿のミアが震えて立っている。

 

 あれ、客間寒かったかなとエアコンを操作しようとしたら無言で布団に潜り込んできた。

 爬虫類っぽいせいか妙に身体が冷たい。

 男女七歳にしてうんぬんかんぬん、と頭に浮かんだが途中から面倒臭くなってどうでも良くなった。

 気疲れのせいか、今はとにかく眠い。

 

「……ミアは妹。今からあなたは妹です」

「妹? 私がですか?」

「だから同衾しても問題ない、と言う事で……」

 

 適当な自己弁護をでっちあげつつ、ばさりと布団をかける。

 ひんやりしたミアの身体を抱きながら、ユウは眠りに落ちていくのだった。

 

 

 

 ───で、そんな寝静まった夜に浮かび上がる二人の姿がある。

 

「……ナナ先輩どうするっスか? 寝たみたいっスけど」

「……そうね」

 

 言うまでも無い事だが、琴音の結界で二人は三上家に侵入していた。

 スーパーに行く途中のユウとミアを見かけたあかりが、臥せっている琴音を叩き起こして尾行を実施。

 監視の名目で結界を張って一緒に家に侵入していた。

 また、カメラに気づいた琴音がついでに破壊するなどもしてたりする。

 

「この子は悪い子には見えないっスよ。可愛いし。

 そりゃー、彼氏さん取られてナナ先輩は気に入らないかもしれませんが」

 

 ユウにくっついて寝入っているミアを、琴音は満更じゃなさそうな顔で見る。

 ちなみに、ユウの感じた異様な眠気は琴音の魔法によるものである。

 

 対してあかりの方は、当初こそ般若の形相で二人を見ていた。

 しかしどうやら相手が人間では無さそうなこと、それに無邪気に食事する所で毒気を抜かれ。

 風呂やら添い寝やらで再び沸騰したが、どこまでも妹チックな姿でもう一度牙が抜かれていた。

 

「帰りましょうよー、あたしそろそろガス欠っスよ」

「分かったわ。

 明日、関係については三上君には問い詰めるとして───」

 

 一瞬凄みを感じさせる顔をしながら、あかりは肩に乗るポヨに振り返った。

 

「ポヨさん、あのミアとか言う娘の言ってた事って……『涙虹石イーリス・リアクター』の事って、本当なの?」

「……それは本当ポヨ。

 でも勘違いしないで欲しいポヨ。

 『涙虹石イーリス・リアクター』はポヨとミア達、龍の国と共同開発したものポヨ」

 

 ポヨは心外だとばかりに、器用に前足を組んで言った。

 

「共同開発?

 ……一緒にこれを作ってたっスか?」

「そうポヨ。

 ポヨたちの世界と龍の国の世界、両方とも同じ問題が発生してたから、利害が一致したポヨ」

「じゃあ、どうしてポヨさんは一人でその……別れたんですか?」

 

 そう聞くと、ポヨは苦虫を嚙み潰したかのような表情で目を閉じた。

 どうも思い出したくない出来事らしい。

 

「……ポヨは追い出されたポヨ。

 これまで散々協力してきたのに、必要な魔法技術全てモノにしたらあっさりと。

 だから、手切れ金代わりに試作型の『涙虹石イーリス・リアクター』を持って帰ってやったポヨ」

「そうなんですか……」

 

 怒り心頭、とばかりに身体を怒らせるポヨに対し、なんと反応すればいいか分からないあかりが俯く。

 自分の身体に入っているものが出自怪しいとなると、少し気後れしてしまうのだ。

 そこに少し汗を浮かべた琴音が手を挙げた。

 

「はいはい、お話し中申し訳ないっスが、そろそろ本当にヤバいんで帰りましょう。

 はい動いた動いた」

 

 一行は琴音に背を押され、ぞろぞろと三上宅を出た。

 暫く歩いて離れてから結界を解除すると、琴音がずるりと崩れ落ちる。

 ちなみに鍵は万能選手である琴音が魔法で外からガチャリと掛けなおした。

 

「あ~~……疲れたっス。

 もう一欠けらも魔力ねーっス」

「ご、ごめんね。ありがとう、助かったわ」

「同情するなら魔力くれっス……。

 あ、そうそう」

 

 タコみたいにぐにゃりとへたったまま、琴音がポヨに目を向けた。

 

「あたしも一個気になるんスよね。

 さっき世界の『魔力』が無くなっていく問題が~とか言ってたっスけど」

「……」

 

 ポヨは琴音を見たまま、先を促した。

 

「あたし達の世界も60年前から、『魔力』が急激に失われてるんスよ。

 今もこの前使った『魔力』が全然回復しない有様で……これってもしかして、同じ原因だったり?」

「え、それって……」

 

 言われて、あかりも気づいた。

 ポヨ竜の国も妖精の国も、同じ問題を抱えていると言っていた。

 それはミア曰く、世界から魔力が失われていく問題であると。

 そして、竜の国はそれ故世界を放棄するまでに至っている。

 

「それって、私たちの世界も危ないってこと?」

「あたしはそう思うんスけど、ポヨさん的にはどうっスかね?」

「……」

 

 ポヨは目を瞑って答えない。

 言いたくないと言うよりは、どう言えばいいか困惑してるような表情だった。

 

「……てか、流石にここまで来ると、早くスタ先輩呼んで下さいっス。

 あたしらだけで考えんのしんどいんで」

「そうね。ポヨさん急だけどイスタスさん、呼べない?」

「……」

 

 あかりの肩に乗ってしかめっ面をしているポヨが頷く。

 でも、もちろん魔法少女イスタス=三上ユウは自宅でスヤスヤ寝ているのだが。

 

「イスタスは勿論呼ぶポヨ。

 だから、今日のところは二人とも一旦帰って休むポヨ」

「これって大分緊急事態だと思うんスけど。

 電話でも何でも今すぐ伝えた方がいいんじゃないんスかね?

 ……ポヨさんの隠し事も含めて」

「……」

 

 琴音の不審の目がポヨにぎょろりと向く。

 ポヨは汗を搔きながら目を逸らすしかなかった。

 今電話で呼べば、流石に三上ユウの正体が露見する。

 しかし呼ばないと、ポヨへの不審感を大きくしてしまう。

 

「わ、わかったポヨ。この後電話するポヨ」

「……後で、ちゃんと言ったかスタ先輩に確認するっスよ?」

「……わかったポヨ」

 

 自身の地に落ちてそうな信用に、涙を流すポヨ。

 

「それはそれとして、ナナ先輩は彼氏さんの監視は続けるっスか?」

「うん。あの娘は悪い子では無さそうだけど……それはそれとして、『色んな意味』で気になるし」

「お、青春っスねー。いいっスねー。いや悪いのか?

 積極的になったようで、あたしは応援するっスよ。

 まあ、結界はもう無理っスけど」

「……」

 

 ポヨは更に大量の汗をかいた。

 あかりが監視している中でユウに連絡を取ることはできない。

 でもイスタスへ連絡を取らなければ琴音から不審の目で見られてしまう。

 

「ど、どうすればいいポヨ……」

 

 ちなみに、もちろん今夜は電話できなかった。

 

 

──────────────────────────

 

 

 翌日の三上家。

 どことなくすっきりした気分で目覚めたユウは、まだあったかい布団の中で丸まっているミアを置いて布団を出る。

 朝のルーチンをこなし、しゃかしゃか歯を磨きながらミアの事を考えるユウ。

 悪い娘では無さそうだが、さりとてどう扱ったんものか迷う存在である。

 

 せめてイスタスへのお願い事だけでも先に聞いておければ、対策も立てられるのに。

 と考えたところで、ガタゴトとミアが起きてきたのか物音がした。

 

「あ、おはよう」

「おはようございます」

 

 ちっちゃい声で目をしょぼしょぼさせながらミアは現れた。

 爬虫類的であれば朝弱そうであるが、体温が上がっていれば大丈夫なのだろうか。

 

「今日は何をします?」

「勿論、イスタスさんを探します」

「……左様で」

 

 いっそバラしてしまおうか。

 そんな考えがユウに浮かんだが、現時点ではまだリスクが高い。

 ミアの目的、世間にバレずに話せる場所、そしてポヨの裏取りも終わっていないのだ。

 

「じゃあ、今日は繁華街でも行ってみますか」

「ハンカガイとは、どのような場所でしょう」

「人が一杯いる場所です。

 人探しなら、人が一杯いる場所ならどうかと」

「いいですね! ぜひお願いします」

 

 イスタスが横にいる以上どこを探しても意味はない。

 なので、極力ミアが楽しめそうな場所に案内することにしたユウ。

 二人は朝食を取った後、早速繁華街に出向く事にしたのだった。

 

 ───繁華街。

 

 関東地方の小都市に分類されるこの街の繁華街は、すこぶる大きい。

 もちろんコロナ関連で閉店した店もあるが、メイン通りのアーケード街付近は人で溢れていた。

 

「あーこれ! このお店って何でしょうか?」

「カレー屋だな。辛いのがいけるなら、食べてみてもいいぞ」

 

 ひょこひょこ腰を横に振りながらユウに掴まって歩くミアは、目を輝かせてあっちにふらふらこっちにふらふら。

 当初の目的である人探しはどこに行ったのか、単なる観光客のようになっていた。

 いや、目論見通りではあるのだが。

 

「大きなお店です!

 ここは何を売ってるんでしょうか」

「あ、そこ最近できたコスプレショップ……いや、まあ服ですよ服」

「こすぷれとは何ですか?」

「ごっこ遊び……かな?」

 

 その後コスプレショップで何度か試着し、帽子とセットのワンピース型ドレスっぽいものを購入したりした。

 その服装を気に入ったのか、それ以降ずっと着ることになる。

 

 ……そう、ずっと───約1週間ほど。 

 そんな日々が、一週間続いたのだった。

 

 イスタスを探す名目で、山に、海に連れて行って遊んだり。

 色んなところに連れて行って、ミアには十分満喫して貰った。

 まあ、夏休みらしいといえば、らしいかもしれない。

 ミアとは、すっかり本物の兄妹のような気分になっていた。

 

 その間、ポヨからの電話は無かった。

 そして、ユウもあかりが自分とミアを監視していることに気付いていた。

 

「ようやるな……」

 

 あかりの謎の根性も大したもので、外出時はぴったり付いてきている。

 しかもポヨに対する監視のつもりか傍らのペット籠にポヨを置いている。

 スマホは持たせてもらっているようだが、会話は全部聞くつもりなのだろう。

 このやり方は琴音の入れ知恵だろうか。

 

 普段なら褒める所だが、これではポヨと連絡が取れない。

 遠目に見たポヨもさめざめと泣いているようだから、ユウの秘密をバラすつもりは無さそうだが……。

 

「……どうしたもんか」

 

 ユウが対応に苦慮しているある日、家に珍しく来客があった。

 ぴんぽーん、というチャイムに対応したのは1階にいたミアである。

 最近は積極的に外に出るようになったミアに任せようと思っていたら……1階からは言い争うような声が聞こえたのだった。

 

「……ミア、大丈夫か!」

 

 自室を飛び出し、玄関に向かったユウ。

 そこにはがたいのいい、男? 女? かも分からない白いフリックコートを着た人間が立っていた。

 

「……どけ、人間」

「な!?」

 

 ユウはミアの前に立ち塞がるが、コートの人物の手で押し退けられた。

 その手がミアと同じガサガサ……鱗であることに気が付くのだった。

 

「ようやく、見つけました。

 姫様は返してもらう」

「姫様?」

 

 ミアは後ずさりしながら、ユウの後ろに隠れる。

 もう一度ユウが胸を張ると、ミアが絞り出すように答えた。

 

「……私は、帰りません」

「あまり、御無体を仰らないで下さい」

「嫌です。私はここに居ます」

 

 コートの人物はあくまで丁寧にミアに対し、帰ることを促す。

 しかしミアはユウのシャツを握って離さなかった。

 

「もうすぐ、この星は昇華されます。もう設置は8割方終了してます故……。

 その後でならご満足いく限り滞在なさるがよろしいだろう」

「それでは遅いのです。

 私たちがこの星を……ここの人たちを消し去っては、それはいけないのです」

 

 ユウは一旦、二人の会話に口を挟まずに聞くことに徹した。

 ここ最近停滞を感じていたが、強制的にそれは進展しそうだからである。

 

「では、姫様は我々臣民をお見捨てになさるのか」

「違います! ガ=ヘリクトのやり方では強引すぎると言っているのです!」

「しかし、この世界も急がなければもう時間が無い。

 既にこの世界の魔力は『スヴァルナの闇』に飲まれている。

 貴女のなさりようは、我儘と言うものでは?」

 

 とはいえ、一気に単語を増やさないで欲しい。とユウはこめかみに眉を寄せた。

 こいつら人を放っておいて何をしているのかと。

 

「嫌です! い、嫌」

「……ミア!」

 

 謎のコートの人物はユウを無理やり押しのけ、ミアの手を引く。

 まずい、このままでは無理やり連れ去られてしまう。

 こんな場面を見てしまえば当然───

 

───変身!

 

 隠れて見ていたあかりの決意に呼応し、心臓から表出した『涙虹石イーリス・リアクター』をぎちぎちと握ったあかり。

 放たれた虹色の光の中で、あかりの私服は虹色に分解され、光の粒となって消える。

 

 目が明けていられない程の眩しさの中、両手を横に広げたあかりへ七色の光が巻き付き、黒いレオタードインナーへ変化。

 両手両足にはレース地、黒字に金のラインが入った手袋と膝までのソックスが伸びる。

 腰の後ろに大きな黄色いリボンが巻き付き、そこから伸びた光がシンプルな黒地のミニスカートとなる。

 

 上半身には白と黒のジャケットが形成され、金の刺繍とラインが入る。

 少し開いた胸元には『涙虹石イーリス・リアクター』が取りつき、ペンダント状へ変化。

 長い黒髪は金色と染まり、柳眉を逆立てたあかりが光と共にオート名乗りを上げる。

 

命と悲しみを力に変えて、今、私は生まれ変わる

 

 そこにいるのは、黒い下地に金のラインが入るコスチュームの魔法少女。

 

「───魔法少女、イーリス・ブラック

 

 最近積極性に目覚めて、正義漢……正義乙女?になりつつあるあかりが見逃すはずがない。

 彼女は、コートの人間達に向けて宣言した。

 

人々を苦しめる怪獣は、私の命を全て使って───倒し尽くして見せる!

 

 ブラックが右手を横に振り、見得を切ると共に彼女の胸元にある『涙虹石イーリス・リアクター』が光る。

 

<<イーリス・リアクター戦闘出力。タイムアウト死亡まで294秒>>

 

 コートの人間は、『涙虹石イーリス・リアクター』を見て動揺したように呻いた。

 その隙を見逃さず、ブラックはミアを掴む男に向けて拳を振るうが───

 

「え!?」

 

 がちん、とその手は掴まれてしまった。

 仮にも12t程の威力があるパンチを、である。

 

「……そんな古臭いシステムで、我らアル=ラツェルトの騎士に立ち向かうとはな」

 

 驚くブラックを嘲笑するように口の端を持ち上げるそいつは、コートを脱ぎ棄てた。

 コートの下はどこか東洋系の意匠を感じさせる甲冑のようなものを着ている。

 そして、そいつはその甲冑の胸元に埋められた赤い宝石のようなものを握って言った。 

 

「───極光石オーロラ・リアクター』、戦闘出力

 

 禍々しいほどの強力な魔力が、渦を巻きながらそいつを包む。

 纏う甲冑の上に、更に色を様々に変える……まさにオーロラの様な光がフリルのように包まれた。

 

 ブラックは放心していたが、すぐに体制を立て直すとその手に二振りの剣を呼び寄せた。

 

トニトルス……ダブル・ソード・フォーム!

 

 魔力強化された10t以上の質量を持ち、桁違いの強度の剣。

 それを12tの腕力で振るわれれば、並みの怪獣とて手傷を負う。

 ……しかし。

 

 がし、と。

 何でもないように、そいつは振るわれた二振りを両手で掴んで見せた。

 あかりの技量が拙いといっても、その腕力から出る速度は目で追えるものではない筈だが。

 

「こんなものか。所詮、試作型よ。

 ───極光咆哮オーロラ・ロアー、顕現

 

<<オーロラ・ロアー。バレル展開>>

 

 『極光石オーロラ・リアクター』の赤い輝きが龍の咢の形を作る。

 その口先をブラックに向け、騎士は魔力収束された音波を放つ。

 ブラックの周囲にある地面、電柱、塀……あらゆる物がひび割れ、崩壊していく。

 

「……ッ!?」

 

 とっさに腕で庇ったブラックであるが、それはそんなもので防げるものではなかった。

 かつてユウが倒したニューヨークの怪獣、それが放っていた破壊音波のそれである。

 1/100に威力縮小されてはいるが、それは防御無視の破壊を齎す必殺兵器だ。

 

「あ……ブラック、逃げろ!」

 

 咆哮を放ちつつ共振周波数に段々と近づく事に気付いたユウは、ブラックに向けて叫んだ。

 思わずあかりと呼びそうになるが、飲み込んで手を振る。

 ブラックはそのユウの叫びに気付き……むしろ、歯を噛み締めて騎士へ突撃する。

 

「馬鹿! 逃げろ!」

「愚かな……」

 

 騎士は左手をブラックに向けて振り抜く。

 その体裁きだけでブラックの手をかち上げ、無防備な腹を右手で殴る。

 

 ブラックはそのままブロック塀を貫通し電柱を粉砕。

 家屋一棟を貫く程吹き飛ばされた。

 

 無双の防御力を誇る『涙虹石イーリス・リアクター』とコスチュームのせいで生きてはいる。

 しかし『涙虹石イーリス・リアクター』には罅が入り、ブラックの変身は解除されてしまった。

 意識を失ったあかりに止めを刺すべく、騎士がブラックへ向かう。

 ユウはポケットから出した自らの『涙虹石イーリス・リアクター』を高速でポヨ公の居るペット篭に投げ込んでから、その前に立ち塞がった。

 

「待て!」

 

 ユウは両手を広げ、騎士を止める。

 

「降参する……抵抗はしない。

 お前が騎士だと言うのなら、その矜持を持っているなら」

「……」

 

 立ち塞がるユウに対し、騎士はその目を向けた。

 

「人間風情が生意気な───」

「頼む。この通りだ。

 ブラックの所業は、代わって俺が謝罪する。

 だから……命は助けてくれ」

 

 それから、ユウは地に手を付けて頭を下げる。

 ユウの土下座姿に、騎士も暫く沈黙した。

 

「……いいだろう。どうせ、すぐに失われる命だ」

 

 騎士は振り上げた拳を下ろす。

 そして、ユウとミアを掴んで

 

「お前はどうやら、姫様のお気に入りのようだな。

 謝罪したいと言うなら、付いて来て貰おうか」

「!? ……ユウは関係ありません!

 連れて行くのは私だけになさい!」

 

 ユウまで連れて行こうとする騎士に、ミアは驚いて縋り付く。

 しかし騎士は取り合わずに告げた。

 

「騎士としてこの者の謝罪を受け取るには、連れて行かねばなりません。

 それに、姫様も慰めがあった方がよろしかろう。

 かつてこの星に存在した命として儚むなら……」

「違います! この者とは何でもないのです!

 だから、私だけを───」

「くどい」

 

 騎士はミアの口を塞ぎ、そのまま両手でミアと担ぎ上げた。

 ユウはあかりの状態をちらりと確認し、それから壁裏に隠れているポヨに目配せをしてから頷いた。

 

(あかりの事は頼むぞ。

 俺は先に、根本を確認しに行く)

 

「……俺は付いて行く。早く行こう」

「良い心がけだ」

 

 そうして騎士とミア、そしてユウは姿を消す。

 遠ざかる背中を、うっすらと意識の戻ったあかり。

 そしてイスタスの『涙虹石イーリス・リアクター』を咥えたポヨが見送るのだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。